本記事のステータス:新規(infojuggle.com における川田テクノロジーズの初回調査記事、かつ建設株リサーチ・シリーズの第1弾)。本記事は建設株ポータルのサブセクター「鋼構造物(橋梁・鉄骨)」に登録しています。関連記事は建設株リサーチ・ポータルからご覧いただけます。
「増収でも減益予想、なのに1Qは経常55.6%増」——川田テクノロジーズ(3443)の2027年3月期第1四半期は、損益計算書の上から下まで方向がバラバラです。売上高は4.6%減、営業利益は15.2%増、経常利益は55.6%増、純利益は40.5%増。数字だけを追うと、何が起きているのか掴めません。
答えは3か所にあります。①鉄構セグメントの設計変更獲得、②土木セグメントの12.7億円の営業赤字、そして③営業利益には一切現れない持分法投資利益13.4億円です。3つ目は税引前利益の49.4%を占めており、この会社を営業利益だけで評価すると実態の半分を見落とします。
この記事では、建設株を読むときに必ず押さえる3つの視点——①受注残と採算、②建設コスト・労務制約、③公共・民間・住宅の需要環境——を決算短信・有価証券報告書・EDINETの一次データで定量化したうえで、バリュエーション・Peer比較・レーティング(品質7軸+価格判定)を付与しました。
あわせて、この会社を鋼構造物メーカーの枠だけで語れない理由——グループのカワダロボティクスが手がけるヒト型ロボット「NEXTAGE」と、経産省『AIロボティクス戦略』が動き出したフィジカルAIとの接続——を独立した章で検証し、テーマ適合度4軸で採点しました。結論から言えば、テーマは拡大局面にあるが、ロボット事業の売上寄与は開示されていない——この乖離をどう扱うかが読みどころです。
【サブセクター】鋼構造物(鋼製橋梁・建築鉄骨)+土木・建築・ソリューション(ソフト/ロボット)・航空
【需要ドメイン】主要=国土強靭化・インフラ更新(橋梁)/副次=都心再開発・大阪IR(鉄骨)、建設DX(3次元CAD・クラウド)、フィジカルAI・ヒューマノイド(カワダロボティクス)
【決算月】3月期 【会計基準】日本基準 【東証業種】金属製品(東証プライム)
本記事は決算短信・有価証券報告書・EDINETの財務データを独自に整理した調査分析の情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断の最終責任は読者にあります。
総合評価
| 品質スコア | ★★★☆☆(37/70) |
| 価格判定 | B(割安)/手法中央値 +22.0%、手法間レンジ ▲15.0%〜+33.9% |
| 資本イベント素地(TOB/MBO) | 4/10(中程度) |
| 国策アライン度 | 6/10(やや高い) |
| テーマ適合度(フィジカルAI・ヒューマノイド) | 23/40(中程度) |
| 上抜け素地 | 2/6(⑥カタリストの調整なし) |
レーティングは equity-rating-framework v2.2 準拠(品質7軸70点/価格判定A〜Eを合計点から分離/需給は直近3ヶ月・カタリストは今後3ヶ月の窓で採点)。旧v1基準の★と単純比較できません。株価・時価総額・予想EPSはすべて2026年8月10日終値時点。
この評価をひとことで言うと
「PBR0.71倍・実質ネットキャッシュ・受注残1.4年分という資産と可視性の厚さ」と、「営業利益が減益予想で、需給が3ヶ月で16.7ポイントも指数に負けている足元」が同居している——これが川田テクノロジーズの現在地です。品質★3は「優良でも劣悪でもない」という意味であり、価格判定Bは「その品質に対して株価が安い可能性がある」という別の話です。良い会社であることと、割安であることは別問題である点は最後まで意識してください。
会社概要とセグメント構成
川田テクノロジーズは、鋼製橋梁の川田工業を中核とする持株会社です。東証プライム上場ですが、東証33業種の分類は「建設業」ではなく「金属製品」である点に注意が必要です(Peer比較も金属製品セクターの鋼構造物メーカーで行います)。決算月は3月。
| 項目 | 内容(2026年8月10日終値ベース) |
|---|---|
| 証券コード/市場 | 3443/東証プライム(業種:金属製品) |
| 株価 | 1,352円(前日比 +24円・+1.81%) |
| 時価総額 | 709億円(発行済52,422,630株ベース) |
| 予想PER | 9.8倍(1,352円 ÷ 会社予想EPS 138.46円) |
| 実績PBR | 0.71倍(BPS 1,916.32円) |
| 予想配当利回り | 3.11%(年42円・分割後ベース) |
| 自己資本比率 | 63.5%(2026年6月末、前期末60.7%から上昇) |
| 実質ネットキャッシュ | +109.5億円(現金預金277.9億円 − 有利子負債168.4億円※リース債務含む) |
| 年初来高値/安値 | 1,847円(2026/2/27)/1,129円(2026/6/2) |
| 株式分割 | 2026年4月1日付で1株→3株(発行済17,474,210株→52,422,630株) |
2027年3月期第1四半期のセグメント別実績
| セグメント | 売上高(百万円) | 前年同期比 | 営業損益(百万円) | 受注高(百万円) | 受注高 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 鉄構(鋼製橋梁・建築鉄骨) | 12,647 | +3.1% | +2,401 | 11,288 | +23.9% |
| 土木 | 5,935 | ▲26.4% | ▲1,269 | 2,513 | ▲62.5% |
| 建築 | 4,197 | ▲2.4% | +414 | 8,290 | +586.1% |
| ソリューション(ソフト・ロボット) | 1,892 | +8.2% | +709 | 2,553 | +18.0% |
| その他(航空・不動産等) | 2,008 | +3.5% | ▲167 | 2,272 | ▲1.7% |
| 合計 | 26,680 | ▲5.8% | 報告セグメント計 2,255 | 26,918 | +25.2% |
※セグメント売上高はセグメント間の内部売上高を含みます(連結売上高は26,272百万円)。報告セグメント計2,255百万円に「その他」▲167、内部取引消去▲82、全社費用▲893、その他調整+130を加減して連結営業利益1,243百万円になります。
ここで注目すべきはソリューションセグメントの利益率です。売上18.9億円に対し営業利益7.1億円——利益率37.5%。前期通期でも売上81.97億円に対し営業利益30.98億円(利益率37.8%)と、自社製品の3次元CADシステムとクラウド型情報共有サービスが安定した高収益を生んでいます。鋼構造物メーカーの中に、ソフトウェア事業の収益構造が同居しているのがこの会社の特徴です。
