南鳥島レアアースと日本の金|海底資源の関連企業を解剖

「南鳥島の泥は、本当に日本の資源問題を変えるのか?」——2026年は、日本の海底資源が投資テーマとして一気に注目された年でした。

1〜2月には地球深部探査船「ちきゅう」が水深約6,000mからレアアース泥の引き上げに成功し、7月にはその泥の約54%が中重希土類だったと公表されました。同じ7月には、伊豆諸島沖の海底熱水鉱床で「世界最高水準」の金濃度を示す研究も発表されています。一方で、関連株は報道のたびに急騰と反落を繰り返しています。

この記事では、海底資源を解説したYouTube動画(日本の海底の泥とレアアース・金)の内容を一次資料で検証しながら、南鳥島を含む日本のレアアース開発と、日本近郊での金の採掘・回収に関わる企業を整理します。

読み終える頃には、どこまでが「実証済みの事実」で、どこからが「期待」なのか、そして関連企業の業績に効いてくるのはいつ頃なのかが整理できるはずです。

この記事の要点(2026年10月31日時点)

  • 南鳥島沖のレアアース泥は、2026年1〜2月の試験で水深約6,000mからの連続引き上げに成功。レアアースの約54%が中重希土類(イットリウム29.9%、ジスプロシウム4.6%など)。ただし濃度は未公表で、採算性はまだ判断できない。
  • 次の節目は2027年2月の本格試験(1日約350トン)と、2028年3月までの産業化の総合評価。関連企業の業績に本格的に寄与するのは早くても2028年以降。
  • 足元の焦点は中国の輸出規制。2025年10月に打ち出された規制拡大の一時停止が2026年11月10日に期限を迎える。日本向けの重希土類は事実上の輸出停止状態と報じられている。
  • 金は、国内唯一の大規模金山である菱刈鉱山(住友金属鉱山)に加え、鹿児島・山ヶ野でNewmont・住友商事などの合弁による探鉱が進む。伊豆諸島沖の海底では黄鉄鉱中に最大約1.9%の金が見つかったが、商業化の計画はない。
  • 金価格は1月下旬に1オンス5,300ドル超の最高値をつけた後、10月30日には4,000ドルを割り込んだ。国内で金に関わる企業の業績は、採掘量よりも金価格とリサイクル量の影響を強く受ける。
目次

動画の主張を一次資料で検証する

動画は、南鳥島のレアアース泥を「フォートノックスの金塊を上回る価値の可能性」と紹介し、中国の輸出規制、日米の重要鉱物協定、海底の金、都市鉱山までを一つの流れで解説しています。全体の構図はおおむね正確ですが、細部には報道と食い違う点もあります。主な主張を確認した結果は次の通りです。

動画の主張 確認結果 判定
2026年1〜2月、「ちきゅう」が水深約6,000mからレアアース泥を引き上げた 2026年1〜2月の採鉱システム接続試験で回収。複数の報道・内閣府資料と一致 一致
7月の分析でレアアースの約54%が中重希土類 7月24日公表。中重希土類53.9%、イットリウム29.9%、ネオジム18.4%、ガドリニウム4.9%、ジスプロシウム4.6% 一致
2027年2月から1日350トンの本格試験、2028年3月までに産業化を評価 2027年2月に約1か月の本格試験、2028年3月までに総合評価。1日約350トンの揚泥は政府計画の報道と一致 一致
採算には1日約3,500トンの処理が必要(経産省試算) 今回調べた一次資料では確認できず。濃度が未公表のため採掘コストは試算できないとの指摘がある 未確認
中国は世界の生産の約70%、精製の90%超を支配 2025年の鉱山生産は約69%(GlobalData)、精製は最大90% 一致
伊豆諸島沖の黄鉄鉱から最大1.9%の金 東青ヶ島カルデラ(2015年発見)。静岡大・早稲田大・東大の研究が2026年7月にScientific Reportsで発表 一致
カナダ企業が鹿児島の金山で1トンあたり10〜46gの鉱脈を発見 山ヶ野の合弁(Newmont 60%・住友商事12.5%・Irving Resources 27.5%)が46.10g/t(幅0.48m)などを公表。合弁であることが動画では省かれている 概ね一致
Japan Goldは世界最大の金鉱山会社Barrickと提携して北海道で探鉱 Barrickとの提携は2025年10月31日付で終了。現在は九州の溝辺などを独自に探査 古い情報
金価格は1月に最高値、10月初めに約4,150ドル 1月下旬に5,300ドル超の最高値。10月2日の高値4,218ドルから下げ、10月30日は3,977ドル前後 概ね一致

