ステムリム(4599・東証グロース)は、大阪大学発の再生誘導医薬プラットフォームを有するバイオベンチャーである。主力パイプラインであるレダセムチド(HMGB1ペプチド)は、表皮水疱症・急性期脳梗塞・虚血性心筋症・慢性肝疾患・変形性膝関節症の5適応症で臨床開発が進行中だ。本記事では、2025年10月31日付の事業計画資料および直近の適時開示をもとに、パイプラインの開発段階・規制当局との協議状況・rNPV試算・競合比較・直近6ヶ月のカタリストを独自に整理した。なお、本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
1. 会社概要
2. パイプライン進捗一覧
3. 規制当局(PMDA/FDA)との協議状況
4. rNPV試算(競合比較付き)
5. カタリストカレンダー(2026年6月〜11月)
6. 注目パイプライン詳細
7. 財務・資金リスク分析
8. その他リスク要因
9. まとめ
1. 会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社ステムリム(StemRIM Inc.) |
| 証券コード | 4599(東証グロース) |
| 設立 | 2006年10月30日(大阪大学発ベンチャー) |
| 本社 | 大阪府茨木市彩都あさぎ七丁目7-15 |
| 代表者 | 岡島正恒(代表取締役社長CEO) |
| CSO・ファウンダー | 玉井克人(取締役CSO、大阪大学招聘教授) |
| 従業員数 | 45名+臨時23名(2025年7月末時点) |
| 事業内容 | HMGB1ペプチドを基盤とした再生誘導医薬の研究開発 |
| 大学連携 | 大阪大学「再生誘導医学協働研究所」共同運営、共同研究11件進行中 |
| 特許 | 登録136件・申請中84件(大阪大学と共同出願含む) |
| 直近株価 | 297円(2026年4月30日終値) |
| 時価総額 | 約194億円 |
| 発行済株式数 | 62,136,200株 |
| PBR / PER | 約3.82倍 / N/A(最終損失) |
ステムリムの技術基盤は、損傷組織から放出されるHMGB1タンパク質が骨髄間葉系幹細胞(MSC)を動員・集積させるメカニズムを応用した「再生誘導医薬」である。化学合成ペプチドの静脈注射で体内の幹細胞を動員するという独自のアプローチは、細胞治療・遺伝子治療とは根本的に異なり、工業的な大量生産が可能な点が最大の優位性だ。
2. パイプライン進捗一覧
| パイプライン | 化合物 | フェーズ | 適応症 | TAM(国内) | TAM(米国) | 開発主体 | 導出状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| PJ1-01 | レダセムチド(TRIM2) | 追加Ph2(LPI完了) | 栄養障害型表皮水疱症(DEB) | 約400名 | 約9,000人 | 塩野義製薬 | 導出済 |
| PJ1-02 | レダセムチド(TRIM2) | グローバル後期Ph2b | 急性期脳梗塞 | 約18.7万人/年 | 約69万人/年 | 塩野義製薬 | 導出済 |
| PJ1-03 | レダセムチド(TRIM2) | 医師主導Ph2 | 虚血性心筋症 | 約6.2万人 | 約12.1万人 | 大阪大学 | 導出済 |
| PJ1-04 | レダセムチド(TRIM2) | 医師主導Ph2完了 | 変形性膝関節症 | 潜在2,500万人 | 3,250万人 | 弘前大学 | 方針検討中 |
| PJ1-05 | レダセムチド(TRIM2) | 医師主導Ph2完了 | 慢性肝疾患 | 40〜50万人 | 550万人 | 新潟大学 | 方針検討中 |
| PJ2 | TRIM3/4(全身投与型新規ペプチド) | 非臨床 | 複数組織損傷疾患 | 非開示 | 非開示 | 自社 | 交渉中 |
| PJ3 | TRIM5(局所投与型新規ペプチド) | 非臨床 | 難治性潰瘍・骨軟骨性疾患 | TBD | TBD | 自社 | 導出予定 |
| PJ5 | SR-GT1(幹細胞遺伝子治療) | 治験準備中 | 栄養障害型DEB | 約400名 | 約9,000人 | 自社(AMED採択) | 導出予定 |
3. 規制当局(PMDA/FDA)との協議状況
オーファンドラッグ指定
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| オーファンドラッグ指定(日本) | 取得済み(2023年5月、DEB適応) |
| PMDA対面助言 | 実施済み(DEB追加Ph2設計に関連) |
| DEB承認申請予定 | 2026年度下半期(塩野義が申請主体) |
