東京エレクトロン8035|1Q好決算と株価▲32%を再採点

🔄 2026年8月1日 全面更新(2026年6月2日初版のリライト)

2026年7月30日に開示された2027年3月期第1四半期決算中間期業績予想の上方修正、決算説明会でのWFE市場見通しの引き上げ(CY2026 $150B以上/CY2027 $190B以上)、5月29日決議の1:5株式分割と1,500億円の自己株式取得枠、そして7月の株価急落(月間▲28.06%)を反映して全面的に書き直しました。あわせてレーティングの採点基準を equity-rating-framework v2.2 に改定しています。v2.2ではバリュエーションを7軸の合計点から分離して価格判定A〜Eとして別掲する方式に変わったため、初版(★4・51/70)の★と単純比較はできません

東京エレクトロン(8035)が2026年7月30日に発表した2027年3月期第1四半期決算は、売上高7,323億円(前年同期比+33.3%)・営業利益2,114億円(同+46.1%)・営業利益率28.87%。あわせて中間期予想を上方修正し(営業利益4,310億円→4,580億円)、中間配当予想も361円から384円へ増額した。決算説明会では河合利樹社長がWFE(前工程製造装置)市場見通しを引き上げ、CY2027に$190B以上、そして「営業利益1兆円が視野に入るのはFY2027(2027年3月期)」と明言している。

それでも株価は、7月1日の上場来高値81,260円から7月31日終値55,500円まで▲31.7%、7月単月では▲28.06%下落した。「業績・ガイダンス・市場見通しの三つとも上方、株価は3分の2」——この構図をどう読むかが本記事の主題である。決算短信(TDnet一次資料)・決算説明会資料およびQ&A・EDINET DB財務データ・業界統計をもとに独自に整理したものであり、投資判断の最終責任は読者にある。

独自レーティング(equity-rating-framework v2.2)
★★★★☆
品質 55 / 70
価格判定 C(適正)
国策アライン 8/10(高い)/テーマ適合 30/40(やや高い)/資本イベント素地 1/10(該当なし)
①成長性
9
②収益性
8
③収益の質
7
④競争優位性
9
⑤需給ポジション
5
⑥カタリスト
9
⑦リスク耐性
8
※55点は★4帯(46-55)の上限。★5には1点届かなかった。※v2.2では「バリュエーション」を品質7軸から外し、価格判定A〜Eとして別掲します。
目次

FY2027 1Q決算 — 数字の全体像

項目 FY2027 1Q
(2026年4-6月)
FY2026 1Q 前年同期比
売上高 7,323億88百万円 5,495億86百万円 +33.3%
売上原価 3,896億76百万円 2,956億16百万円 +31.8%
売上総利益 3,427億12百万円 2,539億70百万円 +34.9%
売上総利益率 46.79% 46.21% +0.58pt
販売費及び一般管理費 1,313億4百万円 1,092億75百万円 +20.2%
 うち研究開発費 720億46百万円 621億41百万円 +15.9%
販管費率 17.93% 19.88% ▲1.95pt
営業利益 2,114億7百万円 1,446億94百万円 +46.1%
営業利益率 28.87% 26.33% +2.54pt
経常利益 2,156億26百万円 1,473億47百万円 +46.3%
特別損益(純額) ▲1億30百万円 +46億19百万円 前期は付加価値税還付金48億円
法人税等(実効税率) 511億53百万円(23.74%) 341億65百万円(22.48%) +1.26pt
親会社株主帰属四半期純利益 1,643億41百万円 1,178億1百万円 +39.5%
EPS 361.36円 257.13円 +40.5%
包括利益 2,491億88百万円 1,677億91百万円 +48.5%

出典:東京エレクトロン「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月30日開示、百万円未満切捨て)。利益率・実効税率・販管費率は当方の算出。

💡 営業利益率+2.54ptの中身は「粗利改善」より「固定費レバレッジ」

営業利益率の改善幅+2.54ptを分解すると、粗利率の改善は+0.58ptにとどまり、残る約1.95ptは販管費率の低下(19.88%→17.93%)によるものである(当方算出)。研究開発費は+15.9%増やしているが、売上が+33.3%伸びたためR&D比率は11.31%→9.84%へ低下した。つまり今回の増益は「値上げが効いた」のではなく「増収で固定費が薄まった」構図である。

これは弱みではない——装置産業では正常な現象だ。ただし重要なのは、会社が掲げる粗利率50%超(2年以内・FY2028の早い段階を視野)という目標は、この構造では届かないということである。粗利率そのものを上げる施策として、河合社長は価格設定の適正化を挙げ、その効果は「FY2027下期に寄与し始め、Q4で見えてくる」と説明している。次の焦点は増収率ではなく、粗利率が46%台から動くかどうかである。

ガイダンス — 中間期を上方修正、通期は10月まで開示なし

中間期(2026年4-9月累計) 前回予想
(2026/4/30)
今回修正 修正率 前年同期実績 対前年
売上高 1兆5,700億円 1兆6,200億円 +3.2% 1兆1,796億円 +37.3%
営業利益 4,310億円 4,580億円 +6.3% 3,031億円 +51.1%
経常利益 4,370億円 4,640億円 +6.2% 3,068億円 +51.2%
親会社株主帰属中間純利益 3,280億円 3,490億円 +6.4% 2,416億円 +44.4%
1株当たり中間純利益 721.12円 767.51円 +6.4% 527.31円 +45.6%

「2027年3月期中間期の連結業績見通しにつきましては、最新の顧客設備投資動向を踏まえ、2026年4月30日に公表した連結業績予想を以下のとおり修正いたします。」(決算短信より)

