※ 本記事はバイオ医薬品パイプライン調査レポート一覧の一つです。
カイオム・バイオサイエンス(証券コード4583、東証グロース)は、独自の抗体作製技術「ADLib®システム」を基盤に、抗DLK-1抗体CBA-1205や世界初のTribody™型T細胞エンゲージャーCBA-1535を開発する抗体創薬ベンチャーである。自社パイプラインの臨床開発と、製薬大手への創薬支援・技術導出を組み合わせたハイブリッド型ビジネスモデルを採用する。本記事では、2025年12月期有価証券報告書・2026年12月期第1四半期決算・各社公式開示をもとに、パイプラインの開発段階・規制当局との協議状況・rNPV試算・直近6ヶ月のカタリストを独自に整理した。なお、本記事は調査分析の情報提供であり、投資判断の最終責任は読者にある。
会社概要
| 社名 | 株式会社カイオム・バイオサイエンス(Chiome Bioscience Inc.) |
| 証券コード / 市場 | 4583 / 東証グロース(2011年12月 マザーズ上場) |
| 設立 | 2005年2月8日 |
| 本社 | 東京都渋谷区本町(住友不動産西新宿ビル6号館) |
| 代表取締役社長 | 小池 正道(2025年3月就任、元協和キリン) |
| 従業員数 | 約64名(会社公式)/有報就業者数49名(FY2025) |
| 主要技術 | ADLib®システム(抗体作製)、Tribody™(多重特異性抗体) |
| 株価 / 時価総額 | 約69円 / 約50億円(2026年6月12日時点) |
| 発行済株式数 | 72,651,300株(2026年5月14日開示時点。MSワラント行使により増加中) |
| PBR / PER | 参考約4倍前後 / N/A(継続赤字) |
同社は2005年に理化学研究所の抗体作製技術を基に設立された。鶏由来B細胞ゲノムを用いるin vitro完全合成系「ADLibシステム」により、免疫寛容の制約を受けず理論上あらゆる抗原に対する抗体を短期間で取得できる点が技術的特徴である。事業は、自社で創製した抗体医薬を臨床開発し製薬企業へ導出する「創薬事業」と、ADLibシステム等を製薬企業へ提供する「創薬支援事業」の2本柱で構成される。なお、本記事中の主要パイプラインの標的・モダリティは会社公式パイプラインページ(2026年6月時点)に基づく。
パイプライン進捗一覧
| 開発品 | 標的 / MOA | モダリティ | フェーズ | 適応症 | 導出状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| CBA-1205 | 抗DLK-1(ADCC増強) | ヒト化抗体 | Phase 1 | 肝細胞がん、メラノーマ、肺がん、小児がん | 自社開発・導出活動中 |
| CBA-1535 | 5T4×CD3(T細胞エンゲージャー) | Tribody(三重特異性) | Phase 1 | 悪性中皮腫、小細胞肺がん、NSCLC、TNBC等 | 自社開発・早期導出を企図 |
| ADCT-701(LIV-1205 ADC) | 抗DLK-1 ADC(PBDペイロード) | 抗体薬物複合体 | Phase 1 | 神経内分泌がん等 | ADC Therapeutics社へ導出(NCI主導の第1相試験) |
| PFKR | 抗CX3CR1 | ヒト化抗体 | 導出済 | 二次進行型多発性硬化症(SPMS)等 | 旭化成ファーマへ導出(2024年11月) |
| PTRY | 5T4×CD3×PD-L1 | Tribody(次世代) | 非臨床 | 固形がん(CBA-1535次世代) | 導出に向けデータ取得中 |
| LIV-2008 / 2008b | 抗TROP-2 | ヒト化抗体 | 非臨床 | TNBC、大腸がん、膵がん等 | 導出活動中 |
| PCDC | 抗CDCP1 | ADC用抗体 | 非臨床 | 固形がん | 導出活動中 |
| BMAA / PXLR | 抗SEMA3A / 抗CXCL1-5 | ヒト化抗体 | 非臨床 | 腎・中枢疾患 / 固形がん | アカデミア共同研究・導出活動中 |
