QPS決算|黒字でも営業赤字、防衛省697億の実力は

「防衛省から5年で697億円」——このニュースだけを見ると、QPSホールディングス(東証グロース・464A)はもう成長が約束された銘柄に見えます。2026年5月期の本決算も、経常利益11.6億円・純利益11.5億円と黒字で着地しました。ところが損益計算書をよく見ると、営業損益は8.3億円の赤字です。

「黒字なのに営業赤字」——この一見矛盾した数字の意味を読み解かないと、この銘柄の実力もリスクも見えてきません。

この記事では、QPSホールディングス(464A)の本決算の中身・利益の質・過去3年の大相場・テーマ性の真偽・適正株価レンジ・中期経営計画との整合性を、強気材料と弱気材料の両面から整理します。

読み終える頃には、「防衛省案件は本物か、株価はどこまで期待できるか」を自分で判断する材料が揃っているはずです。

本記事は東証グロース上場銘柄の調査・分析です。事実(開示・一次情報)と推察を分けて記載し、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は2026年7月14日開示の決算短信・事業計画及び成長可能性に関する事項(決算説明資料)等に基づきます。投資判断はご自身の責任でお願いします(末尾の免責を必ずお読みください)。

※ 本記事はグロース株調査レポート一覧の一つです。同じ東証グロースの国策・AI関連銘柄としてABEJA(5574)も参考にどうぞ。

目次

1. 会社概要|九州大学発、小型SAR衛星のコンステレーション企業

株式会社QPSホールディングス(証券コード464A、決算期5月、東証グロース)は、九州大学発の宇宙ベンチャー・株式会社QPS研究所を中核子会社とする持株会社です。QPS研究所は2023年12月に東証グロースへ上場(旧コード5595)、2025年12月1日に単独株式移転で持株会社体制へ移行し、上場実体が現在のQPSホールディングス(464A)になりました。本社は福岡市、代表取締役社長CEOは大西俊輔氏。会計基準は日本基準(連結)で、時価総額は約1,030億円(2026年7月14日終値1,844円ベース)です(出典:2026年5月期決算短信)。

事業は「地球観測衛星データ事業」の単一セグメント。自社開発の小型SAR(合成開口レーダー)衛星「QPS-SAR」を打ち上げてコンステレーション(衛星群)を構築し、雲や夜間でも地表を観測できるレーダー画像データを官公庁・民間に提供します。展開式の大型パラボラアンテナ(特許取得済)で46cm分解能を実現するのが技術的な強みです。2026年5月末時点で9機を商用運用中、2026年7月1日には13号機「ミクラ-Ⅰ」の打上げにも成功しています(出典:決算説明資料、会社ニュース)。

2. 売上の「質」|粗利率わずか8.7%、利益は補助金が支える構造

この銘柄を評価するうえで最も重要なのが、連結の利益がどこから生まれているかです。単一セグメントのため事業別開示はありませんが、損益計算書を分解すると構造がはっきり見えます。

FY2026(2026年5月期)損益 金額 備考
売上高 3,803百万円
売上原価 3,473百万円 衛星の減価償却費・通信費等
売上総利益(粗利率) 330百万円(8.7% 運用機数増で原価が先行
販管費 1,163百万円
営業損益 △833百万円 営業利益率 △21.9%
営業外収益 2,508百万円 補助金収入1,728+共同研究収入712+受取利息45等
経常利益 1,166百万円 営業外の補助金等で黒字化
親会社株主純利益 1,152百万円 EPS 23.24円

事実:経常利益1,166百万円・純利益1,152百万円は黒字ですが、その原資は営業外の宇宙戦略基金による補助金収入1,728百万円+共同研究収入712百万円=合計2,440百万円です。本業(営業段階)は833百万円の赤字で、粗利率も8.7%しかありません。推察:つまりこの黒字は「事業として稼いだ利益」ではなく「政府補助金で赤字を埋めて余った分」です。会社自身も売上に補助金等を足した「事業収益」6,312百万円という独自指標を強調していますが、投資家としては連結PER(実績79倍)やPSRを額面どおり受け取ると評価を誤ります。営業黒字化はFY2027計画(営業益300百万円)に懸かっている段階、という理解が出発点になります。

