トヨタ自動車が2026年8月27日の説明会で「2028年をめどにレベル2++の自動運転システムを個人向け量販車へ投入する」方針を示して以降、自動運転関連株への物色が強まりました。その中で、ダイナミックマッププラットフォーム(東証グロース・336A)は8月26日の終値851円から9月4日のザラ場高値2,045円まで、わずか7営業日で2.40倍。上場初月(2025年3月)の高値を大きく上回った直後、同じ9月4日に高値から▲26.8%下げて1,497円で引けました。1日の売買代金は889億円に達しています。
同社は政府主導で設立された、自動運転・ADAS向け「高精度3次元地図(HDマップ)」の整備・提供会社です。株主には産業革新投資機構(JIC)と海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)という政府系2社が並び、両社で発行済株式の46.04%を保有します。「オールジャパンの自動運転インフラ」という位置づけは、この銘柄を語るうえで避けて通れません。
本記事では、2027年3月期第1四半期決算(2026年8月7日開示)と、そこに記載された令和8年熊本地震による地図データの被害という重要な後発事象を起点に、市場規模(TAM)と当社のポジション、ゲームチェンジャーになりうるかを新設の章として検証します。強気材料と弱気材料は同じ分量で扱い、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
本記事の基準日:2026年9月5日(株価データは2026年9月4日終値ベース)。数値は2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月7日開示)、有価証券報告書(第10期・2026年6月24日提出)、適時開示、および第三者調査機関・官公庁の公表資料に基づきます。事実(開示・一次情報)と推察は文中で区別しています。レーティングは equity-rating-framework v2.2 に準拠します。投資判断はご自身の責任でお願いします(末尾の免責を必ずお読みください)。
※ 本記事はグロース株調査レポート一覧の一つです。同じ自動運転テーマではティアフォー(593A)の分析も公開しています。
1. 会社概要|政府主導で作られた「自動運転の地図インフラ」
ダイナミックマッププラットフォームは、自動運転・先進運転支援(ADAS)向けの高精度3次元地図データを整備・販売する会社です。日本の高速道路等を全国規模で整備し、車載向けにライセンス提供するほか、近年は3次元点群データを不動産開発・インフラ点検・事故調査などの用途へ横展開しています(サービス名「3Dmapspocket」)。
決算開示上のセグメントは「国内」「海外」の地域区分で、その中に「オートモーティブビジネス」と「3Dデータビジネス」があります。収益は性質別に次の2つに分かれ、会社はライセンス型の比率を高めることを最重要KPIに置いています。
| 収益タイプ | 内容 | FY2025/3 | FY2026/3 | FY2027/3 会社予想 |
|---|---|---|---|---|
| ライセンス型 | 整備・保有するデータやシステムの利用権を提供。売上原価は固定的で限界利益率が高い(短信の注記) | 1,171百万円 (構成比15.7%) |
2,594百万円 (構成比45.6%・前期比+121.5%) |
3,000百万円 (+15.6%) |
| プロジェクト型 | 受託による地図整備・計測などの案件型売上 | 6,293百万円 | 3,092百万円 (構成比54.4%) |
4,000百万円(差引・推計) |
| 合計 | — | 7,465百万円 | 5,686百万円(▲23.8%) | 7,000百万円(+23.1%) |
ライセンス型売上の内訳の出所:FY2025/3・FY2026/3の内訳は、会社が有価証券報告書「目標とする客観的な指標等」で直接開示しています(2025年3月期:プロジェクト型6,293/ライセンス型1,171、2026年3月期:プロジェクト型3,092/ライセンス型2,594、単位=百万円)。同資料には地域内訳も開示されています(2025年3月期 国内2,693/海外4,771、2026年3月期 国内1,456/海外4,229)。FY2027/3のプロジェクト型4,000百万円のみ、会社予想の売上高7,000からライセンス型3,000を差し引いた本記事の推計です。
2. 何が起きたのか|7営業日で2.4倍、そして高値から▲26.8%
まず事実関係を、株探の日足四本値で当日の値動きを確認しながら時系列で整理します。
| 日付 | 終値 | 前日比 | その日に確認できる出来事 |
|---|---|---|---|
| 2025/03 | 1,465円 | 上場月 | 東証グロース市場へ上場(有価証券報告書「沿革」で確認)。月足の初月は始値1,530・高値1,706 |
| 2025/12/18 | — | — | 上場来安値532円(上場初月の月足高値1,706円から▲68.8%) |
| 2026/08/07 | 792円 | -0.13% | 2027年3月期1Q決算・決算説明資料を開示(15:31) |
| 2026/08/20 | 848円 | +5.47% | 東京ゲームショウ2026への出展を開示(08:30) |
| 2026/08/21 | 833円 | -1.77% | 「日経・東証IRフェア2026」出展概要・社長セミナー登壇を開示(08:30) |
| 2026/08/24 | 815円 | -2.16% | 社長が「神戸投資勉強会in東京」に登壇と開示(08:30) |
| 2026/08/25 | 846円 | +3.80% | Esri「ArcGIS」上でサンプルデータ公開を開示(08:55) |
| 2026/08/26 | 851円 | +0.59% | この日を起点に上昇が始まる |
| 2026/08/27 | 901円 | +5.88% | トヨタが説明会で「2028年めどにレベル2++を量販車へ」と説明(報道ベース) |
| 2026/08/28 | 1,051円 | +16.65% | 会社開示なし |
| 2026/08/31 | 1,351円 | +28.54% | 会社開示なし |
| 2026/09/01 | 1,179円 | -12.73% | 三井不動産レジデンシャルで3Dmapspocketが採用(08:30) |
| 2026/09/02 | 1,479円 | +25.45% | 代表がラジオNIKKEIに出演(17:30・引け後) |
| 2026/09/03 | 1,779円 | +20.28% | dSPACE Japan User Conference 2026に登壇(09:06) |
