マツダ(7261)決算分析|実質PER3.7倍の中身

「PBR 0.37倍、配当利回り4.95%、ネットキャッシュ3,719億円。それなのに、なぜ評価されないのか?」

2026年8月4日発表の2027年3月期第1四半期で、マツダの営業利益は328億円と前年同期の461億円の損失から789億円の改善。しかも増益要因の最大は為替(+413億円)ではなく台数・構成(+434億円)でした。同時に決算を発表した他社が軒並み「為替頼み」だったのとは、ここが決定的に違います。

この記事では、マツダ(7261)を自動車株として必ず押さえる①為替感応度と地域ミックス ②電動化ミックスと収益性 ③関税・規制コストとインセンティブの3点で独自に整理し、営業利益の増減分解、セグメント別損益、ネットキャッシュ控除後の実質PER、4手法の理論株価レンジ、レーティング(品質7軸+価格判定)までを算出しました。

読み終える頃には、「安く見えることの根拠と、その裏にある理由」の両方が見えているはずです。なお本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にあります。

※ 本記事は自動車株リサーチシリーズ一覧の一つです。同時期に決算を発表したトヨタ(7203)日産(7201)三菱自(7211)の分析もあわせてどうぞ。

本記事はマツダ(7261)の決算を四半期ごとに更新する継続レポートです(URL固定)。
現在の対象: 2027年3月期 第1四半期(2026年8月4日発表)/最終更新: 2026年8月4日
更新履歴: 2026-08-04 初版公開(2027年3月期1Q)

【サブセクター: 完成車(乗用車・準大手)】 【需要ドメイン: 北米収益(売上比58.5%)+ 欧州回復 + 電動化】 【レーティング基準: equity-rating-framework v2.2 準拠】

目次

総合評価:品質 ★★★☆☆(36/70) / 価格 B(割安・中位ケースで+22%)

公開情報に基づく独自の定量評価であり、投資判断を推奨するものではありません。「良い会社か」と「今の株価が割安か」は別の問いのため、以下は分けて提示します。

区分 判定 要点
【A】品質スコア ★★★☆☆(36/70) 財務は業界最良(自己資本比率43.3%・ネットキャッシュ3,719億円)。一方で収益性が3点と最も低く、一人当たり営業利益は3期で約5分の1に
【B】価格判定 B(割安) 予想PER 7.8倍・PBR 0.37倍。ネットキャッシュ控除後の実質PERは約3.7倍。理論株価レンジ1,050〜1,650円(中位 約1,350円)=現値比 +22%(推計)
【C-1】資本イベント素地 4/10(中程度) ネットキャッシュ+政策保有株(簿価)が時価総額の72.5%。PBR1倍割れ、政策保有株1,360億円
【C-2】国策アライン度 2/10(低い) 電動化政策の追い風はあるが、同社固有の到達経路は本調査では未確認
【C-3】テーマ適合度 17/40(中程度) 電動車の売上比率は本資料では非開示

🔴 品質★3 × 価格B は「妙味はあるが理由の確認が必要」の象限です。安く見える最大の根拠はネットキャッシュ3,719億円ですが、そのキャッシュを生み出す力が落ちていることが同時に確認できます(2026年3月期の営業キャッシュ・フローは2億円、フリー・キャッシュ・フローはほぼゼロ)。この2つを同時に見るのが本記事の主眼です。

品質7軸スコアの内訳(各10点・計70点)

