ネクセラファーマ株式会社(Nxera Pharma Co., Ltd.、証券コード4565、東証プライム)は、英国子会社Heptares Therapeutics社が持つNxWave™GPCR構造解析技術を軸に、統合失調症・不眠症・脳血管疾患・希少疾患を対象とする多様なパイプラインを展開するグローバルバイオファーマである。本記事は2026年5月時点の公開情報に基づき、パイプライン進捗・規制当局状況・rNPV試算・向こう6ヶ月のカタリストを独自に整理したものである。なお本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
目次
会社概要
| 項目 |
内容 |
| 証券コード |
4565(東証プライム) |
| 設立年 |
1990年6月 |
| 本社所在地 |
東京都港区赤坂9-7-2 |
| 従業員数(連結) |
382名 |
| 株価(2026年5月末) |
約1,140円 |
| 時価総額 |
約1,055億円 |
| 発行済株式数 |
90,496,735株 |
| PBR |
1.52倍 |
| PER |
N/A(赤字継続) |
| 代表者 |
クリストファー・カーギル(代表執行役社長CEO) |
| 主要子会社 |
Heptares Therapeutics Ltd.(英国) |
| 主要技術 |
NxWave™プラットフォーム(StaR®によるGPCR安定化・創薬) |
| Going Concern注記 |
なし(2026年Q1決算) |
パイプライン進捗一覧
| 製品名 |
化合物 |
適応症 |
フェーズ |
パートナー |
状況 |
| ピヴラッツ® |
クラゾセンタン |
くも膜下出血後脳血管攣縮 |
承認済 |
自社 |
Q1売上2,921M (+21.3%)。先駆け審査対象 |
| クービビック® |
ダリドレキサント |
不眠症 |
承認済 |
塩野義製薬(日本)、Holling Bio(台湾) |
Q1売上1,408M (+117.6%)。台湾2026年4月承認 |
| ダリドレキサント |
ダリドレキサント |
不眠症 |
審査中(韓国) |
— |
MFDS申請2026年3月 |
| NBI-1117568(Direclidine) |
M4選択的ムスカリン作動薬 |
統合失調症 |
Phase 3 |
Neurocrine Biosciences |
2025年6月Ph3第1例投与。280例。結果2027-2028年 |
| NBI-1117568 |
M4作動薬 |
双極性障害 |
Phase 2 |
Neurocrine |
実施中 |
| NBI-1117570 |
M1/M4二重作動薬 |
統合失調症 |
Phase 2 |
Neurocrine |
2026年4月第1例投与($22.5M受領)。約120例 |
| NBI-1117567 |
M1選択的作動薬 |
アルツハイマー認知症状 |
Ph2準備 |
Neurocrine |
2026年中開始予定 |
| NBI-1117569 |
M1/M4作動薬 |
アルツハイマー精神症状 |
Phase 1 |
Neurocrine |
2027年結果予定 |
| バモロロン(AGAMREE®) |
Vamorolone |
DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー) |
申請準備(日本) |
Santhera(ライセンス元) |
2026年1月ライセンス取得。米国・EU・中国承認済。PMDA申請準備中 |
臨床試験データ詳細
NBI-1117568(Direclidine)Phase 3
| 項目 |
内容 |
| 試験デザイン |
グローバル二重盲検プラセボ対照試験 |
| 対象患者 |
成人統合失調症(急性増悪・再発) |
| 症例数 |
約280例 |
| 主要エンドポイント |
Week 6時点のPANSS総スコアのベースラインからの変化量 |
| 副次エンドポイント |
CGI-S(臨床全般印象重症度)の改善 |
| Phase 2結果 |
20mg/日でプラセボ補正後PANSS −7.5点(p=0.011、効果量0.61)、ベースライン比 −18.2点 |
| Ph3開始 |
2025年6月 第1例投与完了 |
NBI-1117570 Phase 2
| 項目 |
内容 |
| 化合物特性 |
経口M1/M4デュアル選択的ムスカリン受容体作動薬(NxWave設計第2化合物) |
| 試験デザイン |
二重盲検プラセボ対照試験 |