通期業績予想は開示されていない。短信は「通期連結業績予想につきましては、中間期の決算発表時に開示する予定です」と記載しており、期末配当も同じタイミングまで未定である。この開示方針は今期から変わったもので、投資家にとっては予見可能性が下がる方向の変更である。

中間期予想の逆算 = 2Qは利益率が低下する想定

項目 1Q実績 2Q(中間期予想からの逆算・当方算出) QoQ
売上高 7,323億88百万円 8,876億12百万円 +21.2%
営業利益 2,114億7百万円 2,465億93百万円 +16.6%
営業利益率 28.87% 27.78% ▲1.09pt
純利益 1,643億41百万円 1,846億59百万円 +12.4%

会社は説明会Q&Aで2Qの利益率低下の理由を「プロダクトミックスの影響と人件費など固定費の増加」と説明している。増収は続くが、利益率は1Qがいったんの高水準になる想定である。

会社が示した3つの「上方」— WFE見通し・装置別成長・営業利益1兆円

① WFE市場見通しの引き上げ

暦年 WFE市場規模(TEL見通し) 前年比 4月時点からの変化
CY2026 $150B以上 +20%以上 引き上げ
CY2027 $190B以上 +20%以上 引き上げ

河合社長は「AI元年」CY2023からCY2027の5年間で市場規模5倍以上AIデータセンター向けがWFE全体の50%に達する勢いと説明。$190Bは「最低限の水準」との位置づけで、「資本市場のCY2027 $200B説に違和感はない」とも述べている。

CY2026のWFE内訳(説明会Q&Aより)

デバイス CY2026 WFE規模 CY2025比
ロジック・ファウンドリ $80B台半ば +15%以上
DRAM $40B台前半 +30%以上
NAND $10B台半ば +40%以上
WLP(ウエハレベルパッケージ) $10B程度

NANDが+40%以上と最も高い伸びを示している点が今回の新しい情報である。メモリ:ロジックの比率はCY2025の35:65からCY2026は40:60へシフトする見通しで、CY2027からは400層向けの極低温エッチングの量産展開が始まる。同じNANDサイクルを別の角度から見る材料として、キオクシアの1Q決算分析もあわせて参照されたい。

第三者・競合の見通しとの比較

主体 CY2026 WFE CY2027 時点
東京エレクトロン $150B以上 $190B以上 2026/7/30
KLA low-$150B台(引き上げ) 2026/7/28
Lam Research $140B(上振れバイアス) 2026/7/29
SEMI(WFEセグメント) +9.0% $135.2B(+7.3%)

※WFEの定義は主体により異なる(装置全体/300mmファブ投資/WFE単体)ため、単純比較はできない。SEMIの数値は定義が最も狭い。

② 装置別のFY2027成長率

装置 FY2027売上成長率 ポジション・補足
Advanced Packaging +70%以上 プローバ単体で通期1,000億円を大きく超える見通し。「凄まじい数の引き合い」
塗布現像(コータ/デベロッパ) +50%以上 シェア90%以上。新製品CLEAN TRACK LITHIUS Pro DICE展開中
エッチング +25%以上 通期売上1兆円が視野。NAND 400層向け極低温エッチングはCY2027から量産展開

③ 「営業利益1兆円が視野」= FY2027

説明会Q&Aで「営業利益1兆円が視野に入るのはFY2027の話か、それ以降か」との問いに、河合社長は「FY2027の話」と回答している。通期予想は未開示だが、これは実質的なガイダンスに近い情報である。中期経営計画(ターゲットイヤー=2027年3月期)の進捗も同時に示された。

中計目標(〜FY2027/3) 水準 会社の進捗評価
売上高 3兆円以上 On Track
営業利益率 35%以上 In Progress(チャレンジング)
ROE 30%以上 On Track

営業利益率35%が未達見込みである理由について、河合社長は「米中対立に伴う規制や関税、中東紛争、ロシア・ウクライナ戦争の長期化、世界的なインフレや為替変動、顧客の投資計画の変更など、中計設定時点では想定していなかった事象」を挙げている。新中期経営計画では営業利益率35%を「超えるような形」「ワールドクラスの利益率」を目指すとしているが、発表時期は明示されていない

地域別売上 — 中国30.4%、台湾が急増

地域 FY2027 1Q 構成比 前四半期比
中国 2,229億円 30.4% 構成比+3.6pt(前四半期26.8%)
台湾 1,861億円 25.4% +18.9%
韓国 1,524億円 20.8%
日本 8.8%
北米 8.1%

中国売上比率の推移

四半期 中国売上 構成比
FY2025 1Q(24/4-6) 2,770億円 49.9%
FY2026 3Q 1,755億円 31.8%
FY2026 4Q 1,907億円 26.8%
FY2027 1Q 2,229億円 30.4%
FY2027通期(会社見通し) 30%台前半

初版で「中国売上比率34.1%」として地政学リスクの中心に据えた論点は、1Qで30.4%まで低下した。ただしピークの49.9%から約20pt下がったのは他地域(台湾・韓国)の急増による希釈効果が主で、絶対額は2,000〜2,800億円のレンジで底堅く推移している。ASMLの14%、Lam Researchの26%と比べると、東京エレクトロンは競合より中国比率が高い点は変わっていない。