評価軸 スコア 根拠(数値付き)
①成長性 4 / 10 売上は4兆8,277億円(2024年3月期)→4兆9,182億円(2026年3月期)で3期CAGR約+0.9%と横ばい。1Qのグローバル販売は304千台(+1.2%)で、売上+16.9%との差は為替と単価。通期計画の台数1,324千台(+8.3%)は1Q実績+1.2%からの大きな加速が前提
②収益性 3 / 10 1Q営業利益率2.6%(前年▲4.2%)、通期計画2.7%はPeer下位。2026年3月期ROEは1.9%。🔴 一人当たり営業利益は514万円(2024年3月期)→382万円→109万円と3期で約5分の1(従業員48,685→47,144人・▲3.2%、平均年収6,894→7,112千円・+3.2%)。労働分配率は販管費内訳の開示がないため算出不可
③収益の質・連結範囲 5 / 10 連結範囲の変更なし、当四半期の減損なし、特別損益も軽微。持分法による投資利益41.8億円は税引前利益399億円の10.5%で限定的。一方、経常利益428億円が営業利益328億円を上回る構造(受取利息74億円・為替差益57億円)。🔴 1Qの営業CFは▲406億円、FCFは▲692億円で、営業CF÷営業利益はマイナス。前期(2026年3月期)の営業CFは2億円と実質ゼロ
④競争優位性 4 / 10 米国販売107千台(+7.4%)、欧州43千台(+11.6%)と主要市場で伸長し、ラージ商品群とスカイアクティブでブランドの独自性はある。しかし年間販売130万台規模で規模の劣位は構造的、中国は四半期18千台と限定的。🔴 日本セグメントは1Qも▲139億円の営業赤字(前期通期▲1,618億円)で、輸出拠点の採算が構造的に厳しい
⑤需給ポジション(直近3ヶ月) 8 / 10 3ヶ月騰落率+10.1%(1,008.5円→1,110.5円)。同期間のトヨタ▲2.7%に対し約13ptのアウトパフォーム。信用倍率6.51倍はトヨタ14.30倍・日産16.75倍より軽い。年初来安値978.5円(2026/5/12)から+13.5%
⑥カタリスト(今後3ヶ月) 6 / 10 通期見通しは2026年5月12日公表値を据え置き。経常利益の1Q進捗30.6%・純利益32.9%と、営業利益進捗21.9%より先行しており上振れ余地が残る。会社前提155円/ドルに対し足元157.91円と2.91円の円安。2Q決算は11月上旬見込み。上抜け素地は6項目中3項目該当のため調整なし
⑦リスク耐性 6 / 10 自己資本比率43.3%(劣後特約付ローンの資本性考慮後44.0%)はセクター最高水準、ネットキャッシュ3,719億円。ただし北米売上比率58.5%は日産63.0%に次ぐ一極集中で、メキシコ生産を持つため関税感応度が高い。前期の営業CFがほぼゼロ、1QもFCF▲692億円とキャッシュ創出は弱い
合計 36 / 70 ★★★☆☆

★変換: 56-70=★★★★★/46-55=★★★★☆/36-45=★★★☆☆/26-35=★★☆☆☆/0-25=★☆☆☆☆。バリュエーションは合計点に加算せず、価格判定A〜Eとして別掲しています(v2.2)。

会社概要と株主構成

項目 値(2026年8月4日終値ベース)
株価 1,110.5円(前日比 ▲31.5円・▲2.76%)
時価総額 7,016億円(発行済ベース)/7,005億円(自己株控除後)
予想PER 7.8倍(会社予想EPS 142.67円)
実質PER(ネットキャッシュ控除後・推計) 約3.7倍
PBR 0.37倍(1株当たり純資産 約3,040円・2026年6月末自己資本ベース)
配当利回り 4.95%(2027年3月期予想 年55円=中間25円・期末30円/据え置き)
配当性向 38.6%(会社見通しベース)
自己資本比率 43.3%(劣後特約付ローンの資本性考慮後44.0%)
ネット・キャッシュ 3,719億円(現金及び現金同等物1兆2,148億円-有利子負債8,429億円)
政策保有株(帳簿価額) 1,360億円(2026年3月期有報)
期中平均株式数 630,800,328株(1Q)/期末自己株式 996,926株
従業員数・平均年収 47,144人・7,112千円(2026年3月期有報)
信用倍率 6.51倍

大量保有報告書(5%以上)の提出者は、野村證券グループ7.04%、三井住友信託グループ6.66%、ブラックロック・ジャパングループ6.17%、三菱UFJフィナンシャル・グループ5.06%といずれも運用会社系で、支配株主は存在しません。なお2022年8月25日提出の変更報告書では、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズが4.03%を保有し、保有目的に「増配、自己株式の買入の頻度又は総量、金庫株消却その他資本政策の変更を要求することがある」と記載しています。ただし報告日から時間が経過しており、現在の保有状況は本調査では確認できていません。

🔴 黒字転換の中身:為替より台数が効いた

本決算の最大のポイントがここです。営業利益の改善789億円の内訳を見ます。

要因(億円) 26年度1Q (参考)26年度 通期計画
台数・構成 +434 +698
為替 +413 +798
原材料・物流費等 ▲240 ▲817
コスト改善 +157 +776
成長投資 ▲98 ▲305
固定費他 +123 ▲166
+789 +984

