「株式市場が23時間動くようになったら、自分の投資戦略はどう変わるのか」——2026年後半、この問いは仮定の話ではなくなりました。
ナスダックの夜間取引開始日は2026年12月6日と確定し、その裏側では清算機関の24時間化がすでに稼働しています。同時に、東証系の清算機関や日本の5大金融グループはブロックチェーン上での証券決済の実証に踏み込み、改正金商法は暗号資産を「金融商品」として証券法制の隣に据えました。値動きだけを追っていても、この地殻変動の意味は見えてきません。
この記事では、「時間の壁」と「台帳の壁」が同時に壊れる構造変化を整理したうえで、多くの人が気にする「口座を作り替えて資産を入れ直す必要があるのか、その換金売りで相場は崩れるのか」という論点に設計仕様レベルで答え、そのうえで注目すべき資産をコモディティ・株式・暗号資産の3クラスに分けて具体的な数値と銘柄名で分析します。
読み終える頃には、「2027年にかけて何を見て、どこに構造的な追い風が吹き、どこに本当のリスクがあるのか」が明確になっているはずです。
1. 大きな流れ:2026年12月6日、米国株から「夜」が消える
まず事実関係を確定させます。SECは2026年4月10日、ナスダックの23時間取引(申請番号 SR-Nasdaq-2025-109)を承認しました。稼働日はナスダック公式アラートで2026年12月6日と告知されています。
設計はこうです。デイセッションが米東部時間4:00〜20:00、ナイトセッションが21:00〜翌4:00。米国株が完全に止まるのは、システム保守とコーポレートアクション処理に充てられる20:00〜21:00の1時間だけになります。日曜21:00に週が始まり、金曜20:00に終わる——事実上の「23時間×5日」体制です。
重要なのは、この改革を主導したのが取引所ではなく清算・決済インフラだったという点です。
| 時期 | 出来事 | 意味 |
|---|---|---|
| 2024年11月 | 24X National Exchangeが米国初の23/5取引所としてSEC承認 | 制度の突破口 |
| 2025年2月 | NYSE ArcaがSEC承認(実施目標は2026年末) | 既存大手が追随 |
| 2026年4月10日 | ナスダック23時間取引をSEC承認 | 本丸が動く |
| 2026年6月29日 | DTCC傘下NSCCが24×5清算を稼働開始 | 配管が5カ月先行 |
| 2026年7月7日 | SIP(証券情報プロセッサ)の時間拡大をSEC承認 | 気配・約定データの前提整備 |
| 2026年8月5日 | 夜間用LULD値幅制限(±20%)をSEC承認 | 暫定的な安全弁 |
| 2026年12月6日 | ナスダック夜間取引・SIP・FINRA TRFが同時稼働 | Xデー |
NSCCの24×5清算(日曜20:00〜金曜20:00)はすでに2026年6月29日から動いています。DTCCのBrian Steele氏とNYSEのKevin Tyrrell氏がそろって「24×5清算こそが取引時間拡大をスケールさせる鍵」と述べている通り、夜間に約定した取引へ即座にCCP(清算機関)の保証が及ぶ体制ができて初めて、取引所は夜を開けられます。取引所改革の律速要因は、常に配管の側にある——これが記事全体を貫く視点です。
ただし夜間セッションは通常時間のコピーではありません。SECは指値注文のみ(成行など非価格注文は禁止)、4:00 ETでの未約定注文の全取消、薄い流動性など7項目のリスク開示義務を条件に課しました。21:00〜24:00の約定は「翌営業日」、0:00以降は「当日」の約定日となり、この日付の付け替えが実務上もっとも神経を使う部分です。
2. もう一つの壁:証券の「台帳」がブロックチェーンに載る
時間の壁と並行して、より根源的な変化が進んでいます。証券の所有を記録する台帳そのものが、分散台帳へ移り始めました。
SECは2026年3月18日、ナスダックのトークン化証券取引を承認しました。設計が巧妙で、トークン化株式と伝統的株式は同一の板・同一価格で取引され、権利もティッカーもCUSIPも同一。決済はDTCが処理し、参加者は通常の帳簿記帳に代えてトークン決済を「選べる」だけです。決済タイムラインは変わりません。つまり「トークン化=即時決済」ではない——ここは誤解が多い論点です。
DTCC自身も自らプラットフォーム側に回りました。トークン化サービスは2026年7月に限定本番稼働、10月にフルローンチ予定で、対象はRussell 1000構成銘柄・主要指数ETF・米国債。射程にはDTCが保管する114兆ドル超の資産が入ります。担保管理基盤ではChainlinkの採用も発表済みです。
