「過去最高益なのに、なぜ通期見通しはこんなに低いのか」——ホンダの2027年3月期第1四半期決算を見て、そう感じた方は少なくないはずです。
営業利益5,307億円は四半期として過去最高。ところが通期の営業利益見通しは6,500億円。第1四半期だけで通期計画の8割超を稼いだことになります。数字を並べるだけでは、この落差の意味は見えてきません。
この記事では、決算短信・決算説明会資料・有価証券報告書の一次データから、この落差を生んでいる構造を分解します。
読み終える頃には、ホンダの利益がいま「どこから」出ていて、通期見通しに「何が」織り込まれているかが具体的な数字で整理できているはずです。
本記事は、自動車株ポータル(自動車株リサーチ一覧)の新規記事です。既存のトヨタ・日産・マツダ・三菱自の分析と同じ枠組みで整理しています。
1. この記事の位置づけ
本田技研工業(7267・東証プライム)は、二輪車で世界首位、四輪車で世界上位、さらに販売金融を抱える完成車メーカーである。【需要ドメイン: 二輪・新興国/北米収益/電動化(HV優位)】
本記事では2027年3月期第1四半期の決算短信・決算説明会資料・有価証券報告書・EDINETの財務データに加え、自動車株として必ず押さえる3点(想定為替と地域ミックス/電動化ミックスと収益性/関税・規制コスト)を独自に整理し、バリュエーション・Peer比較・レーティング(品質7軸+価格判定)を付与した。なお本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
株価・為替は2026年8月10日終値/同8月11日取得の値を用いた。金額は原則として会社開示の表示(億円単位)に合わせている。
2. 総合評価
品質 ★★★☆☆(41/70)/ 価格 B(割安・アップサイド +31〜35%)
資本イベント素地 2/10(低い)/ 国策アライン 1/10(該当なし)
レーティング基準は equity-rating-framework v2.2 準拠。品質スコアに価格は加算していない。
| 軸 | 点 | 根拠(数値付き) |
|---|---|---|
| ①成長性 | 6 | 直近3期の売上CAGR 8.8%(16.9兆→21.8兆円)。通期予想は+10.8%だが増額1兆円の主因は為替。四輪の1Qグループ販売は78.6万台と前年同期比6.3%減、二輪は566.3万台で同10.1%増 |
| ②収益性 | 4 | 通期の調整後営業利益率は4.8%(1兆1,700億円÷24兆1,500億円)でPeer下位。従業員195,109人(+0.5%)・平均年間給与932.6万円(+4.1%)に対し、一人当たり営業利益は調整後ベースで約600万円と2025年3月期実績625万円をやや下回る。連結人件費は非開示のため労働分配率はN/A |
| ③収益の質 | 4 | 持分法投資損益226億円は税引前利益の3.7%で軽微。一方、EV関連損失が前期1兆4,536億円・今期5,200億円見込みと巨額で期間比較が難しい。1Qの営業CF÷営業利益は0.55 |
| ④競争優位性 | 7 | 二輪は世界首位で1Q営業利益率20.5%=価格決定力の裏付け。四輪は北米が46.1万台と前年同期比0.9%増にとどまる一方、アジアは12.7万台で37.1%減(うち中国▲7.4万台) |
| ⑤需給(直近3ヶ月) | 6 | 8月10日終値1,692円は7月10日の1,495.5円から+13.1%。8月10日の売買代金257億円で流動性は十分。ただし3ヶ月騰落率の対業種指数(TOPIX輸送用機器)は本記事では未取得 |
| ⑥カタリスト(今後3ヶ月) | 7 | 日付が概ね確定した材料は第2四半期決算(11月上旬想定)と月次生産・販売実績。EV関連損失5,200億円の計上開始と熊本地震の減産影響額は未開示=未織り込み |
| ⑦リスク耐性 | 7 | 金融サービス事業を除く事業会社のネットキャッシュは1Q末で3.3兆円。親会社所有者帰属持分比率35.9%(前期末35.3%)。一方で前期に減損6,920億円を計上した実績があり、今期もEV関連損失5,200億円が控える |
上抜け素地は6項目のうち、信用倍率(8月10日時点で4.61倍)は確認できたものの、売買代金の増加率・上値のしこり・空売り比率など3項目が未取得のため、⑥への±1調整は行っていない。なお自己株控除後の発行済株式は全体の85.9%を占め、発行済株式に対する流通規模は大きい(JPX定義の浮動株比率とは異なる)。