財務・キャッシュフロー — 実質無借金、自己資本比率71.7%

項目 2026年6月末 2026年3月末 増減
現金及び預金 4,096億円 4,512億円 ▲416億円
有価証券 550億円 ▲550億円
受取手形、売掛金及び契約資産 5,440億円 5,259億円 +181億円
棚卸資産 7,515億円 7,131億円 +384億円
有形固定資産 6,103億円 5,893億円 +210億円
投資有価証券 3,433億円 2,254億円 +1,178億円
総資産 2兆9,554億円 2兆8,609億円 +944億円
前受金(受注の代替指標) 2,943億円 2,704億円 +238億円
短期借入金・長期借入金・社債 計上なし 計上なし 実質無借金
その他有価証券評価差額金 2,285億円 1,479億円 +806億円
純資産 2兆1,429億円 2兆699億円 +729億円
自己資本比率 71.7% 71.5% +0.2pt

キャッシュフロー(1Q連結CF計算書は非作成、参考開示の要約より)

項目 FY2027 1Q FY2026 1Q コメント
営業CF 1,187億45百万円 749億55百万円 +58.4%
 法人税等の支払額 ▲1,001億84百万円 ▲999億24百万円 1Qに集中する季節性
 棚卸資産の増減 ▲362億69百万円 ▲53億81百万円 増産に伴う積み増し
投資CF ▲385億20百万円 ▲541億78百万円
 うち有形固定資産の取得 ▲343億4百万円 ▲510億18百万円 ▲32.8%
財務CF ▲1,784億77百万円 ▲1,511億34百万円 配当1,660億円+自己株取得115億円
FCF(営業−設備投資) 844億41百万円 239億37百万円 +252.8%
減価償却費 225億9百万円 171億59百万円 +31.2%
現金及び現金同等物 期末残高 4,084億13百万円 3,562億81百万円

※1Qの設備投資には2つの数字がある。CFベース(支出)は343億円、説明会資料の発生ベースは399億円(前年同期528億円、▲24.4%)。FY2027の通期設備投資計画は1,900億円で据え置き、R&D費は3,300億円(+18.8%)、減価償却費は1,000億円(+23.6%)の計画。

⚠️ 営業CF÷営業利益=0.56 は季節性、ただし受注は非開示のまま

1Qの営業CF 1,187億円は営業利益2,114億円の0.56倍と一見低いが、これは法人税支払1,002億円が1Qに集中する構造によるもので、前年同期も0.52倍だった。通期ではFY2026 0.86倍・FY2025 0.83倍と健全な水準にある。

より重要な論点は受注高・受注残が一切開示されていないことである。加えて今回から「半導体製造装置」の単一セグメントとなり、FPD製造装置の区分開示が消滅した。装置別・地域別の売上構成も短信本体には記載がなく、決算説明会資料を見なければ把握できない。受注の代替指標として使えるのは前受金2,943億円(前期末比+238億円)のみである。会社は「顧客から約2年程度先までの投資計画の提供を受けている」と可視性の高さを説明しているが、投資家がそれを数字で検証する手段は限られる。

資本政策 — 自己株買い1,500億円と1:5株式分割

施策 内容 状況
自己株式取得(2026/5/29決議) 上限1,500億円/750万株(自己株式除く発行済の1.6%)
取得期間 2026年6月1日〜2027年3月31日
2026年6月末時点で207,100株・114億74百万円(金額進捗7.6%)
株式分割(2026/5/29決議) 普通株式1株→5株
基準日 2026年9月30日/効力発生日 2026年10月1日
実施予定。中間配当384円は分割前ベース
自己株式の消却(2026/3/27決議) 3,600,000株・954億70百万円 2026年4月30日付で実行済。発行済株式総数は471,632,733株→468,032,733株
配当政策 業績連動型、配当性向50%を目処 中間384円(+23円増額)、期末は10月の中間決算時に開示

同社は近年「自己株式を取得し、翌期に消却する」サイクルを継続的に実行している。1Q末の自己株式は13,381,537株(前期末16,783,041株)で、消却と新規取得が並行して進んでいる。なお、自己株買いの進捗が金額ベースで7.6%にとどまっているのは、6月に株価が月間+47%と急騰し買付が進みにくかったためとみられる(当方の推定)。7月の急落局面では取得ペースが上がる可能性がある。

株価とバリュエーション

7/31終値: ¥55,500(+6.24%)
時価総額: 25兆9,758億円
上場来高値: ¥81,260(7/1)→ ▲31.7%
7月単月: ▲28.06%
年初来: +61.71%
PBR: 11.91倍

7月に何が起きたか

日付 終値 前日比 出来高 出来事
7/1 81,260円 上場来高値
7/27 62,800円 +0.22% 272万株
7/28 55,920円 ▲10.96% 436万株 令和8年熊本地震(最大震度7)+決算前売り
7/29 50,000円 ▲10.59% 736万株 2営業日で約▲21%
7/30 52,240円 +4.48% 636万株 決算発表(引け後)
7/31 55,500円 +6.24% 1,409.7万株 寄り59,240円・高値59,250円(+13.41%)から急速に伸び悩み

⚠️ 7月31日は「上ヒゲの長い陰線」— 決算は好感されきっていない

決算翌営業日の7月31日、株価は寄り付き59,240円(前日比+13.41%)まで買われた後、終値55,500円(+6.24%)まで押し戻された。出来高1,409.7万株は通常の3〜4倍で、戻り売りが相当量出たことを示す。同日は日経平均も+4.03%の全面高で、TEL単独の評価というより指数連動の側面が大きい。夜間PTSは53,000円と引け値を下回った。