| 対象患者 |
入院加療を要する成人統合失調症 |
| 予定症例数 |
約120例 |
| 開始 |
2026年4月12日 第1例投与完了(NCT07288333) |
Neurocrine提携の経済条件
| 項目 |
内容 |
| 契約締結 |
2021年11月 |
| マイルストン総額上限 |
最大26億米ドル(開発・承認15億ドル+販売マイルストン) |
| ロイヤリティ |
売上高連動(率は非公開) |
| 受領済み主要マイルストン |
2024年:Ph2良好結果 $35M含む合計約$90M/2025年6月:Ph3第1例 $15M/2026年Q1:NBI-1117570 Ph2第1例 $22.5M |
規制当局との協議状況
| 製品 |
当局 |
ステータス |
詳細 |
| ピヴラッツ® |
PMDA |
承認済 |
2022年承認。先駆け審査対象。日本初承認薬 |
| クービビック® |
PMDA |
承認済 |
2024年承認 |
| ダリドレキサント |
台湾FDA |
承認済 |
2026年4月承認。迅速審査指定活用 |
| ダリドレキサント |
MFDS(韓国) |
審査中 |
2026年3月申請 |
| バモロロン |
FDA/EMA/中国 |
海外承認済 |
米国AGAMREE®承認(2023年10月)、EU CHMP肯定的意見(2026年4月、2歳以上適応拡大推奨。EC正式承認手続中)、中国承認済。FDA希少疾患指定取得 |
| バモロロン |
PMDA |
申請準備中 |
2026年1月日本ライセンス取得。希少疾患指定申請も検討 |
| NBI-1117568 |
FDA |
Phase 3中 |
2025年6月Phase 3第1例投与完了 |
rNPV試算(WACC=12%、BIO/QLS成功確率使用)
| パイプライン |
フェーズ |
PoS |
ピーク売上想定 |
rNPV概算 |
| ピヴラッツ® (クラゾセンタン) |
承認済 |
100% |
ピーク¥200億/年 |
~¥700億 |
| クービビック® (ダリドレキサント) |
承認済 |
100% |
ピーク¥150億/年(日本+アジア) |
~¥500億 |
| NBI-1117568 (Direclidine) |
Phase 3 |
57.1% |
TAM¥5,000億、シェア5%、ロイヤリティ10-15% |
~¥300〜450億 |
| バモロロン(日本・韓国・豪NZ) |
申請準備 |
85% |
日本DMD患者≒2,000人、TAM¥100億 |
~¥80〜120億 |
| NBI-1117570 (M1/M4) |
Phase 2 |
16.5% |
TAM¥3,000億、シェア3% |
~¥50億 |
| NBI-1117567 (M1選択的) |
Ph2準備 |
~8% |
アルツハイマーTAM¥2兆、シェア1%、ロイヤリティ10% |
~¥30〜50億 |
| NBI-1117569 (M1/M4) |
Phase 1 |
~5% |
アルツハイマー精神症状TAM¥5,000億 |
~¥10〜20億 |
| 合計rNPV(概算) |
— |
— |
— |
~¥1,670〜1,890億 |
現在の時価総額約1,055億円は、既承認品2品のrNPV(¥1,200億試算)に対してもディスカウントされており、ムスカリンプログラム(4品目)の価値がほぼ織り込まれていない可能性がある。有利子負債約¥480億(2025年末、CB一部買付消却後)は留意が必要。
競合パイプライン比較
統合失調症(ムスカリン作動薬)
| 企業 |
化合物 |
MOA |
フェーズ |
差別化ポイント |
| Bristol Myers Squibb |
Cobenfy® (KarXT) |
M1/M4作動薬 |
FDA承認済 |
世界初ムスカリン作動薬。先行上市。消化器副作用あり |
| Neurocrine / ネクセラ |
Direclidine (NBI-1117568) |
M4選択的 |
Phase 3 |
M4高選択性で副作用低減の可能性。世界初M4選択的Ph3 |
| Neurocrine / ネクセラ |
NBI-1117570 |
M1/M4二重 |
Phase 2 |
認知症状改善ポテンシャル |
| Eli Lilly |
LY3154207等 |
M1 PAM |
Phase 2 |
認知機能フォーカス |
不眠症(DORA競合)
| 企業 |
化合物(商品名) |
MOA |
日本承認 |
差別化ポイント |
| ネクセラ / 持田製薬 |
ダリドレキサント(クービビック) |