建設株3視点①:受注残と採算
受注高 → 繰越工事高 → 完成工事高の3段階を分けて読む
建設株分析の出発点は、「受注(新規契約)」「繰越工事高(受注残)」「完成工事高(当期売上)」の3つを絶対に混同しないことです。受注が好調でも、それが売上になるのは1〜3年後。逆に受注が減っても、受注残が厚ければ当面の売上は保たれます。
| 指標 | 2026年3月期(通期) | 2027年3月期 第1四半期 |
|---|---|---|
| 受注高 | 127,638百万円(▲13.9%) | 26,918百万円(+25.2%) |
| 販売高(完成工事高、セグメント計) | 117,248百万円(▲13.2%) | 26,680百万円(▲5.8%) |
| 次期繰越高(受注残) | 178,304百万円(期末) | 178,544百万円(前年同期比 +10.8%) |
| 受注残倍率 | 1.52年(178,304 ÷ 117,248) | 1.43年(178,544 ÷ 通期予想売上125,000) |
※繰越高はセグメント間取引を相殺消去していません(会社注記)。受注残倍率は当サイトによる算出値です。
読み解き。前期の受注高は13.9%減と大きく落ち込みましたが、繰越工事高は1,783億円と積み上がったままです。通期予想売上1,250億円に対して約1.4年分の仕事を手元に持っている計算で、少なくとも今期・来期の売上は「取ってくる」より「消化する」段階にあります。これは業績の可視性が高いことを意味します。
一方、セグメント別の受注残の中身を見ると温度差があります。
| セグメント | 2026年6月末 繰越高(百万円) | 前年同期比 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| 鉄構 | 103,435 | +12.2% | 57.9% |
| 土木 | 48,643 | ▲1.4% | 27.2% |
| 建築 | 21,219 | +44.4% | 11.9% |
| ソリューション | 4,587 | +14.2% | 2.6% |
| その他 | 657 | ▲20.3% | 0.4% |
| 合計 | 178,544 | +10.8% | 100.0% |
鉄構が1,034億円(+12.2%)と全体の6割弱を占め、首都圏の大型物件と大阪IR関連物件の受注を積み上げています。建築は前期に設計業務を先行受注していた大型物件で施工業務の契約に至り、受注高が前年同期の6.9倍に跳ねました。問題は土木です。受注高は前年同期比62.5%減の25.1億円。会社は「低調な発注状況に加え、既に発注されている工事での随意契約案件も多く、新たに入札機会のある案件が非常に少ない」と説明しています。
採算:改善しているのは事実、ただし「見積り」に依存している
第1四半期の売上総利益率は17.09%(前年同期15.09%)と2.0ポイント改善し、営業利益率も3.92%→4.73%に上昇しました。改善の主因は鉄構セグメントで、「過年度から稼働していた大型工事についてプロジェクト全体の見込原価の見積りに目途が立ったこと」と「設計変更の獲得」により営業利益が113.1%増の24.0億円となっています。
🔴 ここは慎重に読む必要があります。工事進行基準(一定の期間にわたり移転される財)の下では、当期に計上される利益は工事原価の「見積り」に依存します。今回の増益は「見積りに目途が立った」ことによる利益の認識であり、資材高騰・工期遅延が生じれば事後に下方修正(工事損失引当金の追加計上)される可能性は残ります。実際、貸借対照表には工事損失引当金が35.14億円計上されています(前期末38.05億円から2.91億円取り崩し)。
逆方向のリスクも土木で顕在化しました。土木セグメントは営業損失12.69億円(前年同期は営業利益0.25億円)。会社は「一部大型プロジェクトで原価が先行していること」を理由に挙げています。受注時に見込んだ採算と、実際の完工採算がズレる——建設株で最も注意すべき論点が、同じ四半期の中で鉄構(プラス方向)と土木(マイナス方向)の両方に現れた四半期でした。
通期予想に対する進捗率
| 項目 | 1Q実績(百万円) | 通期会社予想(百万円) | 進捗率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 26,272 | 125,000(+8.7%) | 21.0% |
| 営業利益 | 1,243 | 7,200(▲16.3%) | 17.3% |
| 経常利益 | 2,717 | 9,500(▲14.1%) | 28.6% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 2,260 | 7,100(▲19.2%) | 31.8% |
※四半期実績は3ヶ月累計、会社予想は12ヶ月分です。進捗率は通期予想に対する到達度であり「予想比・上振れ率」ではありません。建設業は下期偏重の季節性があるため、線形ペース(1Q=25%)との比較は目安に留まります。会社は2026年5月12日公表の通期予想を据え置いています。
営業利益の進捗17.3%に対し、純利益の進捗は31.8%。この14.5ポイントの差を作っているのが、次に述べる持分法投資利益です。
🔴 営業利益に現れない利益:佐藤工業49.9%の持分法
川田テクノロジーズは佐藤工業株式会社の議決権49.90%を保有し、持分法適用関連会社としています。佐藤工業はシンガポールを中心に東南アジアでも事業を展開しており、その損益が持分割合に応じて川田テクノロジーズの営業外収益に流れ込みます。
| 期間 | 持分法による投資利益(百万円) | 税金等調整前利益(百万円) | 持分法 ÷ 税前利益 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期(通期) | 3,052 | 12,683 | 24.1% |
| 2026年3月期(通期) | 2,299 | 11,296 | 20.4% |
| 2026年3月期 1Q | 412 | 2,122 | 19.4% |
| 2027年3月期 1Q | 1,341 | 2,717 | 49.4% |
第1四半期は持分法投資利益が前年同期の3.3倍に膨らみ、税引前利益の約半分を占めました。営業利益は12.4億円ですが、経常利益は27.2億円。差額の大半がこの持分法です。
🔴 投資家にとっての含意は3つ。
- 営業利益だけでこの会社を評価すると実態を見誤る。経常・税前ベースで追う必要があります。