3. 本決算サマリー|売上+42%で伸びるも、機数増で営業赤字に転落

2026年5月期は持株会社化後の初決算のため短信上は前期比較がありませんが、決算説明資料には中核子会社QPS研究所ベースの前期実績が併記されています。

指標 FY2025(参考) FY2026実績 前期比
売上高 2,681百万円 3,803百万円 +41.8%
営業利益 85百万円 △833百万円 赤字転落
経常利益 △210百万円 1,166百万円 黒字化
純利益 △1,848百万円 1,152百万円 黒字化
EBITDA(会社定義) 521百万円 3,106百万円 +2,584
事業収益(売上+補助金等) 2,693百万円 6,312百万円 +3,619

事実:2026年4月に始まった防衛省「衛星コンステレーション事業」が画像データ提供の新たな収益の柱となり、売上は+41.8%伸長しました。一方で営業損益は前期+85百万円から△833百万円へ転落しています。推察:これは業績悪化というより、償却対象衛星が期末2機→8機へ増えたことで減価償却費(1,678百万円)が先行計上されたためで、先行投資型ビジネスの宿命です。売上の増加が減価償却の増加に追いつくかどうかが、営業黒字化の分水嶺になります。

4. 過去3年の大相場チェック|上場直後に約7.7倍、その後は長期調整

個人投資家が最も気にする「過去に数倍化したか」を確認します。QPSはこの点で典型的なテーマ株の大相場を経験した銘柄です。

事実:2023年12月6日に公開価格390円で上場(初値860円)した後、上場直後の安値643円(2023年12月7日)から、わずか約3.5か月で上場来高値4,975円(2024年3月22日)まで約7.7倍に急騰しました。公開価格比では約12.8倍です。翌2025年5月期も高値3,060円(2024年6月)を付けましたが、その後は長期調整が続き、7月14日終値は1,844円。ピーク(4,975円)比では約37%の水準です(出典:IRBANK、株探)。

推察:この急騰は、業績が後追いで正当化したというより、①「宇宙・防衛・SAR」というテーマ買い、②新規上場直後で浮動株が少なく需給が軽かったことが主因のマネーゲーム的な相場だったと考えられます。裏を返せば、当時の高値で買った投資家の戻り売り(やれやれ売り)圧力が上値に厚いということです。「過去に7.7倍になった」という記憶は再急騰期待を刺激する一方、需給の重しにもなる——この両面を意識する必要があります。

5. テーマ性検証|宇宙・防衛・国策は◎、AIは○、半導体系は×

個人投資家が好むテーマについて、事業として取り組んでいるかを開示ベースで検証します(◎実事業/○ビジョン段階/×確認できず)。

テーマ 判定 根拠(出典:決算短信・成長可能性資料)
小型SAR衛星・宇宙インフラ ◎ 実事業 9機を商用運用中(+13号機を2026/7打上げ)。36機体制を計画。46cm分解能・特許取得済の展開式アンテナ。
防衛・安全保障 ◎ 実事業 防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を2026年4月開始。契約期間5年・売上見込697.3億円
国策・政府支援(宇宙戦略基金) ◎ 実事業 宇宙戦略基金の交付金(支援上限212.4億円)を採択。FY2026に補助金収入1,728百万円を計上。
AI(オンボードAI/衛星データ解析) ○ 実証段階 JAXA案件でオンボードAI(OBC)・PPP実証機を搭載。解析ソリューションはM&A・アライアンス含め「向上させる」方針段階。
半導体/核融合/量子 × 確認できず これらの領域での事業・提携は開示で確認できない。期待材料に織り込むのは根拠が薄い。

事実:宇宙・防衛・国策の3テーマは、契約金額・補助金額・運用衛星数という具体的な数字で裏付けられた◎の実事業です。提携先も防衛省・内閣府・JAXA・経産省という官公庁の格が高い先ばかりで、テーマの本物度は高いと言えます。推察:一方でAIは「衛星データ×AI解析」という方向性は示すものの、まだ実証・構想段階で売上開示はありません。SAR衛星というハードウェア主体の企業であり、ソフト/AI銘柄として過度に評価するのは実態と距離があります。

6. 強気材料(ポジティブ)