欧州も動いています。ロンドン証券取引所は2026年7月21日に24/5取引venue「LSE 24」(17:00〜翌7:50)を発表し、2027年上半期にETPから開始予定。さらに9月1日には、Krakenの親会社Paywardと組んでロンドン上場100銘柄をトークン化し、規制承認を前提に2027年からLSE 24で取引すると報じられました。ドイツ取引所傘下Clearstreamも、伝統証券とデジタル証券を単一ポートフォリオで扱うハイブリッド型基盤を2026〜2027年に段階展開します。
日本はどこにいるのか
ここで日本の位置づけを冷静に見ておく必要があります。JPX(日本取引所グループ)本体は、まだ「調査研究」段階です。
2026年4月28日に公表された中期経営計画2027のアップデートでは、ブロックチェーンは「決済効率の更なる向上等に向けた応用」、トークン化は「デジタル証券をはじめとする多様な商品の調査研究」との記載にとどまり、実装時期も数値目標も、24時間取引への言及もありません。取引時間についても、2024年11月5日の15:30への30分延伸と、2027年10月12日のランダムクローズ導入が予定されているのみです。「東証がブロックチェーン取引を発表した」という受け止めは、正確にはJPXグループの清算機関と国レベルの構想を指しています。
実際に動いているのは以下です。
- JSCC(日本証券クリアリング機構):2026年4月20日、日本国債を用いたデジタル担保管理の実証実験を開始。基盤は機関投資家向けブロックチェーンCanton Networkで、みずほフィナンシャルグループ・野村ホールディングス・Digital Asset Holdingsと共同。狙いは明確に「24時間365日・クロスボーダーの担保取引」です。
- 5大金融グループの実証:2026年2月13日、野村證券・大和証券・三菱UFJ・みずほ・三井住友の5社による「ブロックチェーン×デジタルマネーによる伝統的資産の取引と権利移転」が金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択。スマートコントラクトで振替口座簿の記録を更新し、法律上の権利を移転するという踏み込んだ設計で、対象は国債・上場株式・投資信託・社債。決済手段には3メガバンクの共同発行ステーブルコインが想定されています。
- 国レベルの構想:2026年8月26日の日経報道によれば、金融庁・財務省・日銀が株式・国債のブロックチェーン即時決済インフラを検討中。日銀当座預金の一部をトークン化する構想で、2027年前半に計画取りまとめ、本格稼働は2030年代前半。ただし報道ベースの構想段階です。
- 制度面:改正金商法・資金決済法が2026年7月15日に成立。暗号資産は金商法へ移管され「有価証券とは別の金融商品」と位置づけられ、インサイダー取引規制(5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金)が新設されました。主要規定は公布後1年以内に施行されます。
要するに日本は、「取引所の時間」ではなく「決済インフラと法制度」から入っている。米国と順序が逆です。時間軸は米国より2〜4年遅い一方、権利移転そのものをオンチェーンに載せる設計は、米国のナスダック方式(既存台帳と併存)より野心的とも言えます。
3. 証券と暗号資産の兼ね合い:融合はどこで止まっているか
ここが本記事の核心です。証券と暗号資産の融合は「進んでいる」と語られがちですが、実際には進んでいる部分と、制度が明確に拒んでいる部分がはっきり分かれています。
暗号資産側が証券市場に「輸出」したもの
第一に24/7という営業形態。CME Groupは2026年5月29日、暗号資産先物・オプションの24/7取引を開始しました(初週末は約7,200枚・想定元本約5,000万ドル)。清算を担ったのがRipple Prime(旧Hidden Road)だった点が重要で、「常時稼働市場の清算・与信」が新しい収益プールとして立ち上がっています。
第二にステーブルコインという決済通貨。時価総額は約2,900億ドル(USDT 1,833億ドル、USDC 736億ドル)、2026年6月の調整後取引高は月次1.79兆ドルと過去最高です。米GENIUS法(2025年7月18日成立)の施行は2027年1月18日または最終規則公布から120日後の早い方となります。
第三にオンチェーン担保という発想。フランクリン・テンプルトンは2026年8月25日、SEC承認を得てトークン化MMF「BENJI」(残高26億ドル)を従来型ETF・投資信託の保有資産および担保として組み入れ可能にしました。デジタルネイティブ商品が伝統的金融商品の内部で使われる初のケースです。
証券側が拒んでいるもの——3つの障壁
一方で、融合を止めている壁も明確です。