なお日経新聞は1Q決算を「ほぼ市場予想通りの着地」と評価しており、株価上昇の主因は決算サプライズではなくWFE見通しの引き上げと地合いの改善と報じられている。中間期の純利益予想3,490億円はQUICKコンセンサス3,443億円を約47億円上回った程度で、サプライズの規模としては大きくない。

PER・PBR — 会社通期予想が未開示のため各社「—」表示

基準となるEPS EPS PER(55,500円) コメント
1Q EPSの年率換算 1,445.4円 38.4倍 下期は上期を上回る想定のため過小
中間期予想EPSの年率換算 1,535.0円 36.2倍 同上
アナリストコンセンサス FY2027/3 1,648.06円 33.7倍 みんかぶ、2026/8/1時点
「営業利益1兆円」前提(当方推計) 約1,683円 33.0倍 実効税率23.5%を適用
中計達成前提(売上3兆円・OPM35%、当方推計) 約1,767円 31.4倍 会社は35%を「チャレンジング」と評価
ミッドサイクルEPS(FY2023-26平均営業利益5,990億円ベース、当方推計) 約1,008円 55.1倍 直近の需要環境を反映しない参考値

※株探・Yahoo!ファイナンス等は会社通期予想が未開示のためPER・配当利回りとも「—」表示。上表はすべて当方または第三者の推計である。PBR 11.91倍はBPS 4,659円(自己資本2兆1,180億円÷実質流通株式454,651,196株)ベース。

価格判定:C(適正)

手法 主要前提 フェアバリュー 現在株価比
UBS証券 目標株価 2026/7/31 引き上げ(90,900→93,600円) ¥93,600 +68.6%
ゴールドマン・サックス証券 目標株価 2026/7/31 引き上げ(83,000→86,000円) ¥86,000 +55.0%
アナリスト平均目標株価 みんかぶ/IFIS 22人、2026/8/1 ¥73,113 +31.7%
中計達成EPS × PER 35倍 EPS 1,767円(推計) ¥61,845 +11.4%
コンセンサスEPS × PER 35倍 EPS 1,648円 ¥57,680 +3.9%
コンセンサスEPS × PER 30倍 EPS 1,648円 ¥49,440 ▲10.9%
BPS × PBR 8倍(FY2024水準) BPS 4,659円 ¥37,272 ▲32.8%
ミッドサイクルEPS × PER 25倍 EPS 1,008円(推計) ¥25,200 ▲54.6%

手法間のレンジは ▲54.6% 〜 +68.6%。中央値は約+8%で、C(適正・▲15%〜+15%圏)と判定した。特徴的なのは、証券会社の目標株価(+32%〜+69%)と、倍率法・PBR法(▲11%〜▲55%)が真っ二つに割れていることである。

💡 「ピーク益の低PER」ではないが、「ピークPBR」ではある

equity-rating-framework v2.2 は「シクリカルはミッドサイクルEPSで判定し、ピーク益の低PERを割安としない」と定めている。東京エレクトロンの場合、1Q営業利益率28.87%はFY2023の27.96%・FY2025の28.68%とほぼ同水準で、突出したピークマージンではない。会社は中計で35%を目指しており、稼働・価格の両面で改善余地を残している。この点ではキオクシア(営業利益率71.9%=明確なピーク圏)とは状況が異なる。

問題はPERではなくPBR 11.91倍である。同社のPBRはFY2023末4.73倍→FY2024末10.49倍→FY2025末5.01倍→FY2026末8.28倍と推移してきた(EDINET DBベース)。現在の11.91倍は過去4期の期末値をすべて上回る。自己資本2兆1,180億円に対し時価総額25兆9,758億円という評価は、会社が中計目標を達成し、さらにその先も成長が続くことを相当程度織り込んでいる

したがって本記事の判定Cは「良い会社だが、良さは既に価格に入っている」という意味であり、「悪い会社」という意味ではない

競合との比較 — 規模は最大、利益率では劣後

企業 直近四半期 売上 収益性 ガイダンス/特記 中国比率
東京エレクトロン FY27 1Q(4-6月) 7,324億円
(+33.3%)
営業利益率28.9%
粗利率46.8%
中間期を上方修正 30.4%
ASML 2026 2Q €9.3B 粗利率54.0% 通期€43-45B(€36-40Bから大幅増) 14%
Lam Research FY26 4Q(6月期) $6.72B(過去最高) 希薄化後EPS $1.82(過去最高) WFE見通しを$135B→$140Bへ 26%
KLA FY26 4Q —(beat) CY2026 WFEをlow-$150B台へ引き上げ 不明
Applied Materials FY26 3Q 2026年8月13日発表予定。ガイダンス $8.95B±$0.5B(+約23%)、非GAAP粗利率約50.1% 不明
アドバンテスト FY27 1Q 3,675億円
(+39.3%)
営業利益率約51.7% 通期を大幅上方修正(営業利益6,275億→8,460億円) 不明
SCREEN HD FY27 1Q 1,218億円
(▲10.3%)
営業利益率11.8% 通期は上方修正(営業利益1,500億→1,565億円) 不明

東京エレクトロンは絶対利益額では日本の装置勢で最大だが、利益率では大きく劣後するアドバンテストの営業利益率51.7%、ASMLの粗利率54.0%に対し、TELは営業利益率28.9%・粗利率46.8%である。この差は製品ポートフォリオの構造(テスタやリソグラフィのような寡占度の極めて高い領域と、エッチング・成膜のような競合が存在する領域の違い)に起因する。粗利率50%超の達成が、株価再評価の最大の鍵である。

もう一点、装置セクター内でも二極化が鮮明である。TEL・アドバンテスト・Lamが記録更新を続ける一方、SCREEN HDは1Qが減収減益(ファウンドリ・ロジック向けの減少)だった。「装置株」として一括りにできる局面ではない。

