本記事のステータス:新規(infojuggle.com におけるフルヤ金属の初回調査記事)。商社・金属株ポータルのサブセクター「非鉄・電線・金属製品」に登録しています。同じ貴金属・機能材料の市況を別の角度から扱うDOWAホールディングス(5714)・三井金属(5706)のレポートと併せてお読みください。セクター全体は商社・金属株リサーチ・ポータルにまとめています。
「1Qの営業利益130億円は、通期計画265億円の49.2%」——2026年11月6日15:30、フルヤ金属(7826)が発表した2027年6月期第1四半期決算は、3ヶ月で年間計画のほぼ半分を稼いだ内容でした。それでも会社は通期予想を据え置いています。
同じ日の東京市場は、米中間選挙で民主党が上下両院を制したことを受けた「AIデータセンター規制」懸念で日経平均が3,643円安と、終値ベースで過去3番目の下げ幅を記録しました。フルヤ金属の終値は7,890円で、決算はこの終値に反映されていません。夜間のPTSは9,390円(終値比+19.0%)まで買われました。
ただし、この決算を「稼ぐ力が2倍になった」と読むのは早計です。計画の前提はイリジウム1トロイオンスあたり6,000ドル・ルテニウム1,400ドルですが、1Qの平均はそれぞれこの前提を35%・21%上回っていました。そして同社の総資産の63.6%(998億円)は貴金属を中心とする棚卸資産です。貴金属価格の上昇は利益を押し上げますが、逆回転すれば同じだけ押し下げます。
この記事では、商社・金属株リサーチの3視点——①前提価格と足元市況の乖離、②事業ミックスと実力利益、③株主還元と資産価値——を貴金属加工メーカーに当てはめ、決算短信・決算説明資料・有価証券報告書という一次資料で定量化します。焦点は「1Qの利益のうち、需要の強さで稼いだ分と、市況の上昇に乗った分をどう見分けるか」です。強気材料と弱気材料の両方から整理します。
【サブセクター】非鉄・金属製品(貴金属加工・リサイクル)/東証33業種は「その他製品」。プラチナ族金属(PGM)のうちイリジウム・ルテニウムの加工でグローバルニッチトップ
【需要ドメイン】主要=AI・データセンター(HDD用ルテニウムターゲット、光通信アイソレーター用ルツボ)/副次=半導体製造(温度センサー・EUV関連ターゲット)、医療機器(シンチレーター用ルツボ)、資源循環、水素(水電解触媒)
【決算月】6月期 【会計基準】日本基準 【表示単位】特記なき限り億円(百万円の開示を四捨五入)
【株価基準日】2026年11月6日(金)東証終値 7,890円(株探)。決算は同日15:30の発表で終値に未反映。同日夜のPTSは9,390円(23:54時点)
【一次資料】2027年6月期第1四半期決算短信・決算説明資料(2026年11月6日)、2026年6月期決算短信・決算説明資料・「中期経営計画の見直しに関するお知らせ」(2026年8月6日)、第58期有価証券報告書(2026年9月28日)、「支配株主等に関する事項について」(2026年9月29日)
本記事は開示資料に基づく調査分析の情報提供です。投資判断の最終責任は読者にあります。
総合評価
| 品質スコア | ★★★☆☆(45/70) |
| 価格判定 | C(適正・中心シナリオ +3〜9%)/手法間レンジ ▲40%〜+53% |
| 資本イベント素地(TOB/MBO) | 2/10(低い) |
| 国策アライン度 | 4/10(中程度)※現時点の売上寄与は実質ゼロ |
| テーマ適合度 | 27/40(やや高い)※AIデータセンター |
| 上抜け素地 | 2/6(⑥カタリストに調整なし) |
採点基準は equity-rating-framework v2.2(品質7軸70点、価格判定A〜Eは合計点と分離、需給は直近3ヶ月・カタリストは今後3ヶ月の窓)に準拠しています。本レーティングは公開情報に基づく独自の定量評価であり、投資判断を推奨するものではありません。
一言でいえば:収益性と競争優位性は国内上場企業の中でも際立っています(②9点・④8点)。一方で、利益が貴金属市況にどこまで乗っているかを分離できず、キャッシュフローも利益に追いついていません(③4点)。品質は★3の上限(45点)で、価格は会社計画ベースでほぼ適正です。PTSの9,390円を起点にすると、計画ベースのフェアバリューを下回る水準まで既に買われています。
7軸スコアと根拠
| 軸 | 点 | 根拠(数値付き) |
|---|---|---|
| ①成長性 | 7 | 売上高は481億円(2023年6月期)→1,001億円(2026年6月期)で3期CAGR +27.7%、純利益CAGR +19.5%。1Qは売上+62.0%・営業利益+282.4%。ただし伸びの相当部分は貴金属価格の上昇(イリジウムのFMBI平均は2025年6月期22,744円/g→2027年6月期1Q 40,301円/g)を含み、数量と価格の分離は開示されていない。会社の2027年6月期計画は売上+0.9%・営業利益+6.9%。データセンター・半導体の需要は会社自身が構造的と説明しているが、市況要因を成長と区別するルールから9-10点帯には置かない |
| ②収益性 | 9 | 営業利益率24.8%(2026年6月期)→1Qは34.7%。ROE 22.5%(有報)。連結従業員数418人→457人(+9.3%)に対し、一人当たり営業利益は約5,670万円(期中平均人員437.5人で除算、推計)。提出会社の平均年間給与は756.7万円(+8.8%)。労働分配率は人件費総額の開示がなくN/A。増員と賃上げを大きく上回る利益成長で、数値上は9-10点帯 |
| ③収益の質・連結範囲 | 4 | 持分法・非支配持分の寄与は軽微(連結範囲の重要な変更なし)。一方で、営業CF÷営業利益は0.10倍(2025年6月期)→0.64倍(2026年6月期)と1.0を大きく下回り、利益が棚卸資産の積み増しに吸収されている(2026年6月期の棚卸資産増減▲95億円)。棚卸資産は総平均法で評価しており、貴金属価格の上昇局面では販売価格の上昇が原価に遅れて反映されるため、市況が利益を押し上げる構造がある。ただしその金額(在庫効果)は開示されておらず推計不能。1Qの営業外では為替差益14.5億円とデリバティブ評価損10.2億円が並ぶ |
