HENNGE(4475)分析|プライム移行と売出しの需給

クラウドセキュリティサービス「HENNGE One」を提供するHENNGE株式会社(東証グロース・4475)は、2026年10月2日に東証プライム市場への市場区分変更の承認、公募増資と創業者3名による株式売出し、期末配当の増配(年6円→11円)を同時に発表しました。株価は10月9日に1,894円(前日比+9.2%)で引け、2026年2月の安値880円から約2.2倍、3年来高値1,949円(2025年6月)まで3%弱の位置にあります。

業績は、2026年9月期(2025年10月〜2026年9月)第3四半期累計で売上高9,390百万円(前年同期比+17.1%)・営業利益1,854百万円(+17.4%)。営業利益は通期予想2,057百万円に対し進捗率90.1%まで進んでいます。主力のHENNGE OneのARRは12,519百万円(+16.7%)、月次解約率は0.30%(直近12ヶ月平均)です。

本記事では、①今期の伸びと通期着地の見え方 ②ARRの分解(企業数・ユーザ数・単価)③市場規模と当社の位置 ④サイバーセキュリティというテーマと業績の距離 ⑤公募・売出し(最大約285万株)という目先の需給と適正株価の考え方——を一次情報で切り分けます。強気材料と弱気材料は対等な分量で並べ、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

本記事の基準日:2026年10月9日終値(1,894円・時価総額約616億円〈発行済株式数ベース〉)。同日夜のPTSは2,000円前後。公募・売出しの発行価格は2026年10月13日〜15日のいずれかの日に決まる予定で、基準日時点では未定です。数値は2026年9月期第3四半期決算短信・決算説明資料(8月4日)、新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ・プライム市場への市場区分変更承認・配当予想の修正(10月2日)、事業計画及び成長可能性に関する事項(2025年11月7日)、業績予想の修正(2025年5月7日)、業績予想と実績値との差異(2024年11月8日)、有価証券報告書(2025年12月24日提出)、EDINET DBの構造化データ、株探の株価・信用残データ、ITRの市場調査に関する公表情報に基づきます。PDFはMarkItDownで全文をテキスト化して読んでいます。事実(一次情報)と推察は文中で区別しています。レーティングは equity-rating-framework v2.2 準拠。
目次

1. 総合評価サマリー

品質 ★★★★☆(51/70) / 価格 C(適正・中立ケース比 約+8%)
テーマ適合 30/40(やや高い) / 国策アライン 5/10(中程度) / 資本イベント素地 2/10(低い)
上抜け素地 4/6(⑥カタリストへの調整なし) / 計画信頼度:高 / ゲームチェンジャー判定:○(漸進的な改善)
  • 今期は「+17%成長・営業利益率約20%」で着地が見えている。3Q累計の営業利益は通期予想の90.1%(前年同期の進捗は88.1%)。4Qに必要な営業利益は203百万円で、前年4Q(213百万円)並みで届く計算です。
  • 収益モデルの強さは際立つ。売上総利益率86.4%、HENNGE Oneの月次解約率0.30%、年額前払いのため営業CFは営業利益を大きく上回る(FY2025は1.52倍)。ITRの調査でIDaaS(クラウド型ID管理)市場のベンダー別売上シェア1位を5年連続で獲得しています。
  • ただしARRの伸びは減速中。前期末の+27.2%から3Q末は+16.7%へ。会社が中期目標に掲げる「FY2025→FY2029のARR年平均+20%以上」を下回るペースです。3QはARPU(ユーザ単価)が前四半期比で41円下がりました。
  • 目先の最大の論点は需給。新株110万株+創業者売出し138万株+オーバーアロットメント最大37.2万株=最大約285万株(発行済株式の8.8%)が市場に出ます。新株による希薄化は最大4.5%。一方でプライム市場への移行は10月20〜22日に実現する予定です。
  • 株価1,894円は予想PER約38倍、EV/ARR約4.2倍。中立ケースの1株価値(約1,870〜2,210円)の範囲内で、価格判定はC(適正)です。

