MabGenesis(マブジェネシス、653A・東証グロース)は、藤田医科大学と宮崎大学で開発されたファージディスプレイ抗体技術をもとに、イヌ・ネコ向けの抗体医薬品を創る2019年設立の創薬ベンチャーである。2026年11月2日に上場し、初値は763円(公開価格830円比−8.1%)、終値は696円だった。
本記事では、上場日に開示された「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2026年11月)と「上場に伴う当社決算情報等のお知らせ」(2027年3月期第1四半期決算短信を含む)を一次資料として、19本のパイプライン・ビジネスモデル・rNPV試算・今後6ヶ月のカタリスト・経営陣のコミットメント・需給を独自に整理した。なお、本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
- ヒト向けではなくペット(イヌ・ネコ)向けの抗体創薬。自社で製品を売らず、取得した抗体を動物薬大手に導出して一時金・マイルストーン・ロイヤリティを得るモデル。
- 前臨床7件(うち導出済4件:Ceva・Virbac・日本曹達・共立製薬)+探索12件の計19件。上市実績はまだない(会社目標は2030年頃)。
- 2026年3月期は売上高337百万円・営業利益35百万円で黒字化。2027年3月期は上場費用等で営業損失5百万円の計画、売上の7割強が下期に集中する。
- 独自rNPV(WACC12%)はベース76億円 vs 時価総額56億円(+36%)。ただしベア28億〜ブル189億と前提で6倍以上ぶれる。
- 品質 ★★★☆☆(39/70)/価格 B。最大の注目点は自社品抗ネコIL-4受容体抗体の今期導出と、上場後90日のVCロックアップ明け。
1. 会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名/コード | MabGenesis株式会社(653A・東証グロース、2026年11月2日上場) |
| 設立 | 2019年6月3日 |
| 本社/研究拠点 | 神奈川県横浜市港北区新横浜/名古屋大学内(愛知県名古屋市)・宮崎大学内(宮崎県宮崎市) |
| 代表者 | 代表取締役 新庄勝浩(獣医師・獣医学博士、共同創業者) |
| 従業員数 | 14名(2026年3月末) |
| 主幹事 | 東海東京証券 |
| 公開価格/初値/初日終値 | 830円/763円/696円 |
| 公募/売出(OA含む) | 940,700株/1,345,200株 |
| 時価総額(11/2終値) | 約56.1億円(696円×8,054,700株) |
| PER/PBR | PER:N/A(今期純損失予想)/PBR:約3.8倍(1Q末純資産531百万円+手取概算935百万円で概算) |
出典:成長可能性資料(2026年11月)p.3・p.5、決算情報等のお知らせ(2026/11/2)、主要株主の異動に関するお知らせ(2026/11/2)、公募・売出株数はやさしいIPO株のはじめ方(二次情報)。
技術の源流は、元藤田医科大学学長の黒澤良和氏が30年以上かけて開発したファージディスプレイ抗体技術にある。共同創業者には、取締役の小泉信一氏、最高技術責任者の黒澤仁氏(名古屋大学特任講師)、宮崎大学医学部客員教授の森下和広氏が名を連ねる。当社は両大学からノウハウの独占実施権許諾を受けている(成長可能性資料 p.5〜6、決算情報等のお知らせ p.2)。
2. ビジネスモデル:ペット用抗体を「作って導出する」
当社はイヌ(cMOURA)・ネコ(fMOURA)・ラクダVHH(cVHH MOURA)の3種のファージディスプレイ抗体ライブラリーを持ち、そこから完全イヌ型・完全ネコ型のモノクローナル抗体を取り出す。動物を免疫しないため、自己抗原や毒素に対する抗体も取得できるとしている(成長可能性資料 p.25〜28)。
収益化の型は2つある。