- 佐藤工業の業績は公開情報が限定的です。非上場のため四半期ベースの詳細な業績は追跡できず、持分法投資利益の変動要因(どの案件・どの地域か)は外部からは推計不能です。
- 持分法の寄与率は四半期でぶれます。通期では20〜24%、この1Qは49.4%。単一四半期の高い比率をそのまま年換算しないでください。
加えて貸借対照表の関係会社株式は441.76億円(前期末426.96億円)と総資産の28.6%を占め、時価総額709億円の62.3%に相当します。これは佐藤工業を含む関係会社への投資の簿価であり、時価ではありません。換金性も限定的である点は割り引いて考える必要があります。
建設株3視点②:建設コスト・労務制約
建設資材物価は2021年1月比で土木部門が約41%、建築部門が約37%上昇したとされ、2026年3月時点でも土木部門の建設資材物価指数は28ヶ月連続のプラスと報じられています。公共工事設計労務単価(全国全職種平均)は2025年に24,852円と14年連続の上昇です。時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)は工期長期化と施工能力の制約として効き続けています。
この会社の転嫁力はどう出ているか
会社の記述から読み取れる転嫁の実態は、セグメントで割れています。
- 鉄骨(鉄構内):「高難度の物件が多い」ことを理由に高い利益水準を維持。技術的難度が価格決定力の源泉になっており、転嫁力は相対的に強い。
- 建築:前期に「建設コスト高騰が続くなか、発注者への価格転嫁や一層の原価低減に努めた」と明記しつつ、営業利益は9.4%減。転嫁が完全には追いついていない。
- 鋼製橋梁・土木:新設橋梁の発注が低調で「同業者間の競争が一層激しさを増す」。公共発注は予定価格が実勢コストに追いつくまでのタイムラグがあり、受注時採算の確保が難しい局面。
🔴 人件費の定量化
| 指標 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 連結従業員数 | 2,376人 | 2,419人 | +1.8% |
| 平均年間給与(提出会社単体・96人) | 7,515,982円 | 7,978,692円 | +6.2% |
| 一人当たり売上高 | 55.94百万円 | 47.55百万円 | ▲15.0% |
| 一人当たり営業利益 | 4.076百万円 | 3.554百万円 | ▲12.8% |
| 労働分配率 | N/A(連結ベースの人件費内訳が開示されていないため算出不能) | ||
※平均年間給与は有価証券報告書の提出会社(持株会社単体・96人)の数値であり、連結2,419人の平均ではありません。連結の人件費水準を直接示すものではない点にご留意ください。
判定:従業員数+1.8%・単体平均年収+6.2%に対し、一人当たり営業利益は▲12.8%。前期は増員・賃上げを吸収できていません。ただし前期の減益は売上高が13.5%減ったこと(=出来高に貢献する物件が少なかったこと)が主因であり、人件費だけが原因ではありません。第1四半期は粗利率が2.0ポイント改善しており、改善方向への転換が続くかが今期の焦点です。
建設株3視点③:需要環境(公共×民間×住宅)
公共:国土強靭化 5か年 20兆円強、初年度4.1兆円
第1次国土強靭化実施中期計画(2025年6月策定)は、2026年度から2030年度までの5年間の事業規模をおおむね20兆円強とし、初年度の2026年度は約4.1兆円(うち国費約1.9兆円)が確保されています。計画には堤防整備や上下水道の耐震化などのハード面に加え、災害予測システムの高度化を含む326の施策が盛り込まれています。
🔴 ただしこの20兆円は業界全体の枠であり、川田テクノロジーズの売上ではありません。同社の到達経路として公開情報で確認できるのは以下です。
- 前期に高速道路会社発注の大型更新工事を複数獲得(2026年3月期決算短信に明記)。インフラ老朽化対策としての橋梁更新は継続的な需要ドメイン。
- 第1四半期にソリューションセグメントで防衛省案件を受注。全国の防衛施設の維持管理・更新情報を統一運用するシステム構築案件。
- 土木セグメントは公共発注が主体であり、過去から継続的に売上計上の実績がある。
一方で会社自身が「新設橋梁の発注が引き続き低調」「新たに入札機会のある案件が非常に少ない」と述べており、予算総額の大きさが直ちに受注量に転換していないのが足元の実態です。国土強靭化の恩恵は「更新・維持管理」に寄っており、「新設」には及んでいない、と読むのが素直でしょう。
民間:都心再開発・大阪IR
鉄骨事業は「首都圏の大型物件や大阪IR関連物件の受注を積み上げ」(1Q)、前期も「関東、関西をはじめとする大都市圏における再開発事業などの受注を積み上げた」としています。建築セグメントの受注高が前年同期比586.1%増、繰越高が44.4%増となったのも、大型物件で設計業務から施工業務へ契約が進んだことによります。民間建築は追い風と評価できます。
住宅:直接のエクスポージャーは限定的
同社は住宅事業を主力としておらず、住宅着工統計への感応度は低い構成です。金利上昇による住宅需要の減速リスクは、他の建設株に比べて相対的に小さいと考えられます。
需要マップと受注ポートフォリオの重ね合わせ
| 需要ドメイン | 環境 | 同社の該当セグメント | 受注構成比(1Q) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| インフラ更新・国土強靭化 | 予算は潤沢だが新設発注は低調 | 鉄構(橋梁)・土木 | 51.2% | まだら模様 |
| 都心再開発・大阪IR | 堅調 | 鉄構(鉄骨)・建築 | (上記に含む)+30.8% | 追い風 |
| 建設DX(3次元CAD・クラウド) | 堅調に成長継続 | ソリューション | 9.5% | 追い風 |
| 航空(ドクターヘリ・コミューター) | 好調だが構造的に低採算 | その他 | 8.5% | 横ばい |
カワダロボティクス:ヒト型ロボットとフィジカルAI
川田テクノロジーズを「橋梁と鉄骨の会社」とだけ捉えると、もう一つの顔を見落とします。グループにはカワダロボティクス株式会社があり、産業向けヒト型協働ロボット「NEXTAGE」シリーズを商用化しています。決算上はソリューションセグメントの「ロボット関連事業」として、ソフトウェア関連事業と並んで開示されています。
沿革と現在地:25年以上の実機の蓄積
カワダロボティクスは1999年に東京大学からの受託開発を機にヒューマノイドロボット開発に着手し、25年以上にわたり研究開発を継続してきました。産業向けヒト型ロボット「NEXTAGE」シリーズは国内の数百の生産現場に導入され、電子部品の組立、日用品・化粧品の梱包、近年は食品分野まで、各業界のリーディングカンパニーを中心に採用が広がっています。