| ④競争優位性 | 8 | 会社はイリジウム・ルテニウム加工の「世界一」を目指す姿に掲げ、経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」に2014年・2020年に選定。調達(南アフリカの鉱山会社)・高純度精製・高難度加工・回収の一貫体制を持つ。一方、筆頭株主の田中貴金属工業は原材料仕入ルートの提供元であると同時に同業者でもある。HDD向け磁性材ターゲットではJX金属が2026年6月に増産を発表している |
| ⑤需給ポジション(直近3ヶ月) | 4 | 週足ベースの3ヶ月騰落率(2026年8月7日の週終値7,920円→11月6日終値7,890円)は▲0.4%。同期間に松田産業 ▲0.3%、ARE HD +3.2%、三井金属 ▲52.2%、JX金属 ▲37.3%と非鉄・素材のAI関連株は二極化した(業種指数は未取得のため上場Peerで代替)。ただし10月2日の年初来高値12,380円からは▲36.3%。信用倍率は12.47倍(10月2日)→21.37倍(10月30日)へ上昇(主因は売残の52.3千株→27.7千株への減少)。自社株買いはなし |
| ⑥カタリスト(今後3ヶ月) | 7 | 11月6日15:30発表の1Q決算は終値に未反映(PTS +19.0%)。2027年2月上旬(前期は2月6日)の2Q決算で通期予想の修正の有無が焦点。2026年8月に見直しを表明した新中計の数値目標は「合理的に策定ができるようになった時点で速やかに公表」とされ、時期は未定。米国のデータセンター規制の議論は日付未確定の外部要因。上抜け素地は6項目中2項目で調整なし(後述) |
| ⑦リスク耐性 | 6 | 自己資本比率52.9%(1Q末)。有利子負債は短期借入金90億円(1Qで新規調達)・1年内返済長期借入金43.9億円・長期借入金82.8億円の計216.7億円で、現預金89.8億円を差し引いたネット有利子負債は約127億円。一方で棚卸資産998億円(総資産比63.6%)の大半が貴金属で、市況の下落は簿価切下げを通じて利益を直撃しうる。販売先はデノラ・ペルメレック10.4%、De Nora Deutschland 4.9%で、デノラグループ合計15.3%(2026年6月期) |
合計 45/70 → ★★★☆☆(56-70=★5/46-55=★4/36-45=★3/26-35=★2/0-25=★1)。★4まであと1点の位置です。収益性・競争優位性・カタリストが高く、収益の質と需給が低いプロファイルです。③が引き上がる条件は、営業CFが営業利益に追いつくこと、または会社が市況要因と数量要因の分解を開示することです。
上抜け素地の内訳(6項目)
| # | 項目 | 判定 | 数値 |
|---|---|---|---|
| 1 | 売買代金が増加(直近1ヶ月÷3ヶ月平均 ≥1.3倍) | × | 10月の週間出来高は130万〜209万株で、9月(136万〜366万株)を下回る。11月6日は63.9万株・売買代金47.6億円 |
| 2 | 上値のしこりが薄い | × | 年初来高値12,380円までは終値から+56.9%、PTS 9,390円からでも+31.8%。9月〜10月に高値圏で出来高が積み上がっている |
| 3 | 信用買残の重石が軽い | × | 信用倍率21.37倍(10月30日)。買残59.2万株は11月6日の出来高とほぼ同水準 |
| 4 | 踏み上げ余地 | × | 売残は52.3千株→27.7千株へ減少しており、踏み上げとは逆方向 |
| 5 | 浮動株が少ない | ○ | 田中貴金属工業17.27%、古屋堯民氏6.10%、Sibanye UK 4.88%(2026年6月30日現在)。時価総額2,003億円の中型株 |
| 6 | 未織り込みの材料がある | ○ | 1Q決算(15:30発表)は11月6日終値に未反映 |
🔴 上抜け素地は「上がりやすさ」ではありません。需給と売買代金の構造を観察した集計にすぎず、株価の上昇を予想・保証するものではありません。両刃である点を併記します——浮動株が少ない銘柄は、好材料で大きく動くのと同じだけ悪材料でも大きく動きます。実際に同社株は10月2日から11月6日までの約1ヶ月で▲36%動きました。信用倍率21倍台という水準も、下落局面では投げ売りの源泉になりえます。本項は売買のタイミングを示唆するものではありません。
会社概要とセグメント
| 企業名/証券コード | 株式会社フルヤ金属/7826(東証プライム) |
| 事業 | プラチナ・イリジウム等の工業用貴金属製品(ルツボ、スパッタリングターゲット、温度センサー、化合物・触媒)の製造・販売と、貴金属の回収・精製 |
| 設立/上場 | 1968年8月設立/2006年JASDAQ上場、2023年12月東証プライム |
| 決算月/会計基準 | 6月期/日本基準 |
| 株価(2026年11月6日終値) | 7,890円(前日比 ▲240円・▲2.95%)。PTS 9,390円(23:54) |
| 時価総額 | 2,003億円(株探、発行済株式数25,389,636株ベース) |
| 予想PER | 11.0倍(7,890円÷会社予想EPS 719.53円) |
| PBR | 2.33倍(1Q末自己資本831.3億円÷自己株控除後2,459.9万株=BPS 3,379円、推計) |
| 配当利回り | 2.28%(2027年6月期予想配当180円、期末一括。配当性向25.0%) |
| 自己資本比率 | 52.9%(1Q末) |
| 連結従業員数 | 457人(2026年6月30日現在) |
| 海外売上比率 | 70.7%(1Q。北米45.8%・アジア43.0%・欧州11.2%=海外売上高に占める割合) |
セグメント別の売上総利益(1Q・億円)
同社のセグメント利益は売上総利益ベースで開示されています(販管費はセグメントに配賦されません)。
| セグメント | 主な製品 | 売上高 前年1Q | 売上高 今期1Q | 売上総利益 前年1Q | 売上総利益 今期1Q | 粗利率 | 通期計画に対する粗利進捗 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 電子 | 医療用シンチレーター・光通信アイソレーター向けイリジウム/プラチナ製ルツボ | 19.5 | 105.3 | 3.2 | 48.4 | 45.9% | 74.4% |