| 2026/09/04 | 1,497円 | -15.85% | 始値1,899→高値2,045(上場初月の高値1,706円を大きく上回り、株探の年初来・52週高値も更新)→安値1,475。出来高4,970万株・売買代金889億円。08:30に国土交通省事業への採択、12:00に補助金収入の計上を開示 |
事実:上場来安値532円から9月4日の高値2,045円まで3.84倍、直近の起点である8月26日終値851円からは7営業日で2.40倍。9月4日終値1,497円は当日高値から▲26.8%です。時価総額は353.9億円、PBRは5.60倍(自己資本6,322百万円ベース)、赤字のためPERは算出されません。移動平均線からの乖離は25日線+57.80%、75日線+69.50%、200日線+98.03%(9月4日時点)。
推察:8月28日と8月31日の合計+50%の上昇局面には会社の開示が一件もありません。9月4日の国交省事業採択は08:30の開示で、株価は同日ザラ場高値をつけたのち急落しています。この上昇の主因は個社の業績材料ではなく、トヨタのロードマップを起点とした自動運転テーマへの資金流入だったと考えるのが自然です。ただし上昇の直前1週間は、東京ゲームショウ出展・IRフェア出展・投資勉強会登壇・ArcGISでのサンプル公開と個人投資家向けのIR露出の告知が4営業日連続で出ており、テーマ物色を受け止める素地はこの時期に作られていたとみることもできます(推察)。9月4日の値動きは、開示があっても株価が続かなかったという意味で、テーマ物色の一巡を示唆します(推察)。
3. 2027年3月期 第1四半期|数字は厳しい
株価とは対照的に、直近の決算は明確に悪化しています。
| 項目 | 1Q(2026年4-6月) | 前年同期 | 通期会社予想(据置) | 進捗率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,147百万円 | ▲21.3% | 7,000百万円(+23.1%) | 16.4% |
| 調整後EBITDA | ▲667百万円 | +24百万円 | +50百万円 | — |
| 営業損失 | ▲999百万円 | ▲196百万円(5.1倍に悪化) | 非開示 | — |
| 経常損失 | ▲997百万円 | ▲223百万円 | 非開示 | — |
| 四半期純損失 | ▲980百万円(EPS▲41.48円) | ▲285百万円(▲12.10円) | 非開示 | — |
3-1. セグメント(地域)別|国内が▲62.2%
| セグメント | 売上高 | 前年同期比 | セグメント損失 | 前年同期 |
|---|---|---|---|---|
| 国内 | 142百万円 | ▲62.2% | ▲400百万円 | ▲123百万円 |
| 海外 | 1,005百万円(全体の87.6%) | ▲7.2% | ▲602百万円 | ▲76百万円 |
🔴 単一顧客への集中(有価証券報告書「主な相手先別の販売実績」):
FY2026/3は General Motors 1社で2,432百万円=総販売実績の42.8%、三菱電機モビリティ796百万円(14.0%)、NEDO 84百万円(1.5%)。
FY2025/3は GM 3,211百万円(43.0%)、三菱電機モビリティ387百万円(5.2%)、NEDO 1,794百万円(24.0%)。
つまり売上の4割超を1社が占める構造であり、地域集中(1Qで海外87.6%)より重いリスクです。
そして国内セグメントの急減の実体は、NEDO向けが1,794→84百万円へ▲95%消失したことにあります。
一方で三菱電機モビリティ向けは387→796百万円・構成比5.2%→14.0%へ拡大しており、
後述する「三菱電機の資本の希薄化」とは逆方向に動いている点は公平に併記しておきます。
会社の説明では、国内は「前年同期に計上した大型案件の反動」、海外は「北米における新規整備事業の完了によるプロジェクト型売上の減少」が要因です。一方でライセンス型売上はAI用途向けの法人ライセンス案件の拡大等で前年同期を上回り、構成比は上昇したとしています。1Qは売上の87.6%が海外セグメント(通期ベースでもFY2026/3は海外4,229/全社5,686=74.4%)である点は、この会社を「国内の政府系銘柄」とだけ捉えると見誤る部分です。
3-2. 押さえるべき3つの論点
①「調整後EBITDA」の定義に注意。会社が最重要KPIとする調整後EBITDAは、短信の注記で「営業利益+減価償却費+政府補助金+M&A関連費用」と定義されています。政府補助金を足し戻す指標である点は理解して読む必要があります。実際、同社は2026年7月23日と9月4日の2回、営業外収益(補助金収入)の計上を開示しています。通期予想の+50百万円に対し1Qは▲667百万円で、残り3四半期で+717百万円の積み上げが必要です。
🔴 さらに重要なのは、過去の改善ペースとの比較です。調整後EBITDAの実績は
2025年3月期 ▲609百万円 → 2026年3月期 ▲501百万円(有価証券報告書「目標とする客観的な指標等」)。
改善幅は年間108百万円です。これに対し2027年3月期予想の+50百万円は、▲501百万円から一気に+551百万円の改善を求める計画であり、
過去2期のトレンドの約5倍の改善速度にあたります。1Qが▲667百万円である現状と併せて、達成のハードルは相当に高いと言えます。
②営業利益・純利益の予想が非開示。通期予想として開示されているのは売上高7,000百万円、ライセンス型売上3,000百万円、調整後EBITDA+50百万円の3つのみです。営業利益・経常利益・当期純利益の予想はありません。計画の検証可能性という意味では、投資家側の負担が大きい開示姿勢です。
③ソフトウェアの資産化が営業CFを支えている。2026年3月期の営業CFは▲61百万円と前期の▲2,269百万円から大きく改善しました。しかし同期の設備投資は1,625百万円、減価償却は969百万円で、無形固定資産は2,644→3,532百万円(うちソフトウェア2,464→3,359百万円)へ増加しています。営業CFと投資CFを合わせたフリーキャッシュフローは▲1,971百万円で、実質的な資金流出はほとんど縮小していません。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | 営業CF | 投資CF | 現金 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| FY2023/3 | 3,681 | ▲3,999 | ▲4,117 | ▲4,946 | ▲1,928 | 13,594 |
| FY2024/3 | 5,567 | ▲2,554 | ▲4,049 | ▲3,166 | ▲842 | 10,174 |
| FY2025/3 | 7,465 | ▲1,219 | ▲1,544 | ▲2,269 | ▲2,472 | 8,383 |