| 型 | 流れ | 主な収入 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 共同研究型 | 製薬企業と標的・品質条件を合意→抗体取得→条件を満たせば導出 | 契約時一時金・研究マイルストーン→開発マイルストーン→ロイヤリティ | 早期に収益化。現状の売上の中心 |
| 自社研究型 | 自社で標的を選び、一定の前臨床まで自社資金で進めて導出 | 導出一時金・開発マイルストーン・ロイヤリティ | 投資負担はあるが導出時の対価・料率が高い |
出典:成長可能性資料 p.9〜11。
パートナーには世界の動物薬上位企業が並ぶ。MSD Animal Health(2024年より共同研究)、Boehringer Ingelheim Animal Health(2021〜2023年に共同研究)、Ceva Santé Animale(2021年より共同研究、2024年に譲渡契約)、Virbac(2025年譲渡契約)、共立製薬(2023年より共同研究)、日本曹達(2025年共同研究・2026年3月譲渡契約)である(成長可能性資料 p.6・p.12)。
3. パイプライン進捗一覧(全19件)
2026年8月末時点で、前臨床段階(ヒトの第1・2相に相当)が7件、探索段階が12件。標的分子の多くは非開示である。会社はいずれも「市販ヒト医薬品と同じ作用機序」を狙う方針を掲げており、ヒトで検証済みの標的をペットに移す戦略をとる。
前臨床段階(7件)
| # | 動物種 | 標的 | 市販ヒト薬 | 対象疾患 | ステータス |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | イヌ | 非開示 | 有り | 慢性炎症疾患 | 導出済み(前臨床後半) |
| 2 | ネコ | 非開示 | 有り | 慢性炎症疾患 | 導出済み(前臨床後半) |
| 3 | ネコ | IL-4受容体 | 有り | 皮膚疾患・喘息 | 自社プロジェクト・導出活動中(探索的臨床試験を実施中) |
| 4 | イヌ | 非開示 | 有り | 皮膚疾患 | 導出済み |
| 5 | イヌ | 非開示 | 有り | リンパ腫 | 導出済み(日本・アジア)/グローバルは導出活動中 |
| 6 | イヌ | IL-23受容体 | 有り(IL-23) | 慢性腸疾患 | 自社プロジェクト・導出活動中 |
| 7 | イヌ | IL-4受容体 | 有り | 皮膚疾患 | 自社プロジェクト |
導出済み4件の導出先は、Ceva社・Virbac社・日本曹達・共立製薬である。このうちVirbac・日本曹達は自社プロジェクトの抗体、Ceva・共立製薬は共同研究で品質条件を満たした抗体の導出だ(決算情報等のお知らせ p.5)。どの導出先がどの開発品を持つかは開示されていない。
探索段階(12件)
| # | 動物種 | 標的 | 市販ヒト薬 | 対象疾患 | ステータス |
|---|---|---|---|---|---|
| 8 | イヌ | 非開示 | 有り | 皮膚疾患 | 共同研究実施中(候補抗体の絞り込み完了) |
| 9 | イヌ | 非開示 | 有り | がん | 共同研究実施中(同上) |
| 10 | イヌ | IL-23p19 | 有り | 慢性腸疾患 | 自社プロジェクト |
| 11 | ネコ | 非開示 | 開発中 | 慢性疼痛 | 共同研究実施中 |
| 12 | イヌ | 非開示 | 開発中 | 慢性疼痛 | 共同研究実施中 |
| 13 | ネコ | 非開示 | 有り | 皮膚疾患 | 共同研究実施中 |
| 14 | ネコ | 非開示 | 開発中 | 慢性腎疾患 | 共同研究実施中 |
| 15 | ネコ | 非開示 | 低分子 | 慢性腎疾患 | 共同研究実施中 |
| 16 | イヌ | 非開示 | 第3相開発中 | 皮膚疾患 | 共同研究実施中 |
| 17 | イヌ | 非開示 | 開発中 | 皮膚疾患 | 共同研究実施中 |