| 薄膜 | HDD用ルテニウムターゲット、半導体(EUV関連含む)・BAWフィルター用ターゲット | 26.5 | 78.2 | 12.6 | 35.3 | 45.2% | 35.0% |
| サーマル | 半導体製造装置用温度センサー(熱電対) | 14.0 | 22.6 | 4.1 | 8.2 | 36.3% | 43.2% |
| ファインケミカル・リサイクル | 苛性ソーダ電極用触媒、有機EL用化合物、化学プラント用触媒 | 40.8 | 75.7 | 9.3 | 41.6 | 55.0% | 32.0% |
| サプライチェーン支援 | 貴金属地金の取引 | 49.3 | 93.9 | 4.5 | 10.5 | 11.2% | 70.2% |
| その他 | 仕入商品・製品等の販売 | 81.9 | 0.2 | 10.8 | 0.0 | — | — |
| 合計 | 232.0 | 375.8 | 44.5 | 144.1 | 38.3% | 43.7% |
出典:2027年6月期第1四半期決算説明資料(P4〜P9)。前年1Qの「その他」は、会社がバランスシートのリバランス目的と説明する貴金属地金の販売を含む。
1Qで最も伸びたのは電子セグメントで、売上高は前年同期の5.4倍、粗利は15倍になりました。会社は医療用シンチレーター結晶用のイリジウムルツボが「顧客の設備増強に伴い」計画を上回り、データセンター間の光通信に使うアイソレーター用ルツボが「新規販路の開拓も寄与」して好調だったと説明しています。電子の粗利は1Qだけで通期計画の74.4%に達しました。
一方で前年同期の業績を押し上げていた「その他」の貴金属販売81.9億円は今期ほぼゼロになっています。会社はこれを「コアビジネスが大きく伸張し業績を牽引した」と表現しています。地金を売って利益を出した前年とは中身が違う、という主張です。
商社・金属株3視点①:前提価格と足元市況の乖離
🔴 感応度について。フルヤ金属は「イリジウムが1ドル動けば利益が何億円動く」という感応度を開示していません。本記事では出典のない感応度は書かず、会社の前提価格と足元の実勢の乖離のみを示します。「含意」は乖離が期間平均として続いた場合の方向感であり、業績への影響額を示すものではありません。
| 項目 | 会社前提(2027年6月期計画・2026年8月6日公表) | 1Q平均の実績 | 足元の実勢(取得日を併記) | 乖離(1Q実績 vs 前提) |
|---|---|---|---|---|
| イリジウム | US$6,000/toz(期中平均)=FMBI換算29,900円/g | FMBI平均40,301円/g | FMBI 41,200円/g(2026年9月30日、会社資料)/Umicore US$9,650/toz(2026年10月26日) | +34.8% |
| ルテニウム | US$1,400/toz(期中平均)=FMBI換算6,977円/g | FMBI平均8,440円/g | FMBI 8,650円/g(2026年9月30日、会社資料)/Umicore US$1,950/toz(2026年11月5日) | +21.0% |
| 為替(円/$) | 155円 | 159.25円(平均仲値) | 158.35円(2026年11月5日夜、株探) | +2.7%(円安方向) |
FMBI(Furuya Metal Bullion for Industry)は同社が毎日発表する取引参考価格。前提価格の円換算は会社資料の数値(イリジウム29,900円/g・ルテニウム6,977円/g)と一致することを確認した(US$×155円÷31.1035g)。Umicoreの価格は同社サイトの10時価格で、FMBIとは算出主体が異なる。
前提と実勢の乖離は大きく、しかも1Qの後も開いています。イリジウムのUmicore価格(10月26日 US$9,650)は会社前提US$6,000を61%、ルテニウム(11月5日 US$1,950)は前提US$1,400を39%上回っています。市況の追い風だけを見れば、通期予想の据え置きは保守的に映ります。
ただし、貴金属価格の先行きは本記事では断定しません。ルテニウムは2025年3月時点のUS$560前後から1年で約3倍になった後の水準であり(Reuters, 2026年3月)、上昇の速さそのものが反落時の振れ幅の大きさを意味します。
市況はどの経路で利益に効くのか
有価証券報告書によれば、同社の原材料・製品・仕掛品の材料費部分は総平均法による原価法で評価されています。貴金属価格が上がる局面では、販売価格には足元の市況が反映される一方、売上原価には過去に安く仕入れた在庫を含む平均単価が使われるため、粗利が広がります。下がる局面ではこれが逆に働き、さらに簿価を時価まで切り下げる損失が出る可能性があります。
| 期間 | イリジウム FMBI平均(円/g) | ルテニウム FMBI平均(円/g) | 売上総利益率 |
|---|---|---|---|
| 2025年6月期(通期) | 22,744 | 2,442 | 24.7% |
| 2026年6月期 1Q | 21,906 | 4,007 | 19.2% |
| 2026年6月期 2Q | 22,924 | 4,585 | 24.7% |
| 2026年6月期 3Q | 33,550 | 7,455 | 36.5% |
| 2026年6月期 4Q | 39,239 | 8,161 | 37.3% |
| 2027年6月期 1Q | 40,301 | 8,440 | 38.3% |
| 2027年6月期 計画 | 29,900 | 6,977 | 32.7% |
出典:2026年6月期決算説明資料(P6)、2027年6月期第1四半期決算説明資料(P3)。