| FY2026/3 | 5,686(▲23.8%) | ▲1,876 | ▲1,708 | ▲61 | ▲1,910 | 3,608 |
1Q末(2026年6月30日)の現金及び預金は4,253百万円(長期借入の増加により3,608百万円から増加)、自己資本比率は66.2%→60.1%へ低下、純資産は883百万円減少しました。継続企業の前提に関する注記はありません。ただし年間のフリーキャッシュフロー流出を▲1,971百万円ペースとすれば、手元資金はおおむね2年強という水準です(推計)。なお四半期キャッシュ・フロー計算書は作成されていません。
3-3. M&A(リカノスの新規連結)
2026年4月、子会社のダイナミックマッププラットフォームコンサルタンツが株式会社リカノスの株式を100%取得し、1Qから連結に加わりました。取得対価242百万円、のれん169百万円(10年均等償却)、アドバイザリー費用25百万円。取得原価の配分は暫定です。会社は「測量会社のネットワーク化を目的としたM&A」と説明しており、今後の増収にはこのM&A由来の分が含まれる点は、本業の自力成長と分けて見る必要があります。
4. 熊本地震が突きつけたもの|「地図は現実が変わると壊れる」
1Q短信の「重要な後発事象」より(一次情報):2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震により、同社が保有する高精度3次元地図データと実際の道路状況等との間に乖離が生じ、顧客に提供している地図データの一部が使用できなくなる被害を受けた。影響範囲および損害額は現在調査中。地図データの補修および再作成等に係る原状回復費用等の発生が見込まれる。財政状態・経営成績・キャッシュフローへの影響は現時点で合理的に算定することが困難。
事実として、これは短期的な損失要因です。損害額が未確定である以上、2027年3月期の業績にどれだけ響くかは現時点で誰にも計算できません。通期予想は据え置かれていますが、損害額の確定は下方修正の要因になりえます。
より重要なのは、この事象が事業モデルの構造を可視化したことです(推察)。高精度3次元地図は「現実の道路を写した資産」であり、現実が変わればその資産は毀損します。地震・災害だけでなく、道路の新設・改良・工事も同じ性質を持ちます。つまりこのビジネスは、地図を作り切って終わりではなく、永続的に更新コストを払い続けるモデルです。同社の設備投資が減価償却を上回り続けている(FY2026/3は1,625対969)のは、この構造の反映と読めます。
ただし反対側も書いておきます。同社は2026年8月4日に高精度3次元点群データとGoogle Photorealistic 3D Tilesを活用した空間情報を無償提供し、8月13日には「熊本地震災害復旧支援プログラム」が高速道路・橋梁の復旧検討、災害研究、被害状況把握といった用途に広がっていると開示しました。災害復旧という新しい需要の入り口にもなっているという見方は成り立ちます(ただし無償提供であり、現時点で売上寄与の開示はありません)。
5. テーマ性の検証(◎実事業/○ビジョン・投資段階/×確認できず)
本記事では「自動運転・フィジカルAI向けの空間データ基盤」を対象テーマと定義します。認定根拠は、①政策の裏付け(国交省の自動運転実証事業、内閣官房「日本成長戦略」2026年7月21日)②技術的な非連続性(AI学習用データとしての3次元空間データ)③第三者TAM推計の存在(矢野経済研究所)④実装マイルストーンの公開(トヨタ2028年、政府の2030年度目標)⑤複数の大手・官公庁の資金投入(JIC・JOIN・三菱電機・三井物産・ゼンリン・パスコ・トヨタマップマスター)——判断軸の5項目をすべて満たします。
| テーマ | 判定 | 根拠と出典 |
|---|---|---|
| 自動運転・ADAS向け高精度3次元地図 | ◎ | 車載向けライセンスが海外セグメントで量産・法人ともに堅調(1Q短信)。国内の全国整備を担う事業者 |
| フィジカルAI/AI学習用データ | ◎ | 「AI用途向けを中心とした法人ライセンス案件の拡大」によりライセンス型売上が前年同期を上回る(1Q短信)。NVIDIA・MathWorksと共同セミナー(2026/7/24) |
| 3D空間データの非車載展開(不動産・保険・インフラ) | ◎ | 3Dmapspocketの採用企業が実名で開示:東京建物(7/28)、シーラ(8/6)、東京海上日動調査サービス(8/18)、三井不動産レジデンシャル(9/1) |
| 国策(自動運転の社会実装) | ◎ | 国土交通省事業に採択(2026/9/4、自動運転車両による物流施設内横持輸送の実証)。補助金収入を営業外収益に複数回計上(7/23・9/4) |
| 海外展開(北米・欧州) | ○ | 海外セグメントが売上の87.6%。ただし1Qはプロジェクト型の反動減で▲7.2%。Esri Partner Networkに参加(7/23)、ArcGIS上でサンプル公開(8/25)=北米インフラ市場の開拓は緒に就いたところ |
| ゲーム・エンタメ向け空間データ | ○ | 東京ゲームショウ2026に出展(8/20)。売上寄与の開示はなし |
| トヨタのレベル2++(2028年)への直接関与 | × | 当社が関与するという開示・発表は確認できず。トヨタマップマスターは株主(1.35%)だが、それはトヨタのL2++プログラムへの当社の関与を意味しない |
5-1. テーマ適合度(4軸・40点満点)
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①量的寄与 | 10 | 売上の100%が高精度3次元空間データ事業。セグメントは地域区分であり、事業としてはテーマそのもの |
| ②純度(pure play度) | 10 | テーマが主業そのもの。時価総額353.9億円の小型株で、テーマの成否が企業価値を直接左右する |
| ③サイクル位置 | 5 | 「一巡後の再燃」と判断。根拠は、上場初月の高値1,706円(2025年3月)から532円(2025年12月)へ▲68.8%下落した履歴があり、そこから7営業日で2.40倍に再騰して9月4日に高値から▲26.8%押した点。株探の「自動運転車(スマートカー)」関連銘柄は94社 |
| ④希少性 | 9 | 国内で自動運転向け高精度3次元地図を全国規模で整備する事業者は実質的に限られ、政府系2社が46.04%を保有するオールジャパン体制。バリューチェーン上「地図データ」の位置を単独で押さえている |
| 合計 34/40 = 高い | ||
🔴 ①と③の乖離:①量的寄与は満点(売上の100%がテーマ由来)である一方、③サイクル位置は「一巡後の再燃」。テーマは本物で業績の裏付けもあるが、株価は既に大きく動いた後という状態です。しかも直近の業績は減収・赤字拡大であり、「テーマとして株価が反応した」ことと「業績が良くなった」ことは、この銘柄では今のところ別々に起きています。
