「フィジカルAI関連株」と聞いて、ファナックや安川電機の名前だけを思い浮かべていませんか。
ロボット1台は、磁石・減速機・ベアリング・モーター・センサー・半導体・制御ソフトなど数百点の部品の集合体です。完成品メーカーだけを見ていると、本当に利益が落ちる場所も、中国勢に置き換えられやすい場所も見えてきません。
この記事では、フィジカルAIのサプライチェーンを「素材→要素部品→モジュール→完成品→実装・運用」の5段に分け、各段の日本の上場企業と、ボトルネック・中国勢との競合状況を整理します。
読み終える頃には、ロボット関連のニュースが出たときに「どの段の、どの会社に効く話か」を自分で判断できるようになっているはずです。
本記事はフィジカルAI特集の「サプライチェーン編」です。技術の4層(①世界モデル・②シミュレーション基盤・③VLAモデル・④エッジ半導体と身体)を横軸とすれば、本稿は「モノがどこから来て、どこでお金になるか」という縦軸の地図です。目的は関連銘柄の整理であり、個別の投資推奨ではありません。
なぜ今「サプライチェーン」で見るのか
2026年10月、フィジカルAIをめぐる材料が立て続けに出ました。
- ファナック(6954)の7〜9月期は受注高3,060億円と四半期で過去最高を更新し、通期営業利益予想を2,180億円から2,407億円へ上方修正しました。会社資料はFA事業の需要先として「AIデータセンター、半導体、人型ロボットの部品加工」を挙げています。
- アセットマネジメントOneが国内フィジカルAI関連株に投資する公募投信を発表し、11月30日に設定予定です。
- 米テスラは9月、ヒューマノイド「Optimus」第3世代の量産に向けて中国・寧波の部品メーカーの監査に入ったと報じられました(TrendForce)。1台あたり約2万ドルのコスト目標が伝えられています。
テーマの関心は「ロボットを作る会社」から、「ロボットに部品を売る会社」「その部品の素材を握る会社」へ広がりつつあります。一方で、テスラが監査した部品メーカーは中国企業でした。量産が近づくほどコスト競争が始まります。どの段なら日本勢が値決めできるのかを見分ける必要があるのはこのためです。
ロボット1台のコストはどこに落ちるか
まず、お金の流れを数字でつかみます。
| 指標 | 数値 | 出所・注記 |
|---|---|---|
| アクチュエータ(関節駆動)がBOMに占める比率 | 30〜50% | Interact Analysis推計。業界関係者は約60%とも。現代モービスは「60%超」 |
| ヒューマノイド1台のBOM | 約3.5万ドル(2025年末)→1.3〜1.7万ドル(2030〜35年) | BofA推計。中国製部品中心の場合 |
| 1台あたりのネオジム磁石使用量 | 約3.5kg | 年100万台なら約3,500トン |
| 焼結永久磁石の中国生産比率 | 94%(2024年) | IEA。ヒューマノイド専用の統計ではない |
| Optimusのアクチュエータ数 | 28個(2022年)→50個超(構想) | マスク氏発言(2024年11月) |
ポイントは2つあります。1つ目は、原価の3〜6割が「関節」に集中すること。関節は減速機・モーター・ベアリング・エンコーダー(回転センサー)・ドライバ(制御基板)の組み合わせで、ここは日本の機械部品メーカーの得意分野です。2つ目は、BOMが5年ほどで半分以下に下がると予想されていること。部品メーカーにとっては「台数が増えても単価は下がる」構造で、値下げに耐えられる技術の堀(参入障壁)があるかどうかで勝敗が分かれます。
サプライチェーン全体図——5段で見る
信越化学(4063)、TDK(6762)、レゾナック(4004)など
ハーモニック(6324)、ナブテスコ(6268)、住友重機(6302)、日本精工(6471)、THK(6481)、ニデック(6594)、マブチ(6592)
ソニーG(6758)、村田(6981)、キーエンス(6861)、ルネサス(6723)、ローム(6963)、航空電子(6807)、住友電工(5802)、マクニカ(3132)、リョーサン菱洋(167A)
