VLAモデル編|見て動く脳の日本株を解剖

「棚を片付けて」——そう言うだけでロボットが動く。SFのようなこの光景を実現するのが、フィジカルAIの「動く脳」VLAモデルです。

世界モデル(頭脳)と練習場(Sim2Real)の話の先で、いよいよ「見て・聞いて・実際に動く」段階に入ります。ここが、フィジカルAIが工場や店舗で価値を生む実装の主戦場です。

この記事では、フィジカルAI4層のうち③VLAモデル(見て・聞いて・動く脳)に的をしぼり、関わる日本の上場企業を主役に、事業・技術・提携・直近の発表を「銘柄目線」で解剖します。

読み終える頃には、「VLA」「VTLA」というニュースが、どの日本株の話なのかを自分で当てはめられるようになっているはずです。

目次

なぜ今「JAPAN AI×フィジカルAI」に注目するのか

その理由は、NVIDIA創業者のジェンスン・フアンCEO自身の言葉に凝縮されています。まずはこの短いクリップをご覧ください。

「日本は、国家の頭脳である独自のデータ・技術を他国に委ねるわけにはいかない」「15年の歳月を経て、フィジカルAIは現実のものとなった」——フアンCEOの来日発言。JAPAN AIとフィジカルAIに注目すべき理由が、この一言に表れています。(映像出典:ロイター)

ポイントは2つ。「AIの主権(ソブリンAI)」「フィジカルAIが現実になった」という宣言です。この2つが交わる場所こそ日本の製造業=JAPAN AIであり、本シリーズが日本株を主役に据える理由です。本稿はその第3弾、「動く脳」の回です。

本記事はフィジカルAI解説記事から派生した「JAPAN AI分解シリーズ」の第3弾です。①世界モデル編②シミュレーション基盤編もどうぞ。④エッジ半導体と身体は別記事で扱います。目的は関連銘柄のあぶり出しであり、個別の投資推奨ではありません。

VLAモデルとは何か——30秒で

VLAとはVision(視覚)・Language(言語)・Action(行動)の頭文字。カメラ映像(見る)と言葉の指示(聞く)を理解し、ロボットの具体的な動き=関節角度や行動軌跡(動く)を直接生成するAIモデルです。

従来のロボットは、タスクや環境が変わるたびに人間が細かくプログラムを書く必要がありました。VLAは、曖昧な言葉とセンサー映像から自律的に「何をどう動かすか」を組み立てます。さらに製造現場では、視覚だけでは分からない「力加減」「指先の滑り」を捉えるため、Tactile(触覚)を加えたVTLAへの進化も始まっています。フィジカルAI4層でいうと、頭脳と身体をつなぐ「小脳(動作生成)」にあたる層です。

なぜVLAが「実装の主戦場」なのか

VLAが賢くなるほど、ロボットは現場ごとの作り込みなしに動けるようになります。一方で2つの壁があります。ひとつは学習データ——「柔らかい部材の把持」「コネクタ嵌合」など、人には簡単でもロボットには難しい動作のデータが要ります。もうひとつは計算と通信のトレードオフ。数十億パラメータのVLAをロボット単体で動かすと高価で重くなり、外部サーバーに任せると通信遅延で動作が止まる。この2つをどう解くかに、日本企業の知恵と提携が集中しています。

VLA/VTLAに関わる日本の上場企業マップ

Deep Research調査と直近の発表をもとに、③VLAモデルに関連する主な日本の上場企業を整理しました。「どの持ち場で動く脳に関わるか」で並べています。

企業 コード 市場 VLA層での持ち場
川崎重工業 7012 プライム VTLA国策プロジェクトの代表企業
ファナック 6954 プライム VTLAデータセット共同構築に参画
安川電機 6506 プライム VTLA参画+ソフトバンクとVLA実機自律制御を実証
ABEJA 5574 グロース VTLA基盤技術の設計・高度化を担当
ACCESS 4813 プライム 独自VLA×IOWN APNで遠隔ロボット制御を実証
NTT 9432 プライム tsuzumiで身体制御デモ、IOWN/触覚遠隔制御
ソフトバンク 9434 プライム VLM(大脳)を提供し安川のVLAと連動
トヨタ自動車 7203 プライム 大規模行動モデル(LBM)を北米工場で実稼働
セブン&アイHD 3382 プライム Telexistenceとヒューマノイド店舗実証
エクサウィザーズ 4259 グロース 模倣学習サービスexaBaseロボティクスを展開
川田テクノロジーズ 3443 スタンダード 実機と動作データ収集基盤(東大基盤モデル協力)

このほか、触覚センサーのFingerVision、店舗自動化のTelexistence、自動運転VLAのTuring、基盤モデルのPreferred Networksといった非上場勢も、VLAレイヤーの要となる技術を握っています。

国策プロジェクト「VTLA基盤」を解剖

川崎重工(7012)・ファナック(6954)・安川電機(6506)——競合3社が触覚データで結集

2026年7月2日、経済産業省・NEDOのGENIAC事業に、「製造現場視触覚データ収集によるVTLA基盤モデルに向けたデータセットの構築」が採択されました。2026年8月〜2027年7月の1年計画で、NEDOから最大20億円の支援を受けます。川崎重工が代表企業を務め、通常は競合関係にあるファナック・安川電機、そして大阪大学、触覚センサーのFingerVisionが共同実施先として参画します。

技術・データの視点:従来のVLA(視覚・言語・行動)に触覚(Tactile)を加えたVTLAを目指し、初年度で5,000時間もの映像・触覚・動作データを製造現場から収集。各社のロボットアームの稼働履歴・視覚・触覚を統合し、メーカーを問わず使える共通フォーマットのデータセットを構築します。長年クローズド戦略だった競合3社が「共通アセット化」に踏み切ったこと自体が、海外プラットフォーマーへの危機感の表れです。