テーマ適合度(全固体電池・SDV等)は、量産目標年の最新状況を本記事の取材時点で確認できていないため評価対象外とした。古い目標年をそのまま記載すると誤情報になるためである。
3. 会社概要とセグメント構成
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 株価(2026/8/10終値) | 1,692.0円 |
| 時価総額 | 7兆6,698億円(発行済ベース)/6兆5,870億円(自己株控除後) |
| 予想PER | 16.5倍(会社予想EPS 102.75円ベース) |
| PBR | 0.53倍(1Q末BPS 3,175円ベース) |
| 予想配当利回り | 4.14%(年間70円・前回見通しから変更なし) |
| 配当方針 | DOE 3%を目安とした安定的・継続的な配当 |
| 発行済株式数/自己株式数 | 45億3,300万株/6億3,998万株(自己株比率14.1%) |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 35.9%(1Q末) |
| 事業会社ネットキャッシュ | 3.3兆円(1Q末・金融サービス事業を除く) |
| 従業員数/平均年間給与 | 195,109人/932.6万円(前期有報) |
注意すべきは自己株式が発行済の14.1%に達している点である。市場で流通する時価総額は6兆5,870億円で、発行済ベースの7兆6,698億円とは1兆円以上の差がある。PBRを発行済ベースの時価総額で計算すると0.62倍だが、自己株を除いた実勢では0.53倍となる。
4. 自動車株の3視点
4-1. 為替感応度と地域ミックス
| 項目 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| 通期想定為替(対米ドル) | 155円 | 前回見通し145円から10円の円安方向に見直し |
| 前期実績(対米ドル) | 151円 | 今期想定は前期比4円の円安 |
| 1Q実績為替(対米ドル) | 159円 | 会社公表 |
| 足元為替(2026/8/11) | 159円台 | 同日のレンジは概ね158.9〜159.4円 |
| 乖離 | 約4円の円安方向 | 想定155円に対し足元159円台 |
会社が想定する155円に対し、足元の実勢は159円台で推移している。約4円分、会社前提より円安の側に振れている状態であり、この水準が続けば通期見通しに対して上振れ方向に働く。実際、今回の上方修正(営業利益+1,500億円)の主因は為替であり、会社は通期の為替影響を1,700億円の増益要因として織り込んでいる。
1米ドルあたりの営業利益感応度(1円/ドルあたり±X億円)は、本記事の取材範囲では通貨別の開示を確認できなかったためN/Aとする。ドルとユーロでは符号も規模も異なるため、合算した概算値を載せることはしない。なお会社は1Qの為替影響908億円の内訳として、円対米ドルで430億円、米ドル対他通貨(ブラジルレアル・カナダドル・メキシコペソ)で110億円、円対アジア通貨(インド・ルピー、タイ・バーツ、ベトナム・ドン、中国元、インドネシア・ルピアの5通貨合計)で75億円、その他293億円という区分を示している。
地域ミックスについては、1Qの四輪グループ販売台数で北米が46.1万台と前年同期比0.9%増にとどまる一方、アジアが12.7万台・37.1%減(うち中国が7.4万台減)と大きく落ち込み、四輪全体では78.6万台・同6.3%減となった。台数は減ったのに四輪の営業利益は黒字転換している——この点は次節の利益分解で扱う。
なお本記事の「グループ販売台数」は、連結子会社と持分法適用会社の完成車販売台数を合算した会社開示の定義であり、連結売上台数(1Q 四輪70.8万台)とは別物である。
4-2. 電動化ミックスと収益性
ホンダは四輪の電動化戦略を見直しており、その過程で発生するEV関連損失は前期(2026年3月期)に1兆4,536億円を計上、当期は5,200億円を見込む(前回見通し5,000億円から為替前提の変更を反映して拡大)。前期の通期営業利益が4,143億円の赤字となったのは、この損失が主因である。
