ITS編|信号・V2X・道路の自動運転日本株を解剖

「自動運転は車の技術の話なのに、なぜ信号機メーカーや通信会社が関連銘柄に挙がるのか」——そう不思議に思ったことはありませんか。

決められたエリアを無人で走るレベル4の車両は、自分のセンサーだけで周囲を判断しています。ところが、逆光で信号の色が見えにくい、大型車の陰から人が出てくる、高速道路の合流で本線の車が見えない——こうした場面は、車のセンサーだけでは対応しきれません。そこで道路や信号の側から車に情報を渡す仕組みが必要になります。

この記事では、自動運転の全体像で示した5つの層のうち⑤ITS(道路・通信・信号)を取り上げ、「信号・交通管制」「通信(V2X)」「道路情報」の3つに分けて、関わる日本の上場企業を整理します。

読み終える頃には、ITS関連のニュースを「誰が発注するのか」「制度はいつ動くのか」で読み分けられるようになるはずです。

この記事の要点

  • ITSは、車の外(信号・道路・通信)から自動運転を支える仕組み。レベル4を限られたエリアから面へ広げる段階で必要になる
  • 制度は動き始めた。5.9GHz帯のV2X通信は2028年4月から関東・東海・近畿・東北で使えるようになり、新東名では100km以上の自動運転車優先レーンの実証が進む
  • 全国約21万基の信号機のうち、耐用年数19年を超えたものが2割以上(約4.9万基)ある。更新需要はあるが、過疎地では撤去も進む
  • 発注者は警察・自治体・道路会社で、予算と入札に左右される。「制度が先、受注は後」の段階にあり、自動運転向けの受注として開示された案件はまだ少ない
目次

なぜ今「ITS」が必要になるのか

ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)は、ETC・VICS・信号制御・路車間通信など、道路の側から交通を賢くする仕組みの総称です。自動運転が「車が自分で見て判断する技術」だとすれば、ITSは「道路や信号が車に情報を渡す技術」です。

車のセンサーだけで走れる場所を広げていくと、どうしても苦手な場面が残ります。警察庁などの検討では、信号の色(信号情報)や、交差点の死角にいる歩行者・車両(物標情報)を道路側から車に伝える方法が議論されており、路側の無線機から伝える「V2I方式」と、クラウドと携帯電話網を使う「V2N方式」の2つが検討対象になっています。

2026年に入って、政策面の動きが相次いでいます。

時期 出来事 確定度
2024/6 「デジタルライフライン全国総合整備計画」を決定。新東名の駿河湾沼津SA〜浜松SA(100km以上)を自動運転サービス支援道の先行地域に 政府計画
2025/3/3〜 新東名の同区間で、平日22時〜翌5時に自動運転車優先レーンを設定 実施中
2026/1/30 総務省が周波数割当計画を改正。2028年4月1日から関東・東海・近畿・東北で5.9GHz帯をV2X通信に指定可能に 制度決定
2026/6/18 KDDI・沖電気・NEC・ティアフォーなどが、総務省の5.9GHz帯V2X通信の技術的検討事業を受託 公式発表

「ITS」とは何か——3つの仕組み

仕組み 中身 主な発注者
信号・交通管制 交通信号の灯器・制御機、交通管制センター。自動運転車への信号情報の提供 都道府県警察
通信(V2X) 路車間通信(V2I)、車車間通信(V2V)、携帯電話網経由(V2N)。現行の760MHz帯に加え、5.9GHz帯を導入 国(制度)、道路管理者、通信事業者
道路情報・路側設備 道路情報板、路側センサー、合流支援の設備、ETC 国・自治体・高速道路会社(NEXCO)

投資の観点では、ITSは発注者が公的機関で、予算と入札で需要が決まることが最大の特徴です。車の販売台数では動かず、国や自治体の予算、制度の施行時期で動きます。

信号機の更新需要——21万基のうち2割以上が耐用年数超え

全国の信号機はおよそ21万基あり、耐用年数の19年を超えたものが2割以上、約4万9,000基に達していると報じられています。老朽化した信号機の倒壊も起きています。一方で、警察庁は2024年度から5年かけて、過疎化などで不要になった信号機4,200基以上を撤去する計画を進めており、2024年度には679基が撤去されました。

つまり、信号機の需要は「全体が増える」のではなく、都市部では更新と高度化、地方では撤去・集約という形で二極化しています。自動運転への信号情報の提供は、更新のタイミングで高度な制御機を入れる理由の一つになり得ますが、自動運転向けの信号機の発注として開示された案件はまだ確認できていません。

ITS層に関わる日本の上場企業マップ

判定は「◎:ITS製品・受注の開示あり、かつ自動運転向けの取り組みの開示あり」「○:ITS製品を持つが、自動運転向けの受注は確認できない、または検討・実証段階」です。投資推奨ではなく、各社がITSのどこに関わるかを確認するための地図として使ってください。

仕組み 銘柄(コード) 関わり方 確度
信号・交通管制 日本信号(6741) 交通管制システム・交通信号灯器、自動運転実証に参画 ◎
信号・交通管制 京三製作所(6742) 交通信号制御機・交通管理システム ○
信号・交通管制 住友電工(5802) グループ会社が交通信号制御機・交通管制システムを提供。自動運転向けの信号情報提供技術を研究 ○
通信(V2X) KDDI(9433) 総務省の5.9GHz帯V2X通信の技術的検討事業の受託を発表 ○
通信(V2X) 沖電気工業(6703)・NEC(6701) 同事業に参加 ○
道路情報 名古屋電機工業(6797) 高速道路・一般道路向けの道路情報板、運転支援灯 ○

