※ 本記事はバイオ医薬品パイプライン調査レポート一覧の一つです。
Delta-Fly Pharma(4598)は徳島大学発の創薬ベンチャーであり、核酸アナログを基盤技術として急性骨髄性白血病(AML)を中心に複数のがん種でパイプラインを展開する。本記事では、2026年3月期決算短信(2026年5月15日公表)および直近の適時開示資料をもとに、パイプラインの開発段階・規制当局との協議状況・rNPV試算・直近6ヶ月のカタリストを独自に整理した。なお、本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
会社概要
| 会社名 | Delta-Fly Pharma株式会社 |
| 証券コード | 4598(東証グロース) |
| 設立 | 2010年7月(徳島大学発ベンチャー) |
| 本社所在地 | 徳島県徳島市 |
| 代表者 | 江島 清(代表取締役社長) |
| 従業員数 | 13名(2025年3月期末) |
| 株価 | 143円(2026年6月8日終値) |
| 発行済株式数 | 13,175,000株(2026年5月15日時点) |
| 時価総額 | 約18.8億円 |
| PBR | 約55.4倍(純資産3,398万円) |
| PER | N/A(赤字継続) |
同社は創業者の江島清氏が経営・研究開発の両面を掌握しており、キーパーソン依存度が極めて高い。売上高は設立以来ゼロが続いており(2021年3月期・2022年3月期のライセンス一時金3億円を除く)、研究開発費を外部資金調達で賄う典型的な赤字バイオベンチャーである。
パイプライン一覧
| パイプライン | フェーズ | 適応症 | 地域 | 提携先 | 状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| DFP-10917 (Radgocitabine) |
Ph3 単剤→中止 Ph1/2 VEN併用→完了 |
R/R AML(再発・難治性急性骨髄性白血病) | 米国 | — | Ph3単剤はDSMBが中止勧告。VEN併用はDMCが目標ORR達成を確認。FDA条件付きNDA申請準備中 |
| DFP-10917(日本) | Ph1 | R/R AML | 日本 | 日本新薬 | 症例登録中 |
| DFP-14323 | Ph3 | がん(詳細非公表) | 日本 | — | 主要基幹病院約30施設で症例登録継続中 |
| DFP-17729 | Ph2/3(Ph2部分) | がん(詳細非公表) | 日本 | 日本ケミファ | Ph2/3試験の症例登録継続中 |
| DFP-14927 | Ph1拡大 | 固形腫瘍 | 米国 | — | Ph1拡大試験継続中 |
| DFP-11207 | 医師主導Ph1/2 | 胆道がん | 日本 | 日本肝胆膵オンコロジーNW | 治験薬製造完了・試験開始済み |
| DFP-10825 | 前臨床 | 未定 | 未定 | — | 前臨床完了、Ph1準備中 |
注目パイプライン:DFP-10917(Radgocitabine)詳細
作用機序と独自性
DFP-10917はデオキシシチジン誘導体(ヌクレオシドアナログ)であり、低用量・長期間持続静注(14日間、6mg/m²/day)という独自の投与スケジュールが最大の特徴である。従来のヌクレオシドアナログ(シタラビン等)が高用量・短期投与でDNA合成を阻害するのに対し、DFP-10917は低濃度で腫瘍細胞のG2/M期停止を誘導し、アポトーシスに導く。この低用量アプローチにより骨髄抑制等の副作用を軽減しつつ、Bcl-2阻害薬ベネトクラクス(VEN)との相加的効果が期待される。
臨床開発の経緯と転換点
2026年1月8日:DFP-10917単剤Ph3試験(R/R AML対象、比較対象は治験医師選択治療)について、独立データ安全性モニタリング委員会(DSMB)より試験中止の報告を受領。2026年2月25日に中間解析の概要を開示し、主要評価項目(全生存期間 OS)で優越性を示せなかったことが明らかに。ただしDSMBは、TP53変異を有するサブグループでの有効性差異について追加検証の価値があると言及した。
2026年3月25日:DFP-10917+ベネトクラクス(VEN)併用Ph1/2試験(R/R AML対象)について、独立データモニタリング委員会(DMC)が目標全奏効率(ORR)の達成を確認。次相試験への移行を推奨する判断を下した。