動画の論旨である「レアアースは物理的に必要だから価値があり、金は共通認識で価値がある」という対比は分かりやすい整理です。ただし、投資の観点では「資源が存在すること」と「企業が利益を上げること」の間に長い距離がある点を押さえておく必要があります。

南鳥島レアアース泥|何が実証され、何が未確定か

実証されたこと

南鳥島は東京から南東に約1,950km離れた日本最東端の島で、その周辺の排他的経済水域(EEZ)の水深5,000〜6,000mの海底に、レアアースを高濃度で含む泥が広がっています。魚の骨や歯に由来するリン酸カルシウム(アパタイト)が、長い年月をかけて海水中のレアアースを取り込んだものと考えられています。

2026年1〜2月の試験では、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のもとで海洋研究開発機構(JAMSTEC)が「ちきゅう」を使い、海底から船上まで泥を連続で汲み上げる採鉱システムをつなぐことに成功しました。7月24日に公表された分析では、回収した泥のレアアースのうち約54%が中重希土類でした。

中重希土類は、EVのモーターや風力発電機に使う高耐熱の磁石(ジスプロシウム・テルビウム)や、防衛装備品に欠かせない元素です。陸上の鉱山の多くは軽希土類が中心で、中重希土類の供給は中国にほぼ依存しています。この点で、南鳥島の泥の成分構成は確かに希少性が高いと言えます。

未確定のこと

  • 濃度:今回の公表では含有濃度が開示されていません。参考になるのは資源エネルギー庁の2016年報告書で、高濃度域の品位は最高5,366ppm、平均1,221ppm、概略資源量はレアアース酸化物換算で約77万トンとされています。
  • 採算:濃度が分からない以上、採掘コストは試算できません。政府関係者も、試料は時間的にも地理的にも限られており鉱床全体の規模は示せないと説明しています。
  • 精製:生産コストの大半は、泥からレアアースを取り出して元素ごとに分ける精製工程が占めます。この工程を国内または友好国で担う体制はまだできていません。
  • 環境:深海の生態系への影響については国際的な議論が続いており、商業化の段階で規制や合意形成が課題になる可能性があります。

今後のスケジュール

時期 内容 投資家にとっての意味
2026年11月10日 中国の輸出規制拡大の一時停止期限 延長・一部再開・全面再開のいずれかで、国内調達の緊急度が変わる
2027年2月 約1か月の本格採掘試験(1日約350トン) 連続運転と揚泥量の実証。南鳥島で脱水後、本土で精製試験
2027年半ば 双日がLynas経由の中重希土類を最大6品目に拡大 海底資源より先に、豪州産による調達分散が進む
2028年3月まで 産業化に向けた総合評価 商業生産に進むかどうかの判断。関連企業の受注規模が見えてくる

中国の輸出規制|日本向けの重希土類は「事実上の停止」

南鳥島の開発が急がれる背景には、中国の輸出規制があります。時系列で整理すると次の通りです。

  • 2010年:尖閣諸島沖の漁船衝突事件の後、日本向けのレアアース輸出が滞る。日本は豪Lynasへの出資やリサイクルで調達先の分散を進める。
  • 2025年4月:中国がサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素と関連する磁石材料に個別の輸出許可制を導入(現在も有効)。
  • 2025年10月:規制対象の拡大と域外適用を含む新たな措置を発表。米国との協議を経て1年間の一時停止に。
  • 2026年1月6日:中国商務部が、日本の軍事力強化につながると判断される最終用途・最終使用者への軍民両用品の輸出を禁止。対象にはレアアース磁石なども含まれる。
  • 2026年10月時点:日本向けの重希土類は事実上の輸出停止状態と報じられている。一時停止の期限は11月10日で、延長されるかどうかは決まっていない。

一方、日本側の調達分散も進んでいます。双日はJOGMECとともに出資するLynasから、2025年10月にジスプロシウムとテルビウムの輸入を始め、2026年4月からはサマリウムを加えました。2027年半ばまでにガドリニウム・イットリウムを含む最大6品目に広げ、日本の重希土類需要の約3割をまかなう計画です。2026年3月にはLynasと豪州での新たな鉱山開発でも基本合意しています。

つまり、当面の供給を支えるのは豪州産、南鳥島はその先の「切り札」という位置づけです。

レアアース関連企業|工程別の整理

南鳥島のプロジェクトと国内のレアアース調達に関わる上場企業を、工程別に整理します。いずれの企業も、売上全体に占めるレアアース関連の比率は現時点では小さい点に注意が必要です。