ここが重要な点です。世界のヒューマノイド競争が「動くデモ」から「現場で稼働するデータ」へ軸足を移すなか、同社はすでに実機が量産・稼働し、産業現場のタスクデータが取れる稀少なポジションにあります。2026年1Qでも会社は「ロボット関連事業においては販売代理店を通じた販売が好調」と述べています。
フィジカルAIへの3つの接続
| 時期 | 取り組み | 意味合い |
|---|---|---|
| 2025年3月19日 | 川田テクノロジーズ(本体)がAIロボット協会(AIRoA)に正会員として参画 | AIRoAはトヨタ自動車ほか多数の企業が集う「オールジャパン」のロボット基盤モデル開発組織(2024年12月設立)。2025年度に基盤モデルを開発・公開、2026〜2029年度に改良と社会実装を進める工程を掲げる |
| 2025年11月27日 | カワダロボティクス × 東京大学 松尾・岩澤研究室のロボット基盤モデル構築プロジェクトへ協力開始 | カワダ側はヒューマノイドの操作・学習用デバイス開発とデータ収集環境を担当。NEXTAGEのテレオペレーションで多様なタスクデータを収集し、基盤モデルの学習に活用する仕組みを国際ロボット展2025でデモ展示 |
| 2026年5月20日 | カワダロボティクス × NTT-ME:ヒューマノイドを活用した通信建設工事の高所作業 省人省力化の実証 | グループの本業(建設)と同じ建設現場の省人化という文脈での実証。建設業の担い手不足・2024年問題という自社が直面する課題と、ロボット事業が同じ地平で接続する |
「ハードは持っているがAIがない」「AIはあるが実機とデータがない」——この2つが日本のロボット産業のボトルネックとされてきました。カワダロボティクスの立ち位置は前者側(実機・データ収集基盤の提供者)であり、基盤モデルそのものを開発する企業ではありません。この役割分担は、上振れ余地を限定する一方で、モデル開発競争の敗者になるリスクも限定します。
政策の追い風:AIロボティクス戦略
政策面の環境は、この1年で明確に変わりました。経済産業省は「AIロボティクス戦略検討会議」を経て2026年3月に『AIロボティクス戦略』を策定。報道によれば、2040年までに18分野で国内にAIロボット1,000万台を導入し、世界約60兆円市場のうち20兆円規模の獲得を目標に掲げています。2015年の「ロボット新戦略」以来、約10年ぶりの本格的な国家戦略の更新です。経団連も2026年3月17日に「わが国ロボット(AI+)戦略のあり方に関する提言」を公表しています。
🔴 ただし、これは業界全体の目標であって同社の売上ではありません。1,000万台・20兆円という数字と、川田テクノロジーズの売上計上のあいだには、まだ確認できる到達経路がありません。政策の追い風があることと、業績が伸びることと、株価が上がることは、すべて別の命題です。
🔴 業績寄与:ここが最も重要な留保
| 指標 | 2026年3月期(通期) | 2027年3月期 1Q |
|---|---|---|
| ソリューションセグメント売上高 | 8,197百万円(全社の7.1%) | 1,892百万円(全社の7.1%) |
| ソリューションセグメント営業利益 | 3,098百万円(全社営業利益の36.0%) | 709百万円 |
| 同 営業利益率 | 37.8% | 37.5% |
| うちロボット関連事業の売上・利益 | N/A(開示なし) | |
会社はソリューションセグメントを「ソフトウエア関連事業」と「ロボット関連事業」に分けて定性的に説明していますが、金額の内訳は開示していません。しかも会社説明のトーンは一貫して「自社製品の3次元CADシステムやクラウド型情報共有サービスが好調」というソフトウェア側が主語であり、ロボットは「販売代理店を通じた販売が好調」と補足的に触れられるにとどまります。
したがってロボット事業の売上規模は外部から推計不能です。セグメント全体でも全社売上の7.1%であり、その内数であるロボット単独は全社売上の数%以下と考えるのが自然ですが、これは推測であって確認された数値ではありません。当サイトは開示のない比率を断定しません。
テーマ適合度:フィジカルAI・ヒューマノイド 23/40(中程度)
まずテーマの認定から。「フィジカルAI・ヒューマノイド(ロボット基盤モデル)」は、equity-rating-framework v2.2 §7.1 の6つの判断軸をすべて満たします——①政策の裏付け(経産省AIロボティクス戦略)、②技術的非連続性(基盤モデルによる従来ティーチングの置換)、③第三者TAM(世界約60兆円市場)、④実装マイルストーン公開(AIRoAの2026〜2029年度 社会実装計画)、⑤複数の大手・官公庁の資金投入(AIRoAへのトヨタほか多数の参画・東大松尾研)、⑥市場の関心上昇。
| 軸 | 点数 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①量的寄与 | 3/10 | ロボット関連事業の売上・利益は開示なし。上位のソリューションセグメントでも全社売上の7.1%。提携・実証・受注の事実は確認できるが、売上寄与は未開示(=「5%未満、または受注・提携はあるが売上寄与は未開示」に該当) |
| ②純度 | 5/10 | 時価総額709億円の中小型だが、業績の大半は鋼構造物・土木・建築。ロボットはソリューションセグメントの内数であり、主要セグメントの1つとまでは言えない |
| ③サイクル位置 | 7/10 | 拡大局面と観察。判断根拠は、2024年12月のAIRoA発足→2026年3月の政府『AIロボティクス戦略』策定→報道量の継続的増加、という1年半の材料の連続性。本命/準本命の選別はまだ進行中。ただし当該銘柄自身は過去3年でこのテーマによる大相場は確認できず、直近6ヶ月は▲21.2% |
| ④希少性 | 8/10 | ヒト型協働ロボットを1999年から25年以上手がけ、国内数百の生産現場で実機が稼働している上場グループは少数。「実機+タスクデータ収集基盤」というバリューチェーン上の押さえどころに位置し、AIRoA正会員かつ東大松尾研プロジェクトのハード側パートナー。「ヒューマノイド関連」を標榜する銘柄は多いが、量産販売実績を伴う社はごく限られる |
| 合計 | 23/40 | 中程度(16〜23点) |
🔴🔴 ①量的寄与3点と③サイクル位置7点の乖離が、この銘柄のロボット事業の本質です。テーマは拡大局面にあり、政策・産学連携・実証という材料は連続して出ていますが、ロボット事業の売上寄与は開示されておらず、業績の裏付けは現時点で確認できません。つまり株価はテーマとして反応しうるものの、それは業績の裏付けを伴わない値動きである、という理解が必要です。
