【2026年10月22日 更新】上期(2026年4〜9月)決算を反映して全面改稿
- 7〜9月期の出荷額は1,486億円で四半期の過去最高。営業利益率は47.4%に上昇。上期の営業利益は会社計画(1,049億円)を約11%上回る1,166億円
- 10〜12月期の会社計画は売上高1,324億円・営業利益581億円(前四半期比で減収減益)。出荷額は1,496億円と高水準を維持する見通しで、想定為替を1ドル159円から151円へ見直した影響を含む
- 新たな成長ドライバーとして、CPO(Co-Packaged Optics)関連の光半導体・光部品向け出荷の増加が会社資料に明記された
- 株価は前回記事(6/2時点 64,200円)から51,230円(10/22終値、決算発表前)へ下落。予想PER(当サイト推計)は約51倍から約34倍に低下
- レーティングの採点基準を v2.2(品質7軸と価格判定の分離)に改定したため、前回の★とは単純比較できない
ディスコ(6146)は、半導体ウエハの「切る・削る・磨く(KKM)」精密加工装置と消耗品を手がける半導体製造装置(後工程・精密加工)企業である。【需要ドメイン: AI半導体(DC向けロジック・HBM)=主要/光通信(CPO)・パワー半導体=副次】本記事では、2026年10月22日発表の上期決算短信・決算説明資料、EDINET有価証券報告書、業界データをもとに、上期決算の中身、10〜12月期計画の読み方、競争環境の変化、バリュエーション(株価アップサイド試算)を整理し、品質7軸スコアと価格判定に分けたレーティングを付与した。なお、本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
総合評価:品質 ★★★★☆(52/70)/価格 C(適正・レンジは広い)
資本イベント素地 該当なし / 国策アライン 2/10(低い) / テーマ適合 27/40(やや高い)
上抜け素地 0/6(⑥カタリストに −1 調整)
品質面では、7〜9月期の営業利益率47.4%・上期出荷額の前年比37%増という実績が示すとおり、AI向けの精密加工需要を最も直接的に取り込む企業の一つである。一方、株価は6月の年初来高値(91,680円)から約44%下落しており、直近3ヶ月の需給は弱い。価格判定は、PERベースでは上振れ余地を示す一方、保守的なDCFでは大きなダウンサイドを示すため「適正(C)」としたが、どの前提を採るかで結論が大きく変わる点に注意が必要である。
| 評価軸 | スコア | 根拠(数値) |
|---|---|---|
| ①成長性 | 9/10 | 売上高CAGR 15.4%(2023年3月期2,841億円→2026年3月期4,369億円)。4〜12月期計画は売上+28.2%・営業利益+38.4%。ただし装置サイクルの上昇局面を含む点は割り引いて評価 |
| ②収益性 | 9/10 | 上期営業利益率45.4%(7〜9月期47.4%)、ROE 25.1%(2026年3月期)。従業員+5.5%・平均年収+12.4%に対し一人当たり営業利益は+5.1%(3,335万円)で吸収できている |
| ③収益の質・連結範囲 | 8/10 | 持分法投資利益は1.4億円で税前利益の0.1%。非支配株主持分も軽微。上期の営業CF÷営業利益は0.96。ただし2026年3月期通期は0.72(棚卸資産の積み増し) |
| ④競争優位性 | 9/10 | ダイサ・グラインダで世界トップ(業界推計で各7〜8割)。GP率71.7%は価格決定力の裏付け。一方で東京精密の受注急増、ハイブリッドボンディング周辺での新規参入が進む |
| ⑤需給ポジション(直近3ヶ月) | 4/10 | 株価は7/23終値69,410円→10/22終値51,230円で−26.2%。75日移動平均からの乖離は−15.3%で、東京エレクトロン(−19.4%)やSCREEN(−18.8%)と同程度の調整。信用倍率は11.2倍と高め |
| ⑥カタリスト(今後3ヶ月) | 5/10 | NVIDIA決算(11月)、SEMICON Japan(12月)、Q3個別出荷速報(1月上旬)、Q3決算(1月下旬)など。定例イベントが中心のため6点とし、上抜け素地0/6で−1調整 |
| ⑦リスク耐性 | 8/10 | 自己資本比率76.1%、現預金3,424億円で無借金。ただし7〜9月期の売上は中国31%(外資メーカーの中国工場向けを含む)・台湾26%と地域が偏っている |