ITS層の企業は、自動運転の「期待」で語られることが多い一方、自動運転向けとして区分された受注や売上を開示している企業はほとんどありません。確度が「○」中心になるのはそのためです。

信号・交通管制——警察の予算で動く

日本信号(6741)——鉄道と道路の「信号」両方を持つ

日本信号は、鉄道信号と道路の交通信号の両方を手がける信号大手です。2026年3月期3Q累計では、鉄道・道路を含む交通運輸インフラ事業の売上が358億円(前年同期比+18.4%)、受注高が435億円(+11.0%)でした。決算短信では、道路交通を担うスマートモビリティ部門で交通管制システムや交通信号灯器の受注・売上があったほか、自動運転実証実験の各種プロジェクトにも参画していると説明しています。ウガンダなど海外での交通信号の受注もあります。

ただし、同社の売上の半分近くは駅務機器・駐車場機器などのICTソリューション事業で、交通信号は事業の一部です。自動運転向けの売上は区分して開示されていません。

京三製作所(6742)——交差点どうしが話し合う信号制御

京三製作所も、鉄道信号と道路の交通信号の両方を手がけます。同社の交通信号制御機には、交差点の制御機どうしが情報を交換し、リアルタイムに最適な青信号の時間を決める「自律分散制御」の仕組みがあり、渋滞とCO2排出の削減をうたっています。信号の側が賢くなるほど、自動運転車に正確な信号情報を渡しやすくなります。ただし、製品情報には自動運転への信号情報提供の記載はなく、現時点では信号の高度化の延長線上にあるテーマと見るのが妥当です。

住友電工(5802)——信号情報提供の技術を研究

住友電工は、グループ会社の住友電工システムソリューションを通じて、交通信号制御機や交通管制システムを提供しています。国の研究プログラム(SIP)のワークショップでは、UTMS協会とともに「自動運転に向けた信号情報提供技術」を発表しており、信号情報を車に伝える技術の研究に関わってきました。ただし、住友電工は電線・自動車用ワイヤーハーネスが主力の大企業で、ITS事業が業績に与える影響は限定的です。

通信(V2X)——2028年の5.9GHz帯がカギ

KDDI(9433)・沖電気工業(6703)・NEC(6701)——総務省の検討事業に参加

現在の日本の路車間・車車間通信には760MHz帯(700MHz帯ITS)が使われています。これに加えて、総務省は2026年1月30日に周波数割当計画を改正し、2028年4月1日から関東・東海・近畿・東北で5.9GHz帯(5,895〜5,925MHz)をV2X通信用に指定できるようにしました。想定される用途は、信号情報の提供、右左折時や死角にいる歩行者・車両の情報、合流支援、緊急車両の情報提供です。

2026年6月18日、KDDIは総務省の「自動運転の社会実装を支える通信インフラ実現のためのV2X通信システムに係る技術的検討事業」を受託したと発表しました。5.9GHz帯と同じ・隣の周波数を使う衛星通信・放送機材・ETCなどへの影響を評価し、互いに干渉しない条件を整理するもので、一般道(地方都市・都市部)と高速道路で検証します。参加者には三菱総合研究所、沖電気工業、NEC、ティアフォー、T2などが名を連ねています。これは制度を作るための検討事業で、路側機の本格的な発注はその後になります。

道路情報——路側から「知らせる」設備

名古屋電機工業(6797)——道路情報板の専業メーカー

名古屋電機工業は、高速道路のインターチェンジ流出部・料金所・ジャンクションなどに置く道路情報板や、一般道路向けの道路情報提供システムを手がけています。走行する車に光で合図を送る走光型の運転支援灯なども扱っています。現在の製品は人間のドライバー向けの情報提供が中心で、自動運転向けの製品は開示されていませんが、道路の側から情報を出す設備の専業として、ITS投資が増えれば需要の受け皿になり得る企業です。

「ITS」の銘柄を見る3つの物差し

  1. 誰が発注するのか:信号は都道府県警察、道路情報は国・自治体・NEXCO、通信は制度を作る国と通信事業者です。発注者の予算年度と入札の時期が、売上の時期を決めます。
  2. 制度はいつ動くのか:5.9GHz帯のV2Xは2028年4月からです。検討事業の受託は制度づくりの段階で、路側機や車載機の本格的な需要はその先になります。
  3. 自動運転向けの受注として開示されているか:信号・通信・道路情報の既存事業を持つ企業は多いですが、「自動運転向け」と明示した受注の開示はまだ少数です。既存事業の更新需要と、自動運転という新しい需要を分けて見る必要があります。

まとめ——ITSは「制度が先、受注は後」

ITS層を整理すると、信号・交通管制(日本信号・京三製作所・住友電工)、通信(KDDI・沖電気工業・NEC)、道路情報(名古屋電機工業)と、既存のインフラ事業を持つ上場企業がそろっています。2026年には5.9GHz帯V2Xの制度が決まり、検討事業も始まりました。ただし、自動運転向けの路側設備の本格的な発注はまだ先で、各社の業績に表れるのは2028年度以降と考えるのが自然です。

ITS関連のニュースを見たら、「誰が発注するのか」「制度はいつ動くのか」「自動運転向けの受注として開示されたのか」を確かめてください。これで、テーマの期待と実際の受注との距離を測ることができます。

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主な出典

本記事は2026年9月23日時点の公開情報にもとづく調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。

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