2. 今期の伸び|「前期→当期→今期予想」と4Qのハードル

当社は単一セグメントですが、売上をHENNGE One事業とプロフェッショナル・サービス及びその他事業に分けて開示しています。売上の94.4%を占めるHENNGE One事業を主役に置きます。

百万円 FY2024(実績) FY2025(実績) FY2026(会社予想) FY2026 3Q累計
HENNGE One事業 売上 7,737 10,259(+32.6%) 12,087(+17.8%) 8,867(+18.1%)
連結売上高 8,365 10,924(+30.6%) 12,834(+17.5%) 9,390(+17.1%)
営業利益 1,015 1,793(+76.7%) 2,057(+14.7%) 1,854(+17.4%)
営業利益率 12.1% 16.4% 16.0% 19.7%(前年同期19.7%)
HENNGE One ARR(期末) 8,753(+26.3%) 11,135(+27.2%) — 12,519(3Q末・+16.7%)

出典:決算短信、2026年9月期3Q決算説明資料、EDINET DB。3年CAGR(FY2022→FY2025の連結売上)は+24.6%で、M&Aによる連結化は含みません(オーガニック)。

通期予想に対する進捗率(前年同期と並べる)

FY2026 3Q進捗率 FY2025 3Q進捗率(実績ベース) 4Qに必要な額(前年4Q実績)
売上高 73.2% 73.4% 3,444百万円(2,908・+18.4%)
営業利益 90.1% 88.1% 203百万円(213)

四半期単独では、1Q営業利益530百万円(前年同期比+0.2%)→2Q 738百万円→3Q 586百万円(+27.1%・当方算出)。1Qは広告宣伝費の先行で伸びが止まり、株価は2月に年初来安値880円をつけました。3Q決算翌日の8月5日は+16.8%と反応しています(株探・日足)。4Qは例年、広告宣伝費が増える季節性があり(広告宣伝費の通期見通しに対する3Q進捗は77.2%)、会社予想の営業利益率16.0%はこれを織り込んだ水準です。

ARRの分解|ユーザ数が伸び、単価が足踏み

HENNGE One FY2023末 FY2024末 FY2025末 3Q FY2026末
ARR(百万円) 6,929(+23.7%) 8,753(+26.3%) 11,135(+27.2%) 12,519(前年同期比+16.7%)
契約企業数(社) 2,610 2,951 3,427 3,881(+18.0%)
平均契約ユーザ数(人) 912 845 817 811
ARPU(円/人・年) 2,910(+20.8%) 3,508(+20.5%) 3,977(+13.4%) 3,975(前期末比▲2円)
月次解約率(直近12ヶ月平均) 0.54%(過去の高水準)→0.26〜0.36%で推移 0.30%

出典:2026年9月期3Q決算説明資料(ARR=契約企業数×平均契約ユーザ数×ARPU)。

FY2023〜FY2025のARR加速は、2023年のリブランディングと新プランによるARPUの年+13〜21%の上昇が主因でした。今期はARPUが横ばいに転じ、ARRの伸びは企業数(+18.0%)とユーザ数(3Qに大きめの企業約10社の獲得で+18.5万人)に依存しています。会社は2026年10月にHENNGE Oneの提供プランを刷新し、Mesh Network・Password Manager・Domain Protectionを順次追加すると発表しており、次の単価上昇の起点になるかが来期の焦点です(推察)。

3. 利益の「質」|確認できた点と割り引く点

  • 前受金モデルでキャッシュが先に入る。HENNGE Oneは原則年額一括払い。契約負債(前受金)は4,680百万円(FY2025末)で、営業CFは2,726百万円と営業利益の1.52倍。反面、自己資本比率は35.0%と低く見えます(有利子負債はほぼ無く、負債の大半が前受金)。
  • 2026年9月期上期の営業CFは▲36百万円(前年上期は+350百万円)。上期は法人税・賞与の支払いが集中する時期ですが、前年同期比で約3.9億円悪化しており、通期での回復を確認したい点です。上期の財務CFは▲1,067百万円(自己株式取得と配当)。
  • 持分法適用会社は無い。2025年4月にサンブリッジコーポレーションと米国合弁HENNGE Inc.を設立(連結子会社)。非支配株主持分は▲49.5百万円(FY2025)と小さい。
  • 人員増を吸収して利益率が上がった。FY2025の連結従業員は311→390人(+25.4%)、平均年収(単体)+2.5%に対し、一人当たり営業利益は342万円→512万円(+49.7%・期中平均人員で当方算出)。今期も3Q末までに40人純増(通期計画45人以上)。