出典: マツダ 2027年3月期第1四半期決算短信および決算参考資料(連結)。

🔴 増益要因の最大が「台数・構成+434億円」で、為替+413億円を上回っています。これは同時期に決算を発表した他社と決定的に異なる点です。トヨタは営業利益が▲1,026億円の減益で為替+3,450億円がなければ大幅減、三菱自は増益+45億円に対し為替+113億円で為替を除けば減益、日産は改善+1,570億円のうち米国関税の一過性益が+611億円でした。為替を除いても+376億円の改善が残るのはマツダだけです。

ただし手放しでは評価できません。原材料・物流費等が▲240億円、成長投資が▲98億円と、コスト側の重石は継続しています。通期計画では原材料・物流費等が▲817億円まで拡大する前提で、これをコスト改善+776億円でほぼ相殺する設計になっています。

セグメント(所在地)別営業利益

セグメント(億円) 25年度1Q 26年度1Q 増減 (参考)25年度通期
日本 ▲642 ▲139 +503 ▲1,618
北米 ▲32 +412 +444 +1,675
欧州 38 61 +23 +180
その他の地域 43 66 +23 +327
調整額 +132 ▲71 ▲203
連結 ▲461 +328 +789 +516

🔴 日本セグメントは赤字幅が縮んだだけで、まだ▲139億円の赤字です。前期は通期で▲1,618億円。マツダは国内工場とメキシコ工場が生産の中心で、1Qの国内生産は188千台(+12.5%)と伸びています。作れば作るほど日本セグメントに原価が乗り、利益は輸出先の北米セグメントで計上される——この構造が、為替と関税に対する感応度の高さの正体です。

売上の地域構成:北米が58.5%

セグメント(外部顧客への売上高・百万円) 25年度1Q 26年度1Q 構成比(当1Q)
日本 213,458 212,599 16.5%
北米 601,104 752,566 58.5%
欧州 151,317 172,569 13.4%
その他の地域 133,891 147,972 11.5%
合計 1,099,770 1,285,706 100%

自動車株3視点で見るマツダ

① 為替感応度と地域ミックス

為替レート 25年度1Q実績 26年度1Q実績 会社の通期前提 足元(2026/8/4) 前提との差
米ドル/円 145円 160円 155円 約157.9円 +2.91円(円安方向)
ユーロ/円 164円 185円 180円 約181円台 約+1円(円安方向)

出典: 決算参考資料(連結)。足元レートは2026年8月4日19:25時点の株探掲載値157.91円。前期実績は151円/175円。為替は日々変動します。

マツダの通期前提155円は同時期に決算を発表した4社で最も保守的な部類です(トヨタ160円、三菱自154円、日産150円)。足元157.9円は前提より2.91円の円安で、この点だけを見れば上振れ余地があります。

🔴 会社は通貨別の1円あたり感応度を開示していません。ただし1Qの為替寄与+413億円は、ドル円が前年145円→160円と15円動いた結果です。単純に割り戻せば1円あたり約27.5億円/四半期(推計)となりますが、これはユーロやメキシコペソを含んだ全通貨合算の粗い試算であり、会社開示の感応度ではありません。北米売上比率58.5%・メキシコ生産という構造上、ドル円とペソ円が逆方向に効く点には注意が必要です。

② 電動化ミックスと収益性

🔴 マツダは今回の決算資料でパワートレイン別(ICE/HEV/PHEV/BEV)の構成比を開示していません。電動車比率はN/A(本資料では開示なし)とし、推計で埋めることはしません。開示から確認できる投資水準は次のとおりです。

項目(億円) 25年度1Q 26年度1Q 25年度通期 26年度 通期計画
設備投資 225 200 1,200 1,500
減価償却費 290 308 1,211 1,200
研究開発費 445 400 1,609 1,600

通期の設備投資計画1,500億円は前期1,200億円から+25%と積み増す一方、研究開発費は横ばい。営業利益の増減分解でも「成長投資」が1Qで▲98億円、通期で▲305億円の負担として計上されています。投資は増やしつつ、それが利益を圧迫する局面にあります。

🔴 電動化の方向は断定しません。マツダの強気シナリオは「ラージ商品群の高単価モデルで台当たり利益を確保しつつ、北米で電動化ラインアップを段階的に整える」、弱気シナリオは「規模の劣位から電動化の開発負担を吸収しきれず、規制対応コストが利益率をさらに削る」——地域別の政策と電池コスト次第で、どちらも成立します。