  • 防衛省697億円の長期契約:5年間で売上見込697.3億円の「衛星コンステレーション事業」が2026年4月始動。FY2026は11.6億円のみ計上で、残り約686億円は2031年5月期にかけて認識される。収益の可視性が極めて高い
  • FY2027は売上+163%・営業黒字化計画:防衛省案件の通年寄与(売上70億円以上見込み)で、FY2027は売上100億円(+162.9%)、営業利益300百万円(黒字転換)、経常20億円、純利益19億円を計画。
  • 国策マネー:宇宙戦略基金(上限212億円)が来期以降も順次交付。政府の宇宙基本計画は「2030年代早期に宇宙市場8兆円」を目標に掲げる。
  • 参入障壁:小型SAR衛星は技術的ハードルが高く、世界的にも参入企業は限定的。20年以上の小型衛星開発実績と「設計・製造から運用までの一気通貫体制」。
  • 強固な財務基盤:自己資本比率74.6%、現預金212億円、2026年1月にシンジケートローン62億円(みずほ銀行アレンジャー)、3月に第三者割当増資152億円を実行。
  • 戦略的資本業務提携:スカパーJSAT・三井住友海上火災保険・ミツウロコグループHDが第三者割当を引受。海外・民間市場での需要創出を狙う。
  • 市場の成長性:SAR衛星の世界市場は2026年約70億ドル→2034年約215億ドルへ拡大予測(出典:Research and Markets社)。

7. 弱気材料・リスク(ネガティブ)

  • 継続企業の前提に関する「重要事象等」が存在:短信は大規模な先行投資と営業赤字の継続を理由に重要事象等の存在を明記(ただし資金確保により「重要な不確実性は認められない」と結論)。グロース投資でも意識すべき先行投資型の脆弱性
  • 利益が補助金依存:経常・純利益の黒字は補助金+共同研究収入2,440百万円が原資。営業段階は赤字で、補助金は将来細れば利益が消える性質。
  • 薄い粗利率:粗利率8.7%。減価償却が重く、機数増局面では原価が売上に先行しやすい。
  • キャッシュアウトの大きさ:FY2026の営業CFは△526百万円、フリーCFは△20,023百万円。36機体制まで大規模投資が続き、追加調達・希薄化の可能性。
  • 希薄化:2026年3月に第三者割当で730万株を新規発行。過去には第8回新株予約権(約80億円)も。株数増加が1株価値を薄める。
  • 打上げスケジュール依存・遅延実績:FY2026に予定した2機がRocket Lab社の打上げ計画変更で2026年7月以降にずれた。売上認識が打上げ・検収タイミングに左右される。
  • 衛星運用・減損リスク:設計寿命5年。過去にSAR3・4号機をロケット不具合等で喪失、5・6号機も不具合を経験(5号機は2026年2月復旧)。不具合時は減損損失計上の可能性。
  • 為替感応度:FY2027予想は1US$=160円前提。打上げ費用はドル建て(専用便で約8〜9百万米ドル)で、想定より円高でも円安でもコスト・採算がぶれる。
  • 戻り売り圧力:上場来高値4,975円からピーク比63%安の水準。高値覚えの売りが上値で意識されやすい。
  • 民需の不確実性:現状は官公庁(特に防衛省)依存。今後の成長期待の一角である民間需要の立ち上がりペースは未知数。

8. カタリストカレンダー(今後半年〜1年)

時期 イベント 注目点
2026年7月1日 QPS-SAR13号機「ミクラ-Ⅰ」打上げ成功(済) 運用機数の積み上がり
2026年7月15日 機関投資家・アナリスト向け決算説明会 FY2027計画・防衛省案件の進捗補足
2026年7月以降 Rocket Lab社便で当初予定の2機を含む打上げ 遅延の解消/新たな遅延の有無
2026年8月26〜27日 有価証券報告書提出・定時株主総会 事業等のリスク・資本政策
2026年10月頃 FY2027 第1四半期決算 防衛省案件の通年寄与ペース、営業黒字化の確度

9. 適正株価の考え方|将来EBITDAシナリオと第三者試算(評価手法の例示)

QPSは単一セグメントで、かつ現状の利益が補助金依存のため、SOTP(事業別合算)や連結PER一発はなじみません。ここでは将来の収益力(会社計画のEBITDA)に倍率を当てるシナリオ方式で試算します。以下は断定的な目標株価ではなく、評価手法の例示で、前提が変われば結論も変わります。

前提:FY2027会社計画EBITDA 6,000百万円、ネットキャッシュ=現預金21,248−有利子負債6,300=14,948百万円、株数55.86百万株。

シナリオ 想定EV/EBITDA 1株価値(試算) 現値1,844円との比較
弱気 12x 約1,560円 △16%
中立 18x 約2,200円 +19%
強気 24x 約2,850円 +54%