DORA(OX1R/OX2R拮抗) |
承認済 |
半減期短(t1/2約8h)。翌朝残存効果少。メタ解析で主観的総睡眠時間は3剤中最良 |
| エーザイ |
レンボレキサント(デエビゴ) |
DORA |
承認済(先行) |
日本市場先行参入で処方実績豊富。5mg/10mg用量柔軟性 |
| MSD |
スボレキサント(ベルソムラ) |
DORA |
承認済(2014年) |
最初のDORA。日本特許2031年失効予定でジェネリック化リスク |
| 武田薬品 |
ラメルテオン(ロゼレム) |
MT1/MT2アゴニスト |
承認済 |
依存性なし。効果軽度。安価なジェネリック流通 |
くも膜下出血後脳血管攣縮
| 企業 |
化合物 |
MOA |
状況 |
差別化ポイント |
| ネクセラ |
クラゾセンタン(ピヴラッツ) |
ETA受容体拮抗薬 |
承認済(日・韓) |
aSAH後攣縮予防で日本市場シェア57%→69%に拡大。唯一のエンドセリン拮抗 |
| 旭化成ファーマ |
ファスジル(エリル) |
Rhoキナーゼ阻害 |
承認済(日本のみ) |
日本の長年の標準治療。SAVIOR試験でクラゾセンタンと直接比較中 |
| Bayer |
ニモジピン(ニモトップ) |
Ca拮抗薬 |
欧米標準治療・日本未承認 |
FDA唯一承認の遅発性虚血予防薬。日本では市場外 |
DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
| 企業 |
化合物 |
MOA |
状況 |
差別化ポイント |
| Santhera / ネクセラ |
バモロロン(AGAMREE) |
解離型ステロイド(GR作動) |
承認済(米・EU・中国)日本申請準備中 |
成長抑制・骨密度低下の副作用軽減。2026年4月EU 2歳以上適応拡大 |
| Sarepta |
デランジストロジェン(Elevidys) |
AAV遺伝子治療 |
FDA承認(4歳以上) |
根治的アプローチ。変異非依存だが対象限定 |
| 日本新薬 / NS Pharma |
ビルトラルセン(Viltepso) |
エクソン53スキッピング |
承認済(日・米) |
日本国内唯一のエクソンスキッピング薬。対象はエクソン53変異例(全体約8%) |
| Italfarmaco |
ギビノスタット(Duvyzat) |
HDAC阻害 |
FDA承認(2024年) |
非ステロイド性・変異非依存。歩行患者全例が対象 |
カタリストカレンダー(2026年5月〜11月)
| 時期 |
イベント |
インパクト |
| 2026年Q2-Q3 |
韓国ダリドレキサント MFDS承認可否 |
★★★★ |
| 2026年中 |
バモロロン日本PMDA申請 |
★★★★ |
| 2026年中 |
NBI-1117567 Phase 2開始(アルツハイマー)→マイルストン発生 |
★★★ |
| 2026年8月 |
Q2決算発表 |
★★★ |
| 2026年10月 |
ECNP(欧州神経精神薬理学会)— ムスカリン関連データ発表の可能性 |
★★★ |
| 2026年Q3-Q4 |
NBI-1117570 Ph2中間データ(統合失調症、120例) |
★★★ |
| 2026年通年 |
Neurocrine追加マイルストン達成の可能性 |
★★★ |
| 2027〜2028年 |
NBI-1117568 Phase 3読み出し(最大カタリスト) |
★★★★★ |
財務・資金リスク分析
| 財務指標 |
数値 |
評価 |
| 現金及び現金同等物(2026年Q1末) |
¥115.97億 |
— |
| Q1売上収益 |
¥112.56億(+69.4%) |
— |
| Q1コア営業利益 |
¥54.95億(黒字転換) |
— |
| 通期売上予想 |
¥338〜488億 |
— |
| Q1営業キャッシュフロー |
−¥16.54億 |
— |
| 四半期バーンレート |
約¥16.5億/四半期(Q1実績) |
— |
| ランウェイ |
約7四半期(約1.75年) |
中程度 |
| 増資リスク |
コア営業黒字・パートナー負担モデル |
リスク中〜低 |
| Going Concern注記 |
なし |
問題なし |
有利子負債・転換社債の状況
| 項目 |
内容 |
| 有利子負債合計(2025年12月末) |
約¥480億(CB一部買付消却により前年比約18%減) |
| 2028年満期ユーロ円建転換社債 |
残存額面¥270億(2023年発行時¥320億、2025年12月に¥50億分を¥48.4億で買付消却) |