イリジウム価格が2万円台から3万円台に上がった2026年6月期3Qを境に、粗利率は24.7%から36.5%へ一段上がり、その後も高止まりしています。これは相関であって因果の証明ではありません。同じ時期に電子セグメントの高付加価値品の出荷が急増しており、製品ミックスの改善も粗利率を押し上げています。会社は市況要因と数量・ミックス要因の分解を開示していないため、在庫効果の金額は推計できません。本記事ではこれを③収益の質の減点要因として扱います。
商社・金属株3視点②:事業ミックスと実力利益 ★本記事の核心
四半期の推移——「その他」が消えて、本業が入れ替わった
| 億円 | 2026/6期 1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 2027/6期 1Q | 2027/6期 通期計画 | 1Q進捗率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 232.0 | 207.0 | 308.3 | 254.1 | 375.8 | 1,010 | 37.2% |
| 売上総利益 | 44.5 | 51.0 | 112.4 | 94.8 | 144.1 | 330 | 43.7% |
| 販管費 | 10.4 | 10.7 | 13.5 | 20.2 | 13.7 | 65 | 21.0% |
| 営業利益 | 34.1 | 40.3 | 98.9 | 74.6 | 130.4 | 265 | 49.2% |
| 経常利益 | 33.6 | 39.1 | 96.7 | 77.3 | 131.0 | 260 | 50.4% |
| 親会社株主に帰属する純利益 | 23.3 | 26.8 | 66.8 | 43.5 | 88.6 | 177 | 50.1% |
出典:2027年6月期第1四半期決算説明資料(P3)。
1Qの営業利益130.4億円は、四半期として過去最高です。進捗率49.2%で、残る3四半期の営業利益が計画通りなら134.6億円、つまり1四半期あたり44.9億円で通期計画に届きます。これは2026年6月期の1Q(34.1億円)・2Q(40.3億円)並みの水準で、市況前提が大幅に下がった状態を想定した数字です。会社は通期予想を据え置いた理由を個別に説明していませんが、1Q決算説明資料で「当面は今後の半導体・AI関連の投資動向及び貴金属相場の上昇に伴う調達コストの増加を注視」と書いています。
実力利益をどう見積もるか——3つのシナリオ
市況要因を会社が分解していない以上、単一の「実力利益」を示すことはできません。そこで前提を明示した3つのシナリオで幅を示します(🔴 以下はすべて推計であり、会社の予想ではありません)。
| シナリオ | 前提 | 営業利益 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|
| A:会社計画 | 2Q以降に営業利益が1四半期44.9億円へ低下(市況が前提価格近辺まで戻ることに相当) | 265 | 177 | 720円 |
| B:中間 | 2Q〜4Qを2026年6月期下期の平均(1四半期86.8億円)で置く | 391 | 265 | 1,079円 |
| C:1Qペース継続 | 1Qの営業利益130.4億円が4四半期続く | 522 | 355 | 1,441円 |
| 参考:過去5年平均 | 2022〜2026年6月期の純利益平均96.9億円 | — | 97 | 394円 |
B・Cの純利益は1Qの純利益÷営業利益(0.680)を適用。EPSは1Q末の自己株控除後株式数2,459.9万株で除算。過去5年平均は有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」の純利益(91.4億・94.1億・74.1億・64.7億・160.3億円)の単純平均。
シナリオAとCのEPSは2倍違います。そして過去5年平均(394円)は会社計画の半分強です。どの水準を「実力」とみなすかで、同じ株価が「割安」にも「割高」にも見えるのがこの銘柄の本質です。本記事は、データセンター・半導体向けの数量の伸びは構造的である可能性が高い一方、粗利率を一段押し上げた貴金属価格は循環的である、という立場から、中心をシナリオA〜Bの間に置きます。
需要の中身——会社の説明と、確認できる外部情報
| 製品 | 会社の説明(1Q決算資料) | 外部情報 |
|---|---|---|
| HDD用ルテニウムターゲット(薄膜) | データセンター需要を背景に生産量は高水準を継続 | ルテニウムはAI向けのデータストレージ需要で過去最高値(Reuters, 2026年3月)。Johnson Mattheyの2026年5月の報告ではイリジウム・ルテニウムとも2026年は供給不足見通し |
| 光通信アイソレーター用ルツボ(電子) | 計画通り出荷が進捗し全体実績を牽引 | データセンター間の光通信投資に連動 |
| 医療用シンチレーター用イリジウムルツボ(電子) | 顧客の設備増強に伴い計画を上回る進捗 | — |
| 半導体用ターゲット(薄膜) | EUV用を含め各種開発案件もあり出荷量増加 | 会社はEUVマスクブランクスとルテニウム配線の量産需要を2030年頃と位置づけ(KFKビジョン2030進捗) |
| BAWフィルター用ターゲット(薄膜) | 貿易規制の影響が継続しているがリサイクル等により出荷を維持 | — |
| SAWフィルター用ルツボ(電子) | 依然足取りが重い | — |
| 有機EL用化合物(ファインケミカル) | 前四半期から調整が継続しており不調、下期にかけて復調見通し | — |
需要の多くがAIデータセンター投資に結びついていることは、強みであると同時に集中リスクでもあります。11月6日の急落の起点となった米国のデータセンター規制の議論が実際の投資抑制に進むかは現時点で不明です(外為どっとコムは、トランプ大統領の拒否権や安全保障上のAIの重要性を、全面的な規制に至りにくい理由として挙げています)。
商社・金属株3視点③:株主還元と資産価値
| 配当方針 | 「業績に対応して行うことを基本」としつつ安定配当と内部留保に留意(2026年8月6日の増配開示)。2026年6月期は配当性向25%と説明 |
| 配当実績・予想 | 96円(2025年6月期)→165円(2026年6月期、期中予想155円から増配)→180円予想(2027年6月期、配当性向25.0%) |