工程 企業(コード) 関わり方 業績への寄与
採泥・揚泥 東洋エンジニアリング(6330) JAMSTECの委託で、泥をスラリー状にして船上へ汲み上げるシステムを開発 研究開発の受託段階
三井海洋開発(6269) 東京大学主導のコンソーシアムで大水深の揚泥技術を検討。浮体式生産設備(FPSO)の知見を活用(過去の分析記事) 本業はFPSO。レアアースは将来の選択肢
古河機械金属(5715) 東京大学の「レアアース泥開発推進コンソーシアム」に参画。海洋資源開発の特許を複数出願 技術検討の段階
解泥 東亜建設工業(1885) 海底で泥をほぐして吸い上げやすくする「解泥」技術を開発。2026年7月に海洋資源開発室を新設 実証試験の受託段階
調査・環境 石油資源開発(1662)・いであ(9768) 次世代海洋調査(2023年発足)に出資。海洋調査・環境影響評価 限定的
岡本硝子(7746) 海底観測装置「江戸っ子1号」で生態系・環境データを収集 限定的
調達(豪州産) 双日(2768) Lynasから中重希土類を輸入。日本の重希土類需要の約3割を目指す(過去の分析記事) 足元で実需がある
分離・精製・リサイクル 信越化学工業(4063) 国内でレアアースの分離精製から磁石までを手がける 磁石事業として既存
アサカ理研(5724) 光学レンズ廃材などからのレアアース回収・高純度化。ランタン・ガドリニウムの精製を実証 小規模
三和油化工業(4125) 電子部品などからレアアース・レアメタルを分離回収する技術を開発 小規模

※関わり方はSBI証券(2026年10月28日)、auカブコム証券(2025年7月25日)、各社開示・報道に基づく。業績への寄与は筆者の整理。

株価の動きを見ると、2026年7月21日に試掘結果の報道で三井海洋開発や東洋エンジニアリングが急騰し、10月26日にも日独首脳会談で重要鉱物が議題になるとの報道で関連株が買われました。ただし、2028年3月の総合評価までは業績への本格寄与がないため、報道に反応した値動きは長続きしにくいという見方が一般的です。

日本の金|採掘・探鉱・海底・都市鉱山の4つのルート

1. 陸上の金山:菱刈と山ヶ野

現在、日本で商業的に操業している大規模金山は、住友金属鉱山(5713)が鹿児島県で運営する菱刈鉱山だけです。1985年の操業開始から累計で264トン超の金を産出し、近年の年間産金量は約4トン。鉱石1トンあたり約20gという品位は、世界の主要金山の平均(3〜5g)を大きく上回ります(住友金属鉱山の分析記事)。

同じ鹿児島県では、約400年の採掘の歴史がある山ヶ野金山周辺で探鉱が進んでいます。Newmontの子会社(60%)、住友商事(8053、12.5%)、カナダのIrving Resources(27.5%)の合弁で、2026年3月には1トンあたり46.10g(幅0.48m)、23.36g(幅1.0m)などの掘削結果が公表されました。真の鉱脈幅はまだ分かっておらず、資源量の算定や開発判断には至っていません。

北海道・九州では、カナダのJapan Goldも探鉱を続けています。Barrickとの提携は2025年10月に終了し、現在は九州の溝辺などで物理探査を進めている段階です。

2. 海底熱水鉱床:東青ヶ島カルデラ

東京から約350km南、伊豆諸島・青ヶ島の沖合にある東青ヶ島カルデラは、2015年に発見された海底熱水鉱床です。静岡大学・早稲田大学・東京大学の研究チームが2026年7月にScientific Reportsで発表した研究では、黄鉄鉱(いわゆる「愚者の金」)の中に重量比で最大約1.9%の金が含まれていました。報道によると、鉱石全体でも最大275g/t、平均102g/tと、世界の同種の海底鉱床(おおむね0.01〜43g/t)を大きく上回ります。

ただし、金は黄鉄鉱の結晶の中に原子レベルで閉じ込められていることが多く、取り出すのは容易ではありません。日本は2017年に沖縄近海の水深約1,600mで海底熱水鉱床の連続揚鉱試験を行った実績がありますが、海底の金を商業採掘している企業は世界にまだ存在しません。現時点では学術的な発見の段階です。

3. 都市鉱山:電子機器から金を回収

物質・材料研究機構の推計(2008年)では、日本国内に蓄積された電子機器などに含まれる金は約6,800トンにのぼり、日本銀行が保有する金(約846トン)の約8倍にあたります。廃基板や電子部品から金や白金族を回収する企業は、すでに事業として利益を上げています。