| 行使価額修正条項付ワラント |
該当なし(有価証券報告書に「該当事項なし」と記載) |
| 潜在希薄化 |
CB転換分+ストックオプション(RSU/PSU)。詳細は有報PDF要確認 |
直近の資金調達履歴
| 時期 |
内容 |
金額 |
| 2023年12月 |
海外募集(公募)新株150万株 + 第三者割当561万株(発行価格1,426円) |
約¥112億 |
| 2023年 |
2028年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債発行 |
額面¥320億 |
| 2025年12月 |
CB一部買付・消却(額面¥50億分) |
¥48.4億(買付額) |
ランウェイはQ1実績ベースで約1.75年(18ヶ月未満に接近)だが、コア営業利益の黒字転換・パートナーからのマイルストン収入が継続すれば実質的なランウェイは長期化する見込み。MSワラント等の希薄化型資金調達手段は現時点で存在しない。
リスク要因
臨床試験リスク(最大):NBI-1117568のPhase 3は2027-2028年読み出し予定。統合失調症Phase 3の歴史的成功率は約57%。Cobenfy(BMS)が先占しており、差別化(副作用プロファイル)の実証が必要。Phase 2の効果量0.61は良好だが、Ph3での再現が最大の不確実性。
有利子負債・CB:2028年満期CB残存額面¥270億が最大の負債項目。転換価格次第でCB転換による希薄化リスクが存在する。ただし2025年12月に¥50億分を自発的に買付消却しており、財務改善への意思は明確。
キーパーソンリスク:クリストファー・カーギルCEOおよびHeptares社の科学チーム(NxWave技術の中核人材)への依存度が高い。経営陣交代時のパイプライン継続性に注意。
為替リスク:英国・スイス子会社あり。USD建てマイルストンが主要収益源のため円高は逆風。
収益非連続性:マイルストン収入は一時的であり、通期予想レンジが¥338〜488億と幅広いことが不確実性を示す。Neurocrine契約の残マイルストン上限は26億ドルだが、達成条件は開発・承認・販売の各段階に分散。
特許リスク:NxWave/StaR技術、クラゾセンタン、ダリドレキサント、ムスカリン作動薬関連の主要特許残存期間は個別には非開示。特許切れ時の売上減少リスクは将来的に注意が必要。
競合リスク:不眠症市場ではレンボレキサント(デエビゴ)が先行優位。DMD市場ではElevidys(遺伝子治療)等の革新的治療法との競争。SAH市場ではSAVIOR試験(クラゾセンタン vs ファスジル直接比較)の結果がシェアに影響する可能性。
まとめ
ネクセラファーマは2026年Q1でコア営業利益が黒字転換し、増資に依存しないビジネスモデルへの転換点を迎えた。ピヴラッツとクービビックという2つの承認品が安定キャッシュフローを生み出しながら、Neurocrine社との4品目のムスカリンパイプライン(マイルストン上限26億ドル)という大型アップサイドを抱える。NBI-1117568のPhase 2では効果量0.61を示し、Phase 3(280例、PANSS変化量が主要EP)の結果が2027-2028年に読み出される。向こう6ヶ月では韓国承認とバモロロン日本申請が主要カタリスト。合計rNPV概算¥1,670〜1,890億に対し、時価総額約1,055億円はディスカウントされた水準にある。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は特定企業のパイプラインに関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、
特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。rNPV試算は独自の前提条件に
基づく推計であり、実際の企業価値を保証するものではありません。バイオ医薬品の開発には
高い不確実性が伴い、臨床試験の失敗、規制当局の判断、競合状況の変化等により
開発品の価値が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、
十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は記載日時点の公開情報に基づいています。
筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。