③ 関税・規制コストとインセンティブ

制度 状況(2026年8月4日時点) マツダへの含意
通商拡大法232条 自動車関税 日本車は15%(従来の2.5%を含む合計。2025年9月に27.5%から引き下げ適用)。自動車部品は関税適用プロセス確立まで適用免除(2026年7月24日時点・JETRO) 🔴 北米売上比率58.5%かつ国内生産からの輸出比率が高く、セクターで最も感応度が高い一角
IEEPA(相互関税) 徴収停止。2026年2月20日に米最高裁が違憲と判断、同月24日に徴収終了。米CBPは4月20日から還付申請の受付を開始 1Qの増減分解に関税の単独項目はなく、日産のような大型の一過性益も現れていない
通商法301条 追加関税 2026年7月24日午前0時1分に日本を含む60カ国・地域へ発動。対日は12.5%(合算方式)。232条対象の自動車・鉄鋼は除外 完成車は対象外

🔴 関税率・適用範囲は変動が激しく、上記は記載日時点で確認できた情報です。マツダは1Q決算資料で関税影響額を単独項目として開示していません。

マツダは関税影響額を独立した項目として開示していません。増減分解では「原材料・物流費等▲240億円」に含まれるとみられますが、内訳は非開示です。北米売上比率58.5%・国内生産188千台(+12.5%)という構造からは、セクターの中で最も関税感応度が高い一角と位置づけるのが妥当です。この点は、同じく北米偏重のSUBARUと共通する論点になります。

通期計画の進捗

項目 26年度1Q実績 26年度通期計画 1Q進捗率 25年度実績
売上高 12,857億円 55,000億円(+11.8%) 23.4% 49,182億円
営業利益 328億円 1,500億円(+190.8%) 21.9% 516億円
経常利益 428億円 1,400億円(+6.2%) 30.6% 1,318億円
親会社株主帰属純利益 296億円 900億円(+156.5%) 32.9% 351億円
グローバル販売台数 304千台(+1.2%) 1,324千台(+8.3%) 23.0% 1,223千台

通期見通しは2026年5月12日公表値を据え置き。

経常利益30.6%・純利益32.9%と、営業利益の進捗21.9%を上回っています。営業外に受取利息74億円・為替差益57億円が乗っているためで、会社が前提としている為替(155円)より足元が円安(157.9円)で推移すれば、通期の上振れ余地が残るという読み方ができます。

ただし台数側は課題です。1Qの+1.2%に対し通期は+8.3%。地域別では欧州が通期+20.5%、北米が+8.1%と強気の前提で、その他地域は1Qに▲14.0%と落ちています

業績推移とキャッシュ創出力

決算期 売上高 営業利益 純利益 ROE 従業員数 一人当たり営業利益
2024年3月期 4兆8,277億円 2,505億円 2,077億円 13.1% 48,685人 514万円
2025年3月期 5兆189億円 1,861億円 1,141億円 6.5% 48,783人 382万円
2026年3月期(直近実績) 4兆9,182億円 516億円 351億円 1.9% 47,144人 109万円
2027年3月期(会社計画) 5兆5,000億円 1,500億円 900億円

🔴 決算期ラベル検算済み: EDINETの fiscalYear 2026 = 2026年3月期。売上4,918,172百万円=4兆9,182億円で決算参考資料の「49,182億円」と一致。出典: EDINET DB/決算短信・参考資料。

🔴 一人当たり営業利益が514万円→109万円と3期で約5分の1になっています。従業員は3.2%減、平均年収は3.2%増ですから、人員を絞っても利益率の低下をまったく吸収できていない状態です。2027年3月期計画の1,500億円が達成されても、一人当たり318万円程度(推計)で2024年3月期の6割強にとどまります。

キャッシュフロー(億円) 25年度1Q 26年度1Q 25年度通期
営業活動 ▲1,411 ▲406 +2
投資活動 +443 ▲286 ▲9
フリー・キャッシュ・フロー ▲968 ▲692 ▲6
財務活動 ▲257 ▲275 +1,050
ネット・キャッシュ(期末) 2,897 3,719 4,430

🔴 ここが「割安」を評価するうえで最も重要な留保です。2026年3月期の営業CFは2億円、FCFは▲6億円と実質ゼロ。1Qも棚卸資産の増加でFCF▲692億円です。ネットキャッシュは前期末4,430億円から3,719億円へ四半期で711億円減少しています。バランスシート上の現金は厚いものの、それを積み増す力は現在ほぼ働いていません