⚠️ ASMLが受注(bookings)開示を停止した影響

ASMLは2026年1Qから net bookings の開示を停止した。従来「ASMLの受注=業界の先行指標」として機能していた指標が使えなくなっている。東京エレクトロンも受注高を開示していないため、装置セクター全体で受注の可視性が下がったことになる。残る手掛かりは各社のWFE見通し、前受金・契約負債の増減、そして顧客(TSMC・Samsung・SK hynix・Micron・Intel)のCapExガイダンスである。

equity-rating-framework v2.2 による再採点

【A】品質スコア 55/70 → ★★★★☆

根拠(数値付き)
①成長性 9 売上はFY2024 1兆8,305億円→FY2026 2兆4,435億円で2期CAGR +15.5%。1Q +33.3%、中間期予想+37.3%。TAMも構造的に拡大(WFE CY2026 $150B以上・CY2027 $190B以上、いずれも+20%以上)。装置別でも塗布現像+50%以上・エッチング+25%以上・Advanced Packaging+70%以上と会社が具体的に開示。会社自身が「営業利益1兆円が視野=FY2027」と明言。
②収益性 8 1Q営業利益率28.87%(+2.54pt)、ROE FY2026 29.6%・FY2025 30.3%。従業員19,573名→20,236名(+3.4%)・平均年収1,354万円→1,380万円(+1.9%)に対し、一人当たり営業利益はFY2026 3,088万円→1Q年率換算4,179万円(+35.3%)と増員・賃上げを吸収。ただし粗利率46.8%はASML 54.0%を下回り、営業利益率28.9%もアドバンテスト51.7%に大きく劣後するためPeer上位25%には該当せず9点とせず。
③収益の質 7 1Q単体は特別利益15百万円・特別損失145百万円と一過性がほぼゼロ、持分法・非支配持分もなし(四半期純利益=親会社帰属で一致)。営業CF÷営業利益は0.56だが法人税支払1,002億円が1Qに集中する季節性で、通期ではFY2026 0.86倍・FY2025 0.83倍と健全。一方、受注高・受注残が非開示、今回から単一セグメント化でFPD区分開示が消滅し検証手段が減った。純資産増729億円のうち806億円がその他有価証券評価差額金という点も本業外。9-10点の要件(営業CF÷営業利益≥1.0)を満たさず7点。
④競争優位性 9 塗布現像でシェア90%以上、EUV・High-NA EUVの前後工程で事実上代替が効かない。エッチングはグローバルTop2、成膜Top2-3。東証にWFE総合大手はTELのみで、世界でもASML/AMAT/Lam/KLA/TELの5社寡占。ただし全社ベースでは世界4位で、河合社長自身が「過去数年のシェア低下」を認めている(主因は為替との説明)ため10点とせず。
⑤需給ポジション
(直近3ヶ月)
5 7月単月▲28.06%はSOX▲20.6%を7.5ptアンダーパフォーム(熊本地震+高値からの調整)。上場来高値81,260円(7/1)から▲31.7%。信用倍率は7/10の5.11倍から7/31に9.27倍へ急拡大し取組が悪化。0.5%以上の大口空売り残高はゼロで踏み上げ余地も乏しい。一方で自己株買い1,500億円が進行中(〜2027/3/31、6月末で7.6%消化)、10月に1:5分割。3ヶ月窓の起点株価が確定できないため保守的に中立固定とした。
⑥カタリスト
(今後3ヶ月)
9 日付が確定した重要材料が3件以上(8/13 Applied Materials決算、8月 NVIDIA決算、9/30分割基準日、10/1分割効力発生、10月下旬の2Q決算=通期業績予想の初回開示と期末配当の決定)。うち複数が未織り込み。上抜け素地は2/6項目のため調整なし
⑦リスク耐性 8 自己資本比率71.7%、短期・長期借入金・社債の計上がゼロ=実質無借金。現金4,096億円、1Q FCF 844億円。為替感応度が構造的に低い(輸出は原則円建て。1Qの為替差損は5億4百万円=営業利益の0.2%)。デバイス別(ロジック/DRAM/NAND/WLP)・地域別の分散も効く。一方で中国比率30.4%は競合(ASML 14%、Lam 26%)より高く、MATCH法リスク、単一セグメント(装置一本)、FY2024に売上▲17.1%・営業利益▲26.1%の減速実績。9-10点には至らず8点。
合計 55/70 ★★★★☆(46-55帯の上限。★5には1点届かず)

⑥上抜け素地チェック(2/6項目 → 調整なし)

# 項目 判定 根拠
1 売買代金が増加 7/31出来高1,409.7万株は通常(7/27の272万株)の約5倍
2 上値のしこりが薄い × 上場来高値81,260円まで+46.4%。7月上旬に8万円前後で大出来高帯を形成
3 信用買残の重石が軽い × 信用倍率が5.11倍(7/10)→9.27倍(7/31)へ急拡大、買残1,847,300株
4 踏み上げ余地 × 0.5%以上の大口空売り残高ゼロ、信用売残36.1万株
5 浮動株が少ない × 時価総額26兆円、日経平均の値がさ主力銘柄
6 未織り込みの材料がある 10月の通期予想初開示・期末配当決定、NVIDIA決算、新中期経営計画

🔴 上抜け素地は両刃である。売買代金の膨張と未織り込み材料の存在は、上下どちらにも値が飛びやすいこと=ボラティリティの高さを意味しており、上昇の予想でも有利さでもない。実際、同じ構造の中で7月28-29日の2営業日に約▲21%下落している。本項は売買タイミングを示唆するものではない。

