地図編|自動運転の「3D地図」の日本株を解剖

「自動運転の本命は3D地図だと言われて株価が急騰したけれど、E2E(エンド・ツー・エンド)AIの時代に地図は本当に必要なのか」——そう迷っていませんか。

2026年8月末のトヨタ「レベル2++」報道の後、ダイナミックマッププラットフォームは7営業日で2.4倍、アイサンテクノロジーは10営業日で1.86倍になりました。一方で、トヨタが示した方式は、地図への依存を下げる方向の技術だという見方もあります。

この記事では、自動運転の全体像で示した5つの層のうち②地図(高精度3D地図・位置特定)を取り上げ、「地図を作る」「地図を測る」「自分の位置を知る」の3つに分けて、関わる日本の上場企業を整理します。

読み終える頃には、地図関連のニュースが「自家用車の話か、無人サービスの話か」「売上になっているか」を自分で判定できるようになるはずです。

この記事の要点

  • 自動運転の「地図」は、地図データ・計測(MMS)・測位(GNSS・みちびき)の3つに分かれ、それぞれ関わる企業が違う
  • E2E方式の広がりで、自家用車のレベル2++では高精度地図への依存が下がる可能性がある。一方、決められたエリアを無人で走るレベル4では地図は引き続き前提になる
  • 2026年7月の熊本地震では、ダイナミックマッププラットフォームの地図データの一部が使えなくなった。地図は作って終わりではなく、更新し続ける事業である
  • 準天頂衛星「みちびき」7号機は2026年8月11日に打上げに成功したが、5号機は2025年12月に失われており、7機体制の実現は2031年度の見込みとされる
目次

なぜ今「地図」が論点になるのか

自動運転車は、センサーで周囲を見るだけでなく、「自分がいまどの車線のどこにいるか」をcm単位で知る必要があります。そのために使われてきたのが、車線・停止線・標識・縁石の位置まで記録した高精度3次元地図(HDマップ)です。センサーが見た景色を地図と照らし合わせることで、GPSだけでは出せない精度で自車の位置を割り出します。

ところが、テスラに代表されるHDマップに頼らないカメラ中心・E2E方式の運転支援が広がり、トヨタが2028年めどに量販車へ搭載するとした「レベル2++」も、E2E方式とルールベースの安全機構を組み合わせるものと報じられました。地図関連株を急騰させたニュースが、地図の必要性を下げる方向の技術でもある——これがこの層の最大の論点です。

ただし、無人で走るレベル4では事情が違います。運転者がいない以上、走る範囲をあらかじめ決め、その範囲の地図を用意して安全を確かめてから運行するのが一般的です。日本の自動運転バスの実証の多くも、事前に3次元地図を作ってから走り始めています。自家用車(レベル2++)では地図の役割が小さくなる可能性があり、サービスカー(レベル4)では引き続き前提になると整理すると、地図関連のニュースを読みやすくなります。

「地図」とは何か——3つの仕事と役割分担

仕事 中身 収益の形
地図データ(作る・売る) 車線・標識などを記録した高精度3次元地図を整備し、自動車メーカーや運行事業者に提供する ライセンス料(継続収入)と整備受託
計測(測る) レーザースキャナ・カメラ・GNSSを積んだ車両(MMS:モービルマッピングシステム)で道路を走り、点群データを取得する 計測機器の販売、計測・図化の受託
測位(位置を知る) GNSS(衛星測位)と補強信号で自車位置をcm単位で求める。日本では準天頂衛星「みちびき」のCLASが使える 受信機・モジュールの販売、衛星の製造

3つは順番につながっています。MMSで道路を測り、そのデータから地図を作り、車は衛星測位と地図を組み合わせて自分の位置を知ります。投資の観点では、地図データは継続収入の積み上がり、計測は案件の数、測位は受信機の台数で見るとそれぞれの特徴をつかみやすくなります。