| DEB上市見込み | 2027年度(優先審査により審査期間短縮) |
| Ph3要否(DEB) | 不要(患者数約400名で大規模Ph3困難、Ph2結果で申請) |
| FDA IND(レダセムチド) | 塩野義主導。ステムリム単独のFDA申請は現時点で非公開 |
| 先駆け審査指定 | 現時点で公開情報なし |
| AMED採択 | SR-GT1(幹細胞遺伝子治療)が2024年12月に助成金採用 |
4. rNPV試算(競合比較付き)
4-1. rNPV算出前提条件
| パラメータ | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| WACC(割引率) | 12% | 小型バイオテック標準 |
| PoS出典 | BIO/QLS 2011-2020 | 希少疾患は+10-15%補正 |
| ロイヤリティ率 | 15% | 塩野義へのライセンスアウト前提 |
| ピーク売上到達 | 上市後2年(希少疾患)/ 3年(一般) |
4-2. パイプライン別rNPV試算
| 適応症 | PoS | ピーク売上(年) | rNPV概算 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| DEB(表皮水疱症) | 35-55% | 50-80億円 | 10〜20億円 | Ph2結果で申請、オーファン指定済 |
| 急性期脳梗塞(グローバル) | 10-17% | 500-1,000億円 | 50〜120億円 | Ph2b→Ph3→承認。最大のアップサイド |
| 虚血性心筋症 | 15-25% | 100-200億円 | 5〜15億円 | 医師主導Ph2進行中 |
| 変形性膝関節症 | 10-15% | 300-500億円 | 5〜20億円 | Ph2完了、導出先未定 |
| 慢性肝疾患 | 10-15% | 200-400億円 | 5〜15億円 | Ph2完了、導出先未定 |
| TRIM3/4・SR-GT1 | 5-10% | 非開示 | 3〜15億円 | 非臨床/治験準備段階 |
| 合計 | — | — | 約78〜205億円 | 時価総額194億円はDEB承認を概ね織込み |
現在の時価総額約194億円は、DEB承認申請シナリオを概ね織り込み、脳梗塞Ph2bの成功をオプション値として部分反映した水準と解釈できる。脳梗塞Ph2b成功→Ph3開始が確認されれば、rNPVは大幅に上方修正される可能性がある。
4-3. 競合パイプライン比較(DEB領域)
| 企業 | 化合物 | MOA | 段階 | 投与経路 | 差別化ポイント | 時価総額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ステムリム/塩野義 | レダセムチド | HMGB1ペプチド→MSC動員 | 追加Ph2→申請予定 | 静脈注射 | 化学合成・工業生産可能。細胞/ウイルス不使用 | 約194億円 |
| Krystal Biotech | Vyjuvek(B-VEC) | HSVベクターCOL7A1遺伝子治療 | FDA承認済(2023年) | 局所塗布 | 世界初承認。年間約63万USD | 約28億USD |
| Abeona | ZEVASKYN(pz-cel) | ex vivo遺伝子治療(表皮シート) | FDA承認済(2025年4月) | 手術移植 | 1回投与で長期効果。約310万USD | 約6億USD |
| Castle Creek | FCX-007 | ex vivo線維芽細胞遺伝子導入 | Ph3進行中 | 皮内注射 | 局所投与で簡便 | 非公開 |
| Amryt(Chiesi) | Filsuvez | ベツリン製剤(創傷治癒促進) | EU/FDA承認済 | 局所塗布 | 症状緩和。遺伝子根治ではない | 非公開 |
レダセムチドは遺伝子治療とは異なる「再生誘導」メカニズムで、製造コスト・グローバル供給面で優位性がある。既承認品(B-VEC、pz-cel)は高額な遺伝子治療であり、化合物医薬品のレダセムチドとは共存市場となる可能性が高い。
競合比較(急性期脳梗塞領域)
| 企業 | 化合物 | MOA | 段階 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| ステムリム/塩野義 | レダセムチド | MSC動員→神経保護・再生 | グローバルPh2b(679例) | 中間解析でDose2中止、Dose1継続 |
| NoNO/Neuroprotix | Nerinetide | PSD-95阻害 | Ph3 | 失敗(2025年、主要評価項目未達) |