| 自社株買い | なし(譲渡制限付株式報酬としての自己株式処分のみ、2026年10月) |
| 投資単位 | 2026年6月30日時点で投資単位が50万円以上のため、東証規程に基づき方針を開示。2024年7月に1株→3株の分割を実施済みで、さらなる引下げは「慎重に検討」 |
| 中期経営計画 | KFKビジョン2030(2025年8月公表)の2030年経常利益目標200億円を2026年6月期(246億円)で前倒し達成したため、数値目標を見直し中。新目標は「合理的に策定ができるようになった時点で速やかに公表」。配当方針に変更なし |
配当性向25%は、利益の振れをそのまま配当に反映する設計です。シナリオA(EPS 720円)なら配当は180円、シナリオB(1,079円)で同じ性向なら約270円の計算になります(推計)。逆に市況が反落すれば配当も連動して下がりうる点は、累進配当を掲げる総合商社とは性質が異なります。
大株主——田中貴金属工業という「供給元であり同業者」
| 株主(2026年6月30日現在) | 持株比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 田中貴金属工業 | 17.27% | 筆頭株主・「その他の関係会社」。資本業務提携契約あり。同社の親会社は田中貴金属グループ、その親会社はフィールドインアンドカンパニー |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.64% | 信託口 |
| 古屋堯民(代表取締役社長) | 6.10% | — |
| Sibanye UK Limited | 4.88% | 南アフリカのPGM大手Sibanye-Stillwaterのグループ会社とみられる英国法人(資本関係は本稿では未確認) |
| NORTHERN TRUST CO.(AVFC) | 3.92% | — |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.37% | 信託口 |
出典:第58期有価証券報告書「大株主の状況」、2026年9月29日「支配株主等に関する事項について」(議決権所有割合は自己株式控除後で17.30%)。
会社は「原材料の仕入等において、田中貴金属工業株式会社の持つ仕入ルートを活用」していると開示し、取引条件は「市場価格を参考に合理的に決定」としています。また有価証券報告書の事業等のリスクで、田中貴金属工業側の経営方針への考え方や株式の継続保有方針の変化が、事業運営とコーポレート・ガバナンスに影響しうると明記しています。原料の産出側(南アのPGM大手と同名のSibanye UK)と、調達ルートの提供元かつ同業者(田中貴金属)の双方が株主に名を連ねる構造は、調達の安定性という強みと、利益相反の論点の両面を持ちます。
業績推移
🔴 年度ラベルの検算:同社は6月決算で、有価証券報告書の「第58期」が2026年6月期(2025年7月〜2026年6月)です。2026年6月期の売上高1,001億3,900万円が決算短信と有報で一致することを確認しました。EPSは2024年7月の1:3株式分割を遡及調整した有報記載値です。
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 純利益 | EPS | ROE | 営業CF | 年間配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022年6月期 | 453 | 133 | 91.4 | 436.9円 | 28.3% | ▲12.3 | — |
| 2023年6月期 | 481 | 124 | 94.1 | 449.2円 | 23.3% | ▲4.6 | — |
| 2024年6月期 | 475 | 107 | 74.1 | 322.5円 | 14.2% | 32.1 | — |
| 2025年6月期 | 574 | 93.9 | 64.7 | 263.3円 | 10.4% | 9.2 | 96円 |
| 2026年6月期 | 1,001 | 247 | 160.3 | 652.0円 | 22.5% | 157.6 | 165円 |
| 2027年6月期 1Q実績 | 376 | 131 | 88.6 | 360.3円 | — | —(四半期CF計算書なし) | — |
| 2027年6月期(会社予想) | 1,010 | 260 | 177 | 719.5円 | — | — | 180円 |
出典:第58期有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」、各期決算短信。2022〜2024年6月期の配当は分割前の表示が混在するため本表では省略。
2022〜2025年6月期の4年間、利益は緩やかに減少していました(純利益91億円→65億円)。そこから2026年6月期に一気に2.5倍へ跳ねています。同じ期間の営業CFは2022・2023年6月期がマイナスで、5年合計の営業CF(182億円)は同期間の純利益合計(485億円)の4割弱にとどまります。貴金属という「在庫を持たないと商売にならない」原料を扱う事業の特性で、利益の一部は常に在庫として寝ています。
市況・需給環境
| 指標 | 直近値 | 出典・取得日 |
|---|---|---|
| イリジウム | US$9,650/toz(10月26日)、10月1〜26日平均US$8,847 | Umicore Precious Metals Management |
| ルテニウム | US$1,950/toz(11月2〜5日、横ばい) | Umicore Precious Metals Management |
| PGM需給 | イリジウム・ルテニウムとも2026年は供給不足見通し。イリジウムは2026年に需要が減少しない唯一のPGMと予測 | Johnson Matthey「PGM Market Report」(2026年5月、Mining Weekly報道) |
| ルテニウム需給 | 2026年に20.3万オンスの供給不足予測。供給はPGM採掘の副産物で南アフリカに集中 | Metals Focus(Reuters, 2026年3月) |