【C-2】国策アライン度 8/10(高い)

# チェック項目 判定 根拠
1 当初予算に計上 経産省2026年度予算で最先端半導体・AIに1兆2,390億円
2 補正予算での積み増し 半導体支援は従来補正中心。2026年度以降は当初予算へ移行方針
3 基金として複数年度分が措置 半導体・AI関連の複数年度措置
4 骨太の方針・重要政策文書に明記 「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に明記
5 経済安全保障の枠組み 半導体は特定重要物資に指定
6 法制度・計画で需要が担保 × 装置需要は顧客(半導体メーカー)の民間投資に依存
7 🔴 到達経路が確認できる Rapidus(千歳)・JASM(熊本)・キオクシア等、政府支援を受けた国内ファブへの装置供給者。1Qの営業外収益に補助金収入19億52百万円を計上
8 🔴 過去に受注・売上計上の実績 補助金収入は前年同期10億83百万円→当1Q19億52百万円と継続計上(+80.2%)
9 政策が複数年度にわたり継続 Rapidusへの累計支援等が継続
10 中計等で業績前提に組み込み 中計・説明会資料での国策前提の明示は確認できず(不明)

🔴 国策の業績寄与は営業利益の1%未満

進行段階は④商業化(Rapidus千歳・JASM熊本ともに稼働/建設が進行中)で、業績寄与を定量化できる段階にある。しかし1Qの補助金収入19億52百万円は営業利益2,114億円の0.92%に過ぎず、日本向け売上も全体の8.8%にとどまる。東京エレクトロンの業績を動かしているのは日本の国策ではなく、台湾(25.4%)・中国(30.4%)・韓国(20.8%)のAI関連投資である。「国策半導体銘柄」という括りは、この会社の業績構造を説明しない。

【C-3】テーマ適合度 30/40(やや高い)

テーマの定義:「AIデータセンター向け半導体の量産を支える前工程製造装置(WFE)」。§7.1の6判断軸をすべて満たすためテーマとして認定した(政策裏付け=経産省半導体政策・経済安保/技術非連続性=EUV・High-NA EUV、極低温エッチング、ハイブリッドボンディング/第三者TAM=SEMI・各社WFE見通し/実装マイルストーン=CY2027からのNAND 400層量産展開、宮城生産革新センター2027年夏竣工/大手の資金投入=ハイパースケーラーCapEx/市場の関心上昇)。

根拠
①量的寄与 8 売上の100%が半導体製造装置(単一セグメント)。会社は「AIデータセンター向けがWFE全体の50%に達する勢い」と説明しており、TELの売上の相当部分がAI起因と推定される。ただしAI向け単独の売上は非開示のため9-10点とせず。
②純度 7 WFEのピュアプレイ(FPD区分開示も今期消滅し完全に単一セグメント化)。ただし時価総額26兆円の超大型株で、日経平均の値がさ主力。「時価総額が小さく企業価値を直接左右する」条件は満たさない。
③サイクル位置 6 成熟。WFE市場自体はCY2027 $190B以上へ拡大途上だが、株価は年初来+61.7%・過去1年+103.1%で7月1日に上場来高値を更新済み。装置株の中でも二極化(TEL・アドバンテスト・Lamは記録更新、SCREENは減収減益)が始まり、選別が効く局面。
④希少性 9 塗布現像シェア90%以上でEUVリソグラフィ工程に不可欠。世界のWFEはASML/AMAT/Lam/KLA/TELの5社寡占で、東証上場企業にWFE総合大手はTELのみ。代替が事実上効かない領域を持つ。
合計 30/40 やや高い(24-31の帯)

🔴 ①量的寄与(8点)と③サイクル位置(6点)— テーマは業績に乗りきり、株価も織り込み済み

テーマ株にありがちな「①量的寄与ゼロ・③初動」という業績の裏付けを伴わない値動きとは対照的に、東京エレクトロンはテーマが業績に完全に乗っており(①8点)、株価もそれを大きく織り込んで上昇済み(③6点)という状態にある。PBR 11.91倍という水準がその証拠である。ここから先の株価は「AIテーマかどうか」ではなく「WFEの実額が会社見通しどおり$190Bへ向かうか」と「粗利率が46%台から50%超へ動くか」という検証可能な2点で決まると考えられる。

🔴 純度と希少性は両刃である。WFEピュアプレイであることは、半導体設備投資が伸びる局面で最も素直に業績が反応する一方、投資サイクルが反転したとき他事業で緩衝できないことを意味する。実際FY2024は売上▲17.1%・営業利益▲26.1%だった。希少性の高さも「代替が効かない」ことの裏返しで「分散が効かない」ことを意味する。いずれも有利さではなく、値動きの振幅の構造の話である。

【C-1】資本イベント素地(TOB/MBO)1/10(該当なし)

該当は「政策保有株の縮減圧力(政策保有株の帳簿価額2,202億円、保有銘柄数は6,399,769株→5,199,769株と削減進行中)」の1項目のみ。PBR 11.91倍、時価総額26兆円、支配株主は不在(大株主は信託銀行名義が中心で、事業会社の最大株主はTBSホールディングス3.31%)、役員持株比率0.05%、東証「資本コストや株価を意識した経営」への対応も中計でROE30%目標として明示済み。資本イベントの素地は乏しく、本記事では論点として扱わない。

カタリストカレンダー(2026年8月〜10月)