| 18 | イヌ | 非開示 | 有り | 皮膚疾患 | 共同研究実施中(評価系構築段階) |
| 19 | ヒト | 非開示 | 無し | すい臓がん | 国内公的研究機関と共同研究中 |
出典:成長可能性資料 p.32〜33(2026年8月末現在)、決算情報等のお知らせ p.5。探索段階の共同研究10件は「国内外の大手動物薬企業」との案件とされ、相手先は個別に開示されていない。
読み方:適応は皮膚疾患(8件)と慢性炎症・腸疾患に偏り、ここはZoetis・Elancoが既に抗体薬を上市済みの最激戦区でもある。一方、ネコの慢性腎疾患(2件)やイヌの慢性腸疾患(IL-23系の2件)は、承認済みのペット用抗体薬がまだない領域だ。
注目品:抗ネコIL-4受容体抗体
自社プロジェクトで最も進んでいるのがネコ用の抗IL-4受容体抗体(皮膚疾患・喘息)だ。ヒトではIL-4受容体αを標的とするデュピルマブがアトピー性皮膚炎・喘息で承認済みで、これと同じ作用機序をネコに移す設計である。会社は「取得した抗体の安全性および有効性を確認する目的で探索的臨床試験を実施中」で、「これまでに有望な結果が得られていることから今期中のグローバル製薬企業への導出を目指して活動中」と開示している(決算情報等のお知らせ p.6)。試験の症例数・評価項目・数値結果は開示されていないため、「有望」の中身は外部から検証できない。
会社資料の承認済みペット用抗体薬リスト(2026年4月末時点)にネコのアトピー性皮膚炎向けの抗体薬は含まれていない(2026年11月の本記事執筆時点の検索でも、ネコ皮膚炎向け抗体薬の承認報道は確認できなかった)。導出が実現すれば、ネコ皮膚領域で先行できる可能性がある。ただしイヌでは抗IL-31抗体(Cytopoint、Befrena)が既に普及しており、ネコでも大手が自社開発する余地は残る。
4. 規制当局と開発プロセス
ペット用医薬品の臨床試験はVICH(日米EUの動物用医薬品承認基準の国際統一ガイドライン)に従う。ヒトのような第1〜3相の区分はなく、FDA・USDA(米国)、EMA(欧州)、農林水産省(日本)と合意した1本以上の検証的試験で申請できる。前臨床段階で対象動物そのものを使った探索的有効性試験ができるため、ヒト用で最大の失敗要因である第2相の有効性検証を前倒しできる、と会社は説明する(決算情報等のお知らせ p.3、成長可能性資料 p.14)。
| 論点 | 状況 |
|---|---|
| 当社自身の規制当局との協議 | 開示なし。導出後の非臨床以降の開発・申請はパートナーが担い、当社はコストを負担しない(成長可能性資料 p.44) |
| オーファン・ブレークスルー等の指定 | ペット用医薬品のため該当する開示なし |
| 公的資金 | 源流技術はNEDO・AMED・JST等の支援で確立(成長可能性資料 p.6)。当社としての採択の開示はなし |
| 上市目標 | 2030年頃(成長可能性資料 p.37)。2026年6月末時点で上市実績なし |
当社は臨床・申請を自ら行わないため、開発の進み具合はパートナーの開示と、当社が受け取る開発マイルストーンを通じてしか分からない。導出先の開発品名が非開示である点と合わせ、外部投資家から見た情報の非対称性は大きい。
5. 競争環境:承認済みペット用抗体薬は8品
会社資料によると、2026年4月末時点で販売承認済みのペット用抗体医薬品は8品。うち4品はスタートアップから製薬会社へ導出・買収されたものだ(成長可能性資料 p.22)。
| 一般名(製品名) | 販売会社(導入元) | 標的・対象 | 承認 |
|---|---|---|---|
| lokivetmab(Cytopoint) | Zoetis(NexVet) | イヌ化抗IL-31/アトピー性・アレルギー性皮膚炎 | 2016年12月 |
| frunevetmab(Solensia) | Zoetis(NexVet) | ネコ化抗NGF/変形性関節症の疼痛 | 2021年1月 |