| 合計 | 52/70 | ★★★★☆。AI向け精密加工の中核としての品質は高い。株価は需給面で調整局面 |
※採点基準を v2.2 に改定した(バリュエーションを品質スコアから分離し、需給・カタリストを3ヶ月の窓に固定)。前回(2026年6月3日)の★4つ・52点は旧基準によるもので、単純比較はできない。本レーティングは公開情報に基づく独自の定量評価であり、投資判断を推奨するものではありません。
テーマ適合度(AI半導体・先端パッケージング):27/40(やや高い)
本記事では、テーマを「生成AI向けの演算チップ・HBM・先端パッケージの増産に伴い、後工程の加工量と加工難易度が上がる局面」と定義する。第三者によるTAM推計、技術的な非連続性(HBMの多段積層・ハイブリッドボンディング)、実装マイルストーンの公開(HBM4量産・CoWoS増強)、大手による巨額投資の4項目を満たす。
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①量的寄与 | 7 | 7〜9月期のダイサ出荷のうちIC向けが73%、グラインダは77%。会社は「生成AI向けを中心に」と説明しているが、AI向けの比率は開示されていない(AI向け20〜50%は当サイトの推計) |
| ②純度 | 6 | 事業は半導体・電子部品の精密加工にほぼ特化しているが、時価総額は約5.6兆円の大型株。テーマが動いても株価の反応は小型株より小さくなりやすい(逆に下げ局面の振れも相対的に小さい) |
| ③サイクル位置 | 5 | 成熟期と判断。AI半導体装置株は2023年から大きく上昇し、ディスコも2026年6月に高値を付けた後、約44%調整している。選別が効く局面 |
| ④希少性 | 9 | ダイシング・薄化研削で代替が効きにくく、同工程の上場プレーヤーは国内で東京精密など数社に限られる。ただし希少性が高い銘柄は、テーマが失速した局面では下落も大きくなりうる |
①量的寄与と③サイクル位置の関係について:このテーマは売上の裏付けを伴っている(量的寄与は高い)一方、テーマとしては成熟期にある。今後の株価は、テーマの盛り上がりよりも、受注・出荷の実数がどれだけ伸びるかに左右されやすい構造といえる。
資本イベント素地(TOB/MBO):該当なし(PBR 8.9倍、親会社なし、アクティビストやPEファンドの大量保有も確認されない)。
国策アライン度:2/10(低い)— 半導体は骨太の方針・経済安全保障で重点分野とされているが、ディスコが政府助成の交付対象になっているかなどの到達経路は確認できず、業績への寄与は未確認。
上期決算のポイント(2026年4〜9月)
| 億円 | 1Q実績 (4-6月) |
2Q実績 (7-9月) |
前年同期比 | 上期累計 | 上期会社計画 (7/23時点) |
3Q会社計画 (10-12月) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 出荷額 | 1,359 | 1,486 | +54% | 2,846 | 2,769 | 1,496 |
| 売上高 | 1,143 | 1,428 | +36.4% | 2,571 | 2,428 | 1,324 |
| 営業利益 | 490 | 676 | +52.3% | 1,166 | 1,049 | 581 |
| 営業利益率 | 42.9% | 47.4% | +5.0pt | 45.4% | 43.2% | 43.9% |
| GP率 | 71.3% | 71.7% | +2.2pt | 71.5% | — | — |
| 純利益 | 342 | 461 | +43.5% | 804 | — | 415 |
出典:同社2027年3月期第2四半期決算短信・決算説明資料(2026/10/22)、第1四半期決算短信(2026/7/23)。上期会社計画の営業利益率は当サイトによる算出。会社は業績予想を1四半期先までしか開示しないため、通期予想はない。
① 出荷・売上・利益とも過去最高を更新。7〜9月期の出荷額1,486億円は四半期の過去最高で、7月時点の計画(約1,410億円)を上回った。用途別では「生成AI向けを中心としたIC向けに加え、CPO関連の光半導体・光部品向けが増加」と説明されている。消耗品である精密加工ツールの出荷額も前四半期比+24%と過去最高を更新しており、顧客工場の稼働率が高い状態が続いていることがうかがえる。