ファナック(6954)、安川電機(6506)、川崎重工(7012)、THK(SEED-Noid)、川田テクノロジーズ(3443)
ヘッドウォータース(4011)、SREホールディングス(2980)、菊池製作所(3444)ほか、ユーザー企業の現場
以下、上流から順に各段の要点を見ていきます。
第1段 素材——最大の地政学リスクはネオジム磁石
関節モーターには、小さくても強い力を出すネオジム(NdFeB)磁石が欠かせません。1台約3.5kgという使用量は、ヒューマノイドが年100万台規模になれば数千トン単位の需要になります。問題は、焼結磁石の94%が中国で生産されていることです。2025年4月の中国のレアアース輸出規制では、テスラのOptimus生産にも影響が出たと報じられました。
日本では信越化学工業(4063)がレアアース磁石を自社で一貫生産し、TDK(6762)も磁石事業を持ちます。原料のレアアース自体は中国依存が残るため、「磁石メーカーがあれば安心」とまでは言えません。ただ、中国以外の調達網を求める欧米ロボットメーカーにとって日本勢は数少ない選択肢です。南鳥島のレアアース泥など国産資源の開発は、この段の長期的な材料になります。
パワー半導体の基板になるSiCウエハーではレゾナック(4004)がエピウエハーの大手です。バッテリーで動くロボットでは、電力損失の小ささがそのまま稼働時間を左右します。
第2段 要素部品——日本の「堀」が最も深い段
減速機:ハーモニック(6324)とナブテスコ(6268)
モーターの速い回転を、関節を動かす強い力に変えるのが減速機です。小型・軽量の関節に使う波動歯車装置ではハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)が世界シェア約50%、重い荷重がかかる肩・腰に使うRV減速機ではナブテスコ(6268)が約60%を握るとされます。ハーモニックの減速機はOptimusや中国・小鵬(Xpeng)の人型ロボットでの採用が伝えられています。住友重機械工業(6302)も精密減速機を持ち、京都ヒューマノイドアソシエーション(KyoHA)に参画しています。
ただし、この段は中国勢の追い上げが最も速い段でもあります。中国最大手の緑的諧波(リーダードライブ)は2025年の売上高が前年比47%増、出荷数が50万個近くに達し、2026年は100万台規模の生産能力を計画しています。受注は2027年分まで埋まっていると発表し、三花智控との合弁でメキシコに工場も設けました。「高精度・長寿命の上位品は日本、価格重視の量産品は中国」という分業が固まるかどうかが、日本勢の利益率を決める最大の論点です。
ベアリング・直動部品:日本精工(6471)とTHK(6481)
関節の回転を滑らかに支えるベアリングでは日本精工(NSK、6471)が世界大手です。同社は2028年にロボット向けアクチュエータを投入する計画を掲げ、2026年8月にはヒューマノイド開発のアトムと覚書を結びました。NSKのアクチュエータをアトムのロボットで検証し、NSKの工場でフィジカルAIの学習データを集める内容です。部品メーカーが「部品を売る」から「関節ユニットを売る」へ一段上がる動きとして注目できます。
直動部品(LMガイド)で世界トップシェアのTHK(6481)は、自社で人型ロボット「SEED-Noid」を受注販売しています。部品メーカーでありながら完成品まで手がける珍しい立ち位置です。脚や腕の直線運動を担う遊星ローラねじは、Optimusの直動アクチュエータにも使われる部品で、ここでも中国勢の量産攻勢が始まっています。
モーター:ニデック(6594)とマブチモーター(6592)
関節1か所に1つ必要なモーターは、台数×関節数で最も数量が積み上がる部品です。ニデック(6594)はEV向けモーター技術をロボット関節へ転用し、ヒューマノイド向けブラシレスモーターを供給しています。小型モーター大手のマブチモーター(6592)はKyoHAに新たに参画しました。手指の関節は1台で数十個のモーターを使う構想もあり、小型・高トルクのモーターは今後の需要の伸びしろが大きい分野です。
第3段 電子・知覚・頭脳——「見る・感じる・考える」部品