4. 会社概要|「テクノロジーの解放(Liberation of Technology)」

1996年創業、2019年10月に東証マザーズ(現グロース)上場。Linuxサーバ管理ツール→メールセキュリティ→SaaSと事業を変え、現在はMicrosoft 365・Google Workspace等のクラウドサービスに対するシングルサインオン・アクセス制御(Identity)、メール誤送信対策・ファイル共有管理(DLP)、標的型攻撃対策(Cybersecurity)をまとめた「HENNGE One」が売上の94.4%を占めます。2026年3月にはEDR/24時間監視のMDRを統合した「HENNGE Endpoint & Managed Security」を開始し、エンドポイント・ネットワーク領域へ広げています。英語を社内公用語とし、台湾・米国に子会社を持ちます。

中期目標はFY2029にグループARR 200億円・営業利益率20%、その先にFY2035〜37でARR 1,000億円・潜在営業利益率50%を「実現可能なビジネスの確立」として掲げています(成長可能性資料)。

5. 市場規模(TAM)と当社のポジション

主要事業 市場の定義 TAM(第三者推計) 出典 当社の位置・浸透率
HENNGE One Identity 国内IDaaS市場(クラウド型のID・アクセス管理サービス)。オンプレミスのID管理製品は含まない 2024年度 303.5億円(前年度比+23.9%)。2024→2029年度の年平均+9.5%(2029年度は約478億円の計算) ITR「ITR Market View:アイデンティティ・アクセス管理/個人認証型セキュリティ市場2026」公表資料(2026年4月14日) 同社発表によれば、ITR調査でベンダー別売上シェア1位(2021年度から5年連続・2025年度予測)。シェアの%は公表情報に無い
HENNGE One全体(DLP・Cybersecurity含む) 国内のネットワークセキュリティ「サービス」(SaaS含む・19品目。メールセキュリティ、EDR運用支援、SASE運用支援等) 2030年度 7,715億円(2024年度比+58.9%=2024年度は約4,855億円の逆算・年平均約8%) 富士キメラ総研「2025 ネットワークセキュリティビジネス調査総覧 市場編」プレスリリース(2025年12月3日) ARR 125.2億円 ÷ 約4,855億円=約2.6%(市場の定義が広く、参考値)
Customers Mail Cloud等 企業向けメール配信クラウド 第三者推計は確認できず — 今期予想売上747百万円(全社の5.8%)

会社の示す潜在顧客(SAMに相当):会社は金額のTAMではなく、経済産業省「令和3年経済センサス」の従業員30人以上の企業数(30〜99人 143,670社、100〜299人 44,035社、300〜4,999人 18,667社、5,000人以上 653社=計207,025社)を潜在市場として示しています。統計自体は官公庁の一次データですが、「30人以上の全企業が顧客になりうる」という範囲の置き方は会社の定義です。契約企業数3,881社÷207,025社=約1.9%。

浸透率が2%前後というのは、伸びしろが大きいとも、IDaaSを導入する中堅・中小企業の裾野がどこまで広がるかがまだ証明されていないとも言える水準です。ITRはIDaaS市場の成長率を年+9.5%と見ており、当社のARR成長(+16.7%)は市場を上回るペースでシェアを取っている計算になります。

本記事のバリュエーション(第10章)と同じ前提:ARRの年平均成長率を弱気13%・中立17%・強気21%と置くと、FY2029のARRはそれぞれ約182億円・約209億円・約239億円です。会社目標の200億円は中立ケースでおおむね届く水準です。