| 世界のPGM産出 | 2025年のイリジウム産出量7.5t、ルテニウム30t(会社推計)。イリジウムの約8割が南アフリカ | 2027年6月期第1四半期決算説明資料(Appendix、鉱山会社HP資料より当社推計) |
| 東京市場 | 11月6日の日経平均は3,643円安(▲5.96%)の57,434円。非鉄金属は▲7.19% | 世界一やさしい投資の学校(2026年11月6日) |
イリジウムの世界の年間産出量は約7.5tと、プラチナ(約180t)の24分の1にすぎず、その大半が南アフリカの数社の鉱山から副産物として出てきます。需要が少し動くだけで価格が大きく振れる構造であり、フルヤ金属がリサイクル(回収・精製)能力を重視しているのはそのためです。
競争環境
| 論点 | 確認した事実 | フルヤ金属への含意 |
|---|---|---|
| HDD向けターゲットの増産 | JX金属が2026年6月11日、HDDメディア向け磁性材スパッタリングターゲットの生産能力増強を発表(2026年度下期から段階的に、茨城県の磯原工場)。背景は生成AI・クラウドによるデータセンターのストレージ需要と、HAMR(熱アシスト磁気記録)への移行に伴う新材料の採用(MONOist, 2026年6月15日) | 増産規模は非開示で、ルテニウム製品を含むかも記事からは不明。同じ需要を取りにくる国内大手の動きとして注視が必要 |
| 筆頭株主との関係 | 田中貴金属工業は仕入ルートの提供元であり、貴金属加工の同業者でもある(2026年9月29日開示) | 調達の安定性の裏付けである一方、同社の方針変化はリスク要因として会社自身が開示 |
| 貿易規制 | BAWフィルター用ターゲットは「貿易規制の影響が継続」(1Q決算資料) | 規制の対象・内容の詳細は開示資料からは不明(未確認) |
| 供給側 | PGMの供給は南アフリカに集中し、Northam Platinumは新規鉱山投資の不足で南アのPGM生産が数年減少していると説明(Reuters, 2026年3月) | 原料価格の高止まり要因。同時に調達コストの上昇要因でもある |
| 国内上場の比較対象 | 貴金属回収の松田産業(7456)・ARE HD(5857)、機能材料のJX金属(5016)・三井金属(5706) | イリジウム・ルテニウムの加工に特化した上場企業は国内に見当たらず、純粋な比較対象はない |
バリュエーション
11月6日終値7,890円を起点に4つの手法でレンジを示します。決算はこの終値に反映されていません。PTS 9,390円を起点にした場合のアップサイドは右端の列に併記します。
| 手法 | 前提 | フェアバリュー | 終値比 | PTS比 |
|---|---|---|---|---|
| ①シナリオEPS×PER | シナリオA EPS 720円 × 12倍(非鉄の上限目安) | 8,634円 | +9.4% | ▲8.1% |
| シナリオB EPS 1,079円 × 10倍 | 10,790円 | +36.8% | +14.9% | |
| シナリオC EPS 1,441円 × 8倍(ピーク益には低いマルチプル) | 11,528円 | +46.1% | +22.8% | |
| ②ミッドサイクルPER | 過去5年平均EPS 394円 × 12倍 | 4,728円 | ▲40.1% | ▲49.6% |
| ③PBR-ROE回帰 理論PBR=(ROE−g)/(COE−g) |
ROE 15%(ミッドサイクル想定)、COE 9.5%、g 1.5% | 5,703円 | ▲27.7% | ▲39.3% |
| 会社計画ROE 20.8%(推計)、同上 | 8,145円 | +3.2% | ▲13.3% | |
| ROE 30%(シナリオB相当)、同上 | 12,039円 | +52.6% | +28.2% | |
| ④DDM(参考) | DPS 180円、COE 9.5%、g 3.0% | 2,769円 | ▲64.9% | ▲70.5% |
BPSは1Q末自己資本831.3億円÷2,459.9万株=3,379円(推計)。会社計画ROEは純利益177億円÷(期首自己資本783.5億円と、期首に純利益177億円を加え前期末配当40.6億円を差し引いた期末想定の平均)で推計。配当性向25%の銘柄にDDMは適さないため参考扱い。すべて推計であり、将来の株価を保証するものではありません。第三者の目標株価は本稿では未確認です。
価格判定:C(適正)
手法間のレンジは▲40%〜+53%(参考扱いのDDMを除く)と極端に広く、どのEPSを使うかで結論が反転します。シクリカル銘柄はピーク益ではなくミッドサイクルで判定する、というルールに従い、中心には市況前提を足元より低く置いた会社計画ベース(①シナリオA 12倍の+9.4%と、③計画ROEの+3.2%の間=+3〜9%)を採り、C(適正)と判定します。
🔴 PTS 9,390円という水準の意味。PTSの価格は、会社計画ベースのフェアバリュー(8,145〜8,634円)を9〜15%上回ります。つまり夜間取引は、会社が据え置いた通期計画ではなく、市況の追い風が続き上方修正されるシナリオ(B以上)を先に織り込みにいった形です。週明けの東証でこの水準が維持されるかは、1Qの上振れが「市況の一時的な追い風」と「数量の構造的な伸び」のどちらと受け取られるかに依存します。
東証 類似銘柄の比較
| 銘柄 | コード | 株価(11/6終値) | 時価総額 | 予想PER | PBR | 配当利回り | 信用倍率 | 3ヶ月騰落率 | 事業構造の違い |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| フルヤ金属 | 7826 | 7,890円 | 2,003億円 | 11.0倍 | 2.34倍 | 2.28% | 21.37倍 | ▲0.4% | イリジウム・ルテニウム加工品(ルツボ・ターゲット)。製品の付加価値で稼ぐ |
| 松田産業 | 7456 | 5,830円 | 1,569億円 | 7.3倍 | 1.20倍 | 2.06% | 47.12倍 | ▲0.3% | 貴金属回収・地金販売と食品の2本柱。回収・精製の比較対象 |