バリュエーション:4手法による理論株価レンジ

手法 前提 理論株価 現値1,110.5円比
PER法 会社予想EPS 142.67円 × 6〜9倍 856〜1,284円 ▲22.9%〜+15.6%
PBR-Peer法 1株当たり純資産 3,040.4円 × 0.35〜0.50倍 1,064〜1,520円 ▲4.2%〜+36.9%
ミッドサイクルEPS法 過去3期平均純利益1,190億円 → EPS 188.6円(推計)× 6〜8倍 1,132〜1,509円 +1.9%〜+35.9%
実質PER法(ネットキャッシュ控除後) 下記参照 1,446〜1,873円 +30.2%〜+68.7%
第三者コンセンサス みんかぶ目標株価(2026年8月4日時点) 1,224円 +10.2%
統合レンジ/中位 1,050〜1,650円/約1,350円 +22%

実質PER(ネットキャッシュ控除後)の計算

項目 金額
時価総額(自己株控除後) 7,005億円
ネット・キャッシュ ▲3,719億円
実質的な事業価値 3,286億円
会社予想 親会社株主帰属当期純利益 900億円
実質PER 約3.7倍
(参考)政策保有株の帳簿価額1,360億円も控除した場合 約2.1倍
妥当な実質PERを6〜9倍と置いた場合の理論時価総額 5,400〜8,100億円+ネットキャッシュ3,719億円=9,119〜11,819億円
1株換算 1,446〜1,873円

価格判定:B(割安・+15〜40%)

🔴 実質PER 3.7倍という数字を額面どおり受け取らないでください。3つの留保があります。①ネットキャッシュには運転資金として事業に拘束されている分が含まれ、全額を株主に返せるわけではありません。②その原資である営業キャッシュ・フローが前期ほぼゼロ、1QもFCFマイナスで、キャッシュの厚みは過去の蓄積であって現在の稼ぐ力ではありません。③会社予想の純利益900億円は前期比+156.5%の大幅回復が前提で、これが未達なら分母が変わります。なお、みんかぶの株価診断は同日時点で「割高」となっており、指標の取り方で結論は逆にもなります。

東証 類似自動車株比較(2026年8月4日終値)

銘柄 コード 株価 時価総額 予想PER PBR 配当利回り 信用倍率 特徴
マツダ 7261 1,110.5円 7,016億円 7.8倍 0.37倍 4.95% 6.51倍 北米58.5%・国内生産の輸出比率が高く関税感応度が最上位。ネットキャッシュ3,719億円
トヨタ自動車 7203 2,918.5円 42兆5,955億円 10.6倍 0.93倍 3.43% 14.30倍 HV優位・全方位。1Qに3.6兆円の自己株買い
ホンダ 7267 1,575.0円 7兆1,395億円 23.6倍 0.52倍 4.44% 4.61倍 二輪が主要利益源
SUBARU 7270 2,584.0円 1兆8,536億円 14.0倍 0.65倍 4.49% 8.83倍 北米偏重でマツダと構造が近い
日産自動車 7201 322.2円 1兆1,967億円 56.3倍 0.23倍 0.00% 16.75倍 利益は販売金融依存。無配・再建中
三菱自動車 7211 348.0円 5,082億円 18.6倍 0.51倍 2.87% 2.88倍 ASEAN・豪州偏重

出典: 株探(2026年8月4日終値)。PER・PBRの算定基準を揃えるため、全社とも同一ソースの値を使用しています。

マツダは6社中で予想PERが最低(7.8倍)、配当利回りが最高(4.95%)、PBRは日産に次いで低い(0.37倍)という位置です。定量指標だけを並べれば最も「安い」銘柄ですが、その裏側にあるのがROE 1.9%と一人当たり営業利益109万円という収益性の低さです。安さと収益性の低さは同じ事実の裏表だと理解する必要があります。

カタリストカレンダー(今後6ヶ月)

時期 内容 影響度 織り込み度
毎月下旬 月次の生産・販売・輸出実績、米SAAR、欧州ACEA登録台数 ★★★☆☆ 一部
随時 為替(会社前提155円/ドルに対し足元157.91円と2.91円の円安) ★★★★★ 一部
随時 米国の通商政策(232条自動車関税15%の変更有無、メキシコ生産の扱い) ★★★★★ 一部
随時 原材料・物流費の動向(通期▲817億円の前提) ★★★★☆ 一部
2026年11月上旬(見込み) 第2四半期決算・通期見通しの修正有無(現在は5月12日公表値を据え置き) ★★★★★ 未織込
2027年2月上旬(見込み) 第3四半期決算 ★★★★☆ 未織込