重要なのはこの5,200億円が第1四半期には計上されていない点だ。会社CFOは「現在、北米を中心とするサプライヤーと交渉を進めている段階であり、この第1四半期は計上していない。今後、交渉がまとまり次第、第2四半期以降に順次計上していく」と説明している。
つまり第1四半期の5,307億円はEV関連損失を負担する前の利益であり、通期見通し6,500億円は5,200億円を負担した後の数字である。両者を単純に比較して「進捗率81.6%だから大幅上振れ確実」と読むのは誤りになる。会社はこの差を明示するため、EV関連損失を除いた調整後営業利益を併記しており、通期の調整後営業利益は1兆1,700億円(前回見通し1兆円から1,700億円の増益)としている。
電動化の方向性そのものについては、地域ごとに政策・充電インフラ・電池コストの前提が異なり、本記事では断定しない。北米ではハイブリッド車とガソリン車が牽引しており、会社側も燃費性能を評価された結果と説明している。一方で中国を中心とするアジアの落ち込みは、ローカルEV勢との競争環境を反映している可能性がある。
4-3. 関税・規制コスト
関税環境は2026年に大きく動いた。事実関係を時系列で整理する。
- 2026年2月20日: 米連邦最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税を違法と判断。
- 2026年2月24日: 代替措置として通商法122条に基づく全世界一律の暫定関税10%が発効。同月26日に法定上限の15%へ。
- 2026年7月24日: 122条は発動から150日の上限に達して失効。以降は通商法301条を根拠とする枠組みへ移行している。
- 一貫して継続: 通商拡大法232条に基づく自動車・自動車部品への関税は、IEEPA判決の影響を受けず継続している。122条・301条による一律関税の対象からは、232条対象品目として除外されている。
したがってホンダにとっての関税リスクは、122条や301条の一律関税ではなく232条の自動車関税の帰趨に絞られる。この点は報道でも混同されやすいため、区別して押さえておきたい。なお232条に基づく現行の対日自動車関税率は、本記事の取材範囲では確定的な確認ができなかったため記載しない。
業績面では、1Qの関税影響が781億円の増益要因として計上されている。これは関税がなくなったという意味ではなく、前年同期に重く効いていた関税負担が剥落したことによる前年同期比の押し上げである。前期(2026年3月期)の関税影響の見通しは、期初(2025年5月)の6,500億円から、第1四半期時点で4,500億円、第3四半期時点で3,100億円へと段階的に縮小した経緯がある。
関税をめぐる制度は変動が激しく、上記はいずれも記載日時点の情報である。
5. 業績の分解——利益はどこから出たのか
会社は増減要因を調整後営業利益(EV関連損失を除いたベース)で開示している。前年同期の調整後営業利益3,661億円に対し、当1Qは5,307億円で1,645億円・44.9%の増益となった。前年同期はEV関連損失1,220億円を計上していたため、報告ベースの営業利益は2,441億円だった。

| 要因 | 金額 |
|---|---|
| 前年同期 調整後営業利益 | 3,661億円 |
| 販売影響 | ▲61億円 |
| 売価/コスト影響 | ▲33億円 |
| 諸経費 | +67億円 |
| 研究開発費 | ▲17億円 |
| 為替影響 | +908億円 |
| 関税影響 | +781億円 |
| 当1Q 調整後営業利益 | 5,307億円 |
この分解が示す事実は明快だ。為替(+908億円)と関税(+781億円)の合計1,689億円に対し、増益額は1,645億円。つまり販売・売価/コスト・諸経費・研究開発費という事業要因の合計は差し引き44億円のマイナスであり、調整後営業利益の増益はその全額が為替と関税という外部要因で説明できてしまう。
販売影響が▲61億円となったのは、販売台数の増加はあったものの販売奨励金の増加などが上回ったためである。売価/コスト影響は原材料価格の高騰などによる552億円の減益を価格改定による519億円の増益でカバーし、33億円の減益に留めた。コスト増をほぼ相殺した点は評価できるが、利益の伸びそのものを事業の実力とみなすことはできない。
セグメント別の内訳

| セグメント | 売上収益 | 営業利益 | 営業利益率 | 前年同期の営業利益 |
