「自動運転は結局AIの勝負と言われるけれど、そのAIを作っている日本の上場企業はどこなのか」——そう疑問に思ったことはありませんか。
トヨタは2028年めどの「レベル2++」をE2E(エンド・ツー・エンド)AIとルールベースの組み合わせで作ると報じられ、日産は英Wayve(ウェイブ)のAIを採用した次世代プロパイロットを2027年度に国内で発売するとしています。自動運転の「頭脳」は、ここ1〜2年で作り方そのものが変わりつつあります。
この記事では、自動運転の全体像で示した5つの層のうち③頭脳(自動運転ソフト・E2E AI・車載半導体)を取り上げ、「AIモデル」「ソフト基盤と安全検証」「車載SoC」の3つに分けて、関わる日本の上場企業を整理します。
読み終える頃には、頭脳関連のニュースを「誰がAIを持ち、誰がそれを動かす部品や基盤を売るのか」で読み分けられるようになるはずです。
この記事の要点
- 自動運転の頭脳は、ルールベース(人が決めたルールで判断)からE2E AI(カメラ映像から運転操作までを1つのAIで学習)へ移りつつある
- E2E AIのモデルを持つ国内企業の多くは非上場(チューリングなど)か海外勢(Wayve、NVIDIAなど)。日本の上場企業は、車載SoC・ソフト基盤・安全検証・量産の統合を担う側にいる
- 量産の時期は、日産×Wayveが2027年度、ルネサスの3nm車載SoC「R-Car X5H」が2027年後半、トヨタのレベル2++が2028年めど。業績への寄与はその先になる
- ティアフォーは「1台あたり」で稼ぐモデルを開示しており、経常黒字化の目安は運用車両の累計約800台(2025年9月期は114台)
なぜ今「頭脳」の作り方が変わっているのか
これまでの自動運転ソフトは、「認識→予測→計画→制御」の各段階を分け、それぞれを人が設計したルールとアルゴリズムで組み立てるルールベースが中心でした。動作の理由を説明しやすい反面、想定外の状況ごとにルールを書き足す必要があり、走れる場所を広げるほど開発が重くなります。
これに対してE2E方式は、カメラなどの入力から運転操作までを1つの大きなAIモデルに学習させます。大量の走行データと計算資源があれば、ルールを書かずに多様な道路に対応できるのが強みです。テスラや中国勢が量販車に載せ始め、日本でも動きが相次いでいます。
| 時期 | 出来事 | 確定度 |
|---|---|---|
| 2025/1/6 | トヨタがNVIDIAの車載SoC「DRIVE AGX Orin」と安全認証を受けたOS「DriveOS」を採用した次世代車の開発を発表 | 公式発表 |
| 2025/5/21 | ウーブン・バイ・トヨタのソフト開発基盤「Arene」を新型RAV4で初採用(ソフトの無線更新、運転支援などに使用) | 公式発表 |
| 2025/12/10 | 日産がWayveのE2E AI「Wayve AI Driver」を次世代プロパイロットに採用する協業契約を締結。2027年度に国内で最初のモデルを発売予定 | 公式発表 |
| 2026/7/6 | E2E自動運転の国内スタートアップ、チューリング(非上場)がシリーズAで累計278.9億円の調達を発表 | 公式発表 |
| 2026/8/27 | トヨタが2028年めどに、E2Eとルールベースを組み合わせた「レベル2++」を量販車に搭載する方針を説明 | 報道ベース |
E2E方式は「データ」と「計算資源」が競争力の源泉になるため、車両を大量に走らせる自動車メーカーと、巨額の学習用計算機を持つ企業が有利です。その一方で、AIの判断を安全だと証明する方法や、車に積める計算機の性能と消費電力が新たな課題になっています。E2Eが主流になるほど、車載SoCと安全検証の需要は増える——これが日本の上場企業にとっての入口です。
「頭脳」とは何か——3つの階層
| 階層 | 中身 | 主なプレーヤー |
|---|---|---|
| AIモデル・自動運転ソフト | 認識・判断・計画を担うソフト。E2E AIまたはルールベース、その組み合わせ | Waymo、Wayve、テスラ、チューリング(非上場)、ティアフォー |