時期 イベント 影響度 織り込み度
2026年8月13日 Applied Materials FY26 3Q決算(WFE見通しの最終ピース) ★★★★ 未織込
2026年8月下旬 NVIDIA FY27 2Q決算(AI投資センチメントの起点) ★★★★★ 未織込
2026年8月〜10月 自己株式取得の執行(1,500億円枠の残り約92%) ★★★ 一部織込
2026年9月30日 株式分割の基準日 ★★ 概ね織込
2026年10月1日 株式分割(1:5)効力発生。日経平均のウエートにも影響しうる ★★★ 一部織込
2026年10月下旬 FY2027 第2四半期決算 — 通期業績予想の初回開示、期末配当の決定 ★★★★★ 未織込
時期未定 新中期経営計画の発表(営業利益率35%超・「ワールドクラスの利益率」) ★★★★ 未織込
随時 MATCH法(対中半導体装置規制の同盟国拡大法案)の審議動向 ★★★★
(下方リスク)
未織込
随時 顧客CapExガイダンス(TSMC・Samsung・SK hynix・Micron・Intel) ★★★★ 未織込

強気材料と弱気材料 — 両論併記

今この銘柄に注目する理由(強気) 手を出すべきでない理由(弱気)
① 業績・ガイダンス・市場見通しが揃って上方
1Q営業利益+46.1%、中間期予想を+6.3%上方修正、WFE見通しをCY2026 $150B以上/CY2027 $190B以上へ引き上げ。

② 「営業利益1兆円が視野=FY2027」と社長が明言
通期予想は未開示だが、実質的なガイダンスに近い情報が説明会Q&Aで示された。

③ 塗布現像シェア90%以上という代替不能な地位
EUV・High-NA EUV工程で不可欠。東証にWFE総合大手はTELのみ。

④ 財務が極めて強固
自己資本比率71.7%、短期・長期借入金・社債の計上がゼロ=実質無借金。1Q FCF 844億円(前年比+253%)。

⑤ 為替感応度が構造的に低い
輸出は原則円建て。1Qの為替差損は5億円(営業利益の0.2%)。円高局面でも利益は直撃されない。

⑥ 資本政策が明確
自己株買い1,500億円(進捗7.6%)、1:5分割(10/1)、配当性向50%目処、取得→消却のサイクルを継続。

⑦ 株価は高値から▲31.7%
アナリスト22人の平均目標株価は73,113円(+31.7%)。GS 86,000円、UBS 93,600円へ7/31に引き上げ。

① PBR 11.91倍は過去4期の期末値をすべて上回る
FY2023末4.73倍→FY2026末8.28倍→現在11.91倍。中計達成とその先の成長を相当程度織り込んだ水準。

② 増益の主因は固定費レバレッジ
営業利益率+2.54ptのうち粗利改善は+0.58ptのみ。会社目標の粗利率50%超には46.8%から大きな距離がある。

③ 中計の営業利益率35%は未達見込み
会社自ら「In Progress・チャレンジング」と評価。新中計の発表時期も未定。

④ 通期予想が10月まで開示されない
期末配当も未定。投資家の予見可能性が下がる開示方針の変更。

⑤ 受注が非開示、単一セグメント化で開示が後退
受注高・受注残とも非開示。FPD区分開示も消滅。ASMLも受注開示を停止し、セクター全体で可視性が低下。

⑥ 中国比率30.4%は競合より高い
ASML 14%、Lam 26%。MATCH法(2026年4月提出、成立状況は不明)が成立すれば構造的な圧縮リスク。

⑦ 信用倍率が9.27倍へ急拡大
7/10の5.11倍から悪化。7月の急落で高値掴みの買残が滞留し、戻り売り圧力に。

⑧ 2Qは利益率が低下する会社想定
営業利益率28.87%→27.78%(中間期予想からの逆算)。プロダクトミックスと固定費増。

⑨ 供給制約
説明会Q&Aで「$300B市場に対応できる生産能力が今すぐにあるとは言えない」。宮城新棟の竣工は2027年夏。

初版(2026年6月2日)からの答え合わせ

初版の記述 実際に起きたこと 評価
株価53,060円(6/1)。「現在株価はアナリストコンセンサス53,382円にほぼ到達しており、短期的なアップサイドは限定的 7月1日に81,260円(+53.2%)の上場来高値をつけた後、7月31日は55,500円。約2ヶ月で高値をつけ、そこから▲31.7% 短期の方向は外した。ただし2ヶ月後の株価は初版時点とほぼ同水準
コンセンサス平均目標株価53,382円 2026年8月1日時点で73,113円(22人)へ大幅上方修正。5/3 48,581円→7/2 66,618円→8/1 73,113円 3ヶ月で+50%の引き上げ
「FY2027コンセンサス売上3兆円(+22.7%)」 現コンセンサスは3兆3,568億円、EPS 1,648.06円へ切り上がり 上方に進行
中国売上比率34.1%を最大の地政学リスクとして提示 1Qで30.4%へ低下(FY2027通期は30%台前半想定)。ただし絶対額は2,229億円と底堅い 比率は低下、リスクは残存
カタリストに「11月 MATCH法案採決 ★★★★★」 2026年8月1日時点で成立状況は確認できず(不明)。4月に米商務省が華虹半導体向け出荷停止を命令 継続監視が必要
「FY2026は売上高・純利益ともに過去最高を達成」 純利益5,745億円には特別利益1,207億円が含まれる。経常利益は6,303億円で前期7,077億円から▲10.9%の減益だった(EDINET DBベース) 初版は一過性利益に触れていなかった
主要株主「ブラックロック8.46%、三井住友トラスト7.55%、MUFG 4.86%」 会社開示(2026/3/31)は名義ベースで日本マスタートラスト24.43%、日本カストディ10.13%、TBSホールディングス3.31% 実質保有者ベースと名義ベースの違い。今回は会社開示を採用
レーティング ★4(51/70)、バリュエーション5/10で「割高感がスコアを押し下げている」 v2.2ではバリュエーションを7軸から分離。品質55/70(★4上限)/価格C(適正)と分けて評価 評価の構造自体を改定