ゲームチェンジャー判定(5問):○ 漸進的な改善

問い 確認できた事実 判定
①置換対象 オンプレミスのID管理・メールゲートウェイ、PPAP(パスワード付きZIP)運用、個別に導入されたセキュリティ製品。同じ支出をMicrosoft(Entra ID・Defender)、Okta等の海外勢、国内SIerが取り合う 明確
②優位の定量 解約率月0.30%・売上総利益率86%は高水準。ただし競合製品比の「コスト・工数何分の1」といった定量比較の開示は無い ×(定量なし)
③普及の障壁 全社一括導入型で、導入後のスイッチングコストは高い(=新規獲得には営業・パートナー網が要る)。採用重点の営業職は期初目標に未達(有報) 中
④実装エビデンス 契約企業3,881社・ユーザ314.9万人で商用稼働。IDaaS売上シェア国内1位(ITR) ◎(商用)
⑤既存側の反撃・代替 Microsoft 365の上位プランにID・情報保護機能が標準搭載される流れ。プラットフォーマーの機能拡充はARPUの天井になりうる 注意

国内IDaaSでは首位ですが、既存製品を置き換える定量的な優位の開示は無く、市場の中でシェアを取る優良SaaS(○)と評価します。ゲームチェンジャーにならなくても、ARR 125億円・解約率0.3%の顧客基盤、前受金で回るキャッシュ(現預金6,088百万円・2026年3月末)が残ります。

6. テーマ性の検証

テーマの定義:「AIで高度化・大量化する攻撃に対し、国が法制度と予算で防御を後押しするサイバーセキュリティ需要」。判断軸のうち、①政策(サイバー対処能力強化法、政府の対応パッケージ「YATA-Shield」)、②技術の非連続性(AIによる攻撃の自動化)、③第三者TAM(ITR・富士キメラ総研)、④実装マイルストーン(同法の段階施行)、⑤官公庁・大手の資金投入、⑥市場の関心——を満たします。2026年10月第1週には、企業の情報漏えいが相次ぐなかセキュリティ関連株が一斉に買われました(株探)。

テーマ 判定 根拠(出典)
クラウドセキュリティ(ID管理・情報漏洩対策) ◎ 実事業 売上の94.4%がHENNGE One。IDaaS売上シェア国内1位(ITR)
ゼロトラスト・エンドポイント ◎(立ち上げ期) HENNGE Endpoint & Managed Security(2026年3月)、Mesh Network(2026年10月以降)。売上寄与は非開示
なりすまし・フィッシング対策 ◎(新サービス) HENNGE Domain Protection(送信ドメイン認証の可視化・運用支援)。株探は10月9日の上昇材料として報道
生成AI ○ 「Alli LLM App Market」との連携、生成AI活用拡大を需要背景として言及(売出し開示)。AI専用製品の売上開示は無い
国のサイバー政策(官公庁向け) ○ 政策の追い風はあるが、官公庁・自治体からの受注額の開示は確認できず
量子・PQC/防衛 × 確認できず 開示・公式情報で事業・提携は確認できない

テーマ適合度(4軸・40点):30点(やや高い)

軸 点 根拠
①量的寄与 9 売上の94.4%がセキュリティSaaS。ただし「サイバー攻撃の防御」に直結するCybersecurity・Endpoint部分の売上は非開示で、主力はID管理と情報漏洩対策
②純度 8 専業・時価総額約616億円。両刃:テーマが失速したときの下落も同じ構造で大きくなる
③サイクル位置 7(拡大) セキュリティ関連株の物色は10月第1週から拡大。当社株は2月安値から約2.2倍で既に上昇済み。観察であって予測ではない
④希少性 6 国内IDaaS首位だが、関連上場銘柄は多数(サイバーセキュリティクラウド・網屋・カウリス・テリロジーHD等)、海外大手も競合
①と③の関係:業績の裏付けが厚いテーマ株です(売上の大半がセキュリティSaaSで、営業利益率約20%)。一方、10月のテーマ物色を呼んだ「サイバー攻撃の急増」に直接対応する新サービス(Endpoint・Domain Protection)の売上寄与はまだ開示されていません。株価が反応したのはテーマとプライム移行で、業績の伸び(+17%)が変わったわけではありません。

7. 大相場チェック(過去3年)

大相場あり。過去3年の安値は825円(2024年8月)、高値は1,949円(2025年6月)で約2.4倍。その後2026年2月の880円まで▲55%調整し、10月9日の1,894円まで再び約2.2倍に戻しています(株探・月足)。