2026年5月11日:商標「RADBALGO」「RADGAZEN」の国際登録が完了。FDAとのEnd-of-Phase 2 Meeting を計画し、条件付きNDA(新薬承認申請)を準備する方針を発表。TP53変異を含む特定サブグループでの有効性データが申請根拠となる見込み。
規制当局(PMDA/FDA)との協議状況
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| FDA IND | DFP-10917で取得済み。米国でPh3(中止)およびPh1/2(VEN併用)を実施 |
| FDA End-of-Phase 2 Meeting | 2026年中に計画予定(VEN併用Ph1/2データに基づく) |
| FDA条件付きNDA | TP53変異サブグループデータを根拠に準備中(Accelerated Approval経路を模索の可能性) |
| PMDA | 日本新薬がライセンスホルダーとしてPh1実施中。PMDA対面助言の具体的時期は非公表 |
| 希少疾患指定 | AML自体はオーファン対象外だが、TP53変異AMLサブセットでの指定申請の可能性あり |
| AMED助成 | DFP-11207で日本肝胆膵オンコロジーネットワークと共同(医師主導治験) |
rNPV試算
前提条件
- 割引率(WACC):12%(小型バイオテック標準)
- 成功確率:BIO/QLS Clinical Development Success Rates 2011-2020に基づく腫瘍領域の開発段階別PoS。DFP-10917 VEN併用はDMCの目標ORR達成確認を受けて20%(Ph2→承認の標準16.5%を若干上方修正)
- 為替:1ドル=150円
- 希薄化後株式数:16,175,000株(発行済13,175,000株+第11回新株予約権3,000,000株)
| パイプライン | ピーク売上 | 成功確率 | rNPV(億円) | 算出根拠 |
|---|---|---|---|---|
| DFP-10917 VEN併用(米国) | $250M | 20.0% | 70.3 | ライセンスモデル(ロイヤリティ12%+マイルストン)。TP53変異R/R AMLニッチ |
| DFP-10917(日本) | ¥50億 | 8.5% | 0.7 | 日本新薬ライセンス。Ph1段階のPoS |
| DFP-14323(国内Ph3) | ¥100億 | 57.1% | 44.4 | Ph3→承認PoS 57.1%。適応症非公表のため保守的推定 |
| DFP-17729(Ph2/3) | ¥80億 | 16.5% | 2.8 | 日本ケミファ導出。ロイヤリティ10% |
| DFP-14927(Ph1拡大) | $150M | 0.86% | 0.4 | Ph1段階。固形腫瘍向け |
| DFP-11207 / DFP-10825 | — | — | 0.5 | 早期段階。合計 |
| パイプライン合計 | 119.0 | |||
| R&D費用NPV(3年) | ▲38.4 | 年間約16億円×3年のNPV | ||
| 販管費NPV(3年) | ▲3.6 | 年間約1.5億円 | ||
| 現預金 | 1.5 | 2026年3月末 | ||
| ネットrNPV | 78.5億円 | 1株あたり485円(希薄化後) |
⚠ 重要な注意:上記rNPVは理論値であり、以下の重大リスクを考慮していない。①ランウェイ約1ヶ月という極度の資金不足(ワラント行使継続が前提)、②追加増資による更なる希薄化の可能性、③DFP-10917のライセンス契約獲得の不確実性。これらリスクを加味した場合、実効的なrNPVは大幅に低下する可能性がある。
感応度分析
| シナリオ | 条件 | rNPV/株 | 現株価比 |
|---|---|---|---|
| 楽観 | VEN併用Ph3成功+大手ライセンス契約 | 700〜900円 | +389〜+529% |
| 中央 | VEN併用Ph3進行+DFP-14323成功 | 485円 | +239% |
| 悲観 | ライセンス不成立+追加希薄化 | 50〜100円 | ▲30〜▲65% |
競合パイプライン比較(AML治療領域)
| 企業 | 化合物 | MOA | 対象 | 段階 | 差別化 |