| bedinvetmab(Librela) | Zoetis(NexVet) | イヌ化抗NGF/変形性関節症の疼痛 | 2023年5月 |
| Trutect(anivovetmab) | Elanco(Kindred Bio) | パルボウイルス感染症 | 2023年5月(条件付き) |
| gilvetmab | Merck | イヌ化抗PD-L1/肥満細胞腫・メラノーマ | 2023年7月(条件付き) |
| izenivetmab(Lenivia) | Zoetis | 長期作用型イヌ化抗NGF | 2025年10月(EMA) |
| relfovetmab(Portela) | Zoetis | 長期作用型ネコ化抗NGF | 2025年10月(EMA) |
| tirnovetmab(Befrena) | Elanco | 長期作用型イヌ化抗IL-31/アトピー性・アレルギー性皮膚炎 | 2025年12月(USDA) |
出典:成長可能性資料 p.22。Befrenaの米国承認(2025年12月31日、USDA)はElanco発表およびVeterinary Practice News(2026年1月6日)で確認。
技術面の競合と買収相場
会社は「国内上場企業で動物用抗体の研究開発を手掛ける企業は存在せず、競合の多くは欧米のスタートアップ」と説明している(成長可能性資料 p.30)。大手はスタートアップを買って技術を取り込んできた。
| 被買収企業 | 買収元 | ディール規模 | 買収時パイプライン |
|---|---|---|---|
| NexVet | Zoetis(2017年) | 8,500万米ドル | 皮膚炎・変形性関節症など3製品 |
| Kindred Bio | Elanco(2021年) | 4億4,400万米ドル | 感染症・皮膚炎など4製品 |
| PetMedix | Zoetis(2023年) | 2億1,000万米ドル | がん・慢性腎疾患など |
| Invetx | Dechra(2024年) | 5億2,000万米ドル | 皮膚炎・関節症など、半減期延長技術 |
出典:成長可能性資料 p.21(各社発表に基づく会社集計)。
競争上の含意:皮膚疾患(とくにイヌ)ではZoetisのCytopointに加え、2025年末にElancoの長期作用型Befrenaが米国で承認された。低分子のJAK阻害薬(ZoetisのApoquel、ElancoのZenrelia)も競合し、当社パイプラインの約半数が集まる皮膚領域は年々混み合っている。疼痛(抗NGF)ではZoetisが4製品を押さえ、長期作用型まで揃えた。当社の探索段階にある慢性疼痛2件は、この壁と正面から向き合うことになる。一方、ネコの慢性腎疾患・イヌの慢性腸疾患・イヌのリンパ腫には承認済み抗体薬がなく、相対的に空いている。
なお会社資料には、米Akston Biosciences(動物用抗体)が2026年に上場申請したとの記載がある(成長可能性資料 p.21)。上場の成否・時価総額は本記事では確認できていない(未確認)。
6. rNPV試算
会社が示す「潜在収益」
会社は、2026年6月末時点の契約済み16件(稼働中14件+予約済み2件)が全て計画通り進んだ場合の潜在収益として、契約時一時金・研究マイルストーン 最大19.1億円、開発マイルストーン 最大66.6億円、販売マイルストーン・ロイヤリティ 想定845億円(販売開始から15年間)を示している。受領済み収益総額は5.8億円である(成長可能性資料 p.35)。これは全件成功を前提とした最大値であり、成功確率による割引は施されていない。
本記事の前提
| 項目 | ベア | ベース | ブル | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 割引率(WACC) | 12% | 小型バイオの標準値(本サイト共通) | ||