障壁①:株主権が伴わない。 現在流通しているトークン化株式の主流モデルは、株式そのものではありません。Robinhoodの株式トークンはジャージー籍子会社が発行する「デット証券(債務証券)」で、保有者に議決権も株主権も原株の所有権もありません。米国のトランスファーエージェント業界団体STAは2026年7月、発行体承認型トークンのみが真の株式であり、発行体の同意を義務化すべきとSECに意見書を提出しました。
障壁②:Reg NMSの最良執行義務との整合。 SECは2026年4月にトークン化証券向け「イノベーション免除」を予告しましたが、5月に延期、8月13日に再延期(8月14日予定の公開会合もキャンセル)。ホワイトハウスがCLARITY法案の審議への影響を懸念したこと、SIFMAらウォール街が「免除ではなく正式なルールメイキングによるべき」と反対したこと、そしてブロックチェーン上の取引の場が既存の最良執行義務とどう整合するのか答えが出ていないことが理由です。
障壁③:ネッティングを捨てられない。 これが最も本質的です。SIFMAの分析によれば多国間ネッティングは実際に動く現金を最大98%圧縮しており、それによって米国株式市場は日次平均197億株を処理できています。取引ごとに即時DVPを行うアトミック決済へ全面移行すれば、グロスの資金手当てが必要になり日中資金需要と担保拘束が激増する。「即時決済は正義」という直感は、市場全体のスループットの前では成立しないのです。
日本の兼ね合い:課税と商品性で「証券に寄せる」
日本では制度側から融合が設計されています。令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日)は暗号資産の申告分離課税20%(20.315%)を明記しました。現行の最大55%(総合課税)からの転換で、適用は2028年1月1日以降、対象は登録業者が扱う「特定暗号資産」、損失は3年繰越控除が認められます。暗号資産ETFも2028年にも解禁の見通しで、対象銘柄は内閣府令で指定される見込みです。NISA成長投資枠の対象となるかは未確定で、ここは別途政令改正が必要になります。
4. 資金は動くのか?——「売って入れ直す」は起きない
ここで多くの人が抱く、きわめて自然な疑問に答えます。「新しいシステムに移るなら、口座を作り替えたり、いったん保有株を売って現金化し、入れ直す必要があるのではないか。その換金売りが市場の大きな下落を招くのではないか」——これは市場構造の変化を考えるうえで、最も本質的な問いです。
結論から言うと、株式インフラに関する限り、その事態は設計仕様が成立を許していません。むしろ設計者たちは、まさにそれを起こさないために現在の形を選んでいます。
設計を読むと「投資家は何もしなくていい」
根拠は3つの一次資料にあります。
①ナスダックのトークン化証券(SEC承認命令 Release No. 34-105047)。 トークン化を選ぶのは投資家ではなく「DTC適格参加者」=ブローカーで、注文入力時にフラグを立て、約定後にDTCへ伝達する方式です。トークン化株は通常株と同一CUSIP・同一ティッカー・同一権利を持ち、同一の板・同一の執行優先順位で取引されます。価格差も別プールも存在しない以上、「乗り換え需要」も「裁定売り」も理論上発生しません。コーポレートアクション時にはDTCがトークンを通常の振替形態へ強制的に戻すことがあり、議決権行使やプロキシ配布の手続きも不変です。
②DTCのトークン化サービス(SECスタッフのノーアクションレター、2025年12月11日)。 ここが決定的です。原資産はDTCから一歩も出ません。参加者口座からデジタル・オムニバス口座へ振り替えられ、所有名義はCede & Co.(DTCの名義人)のまま維持されます。オムニバス口座からの移転は非トークン化まで凍結され、DTCが権利者と認識するのは従来どおり参加者です。つまり「DTCの114兆ドルがトークン化される」という受け止めは正確ではなく、実際は参加者が指定した分だけがDTC内部で振り替えられ、その写像としてトークンが発行される。移動しているのは記帳の様式であって、資産でも投資家の口座でもありません。
③日本の5大金融グループの実証(2026年2月13日)。 リリースの文言は「証券会社間取引において振替口座簿の記録とブロックチェーン上のデータを同期させる仕組みを実証します」「スマートコントラクトを用いて振替口座簿の記録を更新し、法律上の権利を移転します」です。振替口座簿の廃止・置換を示す文言は一切ありません。社債株式等振替法のもとで権利の帰属を決めるのは振替口座簿の記載であり、この設計では法的効果の源泉は振替口座簿に置いたまま、その更新の指図をブロックチェーンが担う。ブロックチェーンは法的台帳ではなく、オーケストレーション層です(※この法的整理はリリースの文言からの解釈で、当局や当事者がこの表現で説明した文書は確認できていません)。