ルート 企業(コード) 関わり方 段階
国内採掘 住友金属鉱山(5713) 菱刈鉱山を操業(年間約4トン、品位約20g/t) 生産中
国内探鉱 住友商事(8053) 山ヶ野の探鉱合弁に12.5%出資 探鉱
国内探鉱(海外上場) Irving Resources(加CSE: IRV)・Japan Gold(加TSXV: JG) 鹿児島・北海道・九州で探鉱 探鉱
都市鉱山・リサイクル DOWAホールディングス(5714) 電子スクラップなどから貴金属を回収・製錬(分析記事) 事業化済み
三菱マテリアル(5711) E-Scrap(電子機器スクラップ)の処理と貴金属回収(分析記事) 事業化済み
松田産業(7456) 半導体・電子部品業界から貴金属スクラップを回収・精製 事業化済み
アサカ理研(5724) 貴金属の回収・精製・販売 事業化済み
海底熱水鉱床 (上場企業の明確な関与は確認できず) 大学による学術研究の段階 研究

4. 金価格:最高値から約25%下落

金価格は2026年1月下旬に1オンス5,300ドルを超える最高値をつけました。その後は下落し、10月は2日の4,218ドルを高値に、30日には3,977ドル前後と4,000ドルを割り込んでいます。最高値からの下落率は約25%です。

逆風は金利です。米国では9月のCPIが前年比3.7%に加速し、市場は12月のFOMCでの利上げを約85%織り込んでいます。利息を生まない金にとって、金利の上昇は保有コストの上昇を意味します。

一方で、中央銀行の買いは続いています。2026年8月末までの購入量はポーランドが約98トン、中国が約80トンで、中国は22か月連続の買い越しです。ワールド・ゴールド・カウンシルの6月の調査では、89%の中央銀行が今後12か月で世界の金準備が増えると予想しています。

国内の金関連企業にとって、業績を左右するのは採掘量よりも金価格です。菱刈の年間約4トンは、国内の都市鉱山やリサイクル量と比べても大きな数字ではありません。住友金属鉱山やDOWAの業績を見る際は、金価格と為替(円安は円建て価格を押し上げる)の前提を確認することが重要です。

レアアースと金|投資テーマとしての違い

観点 レアアース(南鳥島) 金(国内)
価値の源泉 産業上の物理的な必要性(磁石・防衛) 価値保存・国際的な共通認識
価格の透明性 低い(取引所の指標が乏しく、中国の政策で変動) 高い(先物市場で日々値決め)
国内での段階 実証試験。商業化の判断は2028年3月まで 菱刈は生産中。新規は探鉱段階、海底は研究段階
関連企業への寄与 受託・研究開発が中心で現状は小さい 金価格を通じて既存事業の利益に直結
株価を動かす材料 中国の規制、政府の予算・試験結果、首脳会談 米金利、ドル、中央銀行の購入、地政学
主なリスク 濃度・採算が不明、精製体制の欠如、環境規制 金利上昇局面での価格下落、新規鉱山の開発遅延

動画は「レアアースが戦略資源として重要になるほど、レアアースと交換するための資産として金の価値はむしろ高まるかもしれない」と締めくくっています。両者は競合するものではなく、レアアースは「経済安全保障」のテーマ、金は「金融資産」のテーマとして別々に評価するのが実務的です。

まとめ|「資源がある」と「企業がもうかる」は別の話

南鳥島のレアアース泥は、水深6,000mからの引き上げに成功し、中重希土類の比率が高いことも確認されました。中国の輸出規制が強まるなかで、日本が自国のEEZ内に代替の供給源を持つ意味は大きく、国策としての優先度は今後も高いと考えられます。

ただし、濃度は未公表、採算は未検証、精製体制は未整備です。関連企業の業績に本格的に効いてくるのは、2027年2月の本格試験と2028年3月の総合評価を経た後になります。それまでの株価は、中国の規制や政府の発表といった「ニュース」に左右されやすい状態が続くでしょう。

金については、海底や新規鉱山の話題よりも、金価格と都市鉱山(リサイクル)が国内企業の業績を決めているのが現実です。直近では、11月10日の中国の規制停止期限と12月9日のFOMCが、レアアースと金の両方にとって重要な日付になります。

出典

免責事項・ディスクレーマー

本記事は資源開発と関連企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。海底資源の開発は実証段階にあり、計画の変更・中止や、関連企業の業績に寄与しない可能性があります。資源価格・為替・各国の政策により、関連企業の業績や株価は大きく変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。

本記事の情報は2026年10月31日時点の公開情報に基づいています。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。

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