② 利益率の上昇は為替と製品構成による。GP率は前年同期比+2.2ptの71.7%。会社は要因として為替(7〜9月期の想定は1ドル159円)と高付加価値製品の増加を挙げている。販管費は人件費・研究開発費の増加で前年同期比+22.6%だったが、増収効果がこれを上回った。
③ 10〜12月期は減収減益の計画。出荷額は1,496億円と前四半期並みの高水準を見込む一方、売上高(検収ベース)は1,324億円(前四半期比−7%)、営業利益は581億円(同−14%)を計画している。想定為替を1ドル159円から151円へ8円円高に見直したことが一因で、会社開示の為替感応度(年間で1円あたり約21億円)から単純計算すると、四半期で約42億円の減益要因となる(当サイト算出)。製品別では、グラインダ(前四半期比+10%)と周辺装置(+10%)が伸びる一方、ブレードダイサ(−5%)と精密加工ツール(−5%)は減少を見込む。同社の計画は過去にも保守的な傾向があり、7月時点の上期計画も実績が上回った。ただし、出荷から売上計上(検収)までのずれと為替が、四半期ごとの損益を大きく動かす点には注意が要る。
④ 株主還元。中間配当は7月時点の予想171円から15円増やして186円(前年同期129円)。同社は半期純利益の25%に加え、現預金が必要額を超えた分の3分の1を目安に追加配当する方針である。
⑤ 投資と財務。上期の営業CFは1,117億円(前年同期比+181.5%)で、契約負債(前受金)が796億円へ296億円増えた。棚卸資産は1,608億円で前期末から195億円増加している。今期の設備投資は約330億円(羽田R&Dセンター新棟、広島事業所の新工場を含む)、研究開発費は約380億円の見通し。
会社概要 & セクター位置づけ
| 証券コード | 6146(東証プライム) |
| セクター分類 | 半導体製造装置 — 後工程精密加工(ダイシング・グラインディング・ポリッシング) |
| 主力製品 | ダイサ(ブレードダイサ・レーザソー)、グラインダ、ポリッシャ、精密加工ツール(ブレード・ホイール等の消耗品) |
| 従業員数(連結) | 5,547名(2026年3月期、前期比+5.5%)+臨時1,814名 |
| 平均年間給与(単体) | 1,880万円(2026年3月期、前期比+12.4%) |
| 地域別売上(2026年7〜9月期) | 中国31%(外資メーカーの現地工場向けを含む)、台湾26%、韓国11%、日本10%、シンガポール8%、欧州7%、米国5% |
| 会計基準 | 日本基準(3月決算) |
| 株価(2026/10/22終値) | 51,230円(前日比−4.37%。決算発表は取引終了後。同日夜のPTSは50,995円) |
| 時価総額 | 約5.56兆円 |
| 予想PER | 約34.0倍(2027年3月期EPS 1,506円は当サイト推計。4〜12月期の会社計画に、1〜3月期を10〜12月期と同水準と置いて算出) |
| PBR | 約8.9倍(2026年9月末BPSベース) |
| EV/EBITDA | 約21倍(EBITDAは2027年3月期の推計営業利益2,328億円+減価償却費見通し160億円) |
| 信用倍率 | 11.16倍(10/16時点) |
「切る・削る・磨く」— KKM技術の独占的ポジション
ディスコの事業は半導体バリューチェーンの後工程(パッケージング前の精密加工)に位置する。ウエハ上に形成された回路を個々のチップに切り分ける「ダイシング」と、チップを極限まで薄くする「グラインディング」は、あらゆる半導体製造プロセスに不可欠な工程である。ディスコはダイシングソーで世界シェア約80%、グラインダで約70%(いずれも業界推計)を握り、東京精密(ACCRETECH)との実質的な二社寡占市場を形成している。
特筆すべきは消耗品ビジネスの存在だ。ダイシングブレード・グラインディングホイール等の精密加工ツールは、2026年7〜9月期の出荷額の23%を占める。装置の稼働率に比例して売上が発生する「カミソリと替え刃」モデルであり、装置投資が停滞しても消耗品収益が業績を下支えする。
AI/HBM需要がディスコの出荷を押し上げる理由
ディスコはAI半導体の増産から直接恩恵を受ける企業の一つである。需要ドライバーは次の4つに整理できる。
① HBM(高帯域幅メモリ)の増産 — HBMは同容量のDDR5に比べてウエハの消費量が大きく、積層前にウエハを極限まで薄くする「グラインディング」が必須である。SK hynix・Samsung・MicronがHBM4の量産を進めており、積層段数の増加に伴って薄化・切断の精度要求が一段と高まる。7〜9月期のグラインダ出荷は前年同期比+47%だった。