| GNT Pharma | Nelonemdaz | NMDA拮抗+ラジカル消去 | Ph2 | 主要評価項目未達 |
| Bayer | Asundexian | FXIa阻害(再発予防) | Ph3成功 | 再発予防薬(急性期神経保護とは異なる市場) |
急性期脳梗塞の神経保護薬は歴史的に難易度が極めて高く、nerinetideも失敗した。レダセムチドの差別化は「発症25時間以内の投与時間窓」(tPAの4.5時間・血栓回収の8時間より大幅に長い)と組織再生メカニズムにある。競合の相次ぐ失敗は市場空白を意味する一方で、開発難易度の高さも示唆している。
5. カタリストカレンダー(2026年6月〜11月)
| 時期 | イベント | 詳細 | インパクト |
|---|---|---|---|
| 2026年6月 | 2026年7月期Q3決算発表 | 四半期業績・キャッシュ残高確認 | ★★★ |
| 2026年6月 | BIO International Convention | TRIM3/4導出交渉の進展可能性 | ★★★ |
| 2026年7〜8月 | DEB追加Ph2 全症例観察期間終了 | 2025年7月LPI完了→52週観察完了 | ★★★★ |
| 2026年9月 | DEB治験結果速報(トップライン) | 主要評価項目「難治性潰瘍の閉鎖」達成可否。陽性なら承認申請準備開始 | ★★★★★ |
| 2026年9月 | 急性期脳梗塞Ph2b速報 | 679例、mRS改善の有意差有無。Ph3開始可否の判断材料 | ★★★★★ |
| 2026年秋 | 虚血性心筋症 医師主導Ph2中間データ | 2026年4月にLPI完了 | ★★★ |
| 2026年10〜11月 | 事業計画及び成長可能性に関する事項(年次開示) | 速報を受けた開発計画更新、PMDA相談状況 | ★★★★ |
| 2026年11〜12月 | DEB承認申請提出(塩野義) | 速報で主要評価項目達成なら「2026年度下半期」に申請。優先審査で最短6〜9ヶ月 | ★★★★★ |
| 2026年内 | TRIM3/4ライセンスアウト契約 | 交渉中。契約締結は不定期 | ★★★ |
6. 注目パイプライン詳細
レダセムチド × 栄養障害型表皮水疱症(DEB)— 最先行品
作用機序:HMGB1ペプチドの静脈注射により、骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)を動員し、損傷皮膚部位に集積させる。MSCがVII型コラーゲン(COL7)を産生し、表皮と真皮の接着を回復させることで、難治性潰瘍の閉鎖を促進する。
試験デザイン:単群・非対照・3例以上。レダセムチド1.0mg/kgを4週間にわたり計10回静注。主要評価項目は52週以内の難治性潰瘍の閉鎖。2025年7月にLPI(最終症例登録)完了。
独自性:遺伝子治療(B-VEC、pz-cel)が「外から遺伝子を補充する」アプローチなのに対し、レダセムチドは「体内の幹細胞を活性化して再生を促す」アプローチ。化学合成ペプチドのため製造コストが圧倒的に低く(遺伝子治療は1回数百万ドル)、グローバル供給が容易。
レダセムチド × 急性期脳梗塞 — 最大のアップサイド
試験デザイン:グローバル後期Ph2b、679例、2コホート(血栓溶解療法実施/未実施)、プラセボ対照二重盲検。レダセムチド1.5mg/kgを5日間静注。主要評価項目はDay90のmRS(modified Rankin Scale)改善。実施国は日本・欧州・北米・中国等。
中間解析結果(2025年4月):無益性解析により低用量(0.75mg/kg)中止、高用量(1.5mg/kg)継続。低用量中止は一部ネガティブだが、高用量の有効性検証が継続されたことは肯定的シグナルとも解釈できる。
市場規模:急性期脳梗塞は日本だけで年間約18.7万人、米国で約69万人。現在tPA(4.5時間以内)と血栓回収術(8時間以内)しか急性期治療がなく、レダセムチドの25時間投与時間窓が承認されれば、治療機会が大幅に拡大する。上市予定は2028〜2031年(塩野義製薬開示)。
7. 財務・資金リスク分析
損益推移(直近3期)
| 項目 | 2023年7月期 | 2024年7月期 | 2025年7月期 |
|---|---|---|---|
| 事業収益 | 23億5,000万円 | 0円 | 0円 |
| 営業損益 | +1億4,239万円 | -20億7,608万円 | -19億7,153万円 |
| 経常損益 | +1億4,537万円 | -20億7,787万円 | -19億7,044万円 |
| 純損益 | +1億6,835万円 | -20億2,216万円 | -19億2,943万円 |