| 企業 | コード | 持ち場 | フィジカルAIとの接点 |
|---|---|---|---|
| ソニーグループ | 6758 | イメージセンサー | 世界シェア5割超。ロボットの「目」。傘下ファンドが米Agility Roboticsに出資 |
| キーエンス | 6861 | FAセンサー・画像処理 | 工場の検査・計測技術をロボットの知覚に転用 |
| 村田製作所 | 6981 | センサー・電子部品 | KyoHA創設メンバー。慣性センサーなど |
| ルネサスエレクトロニクス | 6723 | マイコン | 各関節のモーター制御。KyoHAに参画 |
| ローム | 6963 | SiCパワー半導体 | バッテリーの電力をムダなくモーターへ。KyoHAに参画 |
| 日本航空電子工業 | 6807 | コネクタ | 関節が動き続ける環境での配線接続。KyoHAに参画 |
| 住友電気工業 | 5802 | 電線・ハーネス | 体内の配線。KyoHAに参画 |
| マクニカHD/リョーサン菱洋HD | 3132/167A | NVIDIA製品の代理店 | ロボットの頭脳となるJetsonを国内に供給 |
この段で見落とされやすいのが、住友電工や航空電子のような「配線・接続」の会社です。人型ロボットは関節が多く、体を曲げるたびに配線が折れ曲がります。断線しにくいケーブルや小型コネクタは地味ですが、故障率に直結する部品です。テスラのOptimusが第2世代で駆動系の故障率の高さから大幅な設計変更を迫られたと報じられたように、量産段階では「壊れにくさ」が性能と同じくらい重要になります。
頭脳にあたるエッジAIコンピューターは現状NVIDIAのJetsonが中心で、日本勢はマクニカなどの代理店として関わります。詳しくはエッジ半導体と身体編をご覧ください。
第4段 完成品——部品を「統合」する力
完成品メーカーの価値は、部品を組み合わせて実際の現場で壊れずに動き続けるロボットに仕上げる統合力にあります。ファナック(6954)と安川電機(6506)は産業用ロボットの世界4強に入り、サーボモーターや制御装置を自社で作る垂直統合型です。安川は東京ロボティクスを完全子会社化し、ヒューマノイド領域にも踏み込みました。川崎重工業(7012)は人型ロボット「Kaleido」を第9世代まで開発しています。
国産ヒューマノイドの動きとしては、KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)が2026年4月に検証機「SEIMEI」を公開しました。村田製作所、マブチモーター、KYB、NOK、住友重機械、ルネサス、日本航空電子、住友電工、ローム、アイシンなどが参画し、新規開発品ではなく参画企業の既製品だけで組み上げた点が特徴です。公開時は足首部品の破損で動くデモができませんでしたが、裏を返せば「日本の既存部品で何が足りないか」を洗い出す試金石になっています。部品メーカーにとっては、ヒューマノイド向けの仕様を早く学べる場という意味があります。
産業用双腕ロボットNEXTAGEを手がける川田テクノロジーズ(3443)も、この段の小型銘柄として挙がります。
第5段 実装・運用・データ——次の競争軸
ロボットは導入して終わりではありません。現場のレイアウトに合わせた設定(システムインテグレーション)、AIの追加学習、保守までを担う会社が必要です。ヘッドウォータース(4011)はJetsonを使ったエッジAIの実装、KyoHAに参画するSREホールディングス(2980)はAI・データ事業を持ちます。2026年10月26日のファナック決算後には、ロボット開発を手がける菊池製作所(3444)が一時ストップ高になるなど、小型株への資金の波及も見られました。
この段で重要なのは「現場データ」です。NSKとアトムの提携が「NSKの工場でロボットの学習データを集める」内容を含んでいるように、AIを賢くするための実データを持つ製造現場そのものが資産になりつつあります。ハードウェアの部品が値下がりしても、データと運用のノウハウは値下がりしにくい——ここが第5段の魅力です。