過去2回の実績——T+1もT+2も、混乱の記録すら残っていない
この問いには、直近2回の大規模インフラ移行という実証データがあります。
| 指標 | T+2下(2024年5月平均) | T+1移行後 |
|---|---|---|
| CNSフェイル率 | 2.01% | 初日1.90%(改善) |
| 非CNS(DTC)フェイル率 | 3.24% | 初日2.92%(改善) |
| アファメーション率(21:00 ET) | 73%(1月末) | 94.55%(5/29) |
| NSCCクリアリングファンド | 128億ドル | 91億ドル(29%減) |
2024年5月28日の米国T+1移行では、フェイル率は悪化どころか低下しました。そしてSIFMA・ICI・DTCCによる事後総括レポート(2024年9月)は、株価・ボラティリティ・市場混乱について定量的な項目を一つも立てていません。それが論点にならなかったことの傍証です。2017年のT+3→T+2移行も同様で、クリアリングファンド所要額が25%(13.6億ドル)削減された一方、混乱の記録はありません。
ただし例外がある——「別建て商品」は新規資金を要求する
あなたの直感が正しく当たる領域もあります。同一CUSIP方式ではないトークン化です。
Robinhoodの欧州向け株式トークンは、前述のとおり株式ではなくデリバティブ契約(デット証券)です。原株への権利がない以上、これは既存保有株の姿を変えたものではなくまったく別の商品。買うには新しい資金が要り、その原資を捻出するために何かを売る動きは起こりえます。
日本で構想される信託型の「株式トークン」(Progmatが事務局、24時間・1円単位、2026年中の提供見通し)も、法的には株式そのものではなく信託の受益権になります。既存株主がこれを持つには、理屈のうえでは株式を信託に拠出するか、トークンを新規に買う必要が生じる。ただしこれは市場全体の強制移行ではなく追加的な新商品の組成であり、5大金融グループの「振替口座簿を同期する」方式とは別物です。この2つを混同しないことが、この論点を正確に読む鍵になります。
それでも動く資金は、株式ではなく「預金・担保・税制」にある
では資金移動はまったく起きないのか。そうではありません。起きる場所が違うのです。
経路①:銀行預金 → ステーブルコイン/トークン化預金。 ここが最大の争点で、しかも公的な数字が3桁ずれています。米銀行協会(ABA)は2026年4月14日、財務省試算を引用して「利息付きステーブルコインで米銀から6.6兆ドルの預金が流出しうる」と警告しました(算出方法は非公開)。一方ホワイトハウスCEAは同月の分析で、ステーブルコイン準備の12%のみが銀行預金として信用乗数から外れ、88%は国債投資として還流するとし、付利禁止による銀行貸出への効果は年21億ドル=総貸出の0.02%、貸出金利の変化は0.69ベーシスポイントにすぎないと試算しています。ステーブルコイン市場3,000億ドルは総預金17.15兆ドルの1.7%です。JPMorgan・BofA・Citi・Wells FargoがThe Clearing House経由でトークン化預金ネットワークを2027年前半に立ち上げるのは、まさにこの流出を防ぐためです。ただしこれは株式の換金売りではなく、銀行の信用創造の問題——株価には間接的にしか効きません。
経路②:担保のオンチェーン移行。 DTCCのCollateral AppChain(2026年Q4稼働)は、資金の「流出」ではなく「効率化」として設計されています。Finadiumとの共同試算では大手ディーラー銀行の日中資金調達コストが半減しうるとされ、日中当座貸越に縛られていた資本が解放される構図です(※Finadiumの予測であり独立検証された市場推計ではなく、解放額のドル数値は非開示)。市場から資金が抜けるのではなく、同じ資金がより速く回るようになる——方向としてはむしろ流動性のプラス要因です。
経路③:日本の2028年分離課税による売却タイミングの歪み。 これが日本の個人投資家にとって最も実務的な資金移動です。暗号資産の申告分離課税20.315%の適用は2028年1月1日以降。現行の最大55%との差は最大35ポイントに達します。合理的に行動するなら、2026〜2027年は含み益を実現せず売却を控え、2028年以降に売る。つまり足元は売り圧力を抑えるロックアップ効果が働き、代わりに2028年に繰り延べられた実現売却が集中しうるという時間差が生じます。下落リスクがあるとすれば2026年ではなく2028年、という順序です。