🔴 レーティング⑥の採点は「今後3ヶ月」の窓(2026年8月〜11月)で行っています。

上抜け素地チェック(6項目・🔴 両刃の注記あり)

# 項目 判定 根拠
1 売買代金の増加 7/31週の出来高4,740万株は前週2,620万株から増加。ただし売買代金の1ヶ月/3ヶ月平均は本調査では未取得
2 上値のしこりが薄い × 52週高値1,395.0円(2026/2/18)まで+25.6%と距離がある
3 信用買い残の重石が軽い 信用倍率6.51倍はトヨタ14.30倍・日産16.75倍・SUBARU 8.83倍より軽い
4 踏み上げ余地 × 空売り比率・貸借残の詳細は本調査では未取得のため判定不可
5 浮動株が少ない × 支配株主が存在せず浮動株比率は高い。1日の売買高1,757万株と流動性も十分
6 未織り込みの材料 通期見通し据え置きに対する上振れ余地(経常・純利益の進捗が営業利益を上回る)

🔴 3/6項目のため⑥スコアの調整はありません。本項は「上がりやすさ」の指標ではなく、値動きの振れやすさの構造を見るものです。売買タイミングを示唆するものではありません。

財務リスクの整理

  • 財務の厚みはセクター最良水準:自己資本比率43.3%(劣後特約付ローンの資本性考慮後44.0%)、ネットキャッシュ3,719億円。政策保有株の帳簿価額も1,360億円あります。
  • ただしキャッシュ創出は止まっている:2026年3月期の営業CF 2億円・FCF ▲6億円。1QもFCF ▲692億円で、ネットキャッシュは四半期で711億円減少しました。
  • 北米一極集中と関税感応度:北米売上比率58.5%で、国内生産は1Qに188千台(+12.5%)と増加。輸出依存度の高さは円安メリットと関税リスクの両方を増幅します。メキシコ生産も抱えており、通商政策の変更に対する感応度はセクター最上位の一角です。
  • 日本セグメントの構造赤字:1Q ▲139億円、前期通期▲1,618億円。生産拠点としての採算改善が中期の課題です。
  • その他地域の減速:1Qの販売は56千台(▲14.0%)。通期は+4.8%の前提です。
  • 通期計画の回復幅が大きい:営業利益+190.8%、純利益+156.5%。前期が極端に落ち込んだ反動という側面はありますが、未達となればバリュエーションの前提が変わります。

オーバーレイ評価(加算しない別掲)

資本イベント素地:4/10(中程度)

🔴 買収されるという予想・断定ではなく、公開情報で確認できる構造的特徴の集計です。

  • ✓ PBR 1倍割れ(0.37倍)
  • ✓ ネットキャッシュ3,719億円+政策保有株(帳簿価額)1,360億円=5,079億円が、自己株控除後時価総額7,005億円の約72.5%
  • ✓ 政策保有株の縮減圧力(帳簿価額1,360億円は東証・投資家からの縮減要請の対象となりうる規模)
  • ✓ 同業種で経営統合・協業の事例あり(ホンダ・日産の協業協議が一次情報として公表されている)
  • ✗ 支配株主・親子上場に該当せず(大量保有報告書の提出者はいずれも運用会社系)
  • ✗ 経営陣の持株は345,385株(0.055%)でMBOの原資にならない水準
  • ✗ 直近1年のアクティビスト大量保有報告は確認できず(シルチェスターの報告は2022年8月で1年超前)
  • ✗ 流動性は高く浮動株も潤沢

国策アライン度:2/10(低い)

電動化・GX関連の政策的追い風は業界全体に存在しますが、🔴 マツダ固有の到達経路(交付決定・採択事業者としての名前・政策予算に紐づく売上計上実績)は本調査では確認できませんでした。したがって判定は「低い」に留め、政策予算額を同社の売上と結びつけることはしません。

テーマ適合度(電動化):17/40(中程度)