| 一時金・研究MSの受領確率 | 35% | 50% | 65% | 研究段階の共同研究は品質条件未達で止まりうるため、最大額の半分前後と仮定。受領時期は平均2年後 |
| 開発MSの受領確率 | 15% | 25% | 35% | 大半が探索〜前臨床。平均4年後に受領と仮定 |
| 前臨床7件の上市確率 | 20% | 30% | 40% | 会社想定70%は採用せず、ヒト用の前臨床→承認確率(約5〜10%)より高く、会社想定より大幅に低い水準に独自に仮定 |
| 探索12件の上市確率 | 5% | 8% | 12% | 候補抗体未確定の段階として独自仮定 |
| 1製品あたりピーク売上 | 60億円 | 100億円 | 150億円 | Zoetisの抗NGF2製品は承認翌年の2024年に計5.81億米ドル(成長可能性資料 p.21)。これを上限側の参照とし、後発・ニッチ適応を考慮して大幅に割り引いた仮定 |
| ロイヤリティ料率 | 3% | 5% | 7% | 会社開示は「数%」のみ。具体値は仮定 |
| 上市時期 | 2031年 | 2031年 | 2030年 | 前臨床品。探索品はさらに2年後。会社目標は2030年頃 |
| 売上曲線 | 5年で直線的にピーク到達、その後10年横ばい(計15年) | 会社の試算期間(15年)に合わせた | ||
| 純コスト控除 | 年1.5億円 | 年1.0億円 | 年0.5億円 | 固定費(2027年3月期計画 販管費358百万円)の大半を新規契約収入が賄うと仮定し、差額のみ10年分控除 |
| 現預金 | 13.7億円(1Q末431百万円+IPO手取概算935百万円) | 決算短信・成長可能性資料 p.41。1Q以降の資金消費は未反映 | ||
試算結果
| 構成要素(億円) | ベア | ベース | ブル |
|---|---|---|---|
| 一時金・研究マイルストーン | 5.3 | 7.6 | 9.9 |
| 開発マイルストーン | 6.3 | 10.6 | 14.8 |
| ロイヤリティ(期待上市品数) | 11.2(2.0品) | 50.2(3.1品) | 153.6(4.2品) |
| 純コスト控除 | −9.0 | −6.0 | −3.0 |
| 現預金 | 13.7 | 13.7 | 13.7 |
| rNPV合計 | 27.6 | 76.0 | 189.0 |
| 1株あたり | 342円 | 944円 | 2,346円 |
| 時価総額56.1億円比 | −51% | +36% | +237% |
本記事による推計。販売マイルストーンは不確実性が高いため含めていない。四捨五入のため内訳の合計が一致しない場合がある。
7. カタリストカレンダー(今後6ヶ月)
| 時期 | イベント | インパクト | 織り込み度 |
|---|---|---|---|
| 2026年11月(日付未確認) | 2027年3月期 第2四半期決算。計画は売上高97百万円・中間純損失72百万円 | ★★☆☆☆ | 概ね織込済(上場時に計画開示) |
| 2027年1月末頃 | VC等のロックアップ(上場日から90日間)期限。株価が公開価格の1.5倍(1,245円)以上になれば前倒し解除の条件付き | ★★★☆☆ | 一部織込(需給の重し) |
| 2027年3月期中(時期未定) | 抗ネコIL-4受容体抗体のグローバル製薬企業への導出(会社目標)。通期計画の自社プロジェクト収益約112百万円の前提 | ★★★★☆ | 未織込(相手先・条件は不明) |
| 2027年3月期中(時期未定) | 複数の共同研究プロジェクトのマイルストーン達成(会社見込み) | ★★☆☆☆ | 一部織込(計画に含まれる) |
| 2027年2月(日付未確認) | 第3四半期決算。下期偏重の進捗確認 | ★★★☆☆ | 未織込 |
| 2027年5月頃 | 通期決算・成長可能性資料の更新(会社は毎年5月頃に更新予定) | ★★★☆☆ | 未織込 |