② CoWoS等の先端パッケージングの増強 — 台湾・経済日報の報道(2026年9月)によると、TSMCのCoWoS生産能力は2026年末に月13万枚前後、2028年には月26万枚へ倍増する見込みとされる。パッケージのシンギュレーション(個片化)や薄化の工程でディスコの装置が使われる。
③ チップレット構造の普及 — AIアクセラレータの多くはチップレット構成で、ダイを個別に製造して後から集積するため、1製品あたりのダイシング・グラインディングの工程数が増える。
④ CPO(Co-Packaged Optics)【今回追加】 — 光電融合部品の需要増を背景に、光半導体・光部品向けのダイサ出荷が7〜9月期に増加した。7〜9月期のダイサ出荷のうち光半導体向けは10%、非半導体(光部品を含む)向けは10%を占める。
競争環境の再点検(前回記事以降の変化)
ディスコ自身の開示には他社の動きが現れないため、改稿にあたって競争環境を改めて確認した。
| 論点 | 前回記事以降の動き | ディスコへの含意 |
|---|---|---|
| 国内競合(東京精密) | 2026年4〜6月期に半導体製造装置の受注が想定を大きく上回った。プローバ・ダイサのリードタイムは4〜8か月程度、グラインダは6か月超と説明。NAND向けハイブリッドボンディング用グラインダは2026年度下期以降に量産装置の受注、2027年度後半からの出荷を見込む | 需要が業界全体で供給能力を上回っており、ディスコが生産しきれない分を競合が取り込む余地がある。「代替不可」という見方は、需要逼迫時には弱まる |
| 新しい加工方式 | プラズマダイシングは各社とも評価段階。ハイブリッドボンディングは前工程に近い平坦化精度が求められる | ディスコはレーザソー(7〜9月期出荷は前年同期比+91%)で先行しているが、加工方式の転換点では装置の勢力図が変わりうる |
| 中国ローカル勢 | 北方華創(NAURA)がハイブリッドボンディング装置メーカー(北京諾合鍵維)を4.05億元で買収すると公告(2026年10月15日)。中国勢による後工程装置の国産化が進む | 中国売上31%のうち、中国ローカル顧客の装置国産化が進めば、中長期的にシェアが下がるリスクがある |
| 輸出規制 | 米BISによる後工程装置への規制拡大は確認できず。同盟国に装置規制の歩調を求めるMATCH法案は9月末時点で未成立 | 直近の規制リスクは限定的。ただし法案が成立すれば規制対象が広がる可能性がある |
| 顧客の投資 | TSMCは2026年の設備投資計画を据え置き、売上成長見通しを上方修正。メモリは供給不足が続き、TrendForceは10〜12月期の一般DRAM契約価格を前四半期比+10〜15%と予想 | 顧客の設備投資意欲は高い水準が続いている |
競争優位性 — なぜ営業利益率45%超を実現できるのか
① 消耗品による顧客の囲い込み — 自社装置専用のブレード・ホイールを供給しており、装置と消耗品を最適に組み合わせるアプリケーション技術が、顧客の切り替えコストを高めている。
② 社内通貨「Will」による管理会計 — 従業員が業務を社内通貨で売買する「Will会計」を運用し、業務の価値を見える化している。2026年3月期の一人当たり営業利益は3,335万円と、人員・賃金を増やしながら生産性を維持している。
③ 技術的な参入障壁 — ナノメートル精度の加工には長年のノウハウが必要である。SiCなど硬い材料向けのレーザー加工(ステルスダイシング等)は、同社の研究開発の蓄積が強みとなっている。
バリュエーション — 株価アップサイド/ダウンサイド試算
前提:株価51,230円(10/22終値)、自己株式を除く発行済株式数1億850万株、ネットキャッシュ3,424億円(現預金、有利子負債なし)。会社は通期予想を開示していないため、2027年3月期のEPSは当サイトの推計(1,506円)を使う。シクリカル企業であるため、ピーク時の利益だけでなく、ミッドサイクル(景気の平均的な局面)のEPSでも検証した。
マルチプル法
| ケース | 前提 | 理論株価 | 現株価比 |
|---|---|---|---|
| ブル | 2028年3月期の営業利益2,900億円(SMBC日興の予想)→ EPS約1,965円 × PER40倍 | 78,600円 | +53% |
| ベース | 2028年3月期EPS 1,687円(推計EPSから+12%)× PER35倍 | 59,000円 | +15% |