日付 終値 前日比 出来高 出来事
2026/2/24 —(安値880円) — — 1Q決算(2月4日)で営業利益+0.2%と伸びが止まった後の年初来安値
2026/8/4 1,301円 +1.3% 61.0万株 15時30分に3Q決算(営業利益+17.4%、進捗90.1%)
2026/8/5 1,519円 +16.8% 254.0万株 決算翌日
2026/10/2 1,760円 ▲1.5% 39.4万株 16時にプライム移行承認・公募増資と売出し・増配を開示(大引け後)
2026/10/5 1,671円 ▲5.1% 240.2万株 開示を受けた初日。株探は「買い一巡後、下落、公募増資など警戒」と報道
2026/10/6 1,794円 +7.4% 176.1万株 セキュリティ関連株の物色が拡大
2026/10/9 1,894円 +9.2% 166.5万株 「HENNGE Domain Protection」提供開始(株探は大幅高の材料として報道)

要因(事実と推察):2〜8月の上昇は2Q・3Qで増益率が戻った業績要因が中心です(8月5日の+16.8%は決算翌日)。10月の上昇は、公募増資と売出しという需給悪化材料を出した直後に、セキュリティ関連株の物色とプライム移行の期待が上回った形です(推察)。3年来高値1,949円まで約3%で、2025年6〜8月の高値圏(1,800〜1,950円)は戻り売りが出やすい価格帯です。

8. 経営陣・株主構成・需給

経営体制:◎(創業メンバー経営+組織化)

  • 代表取締役社長 小椋一宏氏(1975年生)は1996年の創業メンバーで、1997年から社長。代表取締役副社長 宮本和明氏、取締役副社長 永留義己氏も創業期からの経営陣です。3氏の所有株式は合計14,511,600株(FY2025末・有報、発行済の約45%)。skin in the gameは「強」。
  • 社外取締役に元マネックス執行役員・DNX Venturesの髙岡美緒氏、元ABEJA CFO・ウーブン・キャピタルの加藤道子氏。2024年12月に監査等委員会設置会社へ移行、任意の指名・報酬委員会を設置。
  • 従業員は283人(FY2023)→311人→390人(FY2025)→430人(2026年6月末)と増収に合わせて増加。

株主構成(2026年3月末・上位)

株主 比率 性格
個人(小椋一宏氏と推定) 23.83% 代表取締役社長
個人(宮本和明氏と推定) 10.43% 代表取締役副社長
個人(永留義己氏と推定) 9.28% 取締役副社長
日本カストディ銀行(信託口) 2.80% 信託口
ヨイミカンアセットマネジメント/トレコ/強羅 2.17%/2.14%/2.00% 順に宮本氏・永留氏の資産管理会社(開示による)、強羅は小椋氏の資産管理会社と推定。いずれも売出しのロックアップ対象

出典:半期報告書(EDINET DB)、主要株主の異動に関するお知らせ(2025年11月20日・2026年4月27日)。EDINET DBは個人株主名を表示しないため、有価証券報告書の役員所有株式数(小椋7,748,500株・宮本3,574,100株・永留3,189,000株、2025年9月末)との連続性から当方が同定。3氏の直接保有の減少は資産管理会社への売却で、永留氏→トレコ(2025年11月20日開示)、宮本氏→ヨイミカンアセットマネジメント(2026年4月27日開示)。宮本氏は4月27日の売却後3,017,600株(議決権比率9.69%)となり主要株主に該当しなくなりました(表の10.43%は3月末時点)。

需給:重い(目先)