さらに重要なのが、優遇の対象が「暗号資産業登録簿に登録された特定暗号資産」を国内登録業者経由で売却した場合に限られる見込みという点。海外取引所での直接売却は対象外となる可能性が高い一方、取引所間の移管そのものは課税イベントではないと整理されています。つまり2027年中に「海外取引所 → 国内登録業者」への移管が、税負担ゼロで進む可能性がある。これは売却を伴わない資産の国内還流であり、市場の下落要因ではなく国内取引所の預り資産の増加要因です(対象銘柄の正確な範囲は今後の政省令待ちで、現時点では未確定)。
本当の下落メカニズムは「移動」ではなく「薄さ」
では下落リスクはどこにあるのか。整理すると4つで、いずれも換金売りではなく市場の構造そのものに起因します。
| メカニズム | 中身 | 時期 |
|---|---|---|
| ①流動性の希薄化 | 同じ需要が23時間に薄く広がり、1時間あたりの厚みが低下。薄い時間帯は逆選択が働き執行コストが上がる | 2026年12月〜 |
| ②同時カットオーバー | 12月6日にナスダック夜間・SIP・FINRA TRF・夜間LULDが一斉稼働。技術的な事故が最も起きやすい日 | 2026/12/6 |
| ③ネッティングの部分喪失 | アトミック決済が部分的に広がると日中資金需要が急増。流動性危機は資金繰りから始まる | 2027年以降 |
| ④週末ボラの伝播 | CMEの24/7暗号先物と株式の準24時間化で、週末のショックが月曜のギャップではなく即時に伝わる | 進行中 |
①と②が重なる局面——たとえば12月6日以降の薄い夜間セッションに、決算や地政学イベントが直撃する——が、この構造変化における最大のリスクです。そして±20%の夜間LULDが恒久措置ではなくフェーズ1の暫定措置と明記されていることは、当局自身がこの点を警戒している何よりの証拠です。
5. 注目資産①:コモディティ——「週末の値付け」を誰が握るか
24時間化のインパクトは、コモディティでは株式ほど大きくありません。理由は単純で、金はすでにほぼ24時間市場だからです。ロンドンOTC(LBMA)・COMEX・上海の連鎖により平日は切れ目なく取引されています。
ではどこが変わるのか。残る空白は「週末」だけで、そこを暗号資産インフラが埋め始めています。トークン化ゴールドの時価総額は2026年9月1日時点で約51億ドル(Tether Gold 26.8億ドル、PAX Gold 18.9億ドル)。2026年Q1だけで820〜907億ドルの取引高を記録し、2025年通年の846億ドルを1四半期で超えました(前年同期比で約13倍)。現物金市場が閉じている時間帯における、事実上唯一の価格発見機構になりつつあります。
なぜ金だけがブレイクしたのか。「保管が均質で、単位が完全に代替可能」だからです。銅や原油は在庫・物流・品質規格に紐づくため、24時間の価格発見と物理決済のギャップが金よりはるかに大きい。これがコモディティのトークン化が貴金属に偏在している構造的な理由です。
| 品目 | 価格(2026/9/1) | 年初来 | 構造要因 |
|---|---|---|---|
| 金(スポット) | 約$4,362/oz | 年初来 約+24% | 中銀買いH1で530トン超(Q2は前年比+62%) |
| 銀 | 約$65/oz | 年初来 約+62% | 6年連続の需給赤字、金銀比価は約67倍まで低下 |
| 銅(COMEX) | 約$6.50/lb | 前年比 約+42% | LMEは8月6日に史上最高値$14,455/t |
| プラチナ | 約$1,780/oz | 前年比 約+26% | 月間で約+10% |
| WTI原油 | 約$88/bbl | 年初来 約+33% | ホルムズ海峡が実質閉鎖継続 |
個別に見ると銀の年初来約+62%が突出しています。The Silver Instituteは2026年を6年連続の需給赤字(67百万オンス)と予想。ただし太陽光向けは薄膜化と銅への代替(thrifting)で工業用需要が2%減の約650百万オンスと4年ぶり低水準で、赤字の主因は投資需要側です。赤字幅は別ソースが2億1,500万オンスとするなど推計の乖離が大きい点は割り引く必要があります。
銅の異常事態を示すのが製錬手数料(TC/RC)です。2025年の21.25ドル/トンから2026年は0ドル/トンへ崩壊しました。製錬業者が実質無償で処理している——精鉱がそれほど不足しているということです。グラスベルグ(2025年9月に80万トンの泥流入で停止)、カモア・カクラ、コブレパナマの供給障害が重なりました。需要側では電気インフラ向けの比率が2020年の24%から2025年に30%へ上昇し、建設を抜いて最大需要源になっています。銅からこのテーマに触れるなら、丸紅(8002)など資源権益を持つ商社の分析が参考になります。