段ごとの「強さ」と「リスク」の整理
| 段 | 日本勢の強さ | 中国勢による代替リスク | 台数増の恩恵 | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| ①素材 | 中 | 高(原料を中国が握る) | 中 | 輸出規制・資源価格 |
| ②要素部品 | 高 | 中〜高(量産品で追い上げ) | 高(台数×関節数) | 単価下落・中国勢の増産 |
| ③電子・知覚 | 高(センサー・パワー半導体) | 中 | 中〜高 | 頭脳はNVIDIA依存 |
| ④完成品 | 高(産業用)/発展途上(人型) | 高(人型は中国が先行) | 高 | 価格競争・開発費負担 |
| ⑤実装・データ | 中(現場は強い) | 低〜中 | 中 | 小型株の値動きの荒さ |
※評価はInfojuggle編集部による定性的な整理です。
サプライチェーン銘柄を見る3つの物差し
①その部品は「量産品」か「上位品」か。BOMが半分以下に下がる局面では、価格重視の量産品から順に中国勢へ置き換わります。高精度・長寿命・小型化といった数字で差がつく上位品を持つかどうかが、利益率を守る条件です。決算説明資料で「ヒューマノイド向け」の売上や受注を数字で開示しているかも確認したいポイントです。
②部品から「ユニット」へ上がれるか。減速機単体より、モーター・センサー・制御基板まで一体にした関節ユニット(アクチュエータ)の方が、1台あたりの売上は大きくなります。NSKのアクチュエータ参入のように、担える範囲を広げる会社は単価下落を数量と付加価値で補えます。
③「中国以外の調達網」の受け皿になれるか。テスラの部品監査は中国メーカー中心でしたが、レアアース規制のように供給が止まるリスクも露呈しています。欧米や国内のロボットメーカーが調達先を分散するとき、選ばれるのは品質と量産能力の両方を持つ日本企業です。地政学は日本の部品メーカーにとって追い風にもなり得ます。
まとめ——「どの段の話か」を当てはめる
フィジカルAIのサプライチェーンは、①素材→②要素部品→③電子・知覚→④完成品→⑤実装・データの5段に分けられます。日本の堀が最も深いのは②要素部品と③センサー・パワー半導体で、原価の3〜6割を占める「関節」に直結します。一方、①素材は中国依存が残り、②の量産品と④の人型ロボットでは中国勢が猛追しています。
ロボットのニュースが出たら、「これは5段のどこの話か」「その会社は上位品を持つか、ユニット化できるか、中国以外の受け皿になれるか」を当てはめてみてください。技術の4層(入門記事)と組み合わせれば、テーマ株の波に流されない自分なりの地図ができあがるはずです。
主な出典
- ファナック 2027年3月期第2四半期決算短信(2026年10月23日)、ダイヤモンド・ザイ/Fisco報道(2026年10月26日)
- ロボスタ「ジャパン・フィジカルAI関連株式ファンド」(2026年10月26日)
- TrendForce「Tesla Reportedly Audits China Suppliers for Optimus Gen 3」(2026年9月21日)
- 日本精工ニュースリリース「アトムとの戦略的パートナーシップに関するMOU締結」(2026年8月20日)
- MONOist「動かぬ検証機『SEIMEI』に純国産ヒューマノイド開発に向けたKyoHAの覚悟を見た」(2026年5月13日)
- 36Kr Japan 緑的諧波に関する記事(2026年5月17日)
- Interact Analysis、BofA、IEAの推計(各種報道・調査記事経由)
【免責事項】本記事は情報提供およびフィジカルAI関連銘柄の整理を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨する投資助言ではありません。記載内容は2026年10月27日時点の公開情報に基づきますが、正確性・完全性を保証するものではありません。シェア・推計値は出所により異なり、企業の関与度合いや業績は各社の状況により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。