| ARE HD | 5857 | 3,580円 | 3,109億円 | 8.4倍 | 1.51倍 | 4.33% | 83.67倍 | +3.2% | 貴金属リサイクル(歯科・電子材料スクラップ)と精錬 |
| 三井金属 | 5706 | 1,540円 | 8,843億円 | 11.0倍 | 2.09倍 | 1.82% | 12.04倍 | ▲52.2% | AI向け極薄銅箔などの機能材料と製錬 |
| JX金属 | 5016 | 2,435円 | 2兆3,113億円 | 15.4倍 | 3.39倍 | 0.82% | 30.40倍 | ▲37.3% | 半導体用スパッタリングターゲット・圧延銅箔の先端素材 |
出典:株探(2026年11月6日終値・同日表示の指標)。3ヶ月騰落率は2026年8月7日の週の終値から11月6日終値(週足ベースの概算)。他社の予想PERは各社の直近会社予想ベース。
貴金属回収の松田産業・ARE HDはPER 7〜8倍、PBR 1倍台で評価されています。フルヤ金属のPBR 2.34倍は、地金の回収・販売ではなく高難度加工の付加価値に市場がプレミアムを払っていることを示します。一方、AI関連素材として括られた三井金属・JX金属は過去3ヶ月で4〜5割下落しましたが、フルヤ金属はほぼ横ばいでした。これは10月2日の高値までの上昇と、その後の▲36%の下落が相殺された結果であり、需給が軽かったことを意味しません。
カタリストカレンダー(今後6ヶ月)
| 時期 | 内容 | 影響度 | 織り込み度 |
|---|---|---|---|
| 2026年11月9日〜 | 1Q決算(11月6日15:30発表)に対する東証の反応。PTSは9,390円(+19.0%) | ★★★★★ | 未織込(PTSで一部) |
| 2026年11月10日・13日 | 米国の10月CPI・PPI。AI関連株全体のリスク選好を左右する外部要因 | ★★★☆☆ | 未織込 |
| 時期未定 | 新中期経営計画の数値目標の公表(2026年8月に見直しを表明) | ★★★★☆ | 未織込 |
| 時期未定 | 通期業績予想の修正の有無(1Q進捗率49.2%) | ★★★★★ | 一部織込(PTS) |
| 2027年2月上旬(予定、前期は2月6日) | 2027年6月期 第2四半期決算 | ★★★★☆ | 未織込 |
| 2027年(時期未定) | 新千歳工場(2026年7月竣工、約45億円)の本格稼働。半導体向け石英製品の生産能力を従来比約2倍へ | ★★★☆☆ | 概ね織込済 |
| 2027年5月上旬(予定) | 2027年6月期 第3四半期決算 | ★★★★☆ | 未織込 |
※ ⑥カタリストの採点は今後3ヶ月(2027年2月上旬まで)の窓で行っています。上表はそれより広い6ヶ月分を掲載しています。
財務リスク
| リスク項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 貴金属価格の反落 | 棚卸資産998億円(商品及び製品96.7億円・仕掛品142.0億円・原材料及び貯蔵品759.8億円、1Q末)=総資産の63.6%。総平均法のため、価格下落局面では粗利率が縮小し、収益性が低下すれば簿価切下げが発生しうる。会社は「全量に対する原材料価格変動リスクの回避は困難」と有報で明記 |
| 運転資金と借入 | 1Qに仕掛品が66.4億円増加し、短期借入金を90億円新規調達(会社は「増産に伴う仕入資金の調達」と説明)。営業CF÷営業利益は2026年6月期0.64倍 |
| ネット有利子負債 | 約127億円(借入金216.7億円−現預金89.8億円、1Q末)。自己資本比率52.9% |
| 販売先の集中 | デノラ・ペルメレック10.4%、De Nora Deutschland 4.9%(2026年6月期、合計15.3%)。苛性ソーダ製造用電極向け |
| AIデータセンター投資への依存 | 電子+薄膜セグメントで1Q売上の48.8%。米国でのデータセンター規制の議論が投資抑制につながった場合の影響 |
| 調達の集中 | イリジウムの約8割が南アフリカ産(会社推計)。産出国の政治・経済情勢の変化は調達リスク |
| 主要株主の方針 | 田中貴金属工業(17.27%)の方針変化がガバナンスに影響しうる(有報の事業等のリスク) |
| デリバティブ・為替 | 1Qはデリバティブ評価損10.2億円・為替差益14.5億円(営業外)。ヘッジ方針の詳細は本稿では未確認 |
国策アライン度 4/10(中程度)
該当するのは次の4項目です(各1点)。
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 当初予算に関連事業が計上 | 水電解触媒開発を「環境省実証事業」として実施(KFKビジョン2030進捗、2026年8月) |
| 4 | 重要政策文書に明記 | GX推進戦略・水素基本戦略における水電解 |
| 6 | 法制度で需要が担保 | 水素社会推進法 |
| 7 | 当該企業の到達経路が確認できる | 環境省実証事業として会社が開示 |
🔴 進行段階と業績寄与の切り分け。水電解触媒は③実証段階で、現時点で売上として確認できる寄与は実質ゼロです。実証事業の資金は研究開発費の補填であり、売上ではありません。業績への寄与時期は開示されておらず、年単位で見て2030年前後以降と見るのが自然です。なお、イリジウムは水電解(PEM型)の触媒として需要拡大が見込まれる金属ですが、それは「市況を押し上げうる要因」であって、同社の製品売上が増えることとは別の命題です。
テーマ適合度 27/40(やや高い)
対象テーマ:AIデータセンター——生成AIの普及に伴うデータセンター投資の拡大で、ストレージ(HDD)・光通信・半導体の需要が構造的に増えるという投資テーマ。判断軸6項目のうち5項目(政策の裏付け/第三者TAM推計/実装マイルストーン/大手の資金投入/市場の関心の上昇)を満たすため、テーマとして扱います。会社自身が決算短信で「生成AIの普及に伴うデータセンターへの投資の拡大」を需要要因として明記しています。