原油は逆説的です。ホルムズ海峡がIEAに「石油市場史上最大の供給途絶」と言わしめる状況にありながら、WTIは88ドル前後にとどまっています。OPEC+の減産巻き戻し(2023年以降の累計約350万b/d)と、2026年の需要が年平均で日量160万バレル減少していることが相殺しているためです。
6. 注目資産②:株式——「場」「配管」「窓口」の3層で分ける
市場構造改革で恩恵を受ける銘柄は、3つの層に整理すると本質が見えます。
第1層:場(Venue)——恩恵は「未知」
取引所そのものです。米国はNasdaq(NDAQ、株価$98.61・時価総額551億ドル)、CME($285.50・1,027億ドル)、Cboe($300.20・314億ドル)、ICE($160.70・902億ドル)。日本は日本取引所グループ(8697)で、株価2,238.5円・時価総額2兆3,097億円、FY3/27 Q1は営業収益+50.8%の655億円、営業利益+73.3%の437億円という好決算です。
ただし冷静に見るべき点があります。JPXの好決算は市況(売買代金)主導であり、24時間化やトークン化の寄与ではありません。米国勢についても「24時間化で取引高が純増した」ことを示す公開データは現時点で存在しません。同じ需要が24時間に薄く広がるだけなら、取引高は増えず1時間あたりの流動性が薄まるだけ——この可能性は真剣に考慮すべきです。
示唆的なのがBlue Ocean ATSで、オーバーナイト取引高は7億株から17億株へ伸びましたがその75〜80%はアジア太平洋発でした。24時間化の実需は「米国内投資家の時間拡大」ではなく「時差のある海外投資家」にある。日本の個人投資家にとっては、日本時間の日中に米国株を売買できるという実利的な話でもあります。
第2層:配管(Plumbing)——最も確実に恩恵を受ける層
ここが本命です。24時間化もトークン化も「システムを作り替えなければ成立しない」ため、需要が取引高に依存しません。
| 銘柄 | 位置づけ | 実データ |
|---|---|---|
| Broadridge(BR)米 | 議決権・コーポレートアクション処理、DLTレポ基盤 | 2026年7月に8.0兆ドル処理(日次平均3,650億ドル)。TTM売上74.8億ドル(+8.5%)、純利益+33.9% |
| シンプレクスHD(4373)日 | 証券・金融機関向けトレーディングシステム | 株価1,244円・時価総額2,953億円。直近Q売上+19.8%の161億円。24時間化=システム更改需要そのもの |
| Chainlink(LINK) | クロスチェーン相互運用(CCIP) | DTCCが担保基盤で採用(2026年5月)。Swift・Mastercard・JPMorganも採用 |
| Virtu Financial(VIRT)米 | マーケットメイク。取引時間拡大=スプレッド獲得機会増 | 株価$66.39・PER11.0。2025年売上+28.3%、純利益+68.1%、時価総額前年比+57.7% |
| 三菱UFJ信託(Progmat)/MUFG(8306)日 | ST・ステーブルコインの日本標準基盤 | 2025年11月にトークン化株式の共同検討開始、2026年4月に中間整理公表。連結への収益寄与は未開示 |
DTCC自体は業界所有の非上場ユーティリティですが、140万銘柄すべてをデジタル適格化する目標を掲げており、この層の需要の大きさを示しています。
第3層:窓口(Retail/Access)——収益性の実データが最も強い
24時間アクセスを商品として売れる層です。Robinhood(HOOD)は株価$104.73・時価総額942億ドルで、TTM売上49.3億ドル(+38.3%)・純利益20.7億ドル。トークン化株式・予測市場・暗号のミックスが成長を牽引し、8月31日にモルガン・スタンレーがOverweightへ格上げしました。Interactive Brokers(IBKR)はTTM売上+21.3%・純利益+34.4%です。
日本の中核はSBIホールディングス(8473)。株価3,289円・時価総額2兆1,746億円で、ODX(大阪デジタルエクスチェンジ)、PTSのジャパンネクスト証券、SBI VCトレード、株式トークンWGのすべてに関与しています。マネックスグループ(8698)はコインチェックを子会社に持ち、国内証券事業を2024年にNTTドコモへ売却済みのため暗号資産の比重が高い構成です。ほか野村ホールディングス(8604)(FY3/27 Q1は収益+31.2%・純利益+39.2%)、大和証券グループ本社(8601)(純営業収益+42.0%・純利益+80.6%)も実証実験の当事者です。
逆風を受ける側も見ておく