|---|---|---|---|---|---|
| AbbVie/Genentech | Venetoclax | Bcl-2阻害 | 新規/R/R AML | 承認済 | AML新標準治療。DFPはVENとの併用でシナジー |
| Astellas/Pfizer | Gilteritinib | FLT3阻害 | FLT3変異R/R AML | 承認済 | FLT3変異特化。患者集団異なる |
| Syndax | Revumenib | Menin阻害 | KMT2A変異AML | 承認済 | 希少変異対応。次世代標的療法 |
| Taiho Oncology(大鵬薬品工業) | Inqovi+VEN | 経口HMA+Bcl-2 | 新規AML(高齢者) | 2026年FDA承認 | 全経口投与。DFP-10917は点滴静注 |
| Celldex | SLS009 | CDK9阻害 | TP53変異AML | Ph2 | TP53変異でDFP-10917と部分競合 |
| Agios/Servier | Ivosidenib | IDH1阻害 | IDH1変異AML | 承認済 | 特定変異特化。患者集団異なる |
DFP-10917の競争ポジション:AML治療は承認薬11種以上を擁する高度に細分化された市場。VEN+HMA(ヒポメチル化薬)が新標準治療として確立済み。DFP-10917は単剤Ph3で優越性を示せなかったが、VEN併用でのTP53変異を含む幅広い患者層という「VEN既往歴後の二次治療」ニッチでの再ポジショニングを模索中。14日間持続静注という投与法の独自性は差別化要因だが、経口薬優位のトレンドとは逆行する。
カタリストカレンダー(2026年6月〜12月)
| 時期 | イベント | 内容 | ★ |
|---|---|---|---|
| 2026年6月24日 | 有価証券報告書提出 | 2026年3月期の詳細開示 | ★★ |
| 2026年6月26日 | 定時株主総会 | 資本金・資本準備金減額(繰越損失116億円の欠損てん補)議案 | ★★ |
| 2026年8月3日 | 欠損てん補効力発生 | 1株あたり純資産への影響なし(会計上の処理) | ★ |
| 2026年8月上旬 | 第1四半期決算発表 | 2027年3月期1Q。手元資金推移が焦点 | ★★★ |
| 2026年下半期 | FDA End-of-Phase 2 Meeting | DFP-10917+VEN併用のPh3移行可否判断。条件付きNDA並行準備 | ★★★★★ |
| 2026年通年 | ライセンス契約交渉 | 欧米大手製薬とのDFP-10917ライセンス交渉。成否で企業価値が大幅変動 | ★★★★★ |
| 2026年11月頃 | 中間決算発表 | 2027年3月期2Q。予想純損失▲13.5億円に対する進捗 | ★★★ |
| 2026年12月12〜15日 | ASH 2026 | DFP-10917+VEN併用データの学会発表可能性。血液学会最大のカタリスト | ★★★★ |
| 2026年通年 | MSワラント継続行使 | 第11回新株予約権(残存300万株、2028年2月期限)。継続的な希薄化圧力 | ★★ |
財務・資金リスク分析
損益推移(直近5期・EDINET DB確認済)
| 項目 | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(百万円) | 300 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 営業損失(百万円) | ▲961 | ▲1,316 | ▲1,403 | ▲1,708 | ▲1,605 |
| 純損失(百万円) | ▲967 | ▲1,329 | ▲1,429 | ▲1,721 | ▲1,626 |
| R&D費(百万円) | 940 | 1,011 | 1,118 | 1,437 | — |
| 現預金(百万円) | 1,268 | 844 | 1,417 | 339 | 145 |
| 純資産(百万円) | 1,233 | 791 | 1,233 | 278 | 34 |
| 自己資本比率 | 93.1% | 87.0% | 83.6% | 63.5% | 12.6% |
| 発行済株式数 | 5,419,600 | 6,369,600 | 8,229,900 | 9,729,900 | 13,175,000 |