🔴 両刃の注記:②純度が高く小型であることは、材料が出たときの反応が大きいという構造の話であって有利さではありません。同じ構造は悪材料でも同じだけ下に飛びます。実際、9月4日は1日で高値から▲26.8%動きました。④希少性についても、代替が効かない立場は業績悪化時の逃げ場の少なさと表裏です。
6. 市場規模(TAM)と当社のポジション
TAMは「大きいから買い」という材料ではありません。意味があるのは「TAM × 取れるシェア × 粗利率」であり、そのシェア前提は後述の適正株価の試算と同じ数字を使います。
6-1. 事業別のTAM
| 項目 | ①オートモーティブ(車載HDマップ) | ②3Dデータ(非車載の空間データ) |
|---|---|---|
| 位置づけ | ライセンス型売上の中核。海外セグメント(売上の87.6%)が主戦場 | 3Dmapspocket等。国内の不動産・保険・インフラ・物流向け |
| 市場の定義 | 自動運転・ADAS向けの高精度3次元地図データ(HDマップ)。カーナビ用の一般地図、車両本体、センサー、自動運転ソフトウェア本体は含まない | 国内の測量・空間データサービス(不動産開発の事業検討、インフラ点検、事故調査等)。建設工事そのものは含まない |
| TAM(金額・対象年・地域) | 世界・2020年 13億ドル(約1,400億円)→ 2030年 204億ドル(約2兆2,000億円) | 世界・2023年 3.4兆円(自動車分野を除くデジタルマップ市場) |
| 出典(格) | 調査会社予測を自動運転ラボが紹介(2019年10月公表=6年以上前の予測。格C相当) | |
| 補助的な独立第三者推計 | 矢野経済研究所 プレスリリースNo.4105(2026年4月10日公表):国内車載ソフトウェア市場は2025年8,766億円 → 2030年2兆円(年平均約18%)。うちAI-DV(AI定義車両)は2028年1,205億円 → 2030年4,458億円(格B・独立第三者)。 🔴 ただし同調査の市場定義は「OEM・Tier1が自社で開発する車載ソフトウェアの開発費・研究開発費・設備投資の集計」であり、外部から調達する地図データのライセンス料は含みません。当社の売上が直接この市場に計上されるわけではなく、車載ソフトウェア投資全体の伸び(年平均約18%)を需要環境の代理指標として参照するに留めます |
|
| SAM(絞り込み) | 同社が整備済み・整備中の日本・北米・欧州の車載ライセンス。中国・新興国は対象外のため(同社の整備エリアと開示された事業展開に基づく) | 1.6兆円。当社のデータカバレッジと重なる北米・アジアパシフィックの、インフラ・輸送・政府防衛の3分野に限定したため(有価証券報告書 第10期) |
| 現在の浸透率 | FY2026/3のライセンス型売上2,594百万円 ÷ 世界TAM 2兆2,000億円(2030年)=0.12%(時点ずれあり・参考値) | FY2026/3のライセンス型売上2,594百万円 ÷ SAM 1.6兆円=0.16%(参考値。ライセンス型には車載分も含むため上振れ方向のバイアスがある) |
🔴 出所の格について:国土交通省のスタートアップ紹介資料には「高精度3次元地図の更新技術…市場(2030年:1,200億円/年(TAM))」という記載がありますが、これは同社が関与する実証事業の提案資料に由来するとみられ、独立した第三者推計とは言い切れません。本記事ではこれを主軸のTAMには使わず、参考記載に留めました。また車載HDマップの世界市場予測は2019年公表と古く、現在の技術前提(後述のE2E自動運転)を織り込んでいない点に注意が必要です。
6-2. 浸透率をどう読むか(両論)
強気側の読み:浸透率0.12〜0.30%。伸びしろは構造的に大きいと言えます。ライセンス型売上は前期に+121.5%(1,171→2,594百万円)と倍増し、構成比は15.7%→45.6%へ急上昇しました。限界利益率が高いライセンス型が積み上がる構造は、赤字企業が黒字化する最も分かりやすい経路です。加えて3Dmapspocketの非車載展開は、車載市場の外側にもう一つの器を用意する動きです。
弱気側の読み:分母(TAM)を大きく取るほど浸透率は小さくなり、伸びしろは自動的に大きく見えます——これは発見ではありません。しかも参照した世界HDマップ市場の予測は2019年公表で、その後に主流化したE2E方式の自動運転(後述)を前提にしていません。器の見積もり自体が古い可能性があります。さらに、ライセンス型が倍増した2026年3月期でさえ全社は▲23.8%の減収で、営業損失はむしろ拡大しました。ライセンス型の成長がプロジェクト型の減少を埋めきれていないのが現在地です。
6-3. ゲームチェンジャーになりうるか(5問)
| # | 問い | 確認できた事実 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 1 | 置換対象は何か | 従来のカーナビ用地図と、人手による測量・現地調査。その支出を現在得ているのは地図大手(ゼンリン、トヨタマップマスター=いずれも同社の株主でもある)、欧州のHERE/TomTom、そして国内10,924社の測量業者 | ◯ 明確 |
| 2 | 優位の定量 | 「3Dmapspocketで用地取得前の眺望確認・事業検討を支援」「事故調査の現場確認を高度化・効率化」といった定性的な説明はあるが、「従来比で工数を◯%削減」「コストが◯分の1」といった定量比較は開示で確認できない | △ 定量の裏付けなし |
| 3 | 普及の障壁 | 地図の鮮度維持コスト(熊本地震で顕在化)、整備エリア拡張の設備投資(FY2026/3で1,625百万円)、OEMの内製化・他社地図への切替、国際的なデータ標準の主導権 | ◯ 障壁は高い |
| 4 | 実装エビデンス | 商用採用に到達。車載の量産ライセンスが海外セグメントで計上され、非車載でも採用企業が実名で開示されている(東京建物、シーラ、東京海上日動調査サービス、三井不動産レジデンシャル)。Esri Partner Network参加、NVIDIA・MathWorksとの共同セミナー、国交省事業への採択 | ◎ 商用採用に到達 |
| 5 | 既存側の反撃と代替技術 | 🔴 最大の論点。テスラに代表される「HDマップに依存しないビジョンベース/E2E方式」の自動運転が主流化しつつあり、トヨタが2028年に投入するレベル2++もE2E+ルールベースの組み合わせと報じられている。これはHDマップへの依存度を下げる方向の技術である。加えてHERE・TomTom・Google・中国勢、そして株主でもあるゼンリン・トヨタマップマスターが競合しうる | △ 代替圧力が強い |
判定:○(漸進的な改善)
④実装エビデンスは商用採用に到達しており◎の要件のひとつを満たします。しかし②優位の定量が一次情報で確認できず、さらに⑤で「自動運転技術の潮流そのものがHDマップ依存を下げる方向に動いている」という構造的な逆風があるため、◎(ゲームチェンジャー候補)には格上げしません。