出典:決算情報等のお知らせ p.6〜7、成長可能性資料 p.46、ロックアップ条件はやさしいIPO株のはじめ方(二次情報・目論見書記載事項の転載)。
導出は成否どちらにも株価を動かしうる。期中に導出が決まらなければ、自社プロジェクト収益約112百万円がずれ込み、通期計画(売上352百万円)の未達要因になる。第1四半期の売上は41.9百万円で、通期計画の72%(255百万円)が下期に集中する計画である。
8. 経営陣の自信度・コミットメント
| 発言・コミットメント(要旨) | 出典 | 具体性×検証可能性 | 自信度 |
|---|---|---|---|
| 抗ネコIL-4受容体抗体は「有望な結果が得られていることから今期中のグローバル製薬企業への導出を目指して活動中」 | 会社開示(決算情報等のお知らせ p.6、2026/11/2) | 期限(2027年3月期中)あり、達成の有無は検証可能。ただし「目指す」表現で、試験データは非開示 | 中〜強 |
| 2027年3月期 売上高352百万円・営業損失5百万円 | 同上 p.1 | 定量・期限付き。下期偏重で導出1件に左右される | 中 |
| 2028年3月期以降の継続的な黒字化を目指す | 成長可能性資料 p.36 | 期限付きだが数値目標なし | 中 |
| 2030年頃の上市を目指す | 成長可能性資料 p.37 | 開発はパートナー主導で、当社がコントロールできない | 弱 |
| 上場会見で「研究開発の効率やスピードを上げる」 | 日本経済新聞(2026/11/2、以降は有料会員限定のため未確認) | 方向性の表明。定量目標なし | 弱 |
トラックレコード:上場直後のため、過去の公表目標と実績を突き合わせる材料はない。事実として確認できるのは、設立7年弱で動物薬上位6社のうち4社(MSD・BI・Ceva・Virbac)と契約に至り、2026年3月期に黒字化したことである。上記の発言・開示は経営陣の見解であり、将来の結果を保証するものではない。
インサイダーの持株:新庄社長は上場後7.52%(606,000株)を保有し(主要株主の異動に関するお知らせ)、共同創業者の黒澤仁氏・森下和広氏はいずれも上場前後に5%超の大量保有報告書を提出している(株探 2026/10/30・11/2)。創業者4名のロックアップは180日間とされる(二次情報)。
9. 財務・資金リスク
業績推移
| (百万円) | 2024/3期 | 2025/3期 | 2026/3期 | 2027/3期1Q | 2027/3期計画 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 66 | 144 | 337 | 41 | 352 |
| 営業利益 | — | — | 35 | △37 | △5 |
| 当期純利益 | △148 | △103 | 36 | △36 | △11 |
| 研究開発費 | (年1.4〜1.6億円前後で推移・会社グラフ) | 38 | 173 | ||
出典:決算情報等のお知らせ(2026/11/2)、成長可能性資料 p.36・p.39。百万円未満切捨て。2024/3期・2025/3期の営業利益は本記事で未取得。
バランスシートと資金使途
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金(2026年6月末) | 431百万円 |
| 総資産/純資産(同) | 544百万円/531百万円(負債12百万円、有利子負債なし) |
| IPO手取概算(資金使途合計) | 935百万円:設備120・研究開発542・運転資金273 |
| 上場後の現預金(概算) | 約13.7億円(1Q末+手取概算。1Q以降の資金消費とOA分は未反映) |
| 年間の資金消費 | 2027/3期計画で純損失11百万円。販管費358百万円に対し売上352百万円 |