🔴 純度・希少性は両刃です。時価総額709億円という規模と、ヒト型実機という代替の効きにくいポジションは、テーマが材料化したときに株価へ効きやすい構造であると同時に、テーマが失速したときの下落も同じだけ大きくなることを意味します。これは「有利さ」ではなく、値動きの振れ幅が大きいという構造の説明です。
本業とのシナジーという視点
投資判断とは別に、事業として注目に値するのはNTT-MEとの実証の文脈です。建設業は技能労働者の高齢化と時間外労働の上限規制(2024年問題)という構造的な人手不足に直面しており、同社自身も「一人当たり営業利益▲12.8%」という形で人件費上昇の圧力を受けています。グループ内に建設現場の省人化ロボットの開発機能を持つことは、他の鋼構造物メーカーにはない特徴です。第4次中期経営計画が掲げる「既存事業と成長事業をバランスよく組み合わせた盤石な収益基盤」の「成長事業」側に、この機能が位置づけられていると読めます。
ただし現時点でこれは構想・実証の段階であり、建設現場でのヒューマノイド活用が同社の完成工事総利益率を押し上げた実績は開示されていません。業績寄与の時期・規模は未確定です。
業績推移(2022年3月期〜2027年3月期予想)
🔴 決算月は3月。以下の年度ラベルは決算期末の年で統一しています(例:2026年3月期=2025年4月〜2026年3月)。
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 純利益(百万円) | 営業利益率 | ROE | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 103,760 | 6,412 | 7,689 | 5,176 | 6.2% | 7.5% | 53.3% |
| 2023年3月期 | 118,086 | 5,025 | 6,298 | 4,231 | 4.3% | 5.8% | 46.6% |
| 2024年3月期 | 129,127 | 8,734 | 10,538 | 7,541 | 6.8% | 9.6% | 51.1% |
| 2025年3月期 | 132,905 | 9,684 | 12,616 | 11,107 | 7.3% | 12.8% | 55.0% |
| 2026年3月期 | 115,025 | 8,598 | 11,055 | 8,782 | 7.5% | 9.2% | 60.7% |
| 2027年3月期(会社予想) | 125,000 | 7,200 | 9,500 | 7,100 | 5.8% | — | — |
売上高は2025年3月期の1,329億円をピークに、2026年3月期は1,150億円(▲13.5%)へ後退しました。理由は受注不足ではなく「工期が長く工程が本格化しない物件を多く抱えている」(会社説明)ため、受注残はあるが売上化していない状態です。今期は8.7%の増収を見込む一方、営業利益は16.3%減。増収減益予想の背景には、土木の低採算工事の消化と、前期に計上した大型設計変更の反動があると読めます。
第4次中期経営計画(2026年度〜2028年度)
2026年5月に策定された第4次中期経営計画では、3か年累計で売上高3,830億円以上・営業利益235億円以上・純利益232億円以上を目標に掲げています。単純平均すると年間で売上1,277億円・営業利益78.3億円・純利益77.3億円。今期予想(売上1,250億円・営業利益72億円・純利益71億円)はいずれも3か年平均を下回るため、計画達成には2年目以降の加速が必要です。将来目標として2030年度に単年売上1,500億円、中長期で2,000億円を掲げています。
バリュエーション:株価アップサイド試算
建設株は工事進行基準の利益が見積りに依存し、単年の利益が大型案件の設計変更や工事損失引当金で振れます。したがって単一の点推計は取らず、複数手法のレンジで示します。
| 手法 | 主要前提 | 試算株価 | 現値からの乖離 |
|---|---|---|---|
| PBR(弱気) | 0.60倍(過去の下限圏)× BPS 1,916.32円 | 1,150円 | ▲15.0% |
| EV/EBITDA | 7.0倍 × EBITDA約104億円(営業利益72億+償却32億)+ネットキャッシュ109.5億円 | 1,598円 | +18.2% |
| PER(今期予想) | 12倍 × 会社予想EPS 138.46円 | 1,662円 | +22.9% |
| PBR(Peer中央値) | 0.87倍(横河ブリッジHD並み)× BPS 1,916.32円 | 1,667円 | +23.3% |
| PER(中計平均EPS) | 12倍 × 中計3か年平均純利益77.3億円ベースEPS 150.8円 | 1,810円 | +33.9% |
| 中央値 | — | 約1,650円 | +22.0% |
※EV/EBITDAの減価償却費は前期実績31.17億円をもとにした推計値です。EPS・BPSは自己株式控除後株式数51,277,958株ベース。アナリストコンセンサス目標株価は、株式分割の調整未反映により公開情報では確認できずN/Aとしています(捏造は行いません)。
含み資産を調整した見方
時価総額709億円に対し、貸借対照表上の関係会社株式441.8億円+実質ネットキャッシュ109.5億円=551.3億円は時価総額の77.8%に相当します。単純計算では本業(鉄構・土木・建築・ソリューション)が時価総額の約22%で評価されていることになります。
🔴 ただしこの見方には重要な留保が必要です。関係会社株式は非上場会社への投資の簿価であって時価ではなく、佐藤工業の株式を売却して現金化する計画も公表されていません。事業運営に不可欠な投資であり、「即座に株主に還元できる余剰資産」とは性質が異なります。純粋な政策保有株(投資有価証券43.19億円)とネットキャッシュの合計152.7億円は時価総額の21.5%にとどまります。土地は再評価済み(土地再評価差額金9.20億円・再評価に係る繰延税金負債15.14億円)であり、追加的な含み益の開示はありません。
価格判定:B(割安・中央値 +22.0%)。手法間レンジは▲15.0%〜+33.9%と幅があり、下方は「PBRが過去下限圏まで戻る」シナリオ、上方は「中計の平均収益力が実現する」シナリオです。
東証 類似鋼構造物メーカー比較
川田テクノロジーズは東証33業種で「金属製品」に分類されるため、同一分類の鋼構造物(橋梁・鉄骨)メーカーで比較します。
| 銘柄(コード) | 市場 | 株価 | 時価総額 | 予想PER | 実績PBR | 予想配当利回り | 信用倍率 | 特徴・差別化 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 川田テクノロジーズ(3443) | プライム | 1,352円 | 709億円 | 9.8倍 | 0.71倍 | 3.11% | 43.13倍 | 鋼製橋梁+鉄骨+高収益ソフト/ロボット、航空。佐藤工業49.9%の持分法 |