ここに、この銘柄の最も皮肉な論点があります。今回の株価上昇のきっかけはトヨタの2028年レベル2++です。しかしその技術方式(E2E)は、高精度地図への依存を減らす方向の技術でもあります。テーマとして買われた材料が、事業にとって順風なのか逆風なのかは、現時点の開示では確定できません。
6-4. ゲームチェンジャーになれなかった場合、何が残るか
- 現金及び預金 4,253百万円(2026年6月末)。年間フリーキャッシュフロー流出を▲1,971百万円ペースとすれば約2年強の余力(推計)
- 整備済みの高精度3次元地図資産(無形固定資産3,532百万円、うちソフトウェア3,359百万円)。ただし前述のとおり、現実が変われば毀損する性質の資産
- 非車載の顧客基盤(不動産・保険・インフラ)と、測量会社M&Aで得たネットワーク
- 政府系2社を含む株主基盤と、国交省事業の実績
ただし、これらが残ったとしても、時価総額353.9億円を正当化する資産ではありません。自己資本は6,322百万円(1Q末)で、PBRは5.60倍です。
7. 経営陣・株主構成・需給
7-1. 政府系2社で46.04%、役員持株は0.065%
| 株主 | 持株数 | 比率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 株式会社産業革新投資機構(JIC) | 7,401,200株 | 31.32% | 大量保有報告書での保有目的は「純投資」(2025/7/31変更報告、INCJから承継) |
| 株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN) | 3,478,350株 | 14.72% | 保有目的「純投資」(2025/4/1大量保有報告書) |
| 政府系2社 合計 | 46.04% | — | |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 1,137,200株 | 4.81% | — |
| 野村信託銀行(投信口) | 930,100株 | 3.93% | 野村證券グループとして4.18%の大量保有報告(2026/5/11) |
| 三井物産 | 560,500株 | 2.37% | — |
| トヨタマップマスター | 320,000株 | 1.35% | 地図分野の同業でもある |
| 役員の持株合計 | 0.065% | 15,400株(有価証券報告書・第10期) | |
🔴 需給の構造(両刃):政府系2社で46.04%を保有するため浮動株は構造的に薄く、9月4日のような日には発行済株式数の2.1倍にあたる4,970万株が1日で回転しました。これは上下どちらにも動きやすいという意味であり、有利さではありません。
そして重要なのは、両社とも保有目的を「純投資」と届け出ていることです。政府系ファンドは最終的にExit(売却)を前提とします。時期も方法も開示されていませんが、46.04%という規模の株式がいずれ市場に向かう構造は存在します。これは予想ではなく、開示から読み取れる構造の指摘です。
加えて、既存株主の売却とみられる動きがあります。三菱電機は2025年9月末時点で6.6%を保有する第3位株主でしたが、2025年12月9日の変更報告書で4.91%へ低下し、2026年3月末の上位10名からは名前が消えています。同様に、三菱HCキャピタル(2.25%)、ゼンリン(2.03%)、パスコ(2.03%)も2025年9月末の上位10名から2026年3月末には外れています。事実として上位株主の顔ぶれが入れ替わっており、事業会社株主の持分が薄まる方向に動いたと読めます(各社の売却の有無・規模を個別に断定はしません)。
7-2. 経営体制と人的資本
代表取締役社長CEOは吉村修一氏。同社は2016年に官民出資で設立された経緯を持ち、創業オーナー型ではなく、政府系株主が主導する体制です。役員持株が0.065%にとどまるのはこの成り立ちの反映ですが、経営陣が株価と同じ船に乗っている度合いは低いという事実は押さえておくべきです。判定は○(組織としては機能しているが、キーパーソンの株式インセンティブが薄い)とします。
人的資本は、従業員224名(FY2025/3)→210名(FY2026/3)と減少。平均年間給与9,128千円、平均年齢42.3歳、平均勤続年数2.9年。一人当たり営業利益は▲5.44百万円→▲8.93百万円、一人当たり売上高は33.3→27.1百万円といずれも悪化しました。人員を絞りながら売上も落ちている状態で、これは先行投資型の増員とは異なる形です。
ガバナンス面の注記:2026年6月24日に有価証券報告書と訂正有価証券報告書が同日に提出され、翌6月25日には2026年3月期決算短信の数値データ訂正が開示されています。重大な事案とは言えませんが、開示の精度という点で留意しておく事実です。
7-3. 信用需給と潜在株式
信用買い残は8月28日時点で1,354.6千株(発行済株式数の5.73%)、売り残はわずか4.5千株で、信用倍率は301倍。7月31日の買い残1,093.7千株・売り残0株から、急騰局面で買い残が積み上がりました。踏み上げの余地はほぼ無く、戻り売り圧力の側が重い構造です。
なお1Q短信の注記に「潜在株式は存在するものの、1株当たり四半期純損失であるため(潜在株式調整後EPSを)記載しておりません」とあり、潜在株式は存在します。ただし本調査では株数・希薄化率を特定できませんでした(取得不能)。上場から1年半が経過しているため、上場時のロックアップは終了しています。
需給の総合判定:重い。政府系46.04%の純投資保有、事業会社株主の持分減少、信用倍率301倍、そして直上に9月2〜4日の大商い帯——これらが重なります。
8. 適正株価の考え方(評価手法の例示・断定はしません)
この会社は営業赤字が続き、営業利益予想も非開示のため、PERは使えません。会社自身が最重要KPIに置くライセンス型売上(限界利益率が高いストック性収益)を軸に、EV/ライセンス型売上の倍率で評価します。ここで使う前提は第6章のTAM節と同じ——2030年3月期に世界HDマップ市場(2兆2,000億円)の0.25%を取る、という水準感です。割引率は赤字継続の高リスク企業として年15%、期間3年としました。
| シナリオ | 2030年3月期の前提(ライセンス型売上) | EV/ライセンス型 | EV | 株式価値 | 現在価値 | 1株価値 | 現値比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 弱気 | 3,800百万円(会社予想3,000から年+8%程度) | 3倍 | 114億円 | 140.9億円 | 92.6億円 | 約392円 | ▲73.8% |