| ランウェイ | 収支が概ね均衡しているため通常の計算では「36ヶ月超」。仮に新規収入が途絶し販管費358百万円を全額現金で賄う最悪ケースでも約45ヶ月 |
| 増資リスク判定 | 低(ランウェイ36ヶ月超) |
| 継続企業の前提に関する注記 | 開示資料上の記載なし |
出典:2027年3月期第1四半期決算短信、成長可能性資料 p.40〜41。ランウェイは本記事による推計。
人件費構造・生産性:従業員14名に対し、2026年3月期の一人当たり営業利益は約2.6百万円(推計)。平均年間給与は本記事では未取得(有価証券届出書記載事項、未確認)。研究は名古屋大学・宮崎大学の共同研究講座とCROへの委託を活用し、自前の大型設備を持たない軽量な体制である。
新株予約権:未行使新株予約権(ストックオプション等)の残高と潜在希薄化率は、本記事では確認できていない(未確認)。
10. その他リスク要因
- 需給(VC保有):上場前時点でVC等の保有比率は56.9%(成長可能性資料 p.45)。上場時の売出しで一部が放出されたが、残りは90日(または株価1.5倍)のロックアップ後に売却されうる。会社自身が発生可能性「大」と評価している。
- 収益の変動性:売上は一時金・マイルストーンが中心で、契約時期のずれがそのまま四半期業績のぶれになる。
- 開発の主導権がパートナー側:導出後の開発継続・中止・優先順位は導出先が決める。大手動物薬企業は買収やポートフォリオ見直しで開発品を落とすことがある。
- 競合:皮膚・疼痛はZoetis・Elancoの抗体薬と低分子薬が並ぶ激戦区。後発品はピーク売上が小さくなりやすい。
- 為替:海外パートナーとの外貨建て取引がある。会社は外貨を外貨のまま保有して対応している(成長可能性資料 p.45)。
- キーパーソン:14名の小規模組織で、代表の新庄氏と技術の源流である黒澤氏らへの依存度が高い。
- 技術ライセンス:中核ノウハウは藤田医科大学・宮崎大学からの独占実施許諾に依拠する。契約条件(期間・解除条項)は本記事では未確認。
- 情報開示の限界:標的分子・導出先別の開発品・ロイヤリティ料率がいずれも非開示で、外部からの価値検証が難しい。
11. 総合評価(レーティング)
資本イベント素地 2/10(低い) / 国策アライン:該当なし / テーマ適合 31/40(やや高い)
上抜け素地 2/6(⑥カタリストに調整なし)
7軸スコア
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①成長性 | 7 | 売上は66→144→337百万円(2期CAGR約126%)。ただし2027/3期計画は+4.4%。前臨床7件中4件を導出済みで段階進捗の実績あり |
| ②収益性 | 5 | 2026/3期 営業利益率10.6%・ROE約6.6%(推計)で黒字化。2027/3期は営業損失5百万円計画。一人当たり営業利益約2.6百万円。平均年収は未取得 |
| ③収益の質・連結範囲 | 4 | 持分法・子会社はなし(非連結)。売上の大半が一時金・マイルストーンで一過性が強く、ロイヤリティ等の継続収入はゼロ |
| ④競争優位性 | 6 | 完全イヌ型・完全ネコ型抗体のライブラリーで国内唯一の上場プレーヤー。動物薬上位6社中4社と契約。ただし世界では大手の自社開発・欧米スタートアップと競合し、主力の皮膚領域は混雑 |
| ⑤需給ポジション | 5 | 上場から1営業日で3ヶ月の騰落率が存在しないため中立固定(N/A)。初値は公開価格を8.1%下回った |
| ⑥カタリスト | 5 | 3ヶ月内に日付が確定した材料は2Q決算のみ。ネコIL-4R抗体の導出は今期中目標だが時期未定。90日ロックアップ期限は需給上のマイナス材料 |
| ⑦リスク耐性 | 7 | 有利子負債ゼロ、上場後の現預金約13.7億円(概算)で収支は概ね均衡。継続企業注記なし。一方で取引先は大手数社に集中 |
| 合計 | 39/70 | ★★★☆☆(36-45) |
価格判定の根拠