項目 株数 内容
公募(新株) 1,100,000株 みずほ証券の買取引受。発行価格は10月13〜15日の終値×0.90〜1.00を仮条件に決定
引受人の買取引受による売出し 1,380,000株 小椋氏715,000株・宮本氏349,000株・永留氏316,000株(3氏の直接保有の約10%)
オーバーアロットメント(OA) 最大372,000株 対応する第三者割当増資(払込期日11月11日)。シンジケートカバー取引は11月6日まで
合計 最大2,852,000株 発行済株式32,500,600株の8.8%。基準日終値換算で約54億円
  • 希薄化:新株(公募+OA)で最大1,472,000株=4.5%。ストックオプションの潜在株式は増資後の発行済株式の2.51%(会社開示)。潜在希薄化率は合計約7%(留意)。
  • 調達資金(手取概算上限2,363百万円)の使途:広告宣伝費2,046百万円(2028年9月期まで)、人材採用費317百万円。目的の一つは、プライム市場の上場基準「純資産50億円以上」の充足です(3Q末の純資産は4,114百万円)。
  • ロックアップ:創業者3名と資産管理会社3社は、受渡期日から180日間の売却制限に同意。ただし、3氏とヨイミカンアセットマネジメントの保有株の一部には締結済みの担保設定契約があり、担保権が実行された場合の株式移転はロックアップの対象外と開示されています。
  • 信用買い残は97.9万株(10月2日・発行済の3.0%)、信用倍率3.41倍。9月は3倍前後で推移。
  • アセットマネジメントOneが10月7日付の大量保有報告書で保有割合5%超を報告(株探)。

9. 計画との整合性|計画信頼度=高

コミット 計画 実績 分類
FY2024 期初予想 売上8,316・営業利益945百万円 8,365・1,015 達成(利益+7.4%)
FY2025 期初予想 売上10,441・営業利益1,574百万円(5月に10,881/1,750〜1,950へ上方修正) 10,924・1,793 上方修正のうえ達成(修正レンジ内の下半分)
FY2026 期初予想 売上12,834・営業利益2,057百万円 3Q進捗 売上73.2%・利益90.1% 進行中(利益は射程)
中期:FY2025→FY2029のARR年平均+20%以上でグループARR 200億円 — 3Q末ARR+16.7% 現時点では目標ペースを下回る

単年度の計画は達成が続いており、計画信頼度は高と判定します。中期のARR目標は、ARPUが横ばいに転じた今期のペースでは届かず、10月のプラン刷新と新サービスで単価を再び上げられるかが条件になります。今回の調達資金の大半を広告宣伝に充てる計画で、FY2027以降の営業利益率は会社目標(20%)に対し一時的に抑えられる可能性があります(推察)。

10. 適正株価の考え方(評価手法の例示)

単一事業で売上の大半がサブスクリプションのため、①来期(FY2027=2027年9月期)予想EPS×PERと②FY2026末ARR×EV/ARR+ネットキャッシュの2手法でレンジを置きます。株数は自己株式を除く31,173,568株に新株最大1,472,000株とストックオプション(約85万株)を加えた約3,350万株、ネットキャッシュは2026年3月末の現預金6,088百万円に調達手取上限2,363百万円を加えた約8,450百万円(推計。前受金は営業上の負債として控除していません)です。

シナリオ 前提(FY2027) ①PER法 ②EV/ARR法 1株価値レンジ
弱気 売上+13%・営業利益率15%(広告費増)・EPS 約46円・PER25倍/ARR+15%・3.5倍。FY2029 ARR約182億円 約1,140円 約1,590円 1,140〜1,590円
中立 売上+17%・営業利益率17%・EPS 約53円・PER35倍/ARR+17.7%・5.0倍。FY2029 ARR約209億円 約1,870円 約2,210円 1,870〜2,210円
強気 売上+21%・営業利益率19%・EPS 約62円・PER45倍/ARR+20%・7.0倍。FY2029 ARR約239億円 約2,780円 約3,040円 2,780〜3,040円

税負担率30%で純利益を算出(FY2025の実効税率29.8%)。当方試算であり目標株価ではありません。

  • 中立ケース中央値(約2,040円)は現値1,894円比で約+8%(価格判定C)。今期予想EPS 50.06円に対するPERは約38倍、EV/ARRは約4.2倍。
  • 中立が成立する条件:10月のプラン刷新でARPUが再び上向き、ARRが+17〜18%を維持。崩れる条件:ARR成長が+15%を割り込む、広告宣伝費の増加で営業利益率が15%を下回る。
  • 強気が成立する条件:Endpoint・Mesh Network・Domain Protectionの上位プランへの移行が進み、ARR成長が+20%台に戻る。
  • 短期の価格形成:公募・売出しの発行価格は10月13〜15日の終値から最大10%のディスカウントで決まります。決定前後は需給で値が振れやすい局面です。
  • 第三者試算:証券会社のコンセンサス目標株価は確認できず(N/A)。