| 中立 | 5,500百万円(年+22%。世界TAMの0.25%) | 6倍 | 330億円 | 356.9億円 | 234.7億円 | 約993円 | ▲33.7% |
| 強気 | 8,000百万円(年+39%。非車載・フィジカルAI・北米が寄与) | 9倍 | 720億円 | 746.9億円 | 491.1億円 | 約2,077円 | +38.8% |
※ ネットキャッシュは26.9億円(2026年6月末の現金及び預金4,253百万円 −
直近で残高が判明している有利子負債1,559百万円=2026年3月末の長期借入780+1年内返済725+リース54)として全シナリオに加算しています。
🔴 2026年6月末時点の有利子負債残高は開示から特定できません(1Qで長期借入金が増加したと短信に説明があるため、実際のネットキャッシュはこれより小さい可能性があります。
1Qの現預金増645百万円が全額借入によるものと仮定した下限は20.5億円で、その場合の1株価値は各シナリオで約▲18円)。
1株価値は発行済23,642,050株で除しています(潜在株式数が特定できないため、潜在株を含めるとこの水準はやや下振れします)。
8-1. 成立する条件/崩れる条件
| シナリオ | 成立する条件 | 崩れる条件 |
|---|---|---|
| 弱気 | プロジェクト型の減少が続き、ライセンス型の成長が鈍化。熊本地震の原状回復費用が重い。E2E自動運転の主流化でHDマップ需要が伸びない | 非車載(3Dmapspocket)の採用が加速し、ライセンス型が二桁成長を維持する |
| 中立 | ライセンス型が年+20%前後で積み上がり、2027年3月期の3,000百万円計画を達成。調整後EBITDAが黒字圏に定着 | 1Qの進捗16.4%が続き通期未達/熊本地震の損害額が大きい/政府系株主の売却が需給を圧迫 |
| 強気 | AI学習用データ(フィジカルAI)としての法人ライセンスが本格化し、不動産・保険・インフラでの採用が面で広がる。北米のEsriエコシステム経由の販売が立ち上がる | OEMや大手プラットフォーマーが地図データを内製・無償化する/代替技術がHDマップの必要性を下げる |
8-2. 現在の株価が織り込んでいるもの(クロスチェック)
| 指標 | 2026/9/4時点 | コメント |
|---|---|---|
| 時価総額 | 353.9億円 | 1,497円×23,642,050株 |
| PSR(FY2027/3会社予想売上70億円) | 5.06倍 | 直近実績が▲23.8%減収の企業としては高い水準 |
| EV/ライセンス型売上(FY2027/3予想30億円) | 約10.9倍 | 国内の高成長SaaSでも概ね3〜8倍のレンジ |
| PBR | 5.60倍 | 自己資本6,322百万円(2026/6末) |
| リバースDCF的な読み | 現在の時価総額353.9億円は、上記の枠組みでは強気シナリオ(2030年3月期にライセンス型80億円=会社予想の2.7倍)に近い水準です。会社が示す2027年3月期計画の達成だけでは、現在の株価は説明できません | |
8-3. 第三者試算との横並び
| 出所 | 値 | スタンス | 備考 |
|---|---|---|---|
| みんかぶ 目標株価 | 764円 | 売り | 2026/9/4時点 |
| みんかぶ AI株価診断(理論株価) | 764円 | 割高 | 過去比較・相対比較ともに割高と判定 |
| みんかぶ 個人投資家予想 | 対象外(集計中) | — | 売買予想比率は買い81%/売り19% |
| 証券アナリスト予想 | N/A(対象外) | — | カバレッジなし。小型グロース株では通常のこと |
| 本記事の中立シナリオ | 約993円 | — | ライセンス型売上×倍率に基づく試算 |
モデル系が低く出る理由:赤字企業のため利益ベースの評価が使えず、純資産や実績売上に対する倍率で判定せざるを得ないためです。本記事の中立試算(993円)はモデル系(764円)より高く出ていますが、それは2030年時点のライセンス型売上の積み上がりを織り込んでいるからです。それでも現在の株価1,497円には届きません。
9. レーティング(equity-rating-framework v2.2)
品質 ★★★☆☆(37/70) / 価格 E(大幅割高・中立シナリオ比 ▲33.7%)
テーマ適合 34/40(高い) / 国策アライン 8/10(高い) / 資本イベント素地(TOB/MBO)3/10(低い)
上抜け素地 3/6(⑥カタリストへの調整なし)
| 軸 | 点 | 根拠(数値付き) |
|---|---|---|
| ①成長性 | 5 | 3期の売上CAGRは15.6%(FY2023/3 3,681→FY2026/3 5,686)だが、直近2期は減収(7,465→5,686=▲23.8%)で1Qも▲21.3%。会社計画は+23.1%だが進捗16.4%。ライセンス型は+121.5%と伸びる一方、リカノス新規連結によるM&A分も含む |
| ②収益性 | 2 | 営業赤字継続。1Q営業損失▲999百万円(前年同期▲196=5.1倍に悪化)。一人当たり営業利益は▲5.44→▲8.93百万円と悪化。平均年間給与9,128千円に対し一人当たり売上高は33.3→27.1百万円へ低下。ROEはマイナス |
| ③収益の質・連結範囲 | 3 | 設備投資1,625に対し減価償却969でソフトウェア資産化が先行(無形固定資産2,644→3,532)。営業CF▲61は改善に見えるがFCFは▲1,971百万円。会社KPIの調整後EBITDAが政府補助金を足し戻す定義。リカノス新規連結(のれん169百万円・暫定処理)。四半期CF計算書は未作成。決算短信・有報の訂正あり。NEDO向けが1,794→84百万円へ消失する等、公的資金案件の振れが売上の質を左右する |
| ④競争優位性 | 7 | 国内で自動運転向け高精度3次元地図を全国規模で整備する数少ない事業者。政府系2社46.04%+自動車・地図・電機大手の資本参加。ただし価格決定力は未確立で、E2E自動運転による代替リスクを抱える |
| ⑤需給ポジション(直近3か月) | 8 | 6月30日808円→9月4日1,497円=+85.3%で東証グロース市場指数を大幅にアウトパフォーム。一方、信用買い残は発行済の5.73%へ増加し信用倍率301倍と需給は悪化しており、9-10点には至らない |
| ⑥カタリスト(今後3か月) | 7 | 日付の根拠があるのは2Q決算(2026年11月中旬。前年は2025年11月13日に開示)。熊本地震の損害額確定と国交省実証事業の進捗は未織り込み。上抜け素地は3/6のため調整なし |
| ⑦リスク耐性 | 5 | 自己資本比率60.1%、現金4,253百万円、継続企業の前提に関する注記なし。一方でFCF▲1,971百万円/年から手元資金は約2年強(推計)。熊本地震の損害額未確定、単一顧客GMが売上の42.8%(アンカーの「単一顧客30%超」に該当)、海外集中(1Q 87.6%/通期74.4%)、政府系46.04%のExit構造 |