| ソフト基盤・安全検証 | 車載OS、開発基盤、機能安全(ISO 26262)、シミュレーションによる検証 | ウーブン・バイ・トヨタ(Arene)、NVIDIA(DriveOS)、ティアフォー(Autoware)、ヴィッツ |
| 車載SoC(計算機) | AIを車の中で動かす半導体。性能と消費電力、車載品質が問われる | NVIDIA、Mobileye、Qualcomm、ルネサス、ソシオネクスト |
投資の観点では、AIモデルは勝者が限られる領域、ソフト基盤と安全検証は案件と人材の領域、車載SoCは量産台数の領域と見ると特徴をつかみやすくなります。日本の上場企業が多いのは、2番目と3番目です。
頭脳層に関わる日本の上場企業マップ
判定は「◎:事業・製品・採用・契約の開示あり」「○:開発段階、または自動運転向けの売上が特定できない」「△:出資などの間接的な関わり」です。投資推奨ではなく、各社が頭脳のどこに関わるかを確認するための地図として使ってください。
| 階層 | 銘柄(コード) | 関わり方 | 確度 |
|---|---|---|---|
| 自動運転ソフト | ティアフォー(593A) | オープンソースの自動運転ソフト「Autoware」を軸に、ソフト・車両・運用を提供 | ◎ |
| 自動運転ソフト | トヨタ(7203) | Arene(ウーブン・バイ・トヨタ)、NVIDIA DRIVE採用、レベル2++を自社で開発 | ◎ |
| 自動運転ソフト | 日産(7201) | Wayve AI採用の次世代プロパイロットを2027年度に発売予定 | ◎ |
| 安全検証・組込み | ヴィッツ(4440) | 車載組込みソフト、機能安全・AIセーフティ、シミュレーション(主要顧客はトヨタ・アイシングループ) | ○ |
| 安全検証・統合 | デンソー(6902) | 運転支援システムの量産、E2E新興チューリングへの出資 | ◎ |
| 車載SoC | ルネサス(6723) | 3nm車載SoC「R-Car X5H」(最大400TOPS、量産2027年後半) | ◎ |
| 車載SoC | ソシオネクスト(6526) | TSMCの車載3nmプロセスでADAS・自動運転向けカスタムSoCを開発(2023年発表、量産2026年予定) | ○ |
| E2E新興への出資 | 東京エレクトロン デバイス(2760)・BIPROGY(8056) | チューリングのシリーズA延長ラウンドに出資 | △ |
自動運転ソフト——AIを「誰が持つか」
ティアフォー(593A)——1台ごとに稼ぐ自動運転ソフト会社
ティアフォーは、オープンソースの自動運転ソフト「Autoware」の開発を主導する会社です。自社でソフトを抱え込むのではなく、Autowareを公開して開発者を集める戦略をとっており、2026年1月時点のコード貢献者の68%は社外のエンジニアです。
同社は決算説明資料で、稼ぎ方を「台数」で示しています。2025年9月期の実績で、量産開始時の車両1台あたり平均80百万円、運用中の車両1台あたり年7百万円です。運用車両の累計は2025年9月期に114台で、経常黒字化の目安を累計約800台、2030年9月期の参考目標を1,800台超としています(参考目標は確定した計画ではありません)。2026年7月時点で58地域から受注しており、デジタル庁などが選んだ全国13の「先行的事業化地域」のうち8地域に関与しています。
一方、2026年9月期3Q累計(9か月)は売上51.8億円(前年同期比+30.0%)に対し営業損失は68.3億円で、補助金収入36.6億円が営業外に入って経常損失を小さく見せています。トヨタのレベル2++に同社が関与しているという開示もありません。レベル4のバス・タクシーの台数がどこまで積み上がるかが、この会社を見るうえでの物差しです。詳しくは個別記事で検証しています。
トヨタ(7203)・日産(7201)——自動車メーカーの選択が分かれた