主力は臨床段階の自社2品(CBA-1205、CBA-1535)。いずれも会社の想定では2026年が開発・導出の重要マイルストーン年と位置づけられている。なお、ご注意いただきたいのは、市場で時に「CBA-1535=抗TROP2抗体」と誤って語られる点で、CBA-1535の正しい標的は5T4×CD3であり、抗TROP-2は別パイプラインのLIV-2008/2008b(非臨床)である。
注目パイプライン①:CBA-1205(抗DLK-1抗体)
作用機序
CBA-1205は、がん胎児性抗原DLK-1(Delta-like 1 homolog)を標的とするADCC活性増強型のヒト化モノクローナル抗体である。DLK-1は肝細胞がん・神経内分泌腫瘍・小児固形がん等で高発現する一方、正常組織での発現が限定的なため、First-in-classの治療標的として有望視されている。糖鎖改変(脱フコース化)によりADCC(抗体依存性細胞傷害)活性を増強している点が技術的特徴である。
臨床試験結果
2020年7月に国内Phase 1を開始。前半パートは終了し、固形がん患者で安全性を確認した。開示によれば、メラノーマ患者で腫瘍縮小を伴うSD(安定)が48ヶ月超の長期にわたり継続した症例があり、後半パート(肝細胞がん対象)では肝細胞がん患者1例にPR(部分奏効)が確認されている。2025年8月にはスペインの研究機関との共同研究を受け、小児がん(神経芽腫・肝芽腫)パートを追加した。症例数・ORR等の集計値は開示資料に明示がなく未確認である。
注目パイプライン②:CBA-1535(5T4×CD3 Tribody)
作用機序
CBA-1535は、がん抗原5T4(TPBG)とT細胞表面のCD3を同時に認識する三重特異性抗体「Tribody™」型のT細胞エンゲージャーである。5T4を二価で認識することで腫瘍特異性を高め、CD3を低親和性で結合させることで非特異的なT細胞活性化(サイトカイン放出等)を抑える設計となっている。2022年6月にTribody型抗体として世界で初めて臨床試験に入った点が大きな差別化要素である。
臨床試験結果
国内Phase 1で固形がんを対象に用量漸増中。会社開示によれば、現時点で軽微な副作用のみで開発上の安全性懸念は出ておらず、T細胞活性化を示す血中バイオマーカーの変化が見え始めている。早期導出を見据えて治験期間を延長し、用量漸増を推進している。米国でもPhase 1(NCT07016997)が進行中。固形がんに対するT細胞エンゲージャーの有効性確立は業界共通の高いハードルであり、本品の臨床的価値はこの壁を越えられるかにかかっている。
規制当局(PMDA/FDA)との協議状況
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| PMDA治験計画届 | CBA-1535は2022年2月に治験計画届を提出、同年6月に国立がん研究センター中央病院等で第1相開始(対面助言の相談区分・実施日は未確認) |
| FDA IND(自社品) | CBA-1205・CBA-1535の自社による米国IND・Pre-IND Meeting実施は未確認 |
| FDA IND(ADCT-701) | カイオムの抗DLK-1抗体LIV-1205をADC Therapeutics社へ導出。米NCIが治験を主導し、2024年7月に神経内分泌がん対象Phase 1の初回投与(NCT06041516) |
| 希少疾患用医薬品指定 | 日本・米国とも取得の開示は確認できず(未確認=開示なし) |
| 先駆け/BT/Fast Track | 該当の開示は確認できず(自社2品はPhase 1段階) |
自社2品はいずれも国内Phase 1段階であり、希少疾患指定・優先審査制度の活用は確認されていない。一方、バイオシミラー事業では、厚生労働省「バイオ後続品国内製造施設整備支援事業」にアルフレッサHD・キッズウェル・バイオとの3社共同申請が2025年5月に採択されており、公的支援を背景とした事業基盤の整備が進んでいる。
rNPV試算(競合比較付き)
カイオムは自社品を製薬企業へ導出するライセンスモデルを基本とするため、本試算では「ライセンサーとしてのカイオムが受け取るマイルストーン+ロイヤルティ」をベースにrNPVを算出した。前提条件は以下のとおりで、いずれも独自推計である。
| 前提 | 設定値 |
|---|---|