スコア 根拠
①量的寄与 3 / 10 電動車の売上比率は本資料では非開示のため定量確認不能。PHEVは投入済みだが構成比の開示なし
②純度 5 / 10 時価総額7,016億円の中型完成車メーカー。電動化は主業の一部であり、テーマの成否が企業価値を直接左右する構造ではない
③サイクル位置 5 / 10 電動化テーマ全体としては成熟局面。主要銘柄は既に大きく物色された後
④希少性 4 / 10 電動化では後発の位置づけで、関連上場銘柄は多数存在。その中での本命性は限定的
合計 17 / 40 中程度

🔴 ①量的寄与3点と③サイクル位置5点の乖離に注意してください。電動化はテーマとして材料視されうる領域ですが、マツダの電動車売上比率は開示がなく、業績への寄与を定量的に確認できません。この状態では「株価はテーマとして反応しうるが、業績の裏付けを定量確認できていない」と読むのが正確です。②純度が中程度であることは、テーマが失速したときの下落も中程度という意味であり、有利・不利のどちらでもありません。

まとめ:改善の質は4社で最も良い。問われるのはキャッシュ創出力

2027年3月期第1四半期は、同時期に決算を発表した4社の中で、改善の「質」が最も良い決算でした。

  1. 為替を除いても改善が残る唯一の会社。営業利益の改善789億円のうち、最大の要因は台数・構成+434億円で、為替+413億円を上回ります。トヨタ(為替+3,450億円を除けば大幅減益)、三菱自(為替+113億円を除けば減益)、日産(改善の+611億円が米国関税の一過性益)とは対照的です。
  2. 財務はセクター最良水準。自己資本比率43.3%、ネットキャッシュ3,719億円、政策保有株1,360億円。合わせて時価総額の72.5%に相当します。予想PER 7.8倍・PBR 0.37倍・配当利回り4.95%はいずれも6社で最良の部類で、ネットキャッシュ控除後の実質PERは約3.7倍になります。
  3. それでも収益性は最下位圏。ROE 1.9%、一人当たり営業利益は514万円→109万円と3期で約5分の1。前期の営業CFは2億円、1QのFCFは▲692億円で、キャッシュの厚みは過去の蓄積であって、現在の稼ぐ力ではありません

品質スコアは36/70の★3(★3帯の下限)、価格判定はB(割安)。マトリクス上は「妙味はあるが理由の確認が必要」の象限です。安く見えることの根拠(ネットキャッシュ・低PBR・高配当)と、安く据え置かれている理由(低ROE・キャッシュ創出力の低下・北米一極集中と関税感応度・日本セグメントの構造赤字)は、どちらも同じ決算資料から確認できます。どちらか一方だけを見て判断すると誤ります。

今後3ヶ月で確認すべきポイントは4点です。①1Qで▲406億円だった営業キャッシュ・フローがプラスに転じるか(棚卸資産の増加が一時的か構造的か)、②通期台数計画+8.3%に対し月次がどう推移するか(1Qは+1.2%)、③会社前提155円に対し為替がどこで落ち着くか(現在2.91円の円安=上振れ要因)、④2Qで通期見通しが上方修正されるか(経常・純利益の進捗が営業利益を上回っている)。特に①は、「割安さ」の前提そのものを検証する指標になります。

免責事項・ディスクレーマー

本記事は自動車・自動車部品関連企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。バリュエーション試算・実質PER・ミッドサイクルEPS・為替感応度・レーティングは独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。自動車産業は為替・通商政策(関税)・環境規制・電動化の進展により業績が大きく変動します。記載した関税率・規制内容は記載日時点の情報であり、その後変更されている可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。

本記事の情報は2026年8月4日時点の公開情報に基づいています。株価・為替・時価総額は同日時点の取得値です。レーティングは equity-rating-framework v2.2(品質7軸70点+価格判定A〜E+オーバーレイ)に準拠しており、旧基準(v1)の★とは単純比較できません。

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主な出典

  • マツダ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」および決算参考資料(連結)2026年8月4日
  • マツダ 有価証券報告書(2026年3月期)/EDINET DB
  • EDINET 大量保有報告書(三菱UFJフィナンシャル・グループ 2026年3月30日、三井住友信託銀行 2026年2月5日、野村證券 2025年12月19日、ブラックロック・ジャパン 2025年3月19日、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ 2022年8月25日)
  • 株探・みんかぶ(株価・PER・PBR・信用倍率・時系列・目標株価、2026年8月4日時点)
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)米国関税情報(2026年7月27日版ほか)

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