Blue Ocean ATSのようなオーバーナイト専業ATSは、ナスダック(12月)、Cboe EDGX(申請中)、NYSE Arca(年後半)の同時参入で正面から競合します。経営陣は「ATSモデルは今後3〜5年は優位」と主張しますが、取引所ライセンスを持つ会場はSIP統合と最良執行で有利です。また、オーバーナイト時間帯の逆選択(adverse selection)を扱った学術研究は、薄い流動性の時間帯では執行コストが高くなることを示唆しています。「24時間取引できる」ことと「24時間有利に取引できる」ことは別問題です。
7. 注目資産③:暗号資産——制度が進み、価格は下がるという逆説
2026年の最大の逆説がここにあります。トークン化と制度整備は劇的に進んだのに、暗号資産の価格は下がっている。
| 銘柄 | 価格(2026/9/1) | 時価総額 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| ビットコイン | 約$77,900 | — | 前年比 約-27% |
| イーサリアム | $2,453.69 | 2,961億ドル | 前年比 約-45% |
| XRP | 約$1.37 | 約861億ドル | ATHから約-63% |
| ソラナ | 約$102 | 約595億ドル | ATHから約-65% |
| 暗号資産全体 | — | 約2.72兆ドル | BTCドミナンス約57% |
BTCは2025年10月6日の最高値126,198ドルから約4割下落しました。現物BTC ETFの純資産は939〜990億ドル規模まで積み上がり、2026年8月だけで30億ドル超が流入したものの、年初来では約18億ドルのネット流出です。1月と6月に大幅な流出があったためで、8月の回復でも通年の穴は埋まっていません。
この逆説の含意は明確です。トークン化が進んでいるのは「トークンの価格が上がっているから」ではない。制度・インフラの整備は価格サイクルと独立に進んでおり、だからこそ「暗号資産価格に賭ける」ことと「トークン化インフラに賭ける」ことは別の投資判断になります。
個別の見どころ
イーサリアムは価格こそ半値ですが、RWA(現実資産)の受け皿としての地位は圧倒的です。20チェーン合計266億ドルのRWA TVLのうち151億ドル・56.6%がEthereum。ただし月間アクティブアドレスではRobinhood Chainが490万=全体の88.9%を占め、「資産はEthereum、ユーザーはRobinhood Chain」という分離が生じています。
XRP/Rippleは、トークン価格とは別の物語を持ちます。RippleはHidden Road(12.5億ドル、Ripple Primeへ改称)、GTreasury(約10億ドル)を含め累計約40億ドルの買収を実施。Ripple Primeの売上は買収以降3倍超、年間クリアリング高は3兆ドル超に達し、前述の通りCMEの24/7暗号先物でFCMとして清算を担っています。これらの事業は主に法定通貨とステーブルコインで稼働しており、XRPトークンの価格とは独立に成立しうる点が重要です。
ソラナは2026年8月に非投票トランザクションが記録的な52億件に達し、現物SOL ETF(BSOL)はAUM10億ドルを突破。カテゴリAUM14.9億ドルで累積純流入は年初来+33%と、主要アルトの中で最も資金流入が堅調です。CoinDeskは「Solana ETFは機関投資家の支持が厚く、XRP ETFはリテール依存度が高い」と分析しています。
RWA関連トークンではONDO(時価総額約17億ドル、11チェーンでTVL34.7億ドル)とLINK(約85億ドル)が代表格。特にLINKは、DTCCがトークン化担保基盤で採用したというRWA領域で最も重い機関採用事例を持ちます。
ステーブルコイン発行体:金利感応度という盲点
見落とされがちなのがここです。Circleの2026年Q2は、USDC平均流通残高が+25%の765億ドルに増えたにもかかわらず、リザーブ・リターン・レートが66bp低下して3.5%になったため、リザーブ収入は+5%の6.68億ドルにとどまりました。残高が25%増えても収入が5%しか増えない——金利感応度が極めて高い収益構造です。Coinbase等への分配・取引費用4.10億ドルは横ばいで、RLDCマージンは41%でした。
Tetherも同様で、2026年Q2の営業利益15億ドルは全額が米国債とレポの経常利回りに依存します。超過準備は3月末の82.3億ドルから6月末41.1億ドルへ1四半期で半減しました(金146.2トン・BTC 98,933枚の評価減が主因)。
デジタル資産トレジャリーの調整