|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 1兆1,411億円 | 2,339億円 | 20.5% | 1,890億円 |
| 四輪事業 | 3兆8,791億円 | 1,921億円 | 5.0% | ▲296億円 |
| 金融サービス事業 | 1兆270億円 | 1,058億円 | 10.3% | 850億円 |
| パワープロダクツ他 | 944億円 | ▲11億円 | — | ▲2億円 |
| 連結 | 6兆615億円 | 5,307億円 | 8.8% | 2,441億円 |
売上の6割超を占める四輪事業の営業利益率が5.0%であるのに対し、売上比19%の二輪事業が営業利益の44%を稼いでいる。二輪の営業利益率20.5%は四輪の4倍である。1Qのグループ販売台数は二輪566.3万台(+10.1%)、四輪78.6万台(▲6.3%)、パワープロダクツ75.2万台(▲9.2%)で、通期見通し(二輪2,280万台、四輪339万台、パワープロダクツ365万台)は据え置かれた。
なお金融サービス事業はセグメント資産17兆6,517億円を抱え、連結総資産34兆4,380億円の51.3%を占める。連結PERやPBRをそのまま製造業の物差しで読むと実態を見誤る構造になっている。
調整後ベースの利益水準
会社開示の通期調整後営業利益1兆1,700億円を起点に、税引前利益6,600億円にEV関連損失5,200億円を戻し、実効税率28%・非支配株主持分4.8%を仮定すると、調整後ベースの親会社帰属当期利益は約8,088億円、1株当たりでは約207.8円と推計される(この換算部分は当社推計であり、会社開示ではない)。
この推計は、EV関連損失を一過性として扱うことの妥当性に依存している。交渉次第で金額が上振れる可能性、および翌期以降にも追加損失が発生する可能性は排除できない。
6. 需要環境
二輪はインドを中心とするアジアとブラジルで需要が堅調で、会社は生産能力増強の効果もあったと説明している。四輪は北米で原油高に伴う低燃費車需要の高まりを背景にハイブリッド車・ガソリン車が伸びた一方、中国を中心とするアジアが37.1%減と大きく落ち込んだ。
供給面では、2026年7月28日に発生した「令和8年 熊本地震」の影響が第2四半期のリスクとして残る。グループ会社アステモの子会社であるアステモ宇城(熊本県宇城市)が被災し、ダンパーを中心に部品供給が滞った。決算発表時点の計画では熊本製作所が9日間、埼玉製作所が6日間(8月5〜19日)、鈴鹿製作所とホンダオートボディーが5日間(8月6〜19日)の生産休止とされていた。ただし会社は8月7日の更新で、熊本製作所については8月17日以降も完成車生産の休止を継続し、めどが立った工程から段階的に再開すると公表しており、終期は未定である。この減産による業績影響額は本記事の取材時点で開示されていない。
7. バリュエーション
完成車メーカーは金融事業と保有株が混在するため、連結PERだけで割安・割高を判断してはならない。以下では調整後ベースのPER、PBR-ROE、およびSOTP(事業別評価)の3つの角度から試算した。いずれも推計であり、前提が変われば結果は変わる。
| 手法 | 前提 | 理論株価 | 現在株価比 |
|---|---|---|---|
| 調整後PER法 | 調整後EPS 207.8円(推計)× Peer中央値PER 11倍 | 約2,286円 | +35% |
| PBR-ROE法 | 1Q末BPS 3,175円 × PBR 0.70倍(調整後ROE 6.5%に対応) | 約2,223円 | +31% |
| 会社予想PER(参考) | 会社予想EPS 102.75円(EV損失込み)× 11倍 | 約1,130円 | ▲33% |
3つ目の「会社予想PER」を併記したのは、EV関連損失を一過性とみなすかどうかで評価が正反対になることを示すためである。損失を一過性とみなせば+31〜35%のアップサイド、恒常的な負担とみなせば現在株価はむしろ割高という計算になる。この論点こそが、ホンダのバリュエーションの分かれ目である。
SOTP(事業別評価)の視点
1Qの二輪営業利益2,339億円と通期台数見通しから逆算すると、通期の二輪売上は約4兆5,900億円と推計される(1Q台数が通期見通しの24.8%であることから割り戻し)。営業利益率を1Qの20.5%より保守的な18%と置くと二輪営業利益は約8,270億円、税後約5,954億円。これに二輪の同業であるヤマハ発動機のPER 11.0倍を当てると、二輪事業だけで約6兆5,500億円という試算になる。