地図層に関わる日本の上場企業マップ

判定は「◎:事業・製品・採用の開示あり」「○:取り組み・実証段階」です。投資推奨ではなく、各社が地図のどこに関わるかを確認するための地図として使ってください。

分野 銘柄(コード) 関わり方 確度
地図データ ダイナミックマッププラットフォーム(336A) 日本・北米などの自動運転向け高精度3次元地図の整備・ライセンス ◎
地図データ ゼンリン(9474) 住宅地図・カーナビ地図の最大手。物流施設内の自動運転向け高精度地図を提供 ◎
計測・地図作成 アイサンテクノロジー(4667) MMS計測・3次元地図作成、自動運転バスの運行支援 ◎
計測・地図作成 パスコ(9232) MMSによる道路の3次元計測・高精度道路基盤情報の作成 ◎
計測機器・衛星 三菱電機(6503) MMSの製造・販売、準天頂衛星「みちびき」の製造 ◎
測位 コア(2359) みちびきのCLAS(cm級測位)対応GNSS受信機 ◎

地図データ——継続収入を積み上げる

ダイナミックマッププラットフォーム(336A)——国策の地図会社、ただし売上の4割は米GM

ダイナミックマッププラットフォームは、2016年に官民出資で設立された高精度3次元地図の会社です。産業革新投資機構(JIC)と海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の政府系2社が発行済株式の46.04%を持ちます。「オールジャパンの自動運転インフラ」という性格が強い一方、2026年3月期の売上の42.8%は米General Motors 1社向けで、1Qの売上の87.6%は海外セグメントです。国内の国策銘柄というより、北米の自動車メーカーに地図を売る会社という実態を押さえておく必要があります。

同社は、地図の利用権を提供する「ライセンス型」売上を最重要KPIに置いています。2026年3月期のライセンス型売上は25.9億円と前期の2.2倍になりましたが、全社売上は受託型の減少で▲23.8%の減収、営業損失も拡大しました。さらに2026年7月28日の熊本地震では、保有する地図データと実際の道路に乖離が生じ、顧客に提供していた地図データの一部が使えなくなったと開示しています(損害額は調査中)。地図は現実が変われば毀損する資産であり、更新のコストを払い続ける事業だということを示した出来事です。詳しい分析は個別記事にまとめています。

ゼンリン(9474)——一般地図の最大手が自動運転の「狭い場所」へ

ゼンリンは住宅地図とカーナビ用地図の国内最大手で、自動運転・先進運転支援(AD/ADAS)向けの地図データやシミュレーション用の地図も提供しています。2025年10月30日には、三菱地所とT2が行う物流施設内の自動運転の実証向けに、高精度地図データを整備・提供すると発表しました。公道の全国網ではなく、物流施設や構内のような限られた場所の高精度地図は、レベル4の無人搬送やトラックの自動運転と組み合わせやすい需要です。ゼンリンはダイナミックマッププラットフォームの株主でもありましたが、2026年3月末時点では上位10名から外れています。

計測——道路を「測る」会社

アイサンテクノロジー(4667)——MMS計測から自動運転バスの運行まで

アイサンテクノロジーは、1970年に名古屋で創業した測量CADの会社で、2000年代初めからMMSによる3次元計測の商用化を進めてきました。売上の約6割を占めるモビリティ事業では、高精度3次元地図の計測・作成・更新、自動運転実証の受託、グループ会社A-Driveによる自治体の自動運転バスの運行支援を手がけます。ダイナミックマッププラットフォームの設立発起人・株主であり、自動運転OS「Autoware」を主導するティアフォーとも資本業務提携しています。

2026年9月には、軽井沢町の自動運転バス運行事業の受託(9月2日)と、川崎市「KAWASAKI L4 Bus Project」川崎病院線(9月3日)について相次いで開示しました。地図を作るだけでなく、その地図を使ってバスを走らせるところまで担う点が、同社の特徴です。レベル4の実装地域が増えるほど、「地図を作る→走らせる→更新する」の仕事が地域ごとに発生します。

パスコ(9232)——測量大手のMMS

航空測量・空間情報の大手パスコも、MMSで道路面と周辺の3次元座標データを取得しています。同社は、MMSで作る高精度道路基盤情報を「自動走行の基盤地図となるダイナミックマップの構築に必要不可欠な情報」と位置づけ、道路台帳の整備、法面点検、除雪車の自動運転、災害後の被災状況の把握などにも使っています。自動運転専業ではありませんが、道路の3次元データを自治体・道路管理者に供給する立場にあり、地図の更新需要を受け止める側の企業です。