上抜け素地の内訳(3/6):①売買代金の増加 ✓(9/4は889億円)/②上値のしこりが薄い ✗(9/2〜9/4に巨大な出来高帯)/③信用買い残の重石が軽い ✗(信用倍率301倍)/④踏み上げ余地 ✗(売り残4.5千株のみ)/⑤浮動株が少ない ✓(政府系46.04%)/⑥未織り込みの材料がある ✓。
🔴 両刃の注記:これは「上がりやすい」という意味ではありません。浮動株が薄く売買が集中する銘柄は、悪材料でも同じだけ下に飛びます。9月4日に高値2,045円から終値1,497円まで▲26.8%動いたのがその実例です。売買タイミングを示唆するものではありません。
国策アライン度 8/10(高い):①政府系2社(JIC・JOIN)が46.04%を出資 ②国土交通省事業への採択(2026年9月4日・物流施設内横持輸送の実証) ③補助金収入を営業外収益として複数回計上(2026年7月23日・9月4日) ④内閣官房「日本成長戦略」(2026年7月21日)で自動運転が政策課題に位置づけ ⑤過去にも同種の政策資金で実績。到達経路(採択・交付)が確認できる点は強い。
🔴 進行段階は「③実証〜④商業化の境目」。そして補助金は営業外収益であって売上ではありません。会社KPIの調整後EBITDAは補助金を足し戻す定義であり、「国策の追い風」が本業の稼ぐ力に変換されているかは、ライセンス型売上の伸びでしか確認できません。
資本イベント素地 3/10(低い):PBR5.60倍、アクティビストの大量保有報告なし。政府系2社が46.04%を保有する構造は「支配株主の存在」に該当しますが、これはTOB期待ではなく、純投資保有のExitという需給リスクとして読むべきです。詳述しません。
解釈(品質×価格マトリクス):品質★3 × 価格E は「期待先行の可能性」に位置します。テーマの本物度と国内唯一に近いポジションは確認できる一方、現在の株価は直近の業績(減収・赤字拡大)ではなく2030年に向けた強いシナリオを織り込んでいる、というのがスコアの意味です。
10. カタリストカレンダー(今後3か月)
| 時期 | イベント | 影響度 | 織り込み度 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年11月中旬(予定) | 2027年3月期 第2四半期(中間期)決算発表。1Q進捗16.4%からの巻き返しと、調整後EBITDA(通期+50百万円)の達成可能性が焦点 | ★★★★★ | 未織込 | 前年同期の開示実績(2025年11月13日に2Q開示) |
| 時期未定 | 令和8年熊本地震による地図データ被害の損害額確定。原状回復費用の発生が見込まれる | ★★★★ | 未織込 | 2027年3月期1Q決算短信「重要な後発事象」2026年8月7日 |
| 時期未定 | 国土交通省事業(自動運転車両を用いた物流施設内の横持輸送実証)の進捗・成果 | ★★★ | 一部 | 2026年9月4日 適時開示 |
| 時期未定 | 3Dmapspocketの追加採用(不動産・保険・インフラ)と、Esriエコシステム経由の北米展開 | ★★★ | 一部 | 2026年7月28日〜9月1日の一連の適時開示 |
| 時期未定 | 営業外収益(補助金収入)の追加計上 | ★★ | 一部 | 2026年7月23日・9月4日 適時開示 |
| 時期未定 | 政府系株主(JIC・JOIN、計46.04%)の保有動向。両社とも保有目的は「純投資」 | ★★★★ | 未織込 | 大量保有報告書(JIC 2025年7月31日/JOIN 2025年4月1日) |
11. 計画との整合性と計画信頼度
判定:中の下
- 照合できた点:2026年3月期は、第3四半期時点(2026年2月13日開示)の通期予想5,500百万円に対し実績5,686百万円で着地は計画超過でした。ただしその予想自体が前期比▲26.3%という減収計画であり、「下方修正後の低いハードルを超えた」という性質のものです。
- 2027年3月期:1Q時点で通期予想を据え置きました。売上進捗16.4%、調整後EBITDAは通期+50百万円に対し1Qが▲667百万円。据え置きの根拠は開示されていません。加えて、調整後EBITDAの実績は2025年3月期▲609百万円→2026年3月期▲501百万円(年間108百万円の改善ペース)であり、今期計画はその約5倍の改善速度を前提にしています。
- 検証可能性の問題:営業利益・経常利益・純利益の予想が非開示で、代わりに政府補助金を足し戻す独自KPI(調整後EBITDA)が主要指標になっています。これは「ゴールポストの移動」とまでは言えませんが、計画の達成度を外部から検証しにくくする開示設計であることは事実です。
- 成長の中身:2027年3月期の増収にはリカノスの新規連結(M&A)分が含まれます。本業の自力成長と分けて見る必要があります。
- TAMの外部裏取り:第6章のとおり、会社側資料に由来する市場規模(国交省資料の1,200億円/年)は主軸から外し、矢野経済研究所と国土交通省統計に置き換えました。
12. 強気材料(この銘柄に注目する理由)
- ライセンス型売上が前期に+121.5%(1,171→2,594百万円)、構成比15.7%→45.6%。限界利益率が高いストック収益への転換が数字で進行中
- 売上の100%がテーマ由来——「自動運転関連と呼ばれているだけ」ではなく、高精度3次元空間データそのものが本業(テーマ適合度①量的寄与10点)
- 商用採用に到達し、採用企業が実名で開示されている——東京建物、シーラ、東京海上日動調査サービス、三井不動産レジデンシャル。車載の外側に顧客が広がっている
- 国内で代替が効きにくいポジション——自動運転向け高精度3次元地図を全国規模で整備する事業者は限られ、政府系2社+自動車・地図・電機大手が資本参加するオールジャパン体制
- 国策の到達経路が確認できる——国交省事業への採択(2026年9月4日)、補助金収入の実際の計上。予算の話ではなく採択の実績
- フィジカルAIという新しい需要——「AI用途向けを中心とした法人ライセンス案件の拡大」が1Qのライセンス型を押し上げた。NVIDIA・MathWorksとの共同セミナー、東京ゲームショウ出展など、空間データのAI学習用途への展開
- 北米エコシステムへの接続——Esri Partner Network参加(2026年7月23日)とArcGIS上でのサンプル公開(8月25日)。世界最大級のGISプラットフォーム経由の販路
- 継続企業の前提に関する注記はなく、自己資本比率60.1%・現金4,253百万円を確保
13. 弱気材料・リスク(手を出す前に確認すべき点)
- 現在の株価は強気シナリオを織り込んでいる——PSR5.06倍、EV/ライセンス型売上10.9倍、PBR5.60倍。会社の2027年3月期計画の達成だけでは時価総額353.9億円を説明できません(第8章)