| EPS | +2.80円 | -32.98円 | -31.16円 |
2023年7月期の黒字はライセンスマイルストーン収入によるもの。2024年7月期以降は収益ゼロの純研究開発フェーズ。
資金状況
| 項目 | 数値 | 評価 |
|---|---|---|
| 現預金残高(2025年7月末) | 69億9,459万円 | |
| 四半期バーンレート | 約3.5〜4.5億円 | |
| 年間現金支出見込(FY2026) | 15.3〜20.1億円 | |
| ランウェイ | 約3〜5年(2028年まで確保) | 低リスク |
| MSワラント等の大規模増資 | 過去実績なし | 低リスク |
| 継続企業の前提(GC注記) | なし | 該当なし |
| 自己資本比率 | 78%(2025年7月期末) | 低下傾向(2020年95.5%→) |
| 累積赤字 | 利益剰余金 -37.8億円 | |
| 増資リスク評価 | 中(2028〜2029年頃に資金調達局面の可能性) | |
2019年のIPOで約85億円超を調達し、以降MSワラント等の大規模希薄化増資は実施していない。現預金約70億円は小型バイオとしては厚く、2028年まで開発継続可能と会社も明示している。ただし、無収益が続く場合は2028〜2029年頃に追加調達局面が到来する。
8. その他リスク要因
| リスク項目 | 水準 | 内容 |
|---|---|---|
| キーパーソンリスク | 高 | 玉井克人CSO(ファウンダー・大阪大学招聘教授)への科学的依存が大きい。教授の定年・異動・健康問題が研究戦略に直接影響しうる |
| 臨床試験の不確実性 | 高 | DEB試験は少数例(3例以上)。脳梗塞Ph2bは低用量中止という一部ネガティブ結果が既出。急性期脳梗塞の神経保護薬は歴史的に失敗が多い |
| 収益構造リスク | 高 | マイルストーン依存で収益の非連続性が大きい。2024・2025年7月期は収益ゼロ |
| 塩野義依存リスク | 中 | 主要2パイプライン(DEB・脳梗塞)の開発・申請・販売がすべて塩野義に依存 |
| 競合品上市リスク | 中 | DEB領域でB-VEC・ZEVASKYNがFDA承認済み。先行品の市場占有が進む可能性 |
| 特許リスク | 中 | 物質特許は2030年代前半に順次満了の可能性。用途特許でポートフォリオ構築中 |
| 市場リスク | 中 | 東証グロースの小型バイオはセクターセンチメントに大きく左右される |
9. まとめ
ステムリム(4599)は、HMGB1ペプチド「レダセムチド」を基盤とした再生誘導医薬の開発に特化した大阪大学発バイオベンチャーである。最先行パイプラインのDEB適応は2023年5月にオーファンドラッグ指定を取得済みで、2026年9月の治験速報→2026年度下半期の承認申請→2027年度上市というタイムラインが見えている。
最大のアップサイドは急性期脳梗塞のグローバルPh2b(679例)で、こちらも2026年9月に速報が予定されている。DEB・脳梗塞の「ダブル速報」が同時期に控えるという稀有な局面にあり、いずれかの成功が確認されれば企業価値の大幅な再評価が想定される。
一方で、急性期脳梗塞の神経保護薬開発は歴史的に失敗続きであり、中間解析での低用量中止という懸念材料もある。財務面は現預金約70億円・MSワラントなしと小型バイオとしては健全だが、無収益が長期化すれば2028年以降に増資リスクが浮上する。
rNPV合計概算は78〜205億円で、現在の時価総額194億円はDEB承認をほぼ織り込んだ水準と解釈できる。脳梗塞Ph2b成功が確認されれば、大幅なバリュエーション拡大の余地がある。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は特定企業のパイプラインに関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、
特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。rNPV試算は独自の前提条件に
基づく推計であり、実際の企業価値を保証するものではありません。バイオ医薬品の開発には
高い不確実性が伴い、臨床試験の失敗、規制当局の判断、競合状況の変化等により
開発品の価値が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、
十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は2026年5月31日時点の公開情報に基づいています。
筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。