| ミッドサイクル | 売上4,800億円 × 営業利益率40% → EPS約1,300円 × PER35倍 | 45,500円 | −11% |
| ベア | ミッドサイクルEPS約1,300円 × PER25倍(装置サイクルの調整局面) | 32,500円 | −37% |
DCF法
前提:WACC 8.5%(製造装置)、初年度FCF 1,400億円(推計純利益+減価償却費−設備投資330億円から、運転資本の増加分を差し引いて保守的に設定)、5年間の成長率10%、永久成長率2.5%。
| WACC \ 永久成長率 | 1.5% | 2.5% | 3.5% |
|---|---|---|---|
| 7.5% | 31,700円 | 36,400円 | 43,500円 |
| 8.5% | 27,500円 | 30,700円 | 35,300円 |
| 9.5% | 24,300円 | 26,700円 | 29,800円 |
DCFのシナリオ別(WACC 8.5%・永久成長率2.5%)では、ブル(初年度FCF 1,600億円・5年成長率15%)が40,100円(−22%)、ベース(同1,400億円・10%)が30,700円(−40%)、ベア(同1,100億円・3%)が20,300円(−60%)となる。5年以降の成長を2.5%に抑える保守的な前提では、現在の株価は説明しきれない。言い換えると、市場はAI需要による2桁成長が5年を超えて続くことを織り込んでいる。
アップサイド/ダウンサイド サマリー
| 手法 | 理論株価 | 現株価比 |
|---|---|---|
| DCF(ベース) | 30,700円 | −40% |
| PER × ミッドサイクルEPS | 45,500円 | −11% |
| PER × 2028年3月期推計EPS(ベース) | 59,000円 | +15% |
| 証券会社の目標株価(確認できた3社の平均) | 73,500円 | +43% |
※証券会社の目標株価:SMBC日興 68,000円(9/28、投資評価を「1」に引き上げ)、東海東京 80,500円(9/15)、水戸証券 72,000円(7/30)。報道ベース。上期決算を受けた見直しは反映していない。
価格判定 C(適正):4つの手法の中央値は現株価とほぼ同水準だが、レンジは−40%〜+43%と非常に広い。予想PERは前回の約51倍から約34倍へ下がり、6月時点の割高感は和らいだ。一方で、ミッドサイクルのEPSで見ると割安とまではいえない。AI需要が長く続くと考えるかどうかで、評価は大きく分かれる。
東証上場 類似銘柄比較(2026/10/22終値)
| 銘柄 | コード | 時価総額 | 予想PER | PBR | 10/22騰落 | 75日線乖離 | 主要事業・違い |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ディスコ | 6146 | 5.56兆 | 約34倍※ | 8.86倍 | −4.4% | −15.3% | 後工程の切断・研削。消耗品比率が高い ← 調査対象 |
| 東京エレクトロン | 8035 | 22.1兆 | — | 10.09倍 | −7.0% | −19.4% | 前工程の総合大手(成膜・エッチング等) |
| アドバンテスト | 6857 | 23.7兆 | 35.4倍 | 22.41倍 | −6.0% | — | SoCテスタ。AI向けGPU/HBMの検査需要 |
| レーザーテック | 6920 | 3.51兆 | 37.1倍 | 13.53倍 | −6.3% | — | EUVマスク検査。受注の振れが大きい |
| SCREEN HD | 7735 | 2.25兆 | 19.4倍 | 4.48倍 | −8.8% | −18.8% | 洗浄装置。中国比率が高い |
| 東京精密 | 7729 | 0.68兆 | 21.1倍 | 3.42倍 | −6.3% | −10.7% | ダイサ・グラインダの直接競合+プローバ。計測機器も展開 |
出典:株探(2026/10/22終値)。予想PERは会社予想ベース。東京エレクトロンは会社予想PERの表示なし。※ディスコの予想PERは当サイト推計EPSによる。
10月22日は半導体製造装置株が全面安となり、ディスコの下落率(−4.4%)は同業他社(−6〜−9%)より小さかった。直接の競合である東京精密(PER約21倍)との比較では、ディスコのPERは6割ほど高い。この差は、消耗品比率の高さ、利益率の差(ディスコの上期営業利益率45%)、AI向け加工での先行に対する評価と解釈できる。