資金リスク評価
🔴 資金リスク:極高
- 現預金:1億4,545万円(2026年3月末)
- 四半期バーンレート:約3.9億円(2026年3月期 営業CF ▲15.6億円÷4)
- ランウェイ:約1.1ヶ月(極めて危機的水準)
- 2027年3月期予想純損失:▲13.5億円
- 継続企業の前提に関する注記:なし(ワラント行使継続を前提とした判断)
第11回新株予約権(MSワラント)の詳細
| 発行日 | 2026年1月16日 |
| 割当先 | マッコーリー・バンク・リミテッド |
| 潜在株式数 | 3,000,000株 |
| 調達目標額 | 約7.19億円(当初行使価額ベース) |
| 当初行使価額 | 246円(発行前日終値の92%) |
| 下限行使価額 | 134円(発行前日終値の50%) |
| 行使価額修正 | 毎回行使請求日前取引日終値の92%に自動修正 |
| 行使期限 | 2028年2月2日 |
| 潜在希薄化率 | 24.67%(発行決議時点の発行済株式数比) |
現在の株価143円は下限行使価額134円に接近しており、株価がさらに下落した場合、ワラント行使が停滞し資金調達が困難になるリスクがある。株価下落→行使価額下落→さらなる希薄化という負のスパイラルも懸念される。
希薄化の推移
発行済株式数は2022年3月末の541万株から2026年3月末の1,318万株へ4年間で約2.4倍に増加。累積資金調達額は約50億円超(第5回〜第10回新株予約権+新株発行)。さらに第11回ワラント残存300万株が全行使された場合、完全希薄化後の株式数は約1,618万株となる。
リスク要因まとめ
| リスク | 深刻度 | 詳細 |
|---|---|---|
| 資金枯渇リスク | 極高 | 現預金1.45億円、ランウェイ約1ヶ月。MSワラント行使継続が生命線 |
| 希薄化リスク | 極高 | 4年で株数2.4倍。ワラント残300万株+追加増資の可能性 |
| 臨床リスク | 高 | DFP-10917単剤Ph3中止。VEN併用のPh3成否が未確定 |
| キーパーソンリスク | 高 | 江島清代表が経営・研究を掌握。従業員13名の極小組織 |
| 競合リスク | 中 | AML市場は承認薬11種超。TP53変異ニッチでの差別化が鍵 |
| 流動性リスク | 中 | 時価総額18.8億円。機関投資家の空売りあり(モルガン・スタンレー等) |
まとめ
Delta-Fly Pharma(4598)は、主力パイプラインDFP-10917(Radgocitabine)の単剤Ph3試験中止という重大な挫折を経て、ベネトクラクス(VEN)併用療法への戦略転換を進めている。VEN併用Ph1/2でDMCが目標ORR達成を確認したことは重要な進展であり、FDA End-of-Phase 2 Meetingの結果と大手製薬へのライセンス交渉が今後の企業存続を左右する。
rNPV試算では理論値ベースで1株あたり485円(希薄化後)と算出されるが、現預金1.45億円・ランウェイ約1ヶ月という極度の資金リスクを考慮する必要がある。MSワラントの行使継続と追加資金調達が前提であり、株価が下限行使価額134円を割り込んだ場合の事業継続性に重大な懸念が生じる。
向こう6ヶ月の最重要カタリストは、①FDA End-of-Phase 2 Meeting(VEN併用Ph3移行判断)、②ライセンス契約の進展、③ASH 2026(12月)でのデータ発表である。これらの結果次第で企業価値は大幅に変動する。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は特定企業のパイプラインに関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。rNPV試算は独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値を保証するものではありません。バイオ医薬品の開発には高い不確実性が伴い、臨床試験の失敗、規制当局の判断、競合状況の変化等により開発品の価値が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は2026年6月9日時点の公開情報に基づいています。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。