自己株控除後の時価総額は6兆5,870億円である。つまり現在の株価は、二輪事業の価値だけでほぼ説明がついてしまい、四輪事業・金融サービス事業・パワープロダクツ事業・事業会社ネットキャッシュ3.3兆円がほぼゼロ評価という計算になる。
ただしこの試算は、①二輪の通期利益率を18%と仮定していること、②ヤマハ発動機のPERをそのまま適用していること、③1Qの台数構成比が通期でも維持されると仮定していること、に強く依存する。前提を変えれば結論も変わる点は強調しておきたい。
また第1四半期は想定為替155円に対して実勢159円という円安局面であり、ピークに近い条件下での利益である可能性が高い。シクリカル銘柄をピーク益の低PERで「割安」と判断するのは典型的な誤りであり、上記の調整後EPSは会社の通期見通し(円安前提を含む)をベースにしている点に留意されたい。
価格判定: B(割安・アップサイド +31〜35%)。ただし上記の前提が崩れれば判定は変わる。
8. 東証・自動車株のPeer比較
| 銘柄 | 株価 | 時価総額 | 予想PER | PBR | 配当利回り | 直近四半期の営業利益 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ホンダ(7267) | 1,692円 | 7兆6,698億円 | 16.5倍 | 0.53倍 | 4.14% | 5,307億円(+117.4%) |
| トヨタ(7203) | 2,981円 | 43兆5,077億円 | 10.9倍 | 0.95倍 | 3.35% | 1兆634億円(▲8.8%) |
| 日産(7201) | 350円 | 1兆2,999億円 | 61.2倍 | 0.25倍 | 無配 | 779億円(黒字転換) |
| スズキ(7269) | 2,028円 | 3兆9,842億円 | 9.3倍 | 1.11倍 | 2.51% | 1,580億円(+11.2%) |
| SUBARU(7270) | 2,615円 | 1兆8,758億円 | 14.2倍 | 0.66倍 | 4.44% | 426億円(▲44.3%) |
| ヤマハ発(7272) | 1,922円 | 1兆9,568億円 | 11.0倍 | 1.49倍 | 2.60% | 958億円(約2.4倍) |
株価・指標はいずれも2026年8月10日終値ベース。予想PERは会社予想EPSベース(株探)。ヤマハ発動機は12月期決算のため、直近四半期は2026年4〜6月期=同社の第2四半期にあたる。ホンダの時価総額は発行済ベース。
ホンダの予想PER 16.5倍はPeer内で日産に次いで高いが、これはEV関連損失5,200億円で会社予想EPSが圧縮されているためである。調整後EPS 207.8円で計算すると8.1倍となり、Peer内で最も低い水準になる。一方でPBR 0.53倍は、経営再建途上の日産(0.25倍)を除けばPeer内で最も低く、SUBARUの0.66倍をも下回る。配当利回り4.14%はSUBARUに次ぐ高さとなっている。
地域・パワートレイン構成の違いにも留意が必要だ。スズキはインド偏重、SUBARUは北米偏重、ヤマハ発動機は二輪特化と、それぞれ収益構造が異なる。ホンダは二輪と四輪の二本柱に販売金融が加わる構成であり、単純な横比較には限界がある。
9. カタリストカレンダー(今後6ヶ月)
| 時期 | 内容 | 影響度 | 織り込み度 |
|---|---|---|---|
| 2026年8月中 | 熊本地震に伴う生産休止からの復旧(埼玉・鈴鹿は8/19まで) | ★★★ | 未織込(影響額未開示) |
| 毎月下旬 | 月次の生産・販売・輸出実績 | ★★ | 一部織込 |
| 2026年11月上旬(想定) | 第2四半期決算。EV関連損失5,200億円の計上開始が焦点 | ★★★★★ | 一部織込 |
| 随時 | 通商拡大法232条に基づく自動車関税をめぐる動向 | ★★★★ | 未織込 |
| 随時 | 日銀金融政策決定会合と為替(想定155円 vs 実勢159円台) | ★★★ | 一部織込 |
| 2027年2月上旬(想定) | 第3四半期決算・通期見通しの再修正有無 | ★★★★ | 未織込 |
レーティングの⑥カタリストは、このうち今後3ヶ月分を対象に採点している。
10. 財務リスク