手法はrNPV(第6章)。ベース76億円は時価総額56.1億円に対し+36%で「B(割安)」の帯に入る。ただしベア28億円(−51%)〜ブル189億円(+237%)と幅が極めて広く、判定は前提(料率・ピーク売上・上市確率)に強く依存する。コンセンサス目標株価はN/A。
テーマ適合度(伴侶動物向け抗体医薬)
テーマの定義:イヌ・ネコの慢性疾患に対し、毎日投与の低分子薬を月1回程度投与の抗体薬で置き換える動き。 判断軸のうち、②技術的非連続性(低分子→抗体)、③第三者TAM推計(Grand View Researchによる2034年61億米ドル予測、成長可能性資料 p.20)、④実装マイルストーン(当社の2030年頃上市目標)、⑤大手の資金投入(Zoetis・Elanco・Dechraの買収)の4項目を満たす。
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①量的寄与 | 8 | 売上の全額がペット用抗体の研究契約収入。ただし製品売上・ロイヤリティはゼロ |
| ②純度 | 9 | 単一事業・時価総額約56億円の小型株。テーマの成否が企業価値を直接左右する。両刃:テーマや導出が失速すれば下落も大きい |
| ③サイクル位置 | 6 | 世界ではZoetisの抗NGF2製品が承認翌年に計5.81億米ドルに達し成熟しつつある一方、国内上場銘柄としては当社が初。国内は初動、世界は拡大〜成熟と判断(観察であり予測ではない) |
| ④希少性 | 8 | 国内上場で動物用抗体を手掛ける企業はほかにない(会社説明)。両刃:比較対象がないため株価の値付けが定まりにくく、変動が大きくなりやすい |
| 合計 | 31/40 | やや高い |
①と③の乖離:テーマ関連の売上はあるが、それは導出一時金・マイルストーンであって製品の売上ではない。ロイヤリティが生じるのは早くても会社目標の2030年頃であり、それまでの株価のテーマ反応は製品売上の裏付けを伴わない。
資本イベント素地・国策アライン度
資本イベント素地は2/10(低い):該当は「創業者・経営陣の持株比率が高い」「時価総額が小さく浮動株が限られる」の2項目。PBR約3.8倍・ネットキャッシュは時価総額の約24%で、構造的な素地は薄い。動物用抗体スタートアップの買収事例はあるが直近1年の事例は確認していない。国策アライン度は、源流技術がNEDO・AMED・JST等の支援を受けた経緯があるのみで、当社事業への予算の到達経路は確認できず「該当なし」とした。
上抜け素地(6項目)
該当は「浮動株が少ない(小型株)」「未織り込みの材料がある(ネコIL-4R抗体の導出)」の2項目で、⑥への調整はなし。売買代金の推移・信用残・上値のしこりは上場直後で判定材料がない。両刃:浮動株が薄い銘柄は悪材料でも同じだけ下に動く。これはボラティリティの高さを示すもので、有利さを意味しない。
解釈
品質★3×価格Bは「妙味はあるが理由の確認が必要」の位置にある。確認すべき理由は明確で、①ネコIL-4R抗体の導出が期中に実現するか、②導出済み4件がパートナーの開発で次段階に進むか(開発マイルストーンの受領で外から見える)、③ロックアップ明けの需給、の3点だ。
本レーティングは公開情報に基づく独自の定量評価であり、投資判断を推奨するものではありません。
12. まとめ
| 強気材料 | 弱気材料 |
|---|---|
|
|
MabGenesisは「ヒト用で効いた仕組みをペットに移す」という分かりやすい戦略と、世界大手との契約実績を持つ。一方で、価値の大部分は導出先が開発を進めた先のロイヤリティにあり、その進み具合は当社のマイルストーン受領を通じてしか見えない。上場後最初の1年は、ネコIL-4R抗体の導出の成否と開発マイルストーンの受領が、このモデルの実効性を測る最初の物差しになる。
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データ取得日:2026年11月2〜3日