三菱電機(6503)——計測装置と測位衛星の両方を作る

三菱電機は、MMSの計測装置「三菱モービルマッピングシステム」を製造・販売しており、2026年3月に最新機種MMS-Hのカタログを更新しています。また、準天頂衛星「みちびき」の衛星を製造しており、7号機も同社の鎌倉製作所で作られました。グループの三菱電機モビリティはダイナミックマッププラットフォームの主要顧客(2026年3月期の売上の14.0%)でもあります。計測・測位・地図の利用という3つの場面すべてに顔を出す、珍しい立ち位置の企業です。ただし売上規模が大きく、地図関連が業績に与える影響は限定的です。

測位——自分の位置をcm単位で知る

準天頂衛星「みちびき」とCLAS——日本独自の測位インフラ

日本上空に長くとどまる準天頂衛星「みちびき」は、センチメータ級測位補強サービス(CLAS)を提供しており、対応受信機を使えば誤差6cm以下の測位ができます。日産自動車の運転支援技術「プロパイロット2.0」でも活用されています。

2026年8月11日には、H3ロケット9号機でみちびき7号機が打ち上げられ、所定の軌道に投入されました。ただし、2025年12月22日に打ち上げられた5号機はH3ロケット8号機の失敗で失われています。日本上空に常に4機以上がいて、みちびきだけで測位を続けられる「7機体制」は、宇宙基本計画の工程表にもとづけば2031年度の実現見込みとされています。測位インフラの完成時期が当初計画より遅れている点は、自動運転の普及時期を考えるうえで押さえておきたい事実です。

コア(2359)——CLAS対応受信機を自社で持つ

独立系のソフトウェア会社コアは、みちびきのCLASに対応した小型GNSS受信機「Cohac∞ Ten」シリーズを展開しています。2024年9月には、CLASと、世界規模の高精度測位補強サービスMADOCA、なりすましを防ぐ信号認証の3つに対応した「Cohac∞ Ten++」の発売を適時開示しました。同社は産業向けの製品として展開しており、cm級測位の受信機を自前で持つ上場企業は多くありません。7機体制に向けてみちびきの利用が広がれば、受信機の需要も増える方向にあります。

「地図」の銘柄を見る3つの物差し

  1. レベル2++向けか、レベル4向けか:E2E方式が広がる自家用車では、HDマップの役割は小さくなる可能性があります。無人バス・無人タクシー・物流施設のようなエリア限定のレベル4では、地図は引き続き前提です。
  2. 継続収入か、案件収入か:地図のライセンス料は積み上がる継続収入、計測や地図作成の受託は案件ごとの収入です。ダイナミックマッププラットフォームのように、ライセンス型が伸びても受託型の減少で全社が減収になることがあります。
  3. 自動運転以外の使い道があるか:3次元の空間データは、不動産、保険、インフラ点検、災害対応、AI学習用データにも使えます。自動運転の普及が遅れても売上を立てられるかどうかが、下値の支えになります。

まとめ——地図は「更新し続ける」ことで価値が残る

地図層を整理すると、日本には地図データ(ダイナミックマッププラットフォーム・ゼンリン)、計測(アイサンテクノロジー・パスコ・三菱電機)、測位(三菱電機・コア)の各段階に上場企業がそろっています。ただし、2026年8月末からの地図関連株の急騰は、個別企業の業績ではなく、トヨタのレベル2++報道をきっかけとしたテーマ資金の流入が主因でした。そのレベル2++は、地図への依存を下げる方向の技術でもあります。

地図の価値が残るのは、無人で走るエリアを決めて運行するレベル4と、自動運転以外の空間データの用途です。そして熊本地震が示したように、地図は現実に合わせて更新し続けなければ価値を失います。レベル4の実装地域が増え、更新の仕事が継続的に発生するかどうか——地図関連株は、この点で見ていくのが実態に近いでしょう。

続く③頭脳(自動運転ソフト・E2E AI・車載半導体)は頭脳編で取り上げています。全体像と他の層は、特集ページからたどれます。

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主な出典

本記事は2026年9月23日時点の公開情報にもとづく調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。

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