| 横河ブリッジHD(5911) | プライム | 2,923円 | 1,262億円 | 14.0倍 | 0.87倍 | 4.45% | 6.90倍 | 橋梁最大手。システム建築・エンジニアリング |
| 宮地エンジニアリンググループ(3431) | プライム | 1,591円 | 440億円 | 21.1倍 | 1.01倍 | 4.71% | 1.58倍 | 橋梁・鉄骨。橋梁保全に注力 |
| 駒井ハルテック(5915) | スタンダード | 2,252円 | 112億円 | 68.8倍 | 0.29倍 | 3.11% | 12.72倍 | 橋梁・鉄骨・風力発電。低PBR |
※2026年8月10日終値ベース。予想PER・実績PBR・予想配当利回り・信用倍率(7月31日時点)はYahoo!ファイナンス掲載値。駒井ハルテックのPER68.8倍は利益水準が低いことによるもので、水準比較には適しません。
この表から読み取れること。
- 川田テクノロジーズはPER・PBRとも同業内で最も低い水準にあります。ただし配当利回りは3.11%と横河(4.45%)・宮地(4.71%)に見劣りします。株式分割直後で配当政策の連続性の見極めが必要な局面です。
- 信用倍率43.13倍は同業内で突出しています(買残1,233,600株に対し売残28,600株)。買い方に大きく傾いた需給であり、戻り局面での戻り売り圧力になり得ます。
- 事業構成が異なる点に注意。同社は営業利益率37.5%のソリューション事業と、構造的赤字の航空事業を併せ持ち、さらに佐藤工業の持分法利益が経常段階で乗ります。純粋な橋梁メーカーとの単純比較は成立しません。
セクター資金フローと需給
| 期間 | 川田テクノロジーズ(3443) | TOPIX(1306連動) | 差(pt) | 横河ブリッジHD | 宮地エンジ | 駒井ハルテック |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1ヶ月 | +1.2% | +1.3% | ▲0.1 | +2.3% | +2.7% | +1.6% |
| 3ヶ月 | ▲11.7% | +5.0% | ▲16.7 | ▲1.6% | ▲5.5% | ▲17.2% |
| 6ヶ月 | ▲21.2% | +7.6% | ▲28.8 | ▲9.5% | ▲21.0% | +4.3% |
| 1年 | +6.9% | — | — | +7.1% | ▲20.7% | +43.3% |
※終値ベースの当サイト算出値(配当再投資考慮なし)。TOPIXは連動ETF(1306)の価格変化で代用しています。
直近3ヶ月は指数を16.7ポイント下回る大幅アンダーパフォームです。年初来高値1,847円(2月27日)から6月2日に1,129円まで下げ、そこから戻して現在1,352円。高値までは+36.6%の距離があります。
需給面の要素を整理します。
- 自社株買いは進行中:第1四半期に15.00億円の自己株式を取得し、自己株式数は104,463株から1,144,672株へ増加しました(純資産減少要因ですが、自己資本比率は60.7%→63.5%へ上昇)。需給の下支え要因です。
- 信用需給は重い:信用買残1,233,600株は3ヶ月平均出来高(312,350株)の約3.95日分。信用倍率43.13倍は買い方への大きな偏りを示します。
- 売買代金は縮小:直近1ヶ月平均出来高261,995株は3ヶ月平均312,350株の0.84倍。3ヶ月平均売買代金は概算4.4億円程度で、流動性は「極端に低い」水準ではありません。
カタリストカレンダー(今後6ヶ月)
| 時期 | 内容 | 影響度 | 織り込み度 |
|---|---|---|---|
| 毎月上旬 | 自己株式の取得状況に関する開示 | ★★★ | 一部織込 |
| 毎月中旬 | 国土交通省 建設工事受注動態統計調査(月次) | ★★ | 一部織込 |
| 2026年9月30日 | 中間配当(21円)の権利確定日 | ★★ | 概ね織込 |
| 2026年秋(時期未定) | 2026年度補正予算の編成議論/国土強靭化の積み増し有無 | ★★★ | 未織込 |
| 2026年11月上旬(予定) | 2027年3月期 第2四半期決算発表/通期予想の修正有無 | ★★★★ | 未織込 |
| 2027年2月上旬(予定) | 2027年3月期 第3四半期決算発表 | ★★★★ | 未織込 |
| 随時 | 大型案件(高速道路更新工事・都心再開発・大阪IR関連)の受注開示 | ★★★ | 未織込 |
| 随時 | カワダロボティクスの提携・実証の進捗(AIRoAのロボット基盤モデル社会実装フェーズ、NTT-MEとの高所作業実証、東大松尾・岩澤研プロジェクト) | ★★ | 未織込 |
| 2026年12月(例年) | 国際ロボット展など主要展示会でのデモ展示 | ★★ | 未織込 |
※決算発表日は例年の開示時期からの推定を含みます。確定日は会社の開示をご確認ください。レーティング⑥カタリストの採点は、このうち今後3ヶ月(2026年8月10日〜11月10日)に該当するものだけで行っています。
財務リスク
- 運転資本の振れが大きい:第1四半期は受取手形・完成工事未収入金等が188.65億円減少し、現金預金が102.27億円増加しました。建設業特有の期ズレであり、四半期のBS変動をトレンドと誤読しないことが重要です。前期の営業CFは151.60億円(営業利益85.98億円に対し1.76倍)と良好でした。
- 工事損失引当金35.14億円:残高が存在すること自体、過去に採算悪化を認識した工事があることを示します。今後の資材高騰・工期遅延で追加計上される可能性は残ります。
- 土木セグメントの原価先行:1Qで12.69億円の営業損失。一部大型プロジェクトの原価先行が解消するタイミングは開示されていません。
- 持分法(佐藤工業)の不透明性:税前利益の20〜49%を占めながら、業績の詳細は外部から追跡できません。東南アジア事業の減速は経常段階で直接効きます。
- 航空事業の構造的赤字:1Qで1.67億円の営業損失。定期路線事業の損失は営業外の補助金収入(前期6.00億円)で相当部分が相殺される構造で、補助金政策の変更は損益に直接影響します。
- 公共発注への依存:新設橋梁の発注低調が長期化すれば、受注残の取り崩しが進んだ後に売上の空白が生じ得ます。
レーティング詳細(equity-rating-framework v2.2 準拠)
【A】品質スコア 37/70 → ★★★☆☆
| 軸 | 点数 | 根拠(数値付き) |