ABEJA(5574)——VTLAの基盤技術を設計する頭脳役

東証グロース上場のABEJAは、大阪大学からの委託を受け、プロジェクト全体の基盤技術開発の高度化を担当します。同社が提唱する「Agentic AI(自律的に意思決定するAI)」と物理的な実機動作を融合させ、共通データ仕様の設計から学習データ蓄積、モデル実装までを一貫して支える役回りです。VLAの「設計図」を描く数少ない上場銘柄といえます。(ABEJAの詳細分析はこちら

通信×VLA——遅延をゼロに近づける日本の武器

ACCESS(4813)×NTT(9432)——IOWN APNで「遠くの脳」を可能に

VLAの最大のボトルネックが「計算と通信のトレードオフ」です。これに東証プライムのACCESSが解を示しました。2026年6月、同社は独自に学習したVLAモデルを搭載した推論サーバーを、次世代光通信IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)経由で遠隔のアームロボットに接続し、物体の把持・運搬を実施。NTT西日本の協力でIOWN環境を構築しました。

結果:遠隔サーバー経由にもかかわらず、ローカル(サーバーを直近に置いた状態)と比べて動作の遅延やカクつきがほぼ見られず、従来回線で頻発した「一時停止」がほぼゼロに。これは巨大なVLAの脳を中央データセンターに集約し、現場のロボットは軽量・低コストに保つという持続可能な構図が成り立つことを示します。NTT自身も軽量マルチモーダルLLM「tsuzumi」で身体制御デモを公開し、触覚を伴う低遅延バイラテラル遠隔制御も研究。IOWNという通信インフラの強みは、日本のVLA戦略の隠れた武器です。

実機×VLA——「学び続けるロボット」の実証

安川電機(6506)×ソフトバンク(9434)——VLM(大脳)とVLA(小脳)の分担

2026年7月、安川電機とソフトバンクはフィジカルAIで柔軟物(ワイヤーハーネス等)のハンドリングを実証しました。役割分担が明快で、ソフトバンクがMEC上で動くVLM(Vision-Language Model=状況を理解し「何をするか」を決める大脳)を提供し、安川がVLA(動きを生成する小脳)とロボットを担います。「机を片付けて」という指示をVLMが解釈し、VLAが具体的な動作へ翻訳する——SoftBank World 2026では導入後も進化し続ける「学び続けるロボット」としてデモされ、ビル管理システムとの連携も開発中です。

モビリティ・生活インフラへのVLA展開

トヨタ自動車(7203)——大規模行動モデル(LBM)を北米工場で実稼働

トヨタは、TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)発のスタートアップWalden Robotics(3億ドル調達)を通じて、開発した大規模行動モデル(LBM)を北米の自社工場にデプロイ。工作機械への部材の出し入れ、工具セット、組み立てなど非定型な作業で、従来のルールベースより臨機応変に対応しています。加えてPreferred Networksとエッジ半導体による推論高速化を共同研究し、TRIの「SAFE」研究では危険兆候を検出して人間の介入を促す機能安全レイヤーも開発。VLAの「暴走を止める」安全評価まで踏み込む点が独自です。

セブン&アイHD(3382)・エクサウィザーズ(4259)——生活・中小市場のVLA

セブン&アイは傘下のセブン-イレブンを通じ、Telexistenceとヒューマノイドの店舗実証を推進。Telexistenceは、VLA学習に不可欠な高品質モーションデータを生成する「モーションデータ工場」を商用化しており、品出し・バックヤード業務の自動化に向け実データを集めています。一方、法人向け生成AIで実績のあるエクサウィザーズは、プログラミング不要でロボットに動作を教える模倣学習サービス「exaBaseロボティクス」を展開。大手連合が大企業案件に集中する間、中小製造・食品・介護など「1台から入れる」市場を狙います。(エクサウィザーズの詳細分析はこちら

VLA銘柄を見る3つの物差し

①動作・触覚データを持つ/集められるか。VLAの性能は現場の行動データで決まります。VTLA国策の川崎重工・ファナック・安川、モーションデータ工場のTelexistenceと組むセブン&アイなど、データ源を押さえる企業が強い立場です。

②大脳と小脳、どの部分を握るか。状況理解のVLM(ソフトバンク)、動作生成のVLA(安川・ACCESS)、基盤設計(ABEJA)と、役割で価値が分かれます。自社がどこを担うかを見極めましょう。

③遅延・安全という「実装の壁」を越えられるか。IOWNで通信遅延を潰すACCESS×NTT、機能安全を作るトヨタのように、実稼働のボトルネックを解く技術は代替が効きにくく、価値が残りやすい領域です。

まとめ——「動く脳」は分業で立ち上がる

VLAモデルは、頭脳と身体をつなぎ、フィジカルAIを現場で価値に変える「動く脳」です。日本では、競合が触覚データで結集するVTLA国策、IOWNで遅延を潰すACCESS×NTT、VLM+VLAを分担する安川×ソフトバンク、LBMと安全評価を進めるトヨタなど、役割分担(分業)でこの層が立ち上がりつつあります。

銘柄目線では「データ源」「大脳か小脳か」「遅延・安全の突破」の3点が実戦的な物差しです。次回④では、これらの脳を実際に動かすエッジ半導体と身体(減速機・センサー・モーター)の日本株を分解します。ニュースが出たら「これは動く脳の話か、動く体の話か」を当てはめてみてください。

【免責事項】本記事は情報提供およびフィジカルAI関連銘柄の整理を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨する投資助言ではありません。記載内容は2026年7月時点の公開情報に基づきますが、正確性・完全性を保証するものではありません。企業の関与度合いや業績は各社の状況により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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