- 直近2期は減収——7,465→5,686百万円(▲23.8%)、1Qも▲21.3%。国内セグメントは▲62.2%
- 1Qの営業損失が前年の5.1倍(▲196→▲999百万円)。調整後EBITDAは通期+50百万円に対し1Qで▲667百万円
- 熊本地震による地図データの被害——顧客提供中の地図データの一部が使用できなくなり、原状回復費用の発生見込み。損害額は調査中で未確定
- ビジネスモデルの構造的な弱点——現実が変われば地図資産は毀損する。設備投資1,625に対し減価償却969という「更新コストを払い続ける」構造
- E2E自動運転という代替の潮流——今回の株価上昇のきっかけとなったトヨタの2028年レベル2++はE2E方式であり、HDマップ依存を下げる方向の技術。同社が当該プログラムに関与するという開示もありません
- 営業利益・純利益の予想が非開示で、主要KPIが政府補助金を足し戻す調整後EBITDA
- 政府系2社46.04%が「純投資」保有——Exit構造が存在します。加えて三菱電機(6.6%→4.91%)をはじめ事業会社株主の持分が薄まる方向に動いています
- 信用倍率301倍、買い残は発行済の5.73%。踏み上げ余地はほぼなく戻り売り圧力が重い
- 役員の持株は0.065%——経営陣が株価と同じ船に乗っている度合いは低い
- 🔴 単一顧客への集中——General Motors 1社で売上の42.8%(FY2026/3実績2,432百万円、前期も43.0%)。三菱電機モビリティ(14.0%)を加えた上位2社で56.8%。1社の車種計画変更や内製化が全社業績を直撃する構造です
- NEDO向けが1,794→84百万円へ▲95%消失(FY2025/3→FY2026/3)。国内セグメント急減の実体はこれであり、公的資金案件の切れ目が業績の断層になります
- 海外セグメントに売上が集中(1Qで87.6%、通期でも74.4%)。単一地域・単一案件の反動が全社に直撃します
- 手元資金は約2年強(FCF▲1,971百万円/年ベース・推計)。黒字化が遅れれば追加調達の可能性
- 優位の定量が確認できない——「従来比◯%削減」という比較データが開示にありません(ゲームチェンジャー判定が◎にならない理由)
- ボラティリティ——1日で+28.5%も▲15.9%も起きています。浮動株の薄さは上下ともに増幅させる構造です
14. まとめ|「唯一に近い立場」と「減収・赤字拡大」の綱引き
ダイナミックマッププラットフォームは、日本の自動運転インフラを政府主導で担う、代替の効きにくい会社です。売上の100%が高精度3次元空間データ事業で、ライセンス型は前期に倍増し、車載の外側(不動産・保険・インフラ・AI学習用データ)にも実名の顧客が並び始めました。テーマ適合度34/40、国策アライン8/10という評価はここから来ています。
一方で、直近の数字は2期連続の減収、1Qは営業損失が前年の5.1倍、進捗率16.4%。そこに熊本地震による地図データ被害という、損害額未確定の後発事象が重なりました。品質★3(37/70)に対し価格判定はE。時価総額353.9億円は、会社が示す2027年3月期計画の達成では説明できず、2030年に向けた強いシナリオを前提にしています。
ゲームチェンジャー判定は○(漸進的な改善)としました。商用採用には到達していますが、優位の定量が開示で確認できず、何より今回の上昇のきっかけとなったE2E自動運転の潮流が、高精度地図への依存を下げる方向の技術でもあるという論点が残ります。買われた材料が事業にとって順風なのか逆風なのか、現時点の開示では確定できない——これが2026年9月時点の誠実な現在地です。
次に見るべきものははっきりしています。2026年11月中旬の第2四半期決算で、ライセンス型売上が通期3,000百万円の計画線に乗ったか。調整後EBITDAが黒字方向に転じたか。そして熊本地震の損害額がいくらで確定するか。テーマの熱ではなく、この3つが事業の実体を測るものさしです。
15. 参考文献(出典ランク)
| 出典 | ランク |
|---|---|
| 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年8月7日開示)※重要な後発事象・セグメント・企業結合等関係を含む | A |
| 有価証券報告書 第10期(2025/04/01-2026/03/31)EDINET書類番号S100YITF(2026年6月24日提出)、同 第9期 S100W322 | A |
| 適時開示:営業外収益(補助金収入)の計上(2026/7/23・9/4)、国土交通省事業への採択(2026/9/4)、3Dmapspocketの採用各件(東京建物2026/7/28、シーラ8/6、東京海上日動調査サービス8/18、三井不動産レジデンシャル9/1)、Esri関連(7/23・8/25)、NVIDIA・MathWorks共同セミナー(7/24) | A |
| 大量保有報告書:産業革新投資機構(2025/7/31変更報告)、海外交通・都市開発事業支援機構(2025/4/1)、三菱電機(2025/12/9変更報告)、りそなアセットマネジメント(2025/8/7)、野村證券グループ(2026/5/11) | A |
| 国土交通省「建設関連業者登録状況(2025年度末)」2026年8月28日公表、内閣官房「日本成長戦略」2026年7月21日 | A |
| Markets and Markets『Digital Map Market Global Forecast to 2029』(有価証券報告書 第10期に当社作成の資料として引用。会社は独自検証を行っていない旨を明記) | B |
| 事業計画及び成長可能性に関する事項(2026年8月7日開示)および2027年3月期第1四半期決算説明資料(同日開示)=本記事では未参照(会社IRライブラリがJavaScript描画のためPDFのURLを特定できず)。会社自身の市場規模認識・KPIの詳細は本記事に反映されていません | — |
| 矢野経済研究所 プレスリリースNo.4105「車載ソフトウェア市場に関する調査(2026年)」2026年4月10日公表 | B |
| 自動運転向け高精度3D地図の世界市場予測(2020年13億ドル→2030年204億ドル)※調査会社予測を自動運転ラボが紹介、2019年10月公表と古い | C |
| 株探(株価・日足/月足四本値・信用残・関連テーマ銘柄数)、みんかぶ(目標株価・理論株価・個人投資家予想) | C |
| トヨタ自動車の2028年レベル2++に関する各社報道(読売新聞・産経新聞ほか、2026年8月27日)※トヨタの適時開示ではなく説明会報道 | C |
免責事項・ディスクレーマー
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