企業のBTC保有戦略は明確な転換点にあります。Strategy(旧MicroStrategy)は845,050 BTC(評価額約661〜664億ドル、平均取得単価75,412ドル)を保有しBTC総供給の4%超を握りますが、mNAV(時価総額÷保有BTC)はピーク3.89倍(2024年11月)から2026年8月に1倍近辺まで縮小。2026年5月下旬には方針を転換して32BTCを売却(2022年以来)し、以降も売却を継続しています。メタプラネット(3350)も2025年10月に初のmNAV1倍割れを記録し、以降0.63〜1.01倍のレンジで推移しています。2026年から公正価値会計で未実現損失が四半期純利益に直接反映される点も、この構造の重さを増しています。
8. 2026年後半〜2027年の注目カレンダー
| 時期 | イベント | 影響度 |
|---|---|---|
| 2026/9/15 | 米上院CLARITY法案の手続的採決(60票必要) | ★★★ |
| 2026/9/16 | FOMC(利上げ織り込み57〜66%) | ★★★ |
| 2026/9/17-18 | 日銀金融政策決定会合(追加利上げを約9割織り込み) | ★★★ |
| 2026/10/2〜12/4 | SIP・ナスダック夜間取引の週末業界テスト(全6回) | ★★ |
| 2026/10/19 | GENIUS法・財務省規則案のパブコメ締切 | ★★ |
| 2026年10月 | DTCCトークン化サービスのフルローンチ | ★★★ |
| 2026/12/6 | ナスダック23時間取引・SIP・FINRA TRF・夜間LULDが同時稼働 | ★★★ |
| 2027年前半 | 日本の株式・国債ブロックチェーン決済インフラ計画取りまとめ | ★★ |
| 2027年上半期 | LSE 24稼働(ETPから)、トークン化英国株 | ★★ |
| 2027年内 | 改正金商法の暗号資産関連規定が施行 | ★★★ |
| 2027/10/11 | 英国・EU・スイスがT+1へ統一移行 | ★★ |
| 2028/1/1〜 | 日本の暗号資産の申告分離課税20%が適用開始 | ★★★ |
9. 結論:3つのシナリオ
ベースシナリオ(確度:高)——「配管が勝つ」
夜間取引は12月6日に稼働するが、出来高は当初薄いまま推移する。業界予測でも2028年までに米株売買代金の1〜10%が夜間へシフトする程度で、レンジの幅の広さ自体が不確実性を物語ります。この局面で確実に収益化するのは、取引高に依存しない配管層(Broadridge、シンプレクス、DTCC、Chainlink)と、24時間アクセスを商品化できる窓口層(HOOD、IBKR、SBI)です。
リスクシナリオ——「夜の事故」
薄商いの夜間に、指値のみ・SIPデータの不慣れという条件下で大きなイベント(決算、地政学、金融政策)が重なり価格が飛ぶ。±20%のLULDは恒久措置ではなくフェーズ1の暫定措置と明記されており、当局自身が調整余地を残しています。事故が起きれば規制強化と時間短縮の巻き戻しが起こりうる。イノベーション免除がすでに2度延期されている事実は、当局が慎重姿勢を崩していない証左です。
楽観シナリオ——「アジアが夜を埋める」
Blue Ocean ATSの取引高の75〜80%がアジア太平洋発だった事実が拡大再生産され、日本・韓国・インドの個人投資家が日中に米国株を売買する行動が定着する。恩恵は日本の窓口層(SBI、マネックス、楽天証券系)と米国の取引所に集中します。同時に日本の株式トークンが「24時間・1円単位」で実装されれば、日本株の海外投資家アクセスも構造的に改善します。
そして3つのシナリオのいずれにも、「投資家が資産を売って新システムに入れ直す」という局面は存在しません。第4章で見たとおり、それは設計から外されているからです。下落があるとすれば、それは資金が出ていくからではなく、薄くなった時間帯に事故が起きるからです。
どのシナリオでも共通するのは、「時間が増えること」より「台帳が変わること」のほうが最終的な影響が大きいという点です。23時間取引は既存インフラの延長にすぎませんが、権利移転そのものをオンチェーンに載せる日本の5大金融グループの実証は、成功すれば証券の存在様式そのものを変えます。時間軸は2030年代前半までと長い。しかし、そこに向けた配置は今から始まっています。
免責事項
本記事は公開情報にもとづく市場分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資助言ではなく、投資判断はご自身の責任でお願いします。記載した価格・数値は2026年9月1日時点で確認できたもので、複数ソース間で乖離がある場合は本文中に明示しています。制度・規制に関する記述には、報道ベースの構想段階や当局の最終決定を経ていないものが含まれます(SECのイノベーション免除、日本の株式トークン、暗号資産ETFの解禁時期など)。暗号資産は価格変動が極めて大きく、元本を大きく毀損する可能性があります。