- EV関連損失の上振れ: 5,200億円は前回見通し5,000億円から為替前提の変更で拡大した。サプライヤーとの交渉次第でさらに動く可能性がある。
- 熊本地震の供給網影響: 業績影響額が未開示。第2四半期に顕在化する。
- 232条自動車関税の変動: 一律関税(122条・301条)の対象外である一方、232条そのものの税率・対象範囲が変われば北米収益に直接効く。
- 円高転換: 想定155円・実勢159円台という円安前提に業績が支えられている。1Qの増益は事実上その全額が為替と関税によるものであり、円高方向に振れれば調整後利益の推計も下方修正となる。
- 金融サービス事業: セグメント資産17兆6,517億円と連結総資産の51.3%を占める。与信費用と資金調達環境の変化が連結業績に直結する構造にある。
- 前期の減損実績: 2026年3月期に減損損失6,920億円を計上している。
キャッシュフローは1Qで営業CF 2,925億円に対し投資CF ▲3,991億円。ただし金融サービス事業のリース資産・債権が投資CFに含まれるため、製造業の物差しでフリーキャッシュフローを評価することはできない。財務基盤としては、金融サービス事業を除く事業会社ベースで3.3兆円のネットキャッシュを保持している。
11. まとめ
ホンダの2027年3月期第1四半期は、営業利益5,307億円と四半期として過去最高を記録した。ただし会社開示の増減要因を調整後ベースで分解すると、増益1,645億円に対して為替+908億円・関税+781億円の合計が1,689億円。販売・コスト・諸経費・研究開発費といった事業要因は差し引き44億円のマイナスであり、増益は事実上その全額が外部要因で説明できてしまう。
通期見通しとの81.6%という進捗率の高さは、EV関連損失5,200億円が第2四半期以降に計上されるという会計上のタイミングの問題が大きい。ここを見落とすと、上振れ余地を過大に見積もることになる。会社自身がEV関連損失を除いた調整後営業利益1兆1,700億円を併記しているのは、この誤読を避けるためだろう。
評価の分かれ目は明確だ。EV関連損失を一過性とみなせば調整後PER 8.1倍・PBR 0.53倍で価格判定はB(割安)、恒常的な負担とみなせば会社予想PER 16.5倍で割高となる。品質★3という評価は、二輪の圧倒的な強さ(営業利益率20.5%・世界首位)と事業会社ネットキャッシュ3.3兆円という財務の厚みに対し、四輪の収益性の低さ・巨額の一過性損失・外部要因への依存という弱さが相殺した結果である。
品質×価格のマトリクスでは「品質★3 × 価格B」=妙味はあるが理由の確認が必要という位置づけになる。ここでいう「理由」とは、なぜPBR 0.53倍という水準に置かれているのかということであり、市場はEV戦略見直しに伴う損失の打ち止め時期と、四輪事業の構造的な収益性をまだ判断しかねている、という解釈が成り立つ。優良な事業を持っていることと、いまの株価が割安であることは別の問題である。次の判断材料は、第2四半期決算で計上されるEV関連損失の実額と、熊本地震の減産影響額になる。
参考にした主な一次情報
- 本田技研工業 2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(2026年8月5日)
- 同 第1四半期 決算説明会資料
- Honda 投資家情報
- EDINET提出の有価証券報告書(2026年6月18日提出・docID S100YDD9)
自動車株の他銘柄の分析は自動車株リサーチ一覧から参照できる。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は自動車・自動車部品関連企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。バリュエーション試算・為替感応度・レーティングは独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。自動車産業は為替・通商政策(関税)・環境規制・電動化の進展により業績が大きく変動します。記載した関税制度・規制内容は記載日時点の情報であり、その後変更されている可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は記載日時点の公開情報に基づいています。為替・株価は取得時点の値です。