トヨタは、ソフト開発基盤「Arene」を自社グループのウーブン・バイ・トヨタで作り、新型RAV4から採用しました。Areneで開発した機能は、無線でのソフト更新(OTA)や運転支援「Toyota Safety Sense」などに使われます。車載の計算機にはNVIDIAのDRIVE AGX Orinと安全認証を受けたDriveOSを採用すると2025年1月に発表しており、2028年めどのレベル2++も自社主導で開発する姿勢です。さらにWaymoとは2025年4月に戦略的パートナーシップの枠組みに基本合意しています。自前の基盤を持ちつつ、外部の技術も取り込むのがトヨタの形です。
日産は、AIの中核を外部から調達する道を選びました。2025年12月10日にWayveと協業契約を結び、「Wayve AI Driver」を次世代プロパイロットに採用して、2027年度に最初のモデルを国内で発売する予定です。カメラ・レーダー・LiDARと、日産独自の「Ground Truth Perception」技術を組み合わせるとしています。自動車メーカーがE2E AIを「作る」のか「買う」のかは、今後の業界構造を左右する論点です。
チューリング(非上場)——国内のE2E専業と、その周りの上場企業
カメラの情報から認識・判断・車両制御までを一気通貫で担うE2E自動運転を開発するチューリングは、2026年7月にシリーズAで累計278.9億円の調達を発表しました。延長ラウンドには東京エレクトロン デバイス、BIPROGY、三菱商事、三菱UFJ銀行、GMOインターネットなどが名を連ね、2025年11月の最初のラウンドにはデンソーも出資したと報じられています。チューリング自体は非上場のため、上場企業にとっては出資先としての関わりにとどまります。出資比率は小さく、業績への影響は限定的と考えるのが妥当です。
ソフト基盤と安全検証——AIを「安全だと証明する」仕事
ヴィッツ(4440)——トヨタグループの内側で安全を設計する
名古屋のヴィッツは、自動車・産業機器向けの組込みソフト開発、機能安全(ISO 26262)とサイバーセキュリティのコンサルティング、AIセーフティ、シミュレーション環境を手がけます。有価証券報告書では、主たる売上は自動車分野で、その多くがトヨタ・アイシンのグループからの受注だと記載しています。E2E AIが普及するほど、「そのAIが安全に動く」ことを設計・検証・証明する仕事の需要は増える方向です。
ただし、会社自身が「労働力提供型の売上が多くを占める」と書いているとおり、収益は技術者の人数と単価に比例する人月型が中心です。自動運転向けの売上も区分して開示されていません。需要の増加がそのまま利益率の上昇につながるわけではない点が、この銘柄の構造的な制約です。詳しくは個別記事にまとめています。
デンソー(6902)——量産の統合役
デンソーは、ミリ波レーダーと画像センサーを組み合わせた運転支援システムをトヨタなどに量産供給しています(センサー編参照)。AIモデルやSoCが外部から来ても、それをセンサー・計算機・車両制御とつなぎ、車載品質で量産するのはTier1(一次部品メーカー)の仕事です。E2E新興のチューリングへの出資も報じられており、新しい方式の技術を取り込む動きを見せています。トヨタのレベル2++での役割は公表されていません。
車載SoC——AIを車の中で動かす半導体
ルネサスエレクトロニクス(6723)——3nmで高性能SoCに挑む
ルネサスは車載マイコンの大手で、車載SoC「R-Car」シリーズも持っています。2024年11月13日には、TSMCの車載3nmプロセスで作る第5世代の「R-Car X5H」を発表しました。AI性能は最大400TOPSで、ADAS・車載情報システム・ゲートウェイを1つのチップで担えるとしています。サンプル出荷は2025年前半、量産は2027年後半の予定です。
高性能な自動運転向けSoCでは、NVIDIAが先行しています。トヨタが次世代車にNVIDIAのDRIVE AGX Orinを採用すると発表したことからも分かるとおり、ルネサスにとっては、量産時期と採用車種を示せるかどうかが今後の焦点です。同社の直近の増益は車載ではなくデータセンター向けが牽引しており、この点は個別記事で整理しています。