| 割引率(WACC) | 12%(小型バイオテック標準) |
| 成功確率(PoS) | 腫瘍Phase 1累積≒5.3%(CBA-1205)、固形がんTCEはリスク勘案4.5%(CBA-1535)、CNS早期6%(PFKR)。出典:BIO/QLS臨床開発成功率2011-2020 |
| 為替 | 1ドル=150円 |
| ロイヤルティ率 | 7〜8%(カイオム受取分) |
| パイプライン | 想定ピーク売上 | PoS | rNPV(カイオム持分) |
|---|---|---|---|
| CBA-1205 | 約4億ドル | 5.3% | 約11億円 |
| CBA-1535 | 約5億ドル | 4.5% | 約11億円 |
| PFKR(導出済) | 約6億ドル | 6% | 約12億円 |
| パイプライン合計 | — | — | 約34億円 |
パイプラインrNPV約34億円に、FY2025末の現預金約12億円(純現金ベース)を加えると、リスク調整後の理論価値は概ね46億円前後となり、現在の時価総額約50億円とほぼ同水準である。すなわち、市場は現状のPhase 1段階を概ねフェアに織り込んでおり、株価の上値は臨床データの前進によるPoS上昇とライセンス契約のアップサイドオプション次第と整理できる。なお本試算は早期段階ゆえPoS前提に極めて感応的で、Phase 2移行が確認されればrNPVは数倍に拡大しうる一方、開発中止なら大きく毀損する。
競合パイプライン
CBA-1535(5T4×CD3)は、臨床段階で同一標的・同一機序の直接競合がほぼ確認できないニッチである一方、固形がんT細胞エンゲージャー全般が有効性確立に苦戦している領域でもある。非臨床のLIV-2008が属する抗TROP-2領域は対照的に激戦区で、Trodelvy(Gilead、承認済)、Dato-DXd/Datroway(第一三共/AstraZeneca、承認済)、sac-TMT(Merck/Kelun、Phase 3)と大型ADCが先行する。抗体創薬の同種国内ベンチャーとしては、キナーゼ創薬プラットフォームと自社パイプラインを併せ持つカルナバイオサイエンス(4572)が時価総額・収益ステージの両面で最も近いピアである。固形がんに対する細胞・免疫療法という観点では、PRIME CAR-Tで固形がんに挑むノイルイミューン・バイオテック(4893)、First-in-class抗体を開発するペルセウスプロテオミクス(4882)も比較対象となる。
| 企業 | モダリティ / 段階 | 時価総額(2026年) |
|---|---|---|
| ペプチドリーム(4587) | ペプチド創薬PF(黒字) | 約1,454億円 |
| ネクセラファーマ(4565) | GPCR標的PF | 約1,055億円 |
| カルナバイオ(4572) | キナーゼ創薬+自社品 | 約76億円 |
| カイオム(4583) | 抗体(Phase 1)+ADLib | 約50億円 |
カイオムの時価総額は国内創薬プラットフォーム/抗体ベンチャーの中で最小級グループに位置し、提携・ロイヤルティで収益化済みの二強(ペプチドリーム、ネクセラ)とは収益ステージが質的に異なる。同じ「プラットフォーム+自社早期パイプライン」のカルナバイオとほぼ同水準で、市場評価はライセンス契約の成否待ちの典型的な早期創薬ベンチャー評価といえる。
カタリストカレンダー(2026年6月〜12月)
| 想定時期 | イベント | インパクト |
|---|---|---|
| 時期未定(随時) | CBA-1205/CBA-1535/PCDC等の導出(ライセンスアウト)契約発表。最大の株価カタリスト候補 | ★★★★★ |
| 2026年央〜後半 | CBA-1205 Phase 1 後半パート(肝細胞がん)の登録完了・データ進捗 | ★★★★ |
| 時期未定 | AACR/ASCO等での自社品データ発表(2026年分の演題は未確認) | ★★★ |
| 進行中 | 第23回MSワラントの行使進捗(希薄化・資金流入) | ★★★ |
| 2026年8月(推定) | 2026年12月期 第2四半期決算発表 | ★★ |
| 2026年11月(推定) | 2026年12月期 第3四半期決算発表 | ★★ |