出荷・売上速報と株価の反応
ディスコは四半期ごとに個別(単体)の売上高と出荷額の速報を、決算発表より先に開示している。速報は業界全体の後工程投資の先行指標として注目される。
| 日付 | 開示・イベント | 株価の反応 |
|---|---|---|
| 2026/7/23 | 1Q決算。7〜9月期の営業利益計画(559億円)が市場予想(600億円強)を下回る | 翌日に大幅安 |
| 2026/9/28 | SMBC日興が投資評価を「2」→「1」に引き上げ(目標株価68,000円) | 5日続伸 |
| 2026/10/6 | 2Q個別速報:単体売上1,185億円(前年同期比+38.9%)、単体出荷額1,239億円(同+60.0%) | 翌日急反落(サプライズに乏しいとの見方) |
| 2026/10/22 | 上期決算と4〜12月期計画を発表(取引終了後) | 夜間PTSは50,995円(終値比−0.5%) |
好調な数字を出しても株価が下がる局面が続いており、市場の期待が高い水準にあることを示している。
地政学・規制リスク
7〜9月期の売上に占める中国の比率は31%(外資メーカーの中国工場向けを含む)と、依然として最大の地域である。ダイシング・グラインダは後工程装置で、EUV露光装置などの前工程装置に比べて輸出規制の対象になりにくい。前回記事以降、米国による後工程装置への規制拡大は確認できなかったが、MATCH法案の行方次第では対象が広がるリスクが残る。
一方、米国のCHIPS法、EUのChips Act、日本のRapidus支援などで世界各地に工場の建設が進んでおり、地域の分散はディスコにとって装置需要の広がりにもつながる。ただし、これらの補助金がディスコの売上にどれだけ結びつくかは確認できない。
カタリストカレンダー(2026年10月〜2027年4月)
| 時期 | イベント | 影響度 | 織り込み度・注目点 |
|---|---|---|---|
| 10/23 | 上期決算を受けた最初の取引日 | ★★★★☆ | 一部織り込み済み。10〜12月期の減益計画をどう受け止めるか |
| 11月下旬(予定) | NVIDIA 2027年1月期第3四半期決算 | ★★★★★ | 未織り込み。データセンター売上とガイダンスが、HBM・CoWoS経由で装置需要に波及 |
| 12/9〜11 | SEMICON Japan 2026(東京ビッグサイト) | ★★★☆☆ | 新製品・ハイブリッドボンディング関連の展示 |
| 12月中旬(予定) | Micron 2026年9〜11月期決算 | ★★★★☆ | HBMの出荷と設備投資の計画 |
| 2027年1月上旬(予定) | ディスコ 3Q個別売上・出荷速報 | ★★★★☆ | 出荷額1,496億円の計画を達成できるか |
| 2027年1月中旬(予定) | TSMC 2026年10〜12月期決算 | ★★★★★ | 2027年の設備投資計画とCoWoSの増強計画 |
| 2027年1月下旬(予定) | ディスコ 3Q決算・1〜3月期の計画 | ★★★★★ | 為替前提と、出荷から売上計上までのずれの解消状況 |
| 2027年4月 | ディスコ 4Q個別速報・通期決算 | ★★★★☆ | 年間配当(追加配当の有無) |
上抜け素地(6項目):0/6 — ①売買代金は直近1ヶ月で3ヶ月平均を大きく上回っておらず未確認、②年初来高値(91,680円)まで約44%の距離、③信用倍率11.2倍で買い残が重い、④売り残は8.6万株と少なく踏み上げ余地は小さい、⑤時価総額5.6兆円の大型株、⑥今後3ヶ月の材料は定例イベントが中心。このため⑥カタリストを1点引き下げた。なお、これは株価の振れやすさについての構造的な観察であり、上昇・下落を予想するものではない。
財務リスク分析
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2026年9月期(上期) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 75.1% | 78.9% | 76.1% | ◎ 極めて健全 |
| 営業CF | 1,204億 | 1,335億 | 1,117億 | ◎ 上期だけで前期の8割超 |
| 有形固定資産の取得 | 669億 | 351億 | 129億 | ○ 今期計画は約330億円 |