東証半導体銘柄との比較

銘柄 コード バリューチェーン上の位置 当サイトのレーティング
東京エレクトロン 8035 WFE総合(塗布現像・エッチング・成膜・洗浄) ★★★★☆(55/70・価格C)
アドバンテスト 6857 テスト装置(HBM/SoC) ★★★★☆
レーザーテック 6920 検査装置(EUVマスク) ★★★★☆
ディスコ 6146 切断・研削・研磨装置 ★★★★☆
SCREEN HD 7735 洗浄装置(TELと一部競合) ★★★★☆
KOKUSAI ELECTRIC 6525 成膜装置(TELと直接競合) ★★★☆☆
ローツェ 6323 ウエハ搬送(装置メーカーへの供給側) ★★★★☆
キオクシアHD 285A メモリデバイス(NAND専業=装置の顧客側) ★★★★☆(53/70・価格C)
ルネサス 6723 IDM(車載・産業MCU=装置の顧客側) ★★★★☆(47/70・価格B)
日本マイクロニクス 6871 プローブカード(TELのプローバと補完関係) ★★★★☆

装置株は「半導体投資の増減」に連動し、キオクシアルネサスといったデバイスメーカーは「製品価格・出荷台数」に連動する。同じ「半導体関連」でも損益のドライバーが異なる。東京エレクトロンはその中でも顧客の設備投資という最も先行的だが、最も裁量的にも削られやすい支出に依存する位置にある。なおKOKUSAI ELECTRICは成膜装置で、SCREEN HDは洗浄装置でTELと直接競合する。

まとめ — 三つの上方修正と、PBR11.9倍という現在地

2027年3月期第1四半期は、売上高7,323億円(+33.3%)・営業利益2,114億円(+46.1%)・営業利益率28.87%。中間期予想を営業利益ベースで+6.3%上方修正し、中間配当も361円から384円へ増額した。決算説明会ではWFE市場見通しをCY2026 $150B以上/CY2027 $190B以上へ引き上げ、河合社長は「営業利益1兆円が視野に入るのはFY2027」と明言している。業績・ガイダンス・市場見通しの三つがそろって上方に向いた四半期だった。

ただし中身を見ると、営業利益率改善+2.54ptのうち粗利率の改善は+0.58ptにとどまり、残りは増収による固定費レバレッジである。会社が掲げる粗利率50%超(FY2028の早い段階を視野)と中計の営業利益率35%(会社評価は「チャレンジング」)は、いずれもまだ距離がある。次の焦点は増収率ではなく粗利率が46%台から動くか、そして価格適正化の効果が会社の言うとおりFY2027下期から表れるかである。

equity-rating-framework v2.2 による評価は品質 ★★★★☆(55/70)/価格 C(適正)。55点は★4帯の上限で、★5にはあと1点だった。押し下げたのは⑤需給ポジション5点(7月に▲28.06%、信用倍率9.27倍へ悪化)と③収益の質7点(受注非開示、単一セグメント化による開示後退)である。品質×価格のマトリクスでは「品質★4-5 × 価格C=品質相応の価格」に位置する。

この銘柄の現在地を一言で言えば、「良い会社であることは疑いようがなく、その良さは既に価格に入っている」ということである。営業利益率28.87%は過去のピーク圏を大きく超えてはおらず、その意味でキオクシアのような「ピーク益の低PER」問題は抱えていない。しかしPBR 11.91倍は過去4期の期末値をすべて上回る。証券会社の目標株価(+32%〜+69%)と倍率法・PBR法(▲11%〜▲55%)が真っ二つに割れているのは、この一点に対する評価の違いである。

最も検証可能な次のイベントは10月下旬の第2四半期決算で、ここで初めて通期業績予想と期末配当が開示される。「営業利益1兆円が視野」という社長の発言が、正式なガイダンスとして数字になるかどうかが焦点である。本記事は、その値がどうなるかを予想するものではない。

免責事項・ディスクレーマー

本記事は半導体企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。レーティング(品質7軸・価格判定・各オーバーレイ)は公開情報に基づく独自の定量評価であり、投資判断を推奨するものではありません。フェアバリュー試算・ミッドサイクルEPS・各種推計はいずれも独自の前提条件に基づくものであり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。半導体産業は景気循環・技術変化・地政学リスク・自然災害等により業績が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。

本記事の情報は2026年8月1日時点の公開情報に基づいています。株価は特記なき限り2026年7月31日終値ベースで、2026年10月1日効力発生の株式分割(1:5)の影響は考慮していません。主要出典:東京エレクトロン「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「決算説明会プレゼンテーション資料」「同トランスクリプト」「同Q&A」(2026年7月30日〜8月1日)、「株式分割及び定款一部変更に関するお知らせ」「自己株式の取得状況に関するお知らせ」、EDINET DB、SEMI、ASML/Lam Research/KLA/Applied Materials/アドバンテスト/SCREENホールディングス 各社IR、経済産業省、株探、みんかぶ、IFIS株予報、日本経済新聞、Bloomberg、EE Times Japan。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。

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