財務・資金リスク分析
| 売上高(FY2025通期) | 593百万円(前年比 −24%) |
| 営業損益(FY2025) | −980百万円(損失縮小) |
| 当期純損益(FY2025) | −983百万円 |
| 現金及び預金(FY2025末) | 1,205百万円 |
| 営業CF(FY2025) | −936百万円 |
| 四半期バーンレート | 約234百万円/四半期(約78百万円/月) |
| ランウェイ(機械的試算) | 約15ヶ月(FY2025末現金ベース、追加調達なし) |
| 増資リスク判定 | 高〜中(境界域) |
FY2025は売上593百万円・営業損失980百万円で、損失は前年から縮小したものの5期連続の営業赤字である。FY2025末現金1,205百万円に対し営業CFは−936百万円で、機械的ランウェイは約15ヶ月(18ヶ月未満=「高」)。ただし2026年に入り、2025年12月発行の第23回MSワラント(潜在株式13,610,000株、当初行使価額115円・下限63円、割当先グロース・キャピタル)の行使が進行し、第2回無担保社債200百万円と併せて資本が流入している。2026年12月期第1四半期の自己資本比率が64.1%→78.0%へ改善した点もこれを裏付ける。実質ランウェイは試算より長い可能性があるが、その代償としてMSワラント行使による段階的な希薄化(潜在希薄化約19%)が当面継続する点が最大の財務リスクである。なお、継続企業の前提に関する注記の正式有無は本調査では未確認であり、有報注記欄での確認を推奨する。
その他リスク要因
- 臨床開発リスク:自社2品はともにPhase 1段階で、Phase 2移行・有効性確立の不確実性が高い。特に固形がんT細胞エンゲージャー(CBA-1535)は業界共通の高いハードルに直面
- 導出依存リスク:ビジネスモデルがライセンスアウトに依存し、契約成立の時期・条件は不透明。契約の有無が企業価値を大きく左右する
- 希薄化リスク:MSワラント+社債を反復発行する資金調達構造そのものが恒常的な希薄化圧力を内包
- プラットフォーム競争:生成AIベースの抗体設計(Absci等)の台頭で、従来型ディスプレイ系プラットフォーム(ADLib含む)は差別化圧力に晒されている
- キーパーソンリスク:小規模組織であり、経営・研究の中核人材への依存度が高い
まとめ
カイオム・バイオサイエンスは、ADLibシステムという独自の抗体作製基盤と、世界初のTribody型T細胞エンゲージャーCBA-1535・First-in-class候補の抗DLK-1抗体CBA-1205という差別化された臨床資産を持つ抗体創薬ベンチャーである。2024年11月の抗CX3CR1抗体PFKRの旭化成ファーマへの導出(一時金2億円、最大約248億円のマイルストーン)は、ADLib由来の創薬力が大手に評価された実例として重要な意味を持つ。
一方、自社主力2品はともにPhase 1段階で、ライセンスアウト契約の成否が企業価値の最大の変数である。リスク調整後の理論価値(パイプラインrNPV約34億円+現金約12億円=約46億円)は時価総額約50億円とほぼ拮抗しており、市場は現段階を概ねフェアに評価している。株価の方向性は、CBA-1205の臨床データ前進と、いつ実現するか読みにくい大型ライセンス契約というアップサイドオプション、そしてMSワラント行使による希薄化というダウンサイド、この綱引きで決まる構図といえる。
免責事項・ディスクレーマー
本記事は特定企業のパイプラインに関する調査分析の情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。rNPV試算は独自の前提条件に基づく推計であり、実際の企業価値を保証するものではありません。バイオ医薬品の開発には高い不確実性が伴い、臨床試験の失敗、規制当局の判断、競合状況の変化等により開発品の価値が大幅に変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任において、十分な情報収集と専門家への相談のうえで行ってください。
本記事の情報は2026年6月14日時点の公開情報に基づいています。筆者は本記事で言及した銘柄のポジションを保有している可能性があります。