| 現金及び預金 | — | 2,846億 | 3,424億 | ◎ 無借金 |
| 棚卸資産 | 1,390億 | 1,413億 | 1,608億 | △ 増産対応で増加(原材料中心) |
| 契約負債(前受金) | 439億 | 500億 | 796億 | ○ 受注の強さを示す |
| 配当性向 | 36.1% | 40.4% | — | ○ 業績連動+追加配当 |
人件費の構造:2026年3月期の連結従業員数は5,547名(前期比+5.5%)、単体の平均年間給与は1,880万円(同+12.4%)。一人当たり売上高は7,876万円、一人当たり営業利益は3,335万円(同+5.1%)で、増員と賃上げを売上の伸びで吸収できている。労働分配率は、単体の人員×平均給与を粗利で割った簡易推計で約23%(前期約21%)と低い水準にある(推計値)。固定費の比率が低いことは、需要が落ち込んだときの損益の耐性につながる。
為替感応度:1ドルあたり1円の円高で年間の営業利益が約21億円減る(会社開示)。為替は四半期ごとの利益を動かす最大の外部要因の一つである。
連結範囲:持分法投資利益は上期で1.4億円と小さく、利益のほぼすべてが本業から生まれている。上期にはドイツ子会社の建物建て替えに伴う減損損失6億円を計上したが、規模は小さい。
主要株主構成
| 提出者(大量保有報告書) | 保有比率(共同保有を含む) | 提出日・目的 |
|---|---|---|
| ブラックロック・ジャパン | 6.26% | 2024/4/3・純投資 |
| Octagon Lab | 5.87% | 2026/9/9(変更報告書・保有割合が増加)・安定株主として長期保有 |
| 野村證券/野村アセットマネジメント | 5.48% | 2024/4/5・信託財産の運用 |
| 三井住友トラスト・AM/アモーヴァ・AM | 5.32% | 2025/9/19・投資信託の運用 |
| APGアセットマネジメント | 4.00% | 2023/9/22・純投資 |
出典:EDINET 大量保有報告書(各提出者の最新報告)。現在の保有比率とは異なる場合がある。
まとめ
ディスコ(6146)の上期決算は、出荷・売上・利益のすべてで過去最高を更新し、7〜9月期の営業利益率は47.4%に達した。HBM・先端ロジック向けに加え、CPO関連の光部品向けという新しい需要も現れており、AI関連の精密加工需要が裾野を広げていることを示す内容だった。
一方で、10〜12月期は円高前提への見直しなどにより減収減益の計画となっている。出荷額は高水準が続く見込みのため需要の変調を示すものではないが、四半期ごとの損益は為替と売上計上のタイミングで振れやすい。株価は6月の高値から約44%下落し、予想PERは約34倍まで低下した。
品質面では★★★★☆(52/70)と高く評価できる一方、価格判定はC(適正)にとどまる。ただしその幅は、DCFの−40%から証券会社目標の+43%までと非常に広い。優良企業であることと、今の株価が割安であることは別の問題であり、AI需要の持続期間、東京精密や中国勢の追い上げ、為替の3点が今後の評価を左右するとみられる。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は半導体企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。DCF試算・マルチプル比較・レーティングは独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。半導体産業は景気循環・技術変化・地政学リスク等により業績が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は2026年10月22日時点の公開情報に基づいています(初回公開:2026年6月3日)。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。
データソース:ディスコ 2027年3月期第2四半期決算短信・決算説明資料(2026/10/22)、第1四半期決算短信(2026/7/23)、EDINET(有価証券報告書・大量保有報告書)、株探、東京精密 決算説明会Q&A(2026/8/4)、TSMC決算報道(Focus Taiwan 2026/10/15)、TrendForce予測(TechNews 2026/9/30)、経済日報、SEMI