|---|---|---|
| ①成長性 | 4/10 | 直近3期(2024→2026年3月期)売上CAGR ▲5.6%。前期は▲13.5%の減収。会社予想は+8.7%増収だが営業利益は▲16.3%。繰越高+10.8%・受注高1Q+25.2%は将来の下支え。国策は受注実績が確認できる範囲のみ評価 |
| ②収益性 | 5/10 | 営業利益率7.5%(前期)・ROE 9.2%はPeer並み。従業員+1.8%・単体平均年収+6.2%に対し一人当たり営業利益▲12.8%で吸収できていない。ただし1Qは粗利率+2.0pt改善で転換の兆し。労働分配率はN/A(開示なし) |
| ③収益の質・連結範囲 | 5/10 | 持分法÷税前利益は通期20.4%・1Q単独49.4%。佐藤工業49.9%の業績詳細は非開示で推計不能。営業CF÷営業利益1.76は良好。工事損失引当金35.14億円が残存し進行基準の見積り依存が大きい |
| ④競争優位性 | 7/10 | 鋼製橋梁で国内上位寡占の一角。鉄骨は「高難度物件」で価格決定力を維持。ソリューションの営業利益率37.5%(1Q)は明確な差別化で、その内数としてヒト型ロボット(カワダロボティクス)を25年以上手がけ実機が国内数百現場で稼働という他の鋼構造物メーカーにない資産を持つ。一方、新設橋梁は発注低調で同業競争が激化と会社が明記。ロボットの売上寄与は未開示のため、この軸の加点は「ソリューション全体の高収益」の範囲にとどめている |
| ⑤需給ポジション(直近3ヶ月) | 2/10 | 3ヶ月騰落率▲11.7%はTOPIX(+5.0%)を16.7pt下回る大幅アンダーパフォーム。信用倍率43.13倍・買残は3ヶ月平均出来高の3.95日分と重い。自社株買い15.00億円の進行は下支え要因だが相殺には至らず |
| ⑥カタリスト(今後3ヶ月) | 7/10 | 3ヶ月内の確定材料は2Q決算(11月上旬予定)・自己株式取得の月次開示・中間配当権利確定・国交省月次統計。うち2Q決算と自社株買い進捗は未織込。上抜け素地は2/6(該当:時価総額709億円の中小型、未織込材料あり)のため調整なし |
| ⑦リスク耐性 | 7/10 | 自己資本比率63.5%・実質ネットキャッシュ+109.5億円と財務は健全。一方で工事損失引当金35.14億円、土木の原価先行▲12.69億円、航空の構造的赤字、公共発注依存という特定可能なリスクを抱える |
| 合計 | 37/70 | ★★★☆☆(36〜45点=★3) |
【B】価格判定 B(割安・+22.0%)
手法中央値1,650円、レンジ1,150円〜1,810円。前掲のバリュエーション表を参照。シクリカル性を考慮し、ピーク益(2025年3月期の純利益111億円)ではなく今期予想および中計3か年平均を基準にしています。
【C-1】資本イベント素地(TOB/MBO)4/10(中程度)
🔴 これは「買収される確率」ではありません。買収提案が出た場合に成立しやすい構造的特徴を、公開情報でいくつ満たすかの集計です。予想・断定は行いません。
| # | 項目 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | PBR1倍割れ | ○ | 0.71倍 |
| 2 | ネットキャッシュ+政策保有株が時価総額の50%以上 | × | ネットキャッシュ109.5億+投資有価証券43.2億=152.7億(時価総額の21.5%) |
| 3 | 親子上場・支配株主の存在 | × | 20%以上を保有する支配株主は確認できず |
| 4 | 創業家・経営陣の持株比率が高い | ○ | 役員所有株式の割合8.99%(2026年3月期有報)。代表取締役社長は川田忠裕氏 |
| 5 | 直近1年の大量保有報告書にアクティビスト/エンゲージメントファンド | ○ | fundnote株式会社が2026年5月12日に変更報告書を提出(3.19%)。保有目的に「建設的な対話によりIR・資本効率・ガバナンスの高度化と企業価値向上を促す」「重要提案行為を行うに変更する場合がある」と記載 |
| 6 | 東証「資本コストを意識した経営」対応が未開示・形式的 | × | 第4次中計でROE経営を明記、自社株買い・株式分割を実施 |
| 7 | 浮動株比率が低い/流動性が低い | × | 3ヶ月平均売買代金は概算4.4億円程度 |
| 8 | 同業種で直近1年にTOB・経営統合の事例 | × | 公開情報で確認できず |
| 9 | 政策保有株の縮減圧力を受け得る株主構成 | ○ | 三菱UFJ銀行4.28%・三井住友信託銀行0.78%が「政策投資」目的で保有(大量保有報告書) |
| 10 | 事業承継の論点 | × | 公開情報の範囲で特段の論点は確認できず |
出典はいずれもEDINET大量保有報告書・有価証券報告書・適時開示等の一次情報です。噂・SNS・掲示板情報は使用していません。
【C-2】国策アライン度 6/10(やや高い)
| # | 項目 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | 当初予算に関連事業が計上 | ○ | 2026年度 国土強靭化 約4.1兆円(うち国費約1.9兆円) |
| 2 | 補正予算での積み増し | × | 2026年度分は未確定(未確認) |
| 3 | 基金として複数年度分が措置 | × | 基金方式ではない |
| 4 | 骨太の方針・重要政策文書に明記 | ○ | 第1次国土強靭化実施中期計画(2025年6月策定・326施策) |
| 5 | 経済安全保障の枠組みに該当 | × | 該当なし |
| 6 | 法制度・計画で需要が担保 | ○ | 国土強靭化基本法に基づく5か年計画(2026〜2030年度・20兆円強) |
| 7 | 🔴 当該企業の到達経路が確認できる | ○ | 高速道路会社発注の大型更新工事を獲得(2026年3月期短信)、防衛省案件を受注(1Q) |
| 8 | 🔴 過去に同種の政策予算で受注・売上計上の実績 | ○ | 土木セグメント・鋼製橋梁は公共発注が主体で継続計上 |
| 9 | 政策が複数年度にわたり継続 | ○ | 2026〜2030年度の5か年 |
| 10 | 中計等で当該政策を業績前提に組み込み | × | 第4次中計の数値前提としての明示は確認できず |
進行段階:④商業化(既に受注・売上計上の実績がある段階)。ただし🔴20兆円強は業界全体の枠であり、同社の売上ではありません。会社自身が「新設橋梁の発注は引き続き低調」と述べており、予算規模と受注量は現時点で連動していません。国策アライン度が高いことは「政策の追い風がある構造」を意味するのであって、業績の増加や株価の上昇を意味するものではありません。