11. レーティング(equity-rating-framework v2.2)

軸 点 根拠(数値)
①成長性 8 3年売上CAGR+24.6%(オーガニック)、今期予想+17.5%。ただしARR成長は+27.2%→+16.7%に減速
②収益性 9 売上総利益率86.4%、3Q累計営業利益率19.7%、ROE40.6%(FY2025)、一人当たり営業利益+49.7%
③収益の質 8 営業CF÷営業利益1.52倍(FY2025)、持分法なし。ただし今期上期の営業CFは▲36百万円
④競争優位性 8 IDaaS売上シェア国内1位(ITR・5年連続)、月次解約率0.30%。Microsoft等のプラットフォーマーと競合
⑤需給(直近3ヶ月) 2 3ヶ月で+66.6%(7月1日1,137円→1,894円)と大幅アウトパフォームだが、最大8.8%相当の公募・売出しが進行中(ルーブリックの「増資・売出し」に該当)
⑥カタリスト(今後3ヶ月) 8 発行価格決定(10月13〜15日)、プライム移行(10月20〜22日)、通期決算とFY2027予想(11月5日予定)
⑦リスク耐性 8 有利子負債ほぼゼロ・現預金6,088百万円、顧客3,881社に分散。創業者株式の担保設定はリスク要因
合計 51/70 ★★★★☆

上抜け素地(6項目):4/6 → 調整なし

①売買代金の急増(10月5〜9日の出来高は140万〜240万株、9月は概ね40万〜90万株・○)②3年来高値まで約3%(○)③信用買い残97.9万株・倍率3.41倍(×)④売り残は9月以降減少(×)⑤創業者関係の保有が約半分で浮動株が限られる(○)⑥FY2027予想が未織込(○)。両刃の注記:浮動株が限られ売買が膨らんだ銘柄は、公募・売出しの受け渡しや悪材料で同じだけ大きく下にも動きます。上昇を示唆するものではありません。

オーバーレイ(合計点に加算しない)

  • 国策アライン度 5/10(中程度):政府のサイバーセキュリティ関係予算(令和7年度2,051億円)と補正予算、サイバーセキュリティ戦略・YATA-Shield、サイバー対処能力強化法、予算の複数年継続は確認。一方、当社の官公庁・自治体からの受注額(到達経路)と中計への政策の組み込みは確認できず。「政策の追い風は確認できるが到達経路は未確認」です。
  • 資本イベント素地 2/10(低い):創業者3名の持株比率が高い、浮動株が限られる——の2項目のみ。PBR約14倍・親会社なし。

解釈:品質★4×価格C=「品質相応の価格」。ただし目先は公募・売出しの需給が価格形成を左右します。

12. カタリストカレンダー(今後3ヶ月+)

時期 内容 影響度 織り込み度
2026年10月13〜15日 公募・売出しの発行価格決定(終値×0.90〜1.00)。OA株数もこの日に決定 ★4 一部
2026年10月20〜22日 公募・売出しの受渡し、東証プライム市場へ移行(発行価格決定日の5営業日後) ★4 概ね織込済
2026年10月以降 HENNGE Oneのプラン刷新、Mesh Network・Password Managerの提供開始 ★3 一部
2026-11-05(予定) 2026年9月期決算、2027年9月期の会社予想(株探の決算発表予定日) ★5 未織込
2026-11-06 シンジケートカバー取引期間の終了 ★2 —
2026-11-11 OAに対応する第三者割当増資(最大372,000株)の払込期日 ★2 概ね織込済
2027年4月頃(受渡日の180日後) 創業者・資産管理会社のロックアップ期間終了 ★3 未織込