ソシオネクスト(6526)——自動車メーカー専用のカスタムSoC
ソシオネクストは、顧客ごとに設計するカスタムSoCの会社です。2023年10月23日、TSMCの車載向け3nmプロセス「N3A」を使ったADAS・自動運転向けカスタムSoCの開発に着手し、2026年の量産開始を予定していると発表しました。顧客名は開示されておらず、その後の量産開始の状況も今回の調査では確認できていません。自動車メーカーが自社専用の頭脳を持ちたいと考えるほど、カスタムSoCの需要は増えます。一方で、顧客と採用車種が明らかになるまでは、自動運転向けの売上規模は外から見えません。
「頭脳」の銘柄を見る3つの物差し
- AIを持つ側か、動かす側か:E2E AIのモデルを持つ企業は限られ、日本の上場企業は少数です。多くの上場企業は、SoC・ソフト基盤・安全検証・量産の統合といった「AIを動かす側」にいます。どちらの立場かで、成長の形も競争相手も変わります。
- 量産はいつか:日産×Wayveは2027年度、ルネサスのR-Car X5Hは2027年後半、トヨタのレベル2++は2028年めどです。発表から量産、量産から業績への寄与までには年単位の時間があります。
- 人月か、製品・台数か:受託開発やエンジニア派遣は人数に比例して伸びます。SoCやライセンス、台数課金は、量産台数が増えるほど利益率が上がる構造です。同じ「自動運転ソフト関連」でも、どちらの稼ぎ方かで評価は大きく違います。
まとめ——日本の「頭脳」銘柄は、AIを動かし、証明する側にいる
頭脳層では、ルールベースからE2E AIへの移行が進み、トヨタ・日産という国内自動車メーカーの量産計画が2027〜2028年に並びました。ただし、E2E AIのモデルそのものを持つのは海外勢や非上場のスタートアップが中心で、日本の上場企業の多くは、車載SoC(ルネサス・ソシオネクスト)、ソフト基盤と安全検証(ヴィッツ)、量産の統合(デンソー)を担う立場にあります。その中でティアフォーは、Autowareを軸に台数で稼ぐモデルを示している、数少ない上場の自動運転ソフト専業です。
頭脳関連のニュースを見たら、「誰がAIを持っているのか」「量産はいつか」「その会社は人月で稼ぐのか、台数で稼ぐのか」を確かめてください。この3つで、テーマの熱と業績の距離を測ることができます。
続く④車両と運行(完成車・遠隔監視・配車・運行管理)は実装編で取り上げています。全体像と他の層は、特集ページからたどれます。
主な出典
- NVIDIAが自動車パートナーにトヨタ自動車などを追加(NVIDIA, 2025/1/6)
- Arene Debuts in Toyota’s All-New RAV4(Woven by Toyota, 2025/5/21)
- 日産とWayve、次世代運転支援技術の量産車への搭載に向けた協業契約を締結(日産, 2025/12/10)
- チューリング シリーズAで278.9億円を調達(事業構想オンライン, 2026/7)
- 自動運転スタートアップのチューリングが150億円調達-デンソーも出資(Bloomberg, 2025/11/17)
- Renesas Unveils Industry’s First Automotive Multi-Domain SoC Built with 3-nm Process Technology(Renesas, 2024/11/13)
- 車載用3nmプロセス採用SoCを26年に量産、ソシオネクスト(EE Times Japan, 2023/10/24)
- ティアフォー 2026年9月期第3四半期決算短信・決算説明資料(2026/8/14)※詳細は個別記事を参照
- ヴィッツ 有価証券報告書(2025年8月期)※詳細は個別記事を参照
本記事は2026年9月23日時点の公開情報にもとづく調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。