【C-3】テーマ適合度(フィジカルAI・ヒューマノイド)23/40(中程度)
採点の内訳と根拠は前掲の「カワダロボティクス:ヒト型ロボットとフィジカルAI」セクションを参照してください。要点は①量的寄与3点(売上寄与は開示なし)と③サイクル位置7点(テーマは拡大局面)の乖離です。テーマ適合度が中程度であることは「テーマが材料化したときに株価へ効きやすい構造か」の観察であり、株価上昇の予想ではありません。
まとめ:厚い受注残と重い需給、どちらを見るか
強気に見る材料
- 繰越工事高1,785億円(前年同期比+10.8%)=通期予想売上の1.43年分。業績の可視性が高い。
- 1Qの粗利率が15.09%→17.09%と2.0ポイント改善。鉄構は設計変更獲得で営業利益113.1%増。
- 建築の受注高が前年同期比586.1%増、繰越高+44.4%。都心再開発・大阪IRという民間需要は明確な追い風。
- ソリューション事業の営業利益率37.5%。建設DXという構造的な成長ドメインで高収益を確保。
- 自己資本比率63.5%・実質ネットキャッシュ109.5億円・PBR0.71倍。自社株買い15.00億円が進行中。
- PER9.8倍・PBR0.71倍は同業(横河14.0倍/0.87倍、宮地21.1倍/1.01倍)比で最も低い。
- カワダロボティクスのヒト型ロボット(NEXTAGE)を25年以上手がけ、国内数百の生産現場で実機が稼働。AIRoA正会員・東大松尾岩澤研との基盤モデル連携・NTT-MEとの建設現場実証と、フィジカルAIの実装レイヤーに接続する材料が連続して出ている。
慎重に見るべき材料
- 営業利益は通期16.3%減の会社予想で、1Q進捗率は17.3%にとどまる。増収でも本業の利益は縮む見通し。
- 土木セグメントが1Qで12.69億円の営業赤字。受注高も62.5%減で、新設橋梁の発注低調は会社自身が繰り返し言及。
- 税前利益の49.4%が持分法(佐藤工業49.9%)。営業利益では捉えられず、しかも佐藤工業の業績詳細は外部から追跡できない。
- 工事進行基準の利益は原価見積りに依存し、工事損失引当金35.14億円が残存。今回の増益も「見積りに目途が立った」ことによるもので、確定利益ではない。
- 直近3ヶ月でTOPIXを16.7ポイント下回る。信用倍率43.13倍・買残は3.95日分と需給は重い。
- 従業員+1.8%・単体平均年収+6.2%に対し一人当たり営業利益▲12.8%。人件費上昇の吸収は道半ば。
- 第4次中計の3か年平均(売上1,277億円・営業利益78.3億円)に対し、初年度予想はいずれも下回る。
- ロボット事業の売上・利益は開示されていない。上位のソリューションセグメントでも全社売上の7.1%にとどまる。フィジカルAIのテーマ性(適合度23/40)は業績の裏付けを現時点で伴っていない。
結論
川田テクノロジーズの2027年3月期第1四半期は、「本業の底打ちの兆し(鉄構の採算改善・受注25.2%増)」と「本業の脆弱性(土木の赤字・新設橋梁の発注低調)」が同時に出た四半期でした。そのうえで最終利益を押し上げたのは、営業利益に現れない持分法投資利益13.4億円です。
そしてこの会社には、鋼構造物メーカーの枠に収まらないカワダロボティクスという資産があります。ただしテーマ適合度23/40の内訳が示すとおり、テーマは拡大局面(7点)だが売上寄与は開示なし(3点)。「材料としては効きうるが、業績の裏付けはまだない」という状態を、テーマ性への期待と混同しないことが重要です。
バランスシートは強く、株価指標は同業内で最も低い水準にあります(品質★3・価格B)。一方で需給は3ヶ月で指数に16.7ポイント負けており、信用買い残の重石も残っています。資産価値の割安さを評価するなら受注残の消化と土木の採算改善が実際に数字で確認できるか、需給の重さを警戒するなら信用倍率と売買代金の推移を、それぞれ11月上旬の第2四半期決算まで追いかけるのが筋道でしょう。優良企業であることと、今の株価が割安であることは、最後まで別の問題です。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は建設・住宅・建設資材関連企業に関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。DCF試算・マルチプル比較・レーティング・各種予測は独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値や将来の株価を保証するものではありません。建設業は公共投資・民間設備投資・住宅需要・資材/労務コスト・工事採算の変動等により業績が大幅に変動する可能性があり、工事進行基準に基づく利益は原価見積りの変更により事後修正されることがあります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は記載日時点の公開情報に基づいています。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。
参考データの出典
- 川田テクノロジーズ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月7日開示・TDnet)
- 川田テクノロジーズ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月12日開示)
- EDINET 有価証券報告書(2021年3月期〜2026年3月期)・大量保有報告書
- 内閣官房「第1次国土強靭化実施中期計画」(2025年6月策定)/2026年度 国土強靭化年次計画
- 国土交通省「建設工事受注動態統計調査」/公共工事設計労務単価
- 一般財団法人 建設物価調査会 資材価格動向
- Yahoo!ファイナンス(株価・時価総額・PER・PBR・信用残、2026年8月10日時点)
- 川田テクノロジーズ「AI×ロボット分野の一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)に参画」(2025年3月)
- カワダロボティクス「株式会社エヌ・ティ・ティ エムイーとの高所作業の省人省力化に向けた実証の開始について」(2026年5月20日)
- ロボスタ「ロボティクス分野の生成AI基盤モデル構築に向けて、カワダロボティクスと東大が産学連携」(2025年11月27日)
- 一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)公表資料
- 経済産業省「AIロボティクス戦略検討会議」/『AIロボティクス戦略』(2026年3月)、日本経済新聞報道(2040年・18分野・1,000万台)
- 日本経済団体連合会「わが国ロボット(AI+)戦略のあり方に関する提言」(2026年3月17日)