クロスチェック(複数手法):①中期計画のFY2031 EBITDA 200億円をexit10倍・年12%で4年割り戻すと1株約2,540円。②FY2027予想EPS 34.01円ベースの予想PERは現値で約54倍と高め。③PBRは3.25倍(BPS 567円)で、資産の下値(PBR1.0倍=約567円)からは大きく上放れています。純利益ベース(PER)で見ると割高、将来EBITDAベースで見ると中立圏という、評価手法によって印象が割れる典型的な先行投資型グロースです。

第三者試算との比較:アナリストのコンセンサス目標株価は約3,582円(2026年7月14日時点、強気買い2・買い1・中立1)、みんかぶ個人予想は約3,083円で、株価診断は「割安」。第三者は当社のシナリオ試算(中立2,200円・強気2,850円)よりも強気で、これはFY2031の300億円ビジョンをより高く織り込んでいるためと考えられます。裏返せば、当社試算が保守的なのはEBITDAが補助金で膨らんでいる点と、純利益ベースPERが高い点を割り引いているからです。小型グロースはカバレッジが薄く、会社予想と各モデルの前提差が大きい点に留意してください(出典:みんかぶ、株予報)。

成立条件:防衛省案件の予定どおりの検収・売上計上、FY2027営業黒字化の達成、打上げ遅延の解消、宇宙戦略基金の継続交付。
崩れる条件:打上げ・衛星不具合による遅延や減損、補助金の縮小、金利上昇によるグロース株ディスカウント拡大、民需の立ち上がり遅れ。

10. 中期経営計画との整合性|計画信頼度は「中」

QPSは今回、初の中期経営計画(2031年5月期を最終年度)を開示しました。

指標 FY2026実績 FY2027計画 FY2031計画
売上高 38億円 100億円 300億円
営業利益 △8億円 3億円 30億円
EBITDA 31億円 60億円 200億円

事実:売上高はFY2023の372百万円→FY2024 1,653→FY2025 2,681→FY2026 3,803百万円と一貫して増収を継続しており、成長はM&Aではなく官公庁からの受注による自力成長です。FY2031の300億円計画は、契約済みの防衛省697.3億円(残686億円)が土台にあり、絵に描いた餅ではありません。推察:ただし計画信頼度を「中」と見るのは、①持株会社化でFY2026が連結初年度のためトラックレコードが浅い、②営業黒字はFY2024・FY2025のみで機数増により再び赤字化しており、営業黒字化はなお「計画」段階、③売上計上が打上げ・検収のタイミングに依存し、Rocket Lab遅延のような外部要因で前後する、④300億円のうち民間・海外130億円分は需要創出がこれからの部分——だからです。防衛省案件という強力な柱がある一方、実行段階の不確実性は小さくありません。

11. まとめ|「防衛省の柱」は本物、ただし今はまだ先行投資の途上

QPSホールディングスの2026年5月期は、売上+41.8%と伸びる一方で営業損益は△8.3億円の赤字、経常・純利益の黒字は補助金が支える——という「成長途上の先行投資型」の姿がはっきり出た決算でした。防衛省697億円の長期契約、宇宙戦略基金212億円、参入障壁の高い小型SAR技術、そしてスカパーJSATらとの資本提携は、テーマとしても事業としても◎の本物です。FY2027は売上100億円・営業黒字化を計画し、収益の可視性は高まっています。

他方で、利益の補助金依存、粗利率8.7%、継続企業の前提に関する重要事象等の存在、大幅なキャッシュアウトと希薄化、打上げ遅延・減損リスク、そして上場来高値からの戻り売り圧力といった弱気材料も同時に抱えます。「防衛省案件が計画どおり売上・利益に変わっていくか」を、FY2027の営業黒字化と打上げ進捗で四半期ごとに確認していく——それがこの銘柄の見どころです。株価は現在1,844円で、当社のシナリオ試算(中立2,200円・強気2,850円)とアナリスト平均(3,582円)の間には、期待値の幅が大きく残っています。

免責事項

本記事は公開情報(決算短信・事業計画及び成長可能性に関する事項・各種報道)に基づく情報整理であり、その正確性・完全性を保証するものではありません。筆者は財務アドバイザーではなく、本記事は特定銘柄の売買や投資手法を推奨・勧誘するものではありません。株価・数値は執筆時点(2026年7月14日)のものです。投資はご自身の判断と責任において行ってください。

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