13. 強気材料 vs 弱気材料

強気材料 弱気材料
今期は営業利益の進捗90.1%で、通期予想の達成が射程 ARR成長は+27.2%→+16.7%に減速。中期目標(年+20%以上)を下回るペース
IDaaS国内シェア1位(ITR・5年連続)、月次解約率0.30%、売上総利益率86% ARPUが横ばいに転じた。Microsoft 365等のプラットフォーマーが同じ機能を標準搭載する流れ
前受金モデルで営業CFは営業利益の1.5倍、有利子負債ほぼゼロ 今期上期の営業CFは▲36百万円と前年から悪化
Endpoint・Mesh Network・Domain Protectionでゼロトラスト領域へ拡大、10月にプラン刷新 新サービスの売上寄与は非開示。調達資金の大半を広告費に充て、来期の利益率は抑えられうる
東証プライム移行(10月20〜22日予定)で投資家層が広がる可能性 最大285万株(8.8%)の公募・売出し。創業者が直接保有の約10%を売却
増配(年6円→11円)と累進配当方針 創業者株式の一部に担保設定があり、担保実行時の移転はロックアップ対象外
計画信頼度「高」(FY2024・FY2025を達成) 株価は2月安値から約2.2倍。予想PER約38倍で、3年来高値1,949円の手前

14. まとめ|プライム移行と売出しを経て、ARPUの再加速を確認する局面

HENNGEは国内IDaaSで首位を持ち、解約率0.3%・売上総利益率86%・前受金で回るキャッシュという、SaaSとして完成度の高い収益モデルを持つ企業です。今期は営業利益の進捗が90%に達し、業績面の不安は小さい一方、成長率はARPUの頭打ちで+27%から+17%に鈍っています。株価1,894円は中立ケースの範囲内で、目先はプライム移行と最大8.8%の公募・売出しという需給イベントが価格を決める局面です。

次に見るべきもの:

  1. 発行価格と需給:10月13〜15日の発行価格(ディスカウント率)、OA株数、シンジケートカバー取引の有無。
  2. 11月5日予定の通期決算とFY2027予想:売上+17%前後を続けるか、広告宣伝費の増加で営業利益率がどこまで下がる計画か。
  3. 4Q末ARRとARPU:ARR+16.7%が維持・加速するか。10月のプラン刷新でARPUが再び上向くか(四半期ARR増分の目安は前年4Qの約6億円)。
  4. 上期に悪化した営業CFが通期でどこまで戻るか、創業者株式の担保設定に関する追加開示。

関連記事:サイバーセキュリティクラウド(4493)|急騰と業績の距離/グロース株リサーチ一覧(東証グロース・プライム・スタンダード)

15. 参考文献(出典ランク)

  • 【A】HENNGE株式会社「2026年9月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」/【B】「2026年9月期第3四半期決算説明資料」(2026年8月4日)
  • 【A】同「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」「東京証券取引所プライム市場への上場市場区分変更承認に関するお知らせ」「配当予想の修正(増配)に関するお知らせ」(2026年10月2日)
  • 【A】同「2026年9月期 第3四半期決算短信(開示事項の変更及び公認会計士等による期中レビューの完了)」(2026年10月2日)、「主要株主の異動に関するお知らせ」(2025年11月20日・2026年4月27日)
  • 【A】同「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2025年11月7日)、「業績予想の修正に関するお知らせ」(2025年5月7日)、「業績予想と実績値との差異に関するお知らせ」(2024年11月8日)
  • 【A・構造化】EDINET DB(有価証券報告書・半期報告書の財務・大株主・役員の状況)
  • 【B】同社プレスリリース「HENNGE One、5年連続シェアNo.1を獲得」(2026年4月27日)
  • 【B】アイ・ティ・アール(ITR)「IDaaS市場規模推移および予測」公表(2026年4月14日・要約値)
  • 【B】富士キメラ総研「ネットワークセキュリティに関わるサービス/製品の国内市場を調査」プレスリリース(2025年12月3日)
  • 【A】経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」(会社資料経由)
  • 【C】株探(株価・日足/月足・信用残・ニュース)
免責事項:本記事は公開情報に基づく調査・分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。公募・売出しへの応募を勧誘するものでもありません。レーティング・価格判定・適正株価のレンジは独自の定量評価であり、将来の株価を保証するものではありません。筆者は財務アドバイザーではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。数値の推計箇所は本文中に「推計」と明記しています。

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