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①量的寄与 | 7 | 電子+薄膜セグメントで1Q売上の48.8%。ただし電子には医療用シンチレーター向け、薄膜には半導体・BAW向けが含まれ、データセンター関連だけの比率は非開示。20〜50%帯と推計 |
| ②純度 | 7 | 時価総額2,003億円の中型株で、テーマ関連製品が主要セグメント |
| ③サイクル位置 | 5 | 成熟。AIデータセンター関連株は2026年に大きく物色され、11月6日には規制懸念で業種横断的に急落した。同社株も10月2日の高値から▲36% |
| ④希少性 | 8 | イリジウム・ルテニウム加工に特化した国内上場企業は他に見当たらない。ただしHDD向け磁性材ターゲットではJX金属が増産を表明 |
🔴 純度と希少性は両刃です。テーマの比重が大きい中型株であることは、テーマに資金が向かうときに株価が大きく動く一方、11月6日のようにテーマ全体が売られるときにも同じだけ大きく動くことを意味します。テーマ適合度が高いことは株価が上がることを意味しません。①量的寄与(7点)と③サイクル位置(5点)の差は、テーマが業績の裏付けを伴っている一方、市場での物色は既に一巡しつつあることを示しています。
資本イベント素地 2/10(低い)
該当は2項目のみです。#4 創業家・経営陣の持株比率が高い(代表取締役社長 古屋堯民氏6.10%)、#7 浮動株比率が低い(田中貴金属工業17.27%、Sibanye UK 4.88%を含む上位株主の集中)。PBRは2.33倍で1倍を大きく上回り、上場親会社による20%以上の保有もありません(田中貴金属工業は「その他の関係会社」)。🔴 本項でTOB/MBOを予想・断定するものではありません。
まとめ——強気材料と弱気材料
強気材料
- 1Qで通期計画の半分。営業利益130.4億円は通期計画265億円の49.2%、純利益は50.1%。売上高・全利益項目で四半期の過去最高
- 前提と市況の乖離が大きい。計画前提はイリジウムUS$6,000・ルテニウムUS$1,400に対し、Umicoreの足元価格はそれぞれUS$9,650(10月26日)・US$1,950(11月5日)
- 地金販売ではなく本業で稼いだ。前年1Qの「その他」の貴金属販売81.9億円が消え、電子(粗利15倍)・薄膜(同2.8倍)が牽引
- 収益性が突出。営業利益率34.7%(1Q)、一人当たり営業利益約5,670万円(2026年6月期、推計)
- 需給の逼迫を第三者も指摘。Johnson Mattheyはイリジウム・ルテニウムとも2026年は供給不足と予測
- 生産能力の拡張。新千歳工場(約45億円)が2026年7月に竣工し、半導体向け石英製品の生産能力を約2倍へ
弱気材料
- 利益の市況依存を分離できない。粗利率は貴金属価格の上昇局面で24.7%→38.3%へ上昇したが、在庫効果の金額は非開示。総平均法の在庫評価は、下落局面で逆に働く
- 利益がキャッシュになっていない。営業CF÷営業利益は0.64倍(2026年6月期)。1Qは仕掛品+66.4億円・短期借入金+90億円
- 巨大な貴金属在庫。棚卸資産998億円は総資産の63.6%、時価総額の約半分に相当
- 会社は通期予想を据え置いた。2Q以降の営業利益が1四半期44.9億円に下がっても計画に届く設計で、会社自身は市況の持続を前提にしていない
- AIデータセンターへの集中。11月6日の米国発の規制懸念で、関連銘柄は業種横断で急落した
- 需給の重さ。信用倍率21.37倍、年初来高値から▲36%の下落途上で上値に出来高が積み上がっている
- PTSは計画ベースの適正値を超えた。PTS 9,390円は会社計画ベースのフェアバリュー8,145〜8,634円を9〜15%上回る
結論
品質★★★☆☆(45/70)と価格C(適正)の組み合わせは、レーティングの解釈マトリクスでは「中立」の位置です。ただし★4まで1点であり、その1点を分けているのは③収益の質——市況で稼いだ利益と需要で稼いだ利益を区別できないこと——です。
1Q決算が示したのは、データセンター・半導体向けの数量の伸びと、イリジウム・ルテニウム価格の歴史的な上昇が同時に起きているという事実です。前者は会社の競争優位に根ざした構造的な追い風である可能性が高く、後者は循環的な追い風です。会社が通期予想を据え置いたことは、後者を前提にしないという経営の姿勢と読めます。ここから先の株価は、上方修正の有無そのものよりも、修正が出た場合にその中身が数量によるものか、価格によるものかで評価が分かれるはずです。
次の答え合わせは2027年2月上旬予定の第2四半期決算と、時期未定の新中期経営計画の数値目標の公表です。
同じ貴金属・機能材料の市況を別の角度から扱ったDOWAホールディングス(5714)、AI向け素材として株価が半減した三井金属(5706)、データセンター向け光ファイバーのフジクラ(5803)のレポートも公開しています。セクター全体は商社・金属株リサーチ・ポータルからご覧ください。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は商社・鉄鋼・非鉄金属関連企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。バリュエーション試算・レーティング・各種予測は独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。商社・金属業は資源価格・為替・中国をはじめとする世界需要・地政学・政策変更等により業績が大幅に変動する可能性があります。資源価格に関する記述は特定の相場予想を示すものではありません。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は記載日時点の公開情報に基づいています。株価・市況データは2026年11月6日時点(各所に取得日を明記)、財務データは2027年6月期第1四半期決算短信・決算説明資料(2026年11月6日)および第58期有価証券報告書(2026年9月